Tokyo College of Music Repository / 東京音楽大学リポジトリ

竹内, 彬

タケウチ, アキラ

Takeuchi, Akira

パリ音楽院クラリネット科の教育 : 学習教材の変遷の考察

東京音楽大学大学院論文集 第 8 巻  2  目次 / Contents 研究論文 ベートーヴェンが用いたダンパー・ペダルのレガート効果と音楽の流れとの関わり ―ピアノ・ソナタにおける事例を通して―  ································································ 内﨑 章太  (3)   東京音楽大学大学院論文集発行規程  ·······················································································  (21) 編集委員会 ··············································································································································  (23)   Articles  The relationship between the Legato effect of the Damper Pedal used by Beethoven and the flow of the music : Through examples in his piano sonatas     ··················································· Shota Uchizaki  (3)  Doctoral Graduates  ·································································································································  (21) Editorial Board  ·········································································································································  (23)    

周東, 美材

シュウトウ, ヨシキ

Syuuto, Yoshiki

職業音楽家としての「うたのおねえさん」 : 眞理ヨシコに聞くテレビ番組「うたのえほん」のころ

東京音楽大学大学院論文集 第 8 巻  23  『東京音楽大学大学院論文集』第 8 巻については、 編集委員のほか次の方々に査読をお願いしました。  大 竹 紀 子 佐 野 成 宏 山 洞    智 星    洋 二 （50音順）    編 集 委 員 会 委 員 長  村田千尋（音楽学） 副委員長  藤田茂（音楽学） 委 員  渡辺国彦（外国語）  岡島礼（ソルフェージュ）  福田裕美（音楽教育）  

Editorial Board

早坂, 牧子

ハヤサカ, マキコ

Hayasaka, Makiko

三浦環の《冬の旅》（1） : 訳詞と1946年録音に見る演奏の覚書

上條, 晃

カミジョウ, アキラ

Kamijyo, Akira

古代語の「ぬ」と演奏 : 東京音楽大学付属高等学校における国語教育の試みと展望Ⅱ

会期：2023年12月8日（金）, 9日（土）
時間：10:00-16:00（入場は15:30まで）
場所：中目黒・代官山キャンパス　クリエイティブラボothe

Japanese

チラシ　発見! 体験! 伊福部昭 : 伊福部昭とその門下生の手稿譜を中心に : 伊福部昭デジタルアーカイブ公開記念展示

水戸, 茂雄

ミト, シゲオ

坂崎, 則子

サカザキ, ノリコ

Mito, Shigeo

Sakazaki, Noriko

東京音楽大学リポジトリ　Tokyo College of Music Repositoryバロック・リュートの奏法から見る当時の器楽様式著者 水戸 茂雄, 坂崎 則子雑誌名 東京音楽大学大学院博士後期課程　2022年度博士共同研究報告書発行年 2023-03-31出版者 東京音楽大学著者版フラグ publisherURL http://id.nii.ac.jp/1300/00001457/Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja共同研究発表報告  「バロック・リュートの奏法から見る当時の器楽様式」 2022 年 11月 10日 水戸 茂雄先生のリュート演奏、坂崎 則子解説 バロック・リュートでの実際の楽曲演奏で当時の楽曲の奏法を確かめる。  ・フランス・バロックのリュート音楽   この時期は貴族開催のサロンで、思想家 Voltaire や作家モリエール、画家ウスターシュなどが集い、高度な文化水準を築きあげていた。フランス・バロックのリュート音楽もこのような環境で育まれ、レパートリーや装飾法などに当時の好みが大いに反映し、独特な世界が形づくられていった。この時期の調弦や奏法について、説明された項目は以下の通り。  ・調弦、ピッチ   1600 年頃、ルネサンス調弦から多様なバロック調弦へ変化。ルネサンス調弦は基本的に3 度（シ－ソ）をはさんだ 4度間隔の調弦が基本。  ルネサンス調弦；高音からラ—ミ—シ—ソ—レ—ラ バロック調弦 ：高音からファ—レ—ラ—ファ—レ—ラ（ニ短調主和音）   バロック・リュートでは特に「カンパネッラ奏法」が多用される。この奏法は各弦間の音程が狭くなったために、音階を弾く際、弾いた音の残響が重なり合い、重層的に鐘（カンパネッラ）が響き合うような独特の効果が生み出される。    当時のピッチについては、ヴェルサイユ「宮廷楽団 Musique de la Chambre」で用いられたタスカン Taskin の音叉(1780 年頃のオーボエに合わせて作られた)は a=409。これはリュリのオペラで用いられたピッチと同じ。また、ダルリ・エ・クリコ社製のヴェルサイユ礼拝堂オルガン用の音叉は a-396。現在ではこれらの資料に沿ったピッチが採用されている。    イタリアではリュートはルネサンス調弦のままバロック期を終える。ドイツ語圏ではフレンチ・バロック・リュート（11 コース）が入ってくると、一気にフランス様式が定着。後にヴァイス Silvius Leopold Weiss (1686-1750)によってバスに弦が 2コース増やされ、13コースのリュートとなって、長大な曲が作曲された。 ・リュートにおけるプレリュード・ノン・ムジュレ（Prélude non mesuré）   当時のプレリュードは自由な形式をとり、拍子付けのないプレリュードが多く書かれた。さらに、旗のあるもの、旗のないものの2種類が見られる。  ・ノート・イネガル（Notes inégales）と装飾音    一定の音価が連続した時に、それを不揃いに演奏する演奏習慣で、この奏法はすでに 16世紀スペインで用いられていた。多くの場合、ここに装飾音が加わって、一層楽曲に豊かな表情が加わることになる。  ・スティル・ブリゼ（Style brisé）    和音を順不同に分散させて弾く演奏法。リュートの装飾法の中でも重要なもののひとつ。和音を分散させて華やかにする装飾法であると同時に、対位法的な動きが織り込まれて楽曲に奥行きを与える。  ・リュートとクラヴサンの相互影響    アンヌモン・ゴティエ Ennemond Gaultier (c.1575-1651)の影響を受けたルイ・クープラン Louis Couperin (1626-1661)が、クラヴサン演奏にリュートの奏法を取り入れて「スティル・リュテ」を確立。こうしたフランスの演奏様式はドイツに取り入れられ、ロイスナー Esaias Reussner (1636-1679)、ロジー Jan Antonin Rosy（ヨハン・アントン・ロジー・フォン・ロージンタール c.1650-1721）、ヴァイスなどが使用した。  ・舞曲による組曲―まとめ方と副題    17 世紀フランス・リュート音楽では、後に確立される室内ソナタの形ではなく、同じ調性の種々の舞曲をまとめて小品集とし、その中から何曲か取り出して演奏された。フランスにおいては副題として神話の神の名を付けたり、曲想とは無関係なタイトルが付けられることも多い。また、中でもトンボー（Tombeau 墓…死者のための追悼曲）として多くのアルマンドが書かれた。  例）アポロン、アティス神の栄光、美しき殺人女、メザンジョーのトンボー等々   ・舞曲実際例(演奏)  Preludium 2曲 Anon. Prélude  Charles Mouton   Prélude  Jacque Gallot   Allemande ＼ Courante  BWV995 J.S.Bach Sarabande ／    Courante Denis Gaultier Sarabande Dufault  ノート・イネガル例  La montfermeil Rondeau Robert de Visée    参考文献、楽譜  ヴェイヤン, J.C.(Veihan)著 細野隆興訳『フランス・バロック音楽 解釈と演奏の原理』 Preludium 2 曲 Anon.   Saizenay 写本 Prelude  C.Mouton  Pieces de luth sur differentes modos Prelude  J.Gallot ライプツィヒ写本 Ms.Lei.116 14  ff.14v-15v Montfermail rondeau  R.de Visée Saizenay 写本 Courante，Sarabande  Bach ブリュッセル ロイヤル・アルバート図書館 Allemande，Courante，Sarabande  Bach ブリュッセル ロイヤル・アルバート図書館 fetis2910=fetis2910=Ms.11 4085 Sarabande  et Double  Default Ceuvres de Default Edition et transcription par Andre Souris Courante  Gaultier Oeuvres du vieux Gaultier  Edition et transcription par Andre Souris  使用楽器   13 コースバロック・リュート a=415hz（紀伊利臣 作）  

バロック・リュートの奏法から見る当時の器楽様式

服部, 洋一

ハットリ, ヨウイチ

Hattori, Yoichi

スペイン民謡・古謡の演奏を巡って :  フェデリーコ・ガルシーア＝ロルカ編「スペイン古謡集」を実際に演奏する際に考慮すべき側面について

下道, 郁子

シタミチ, イクコ

Shitamichi, Ikuko

東京音楽大学リポジトリ　Tokyo College of Music Repository「演奏する」とは？ : Society5.0 時代のテクノロジーを使った演奏著者 下道 郁子雑誌名 東京音楽大学大学院博士後期課程　2022年度博士共同研究報告書発行年 2023-03-31出版者 東京音楽大学著者版フラグ publisherURL http://id.nii.ac.jp/1300/00001458/Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja発表報告：「演奏する」とは？ ーSociety5.0時代のテクノロジーを使った演奏ー   下道 郁子（音楽教育学）     2022 年度の「演奏」というテーマについて、筆者は音楽教育学の立場から、最新の「演奏の研究」や「演奏の開発」を紹介し考察した。そして今日の「演奏」が、従来の辞書的な意味ではもはや定義できないあり様に変容したことを述べた。本稿は授業での発表内容を再編集し加筆したものである。  １ 「演奏」の定義  まず、「演奏」がどのように定義されているかをオンライン辞書から概観する。 (1) 日本大百科全書（ニッポニカ）「演奏」の解説より抜粋  音楽行動の一つで、身体あるいは楽器を使って音響を生成し、それがつくりだす意味的世界を聴き手に伝えようとする行為である。  (2) ブリタニカ国際大百科事典小項目事典「演奏」の解説より抜粋 音楽を現実に音として響かせる行為。演奏は即興演奏の場合を除き、創造と享受の二面性をもつ…中略…演奏は単に機械的物理的な実現ではなく，音楽という芸術の創造的体験であり、常に「解釈」のうえに「表現」と「技法」という問題がからんでくる。  (3) 広辞苑無料検索 （人々に聞かせるために）音楽を奏すること。楽器を奏でること。  (4)日本国語大辞典  楽器で音楽をかなでること。多く、公衆の前で音楽を奏すること。  以上の定義から、演奏とは「人間が身体あるいは楽器を使って音を意味あるものに創造する行為で、その行為が他者に享受されることが前提に行なわれること」、そして「その行為には、技法や解釈という問題が生じてくるので、技法と解釈という音楽的能力の習得が必須である」と解釈することができるであろう。  しかし近年、この「演奏する」という概念が急速に変化している。筆者は、ヤマハ音楽研究所で約 10 年間、委託研究員としてピアノ奏法の研究に携わった。この時、当時としては最新の技術を用いて、人間の行為としての演奏を数値データ化することを試みた。今から振り返ると、当時楽器メーカーや、音響学関連の研究者によって行われ始めたこの演奏の数値データ化が、「演奏する」という概念の変化の始まりであったと言える。次項では、筆者がヤマハ音楽研究所で携わった「ピアノ奏法研究」について、2005年の国際学会での発表をもとに紹介する。  2 ヤマハ音楽研究所でのピアノ奏法研究 2005年にシアトルのワシントン大学(University of Washington)で開催された第 5回アジア環太平洋音楽教育研究シンポジウム(The 5th Asia-Pacific Symposium for Music Education Research)での発表をもとに、本授業で発表した抜粋部分を加筆編集して記述する。 発表タイトル”Objective Measurement and Evaluation of Piano Performance：Based on MIDI Data and  Picture Analysis”（MIDI データと画像解析によるピアノ演奏の客観的測定と評価） 被験者 ピアノの習熟度を初心者レヴェルから熟達者レヴェルまで習熟度別に４段階に分けて４人を抽出した。 Level 1 26 歳の女性で、都内の音大のピアノ専攻の卒業生。 Level 2 24 歳の女性で、都内の音大のヴァイオリン専攻の卒業生。 Level 3 25 歳の女性で、都内の音大のヴァイオリン専攻の卒業生。 Level 4 音楽専門教育は受けていない成人のピアノ愛好者。  実験曲 ブルグミューラー Johann Friedrich Franz Burgmüller (1806-1874) 《25の練習曲》より第15番＜バラード＞から冒頭部分を抜粋  実験装置 図１参照 ① ピアノプレーヤ１台（ハイパフォーマンスタイプのフルサイズグランドピアノ）  ② ビデオカメラ６台（左右各１、真上２、斜め上２） ③ 録音機材（DAT）、及び音響データと MIDI データ収録装置（シーケンサーソフト）          実験方法 ● MIDI 鍵盤情報 ピアノの演奏時の手の動きを鍵盤側から客観的な数値データとしてとらえるために、MIDI により測定した。これは鍵盤の打鍵と離鍵のタイミング（Timing）と平均加速度（On Velocity、Off Velocity）、鍵盤を押している持続時間（Duration）を数値データとして信号化したものである。ピアノプレーヤでの開発により、MIDI 鍵盤ではなく生ピアノを使用した実験が可能となった（他の研究は MIDI 鍵盤によるもので、これは実際のピアノとは明らかにタッチが異なる）。さらにヤマハで開発された「サイレントアンサンブルピアノ・プロフェッショナルモデル」を使用することで、離鍵情報の測定が可能となり、また打鍵情報に関してもより精巧な測定が可能となった。数値データは MIDI グラフィにより可視化できる。ペダルも同様に、踏むタイミングと放すタイミング及びペダルの踏み込まれた位置を検出し、MIDI グラフィによりグラフ化した  ●手の画像解析 図２参照 ピアノの演奏時の手の動きをビデオカメラで６方向から収録した。実験曲の必要鍵盤音域を確認し、2 台は演奏者の左右の各々の手の上に、残る 2 台は常時指先から肘上までが 図１( 筆者作成学会発表スライドより転載) 録画される様に演奏者の左右に設置し、さらに斜上から２台設置した。肩、肘、手首、指の各関節、計 24 箇所にマーカを付けた。それを座標面の１点とし、位置変位を時系列データとして記録した。          結果 図３参照  本稿では、Level1 被験者の右手和音の最上声部の打鍵のタイミングについて説明する。Level1 の被験者の和音の打鍵は、最上声部の G３の Velocity が他の２音（C3,E♭3）より大きく、また 2 小節目に向かって、3 音全体の Velocity が増大していく傾向にあることがわかる。Level2〜Level４のグラフと比較すると、Level1 の打鍵には明らかに規則性がある。                図３( 筆者作成学会発表スライドより転載) 図２( 筆者作成学会発表スライドより転載)   このような数値データによる分析から、本研究では Level１〜Level４までの習熟度により、鍵盤操作（タッチ）の違いが明らかとなった。本稿では考察の詳細は省力する。  画像解析 画像収録時点の工夫や、専門的な解析ソフトの使用により、３次元の分析を行なった。画像解析においては、分析、考察、及び解釈が中途段階であるため、熟達者と非熟達者の手の動きの軌跡図を提示することにより、「熟達者は非熟達者よりも常に運動性をもって手を動かしている」様子が検証された。  数値データの限界 今回の数値データからは、習熟度別の演奏の違いが、鍵盤を操作する運動能力の問題なのか、このように演奏したいという演奏解釈の違いなのかは、判別できなかった。演奏解釈や指令の発信の違いは、数値データから考察するのには限界があった。  3 ヤマハ株式会社の最新研究  前項の研究は2005年の発表であり、既に実験に使用した機材は古く、その後の発達で音データも動作データもさらに精密に数値化できるようになっている。 2022年の第135回音楽情報科学研究発表会において「人間の演奏者に同期する合奏システムの開発とその水平展開」という発表が行われた。この発表はヤマハ株式会社の前澤陽によるもので、演奏者とAIが息を合わせて合奏できることを目指した合奏システム及び人間らしい演奏や動作を生成する技術の研究開発の報告である。 前澤は既に、2016年にAIによる合奏システムの研究成果の一部を「AIピアニスト、バイオリン奏者と共演の腕前」と題して、You Tube映像で発信している。この映像では、開発者の前澤が自らブラームス Johannes Brahms（1833-1897）の《ヴァイオリンソナタ第２番イ長調 第３楽章》を演奏し、「人工知能演奏システム」を搭載した自動ピアノとアンサンブルを行ない、AIがオンになった場合とオフになった場合との演奏を比較している。AIがオンになっている自動演奏ピアノは、ヴァイオリン奏者がテンポを揺らして演奏しても、テンポに合わせて演奏する。AIがオフになっていると、自動演奏ピアノはヴァイオリン奏者の演奏を無視して、独自の一定のテンポで演奏する。 開発者の前澤は、機械が人間に近づくということも目的であるが、機械が人間の演奏に合わせて、面白い挙動ができるかに関心があり、機械と人間が一緒に演奏できる世界を提供する要素技術を示したと述べている。 また同じYou Tube映像では、東京藝術大学で行われたベルリンフィルハーモニーのメンバーと、リヒテル Sviatoslav Teofilovich Richter(1915-1997)の演奏データを搭載した自動ピアノとによる、シューベルトFranz Peter Schubert(1797-1828)の《ピアノ五重奏曲イ長調 ます》のコンサートも紹介されている。このコンサートでは音だけでなく、人間が演奏する「音」と「挙動」を瞬時に判別、AIがプロジェクターと連動して、舞台の床に演奏の「しぐさ」の影を写し出すことも行われた。 前澤は「AIで合わせる技術の自然性として、過去の巨匠と合わせたい夢は誰もが持つ」と述べている。東京藝術大学の副学長（当時）で作曲家の松下功(1951-2018)は「AIが進化すれば、良いピアニストと子供たちが共演してみることもできる」といった教育目的の可能性を示唆したコメントを述べている。  3 「演奏」の新しい形 3-1 東京藝術大学「インクルーシブアーツ研究：だれでもピアノ」 「だれでもピアノ」は東京藝術大学とヤマハ株式会社が共同で開発したピアノである。人差し指しか動かない高校生がショパン Frédéric François Chopin (1809-1849)の《ノクターン２番》を１本指でピアノを演奏し、奏でられた旋律に音楽の先生が伴奏をつけていたことから着想を得て開発された。ピアノに搭載されたAIが、人間の演奏を瞬時に判別して、１本指以外の部分を補完して演奏し、アンサンブルを行うのである。 「だれでもピアノ」は障がい者に学び、誰もが芸術文化を楽しめる場の機会の創出を目指し、「障がい児から高齢者」「個人から地域」「芸術から福祉、福祉から医療」へと広げ、芸術が社会を変えるツールになることを示す取り組みと紹介されている。高齢になってからピアノを弾きたいと始めた人、AIを相棒としてアンサンブルを楽しみたい人など、「だれでもピアノ」は障がい者の支援という枠を超えて、高齢者や個人、そしてピアノを弾きたいと思う人々サポートしてつなぐ「魔法のピアノ」である。芸術と科学技術の融合という技術革新の面のみではなく、１本指で演奏できるピアノによるインクルーシブコンサートは、人間の多様性を学ぶイベントにもなり得ると、代表者の新井鴎子は述べている。 3-2 Eテレ「ヒャダ×体育のワンルーム・ミュージック」 この番組は NHK の E テレで、2019 年から開始され、2022 年は 4 月 9 日から 9 月 24 日はSeason3 であった。ミュージシャンのヒャダインと岡崎体育が MC を務め、番組ホームページには「スマホ１つ、パソコン 1台で音楽を作り、ネットを通じ世界中の人に聴いてもらえる今、ビリー・アイリッシュを始め、気軽に投稿した曲がきっかけで世界的スターになる 10代 20代が続々登場している。そこで D.I.Yスピリッツで曲を作り、世に名を知らしめたヒャダインと、同じくその道を突き進む岡崎体育を MC に迎え、今の音楽を取り巻く素敵な環境と、音楽をクリエイトする楽しさをご紹介します」と説明がある。 Desk Top Musicを推奨し、誰でもミュージシャンになれる、なろうという、エンターテイメント兼教育番組である。 NHKの音楽教育番組と言えば、1960年代から1980年代の前半まで、ピアノの実技指導を習得するための「ピアノのおけいこ」という講座番組を放映していたが、「ヒャダ×体育のワンルーム・ミュージック」は言わば Desk Top Music習得の音楽講座番組と言えるだろう。本稿では全22回の放送より、YOASOBIをゲストに迎えた９月3日放送「ヒット曲の裏側×YOASOBI」と9月10日放送「曲がいろとりどりに×YOASOBI」に注目した。この2回は、人気音楽ユニットYOASOBIが紅白歌合戦で披露した《ツバメ》の楽曲データをネット上で公開し、視聴者がアレンジ・リミックス曲を作成し投稿するという「みんなんのツバメ リミックスチャレンジ！」で投稿された作品を紹介する内容であった。番組では多くの投稿作品から「盆踊り風リミックス」「コードがおしゃれなシティポップ」「和楽器アレンジ」「トロピカルアレンジ」「Jazzアレンジ」「４つの声を使ってコーラスアレンジ」「効果音など色々な音を追加」などなど、ユニークで個性的なアレンジ作品が紹介された。この番組ではMCもゲストも「指導」や「批評」は一切しない。ヒャダインが誰でもできるアレンジテクニックを解説し、投稿楽曲データのトラックを追いながら、各作品の特徴を見出して紹介する。「解釈がすごすぎてもはや別の曲」と各投稿者のリミックスを称え、「人の数だけ音楽があり、正解はなく、音楽を作る」を合言葉とした音楽講座番組である。  そして一見作曲の講座のようだが、Desk Top Musicでは楽曲を作成する＝PC音源で演奏することになり、作曲と演奏は同時に進行する。楽曲データに、自分の声を取り込んだ作品等もあり、Desk Top Musicでは作曲と演奏は不可分な関係になっていた。  4 Societ5.0時代の「演奏する」とは 内閣府によるとSociet5.0の社会では、IOT(Internet of Things)で全てのヒトとモノがつながり、人工知能（AI）により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、社会的な課題―少子高齢化、 地方の過疎化、貧困の格差―が克服されると提言されている。このような時代を迎えて、「演奏する」ことも、大きく変容している。 人間の行為であった「演奏する」が数値データ化されることで、様々な技術が開発された。そして、もはや演奏は「人の行為」とは定義できなくなってきている場合もある。AI搭載の楽器、Desk Top Musicと、演奏はもはや「人の行為」よりも、テクノロジーに負うところが大きいのかもしれない。  作曲者と演奏家を分離した形での従来の「演奏する」ことが、演奏するための身体的なテクニックや作品の解釈を必要とし、そのための肉体的鍛錬や作品の研究を積まないと、「表現」ができないという高いハードルがあった。もちろん、この鍛錬や研究という高いハードルを越えることに、達成感や大きな魅力を感じる人もいるだろう。特別な才能を発揮し披露することもできるだろうし、鑑定家による高い評価という栄誉もある。 一方で、テクノロジーの発達は、「技法」「解釈」「表現」という問題を、あたかも解消してしまったようにも感じる。そして「演奏すること」をより身近で、より気軽で、より安易で、より楽しむものにしている。昨今急速に発展し人気となっているVチューバーによる演奏は、音だけではなく、演奏に伴う様々な行為も、もはやテクノロジーが人間の代替として行い、その代替行為自体を楽しむものとなっている。 「誰にでもできる演奏」「機械と一緒に楽しむ演奏」「テクノロジーの発達を促す演奏」「テクノロジー自体を楽しむ演奏」といった、新しい形の「演奏する」が、今後、益々発展していくであろう。しかし「演奏すること」に纏わるテクノロジーの発達の根源には「音楽を奏でたい」という人間の意思がある。この意味で、例え「演奏する」のが人間ではなく機械になったとしても、「演奏する」のはやはり人間の行為に他ならない。。  参考文献 NHK   2022/8/26“ヒャダ×体育のワンルーム☆ミュージック” https://www.nhk.jp/p/oneroommusic/ts/MJG6R4RVGM/movie/ 2023年 1月 31日閲覧 広辞苑無料検索”演奏” https://sakura-paris.org/dict/広辞苑/prefix/演奏 2023年1 月 31日閲覧 日本国語大辞典”演奏」の解説” https://kotobank.jp/word/演奏-38229 2023 年 1月31 日閲覧 日本大百科全書（ニッポニカ）”演奏」の解説”https://kotobank.jp/word/演奏-38229 2023年 1月 31日閲覧  ブリタニカ国際大百科事典小項目事典「”演奏」の解説” https://kotobank.jp/word/演奏-38229 2023年 1月 31日閲覧 東京藝樹大学 COI LIBRARY “インクルーシブアーツ研究” https://innovation.geidai.ac.jp/library/departments/group6.html 2023年 1月 31日閲覧 内閣府  “Society 5.0” https://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/ 2023 年 1月31 日閲覧 日本経済新聞 2016/12/09 ”AIピアニスト、バイオリン奏者と共演の腕前” https://www.nikkei.com/video/5230518772001/ 2023 年 1月 31日閲覧        

「演奏する」とは？ : Society5.0 時代のテクノロジーを使った演奏

Not a member yet