Tohoku University of Community Service and Science Repository / 東北公益文科大学機関リポジトリ

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Japanese

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遠山, 茂樹

「なぜ薔薇は愛されるのか～西洋のバラ・庄内のばら～」 に関する報告

広崎, 心

産官学民の連携による学生教育の実践 ─ ラジコン草刈り機の共同利用モデル取り組み事例からの報告 ─

山本, 裕樹

山本　裕樹東北公益文科大学総合研究論集第46号  抜刷2024年2月15日発行ニューヨークのインターネット望遠鏡のリプレイスについて131ニューヨークのインターネット望遠鏡のリプレイスについて 研究ノートニューヨークのインターネット望遠鏡のリプレイスについて山本 裕樹1　 はじめに　インターネット望遠鏡とは、国内外の遠隔地に設置した無人の天体望遠鏡をインターネットを通じて操作し天体観測を行うためのシステムである［1-4］。筆者らは「インターネット望遠鏡プロジェクト（ITP）」として 2003年からインターネット望遠鏡の開発と運用を行っており、だれでも無料で天体観測を行える環境を整えている。　2023年現在でインターネット望遠鏡を設置している地点は、国内では府中市・秋田市・横須賀市・平塚市、国外ではニューヨーク（アメリカ）・メラーテ（イタリア）であるが、いずれも故障などの問題を抱えており、稼働しているのは平塚市のものだけである。特にニューヨークのインターネット望遠鏡は、時差によって日本の昼間の時間帯でも夜空の観測ができ、さらに全天候型ということで使いやすいため、稼働再開が望まれていた。　2020年にはニューヨークのインターネット望遠鏡を新機器にリプレイスを行って再稼働を行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症（COVID-19）の拡大により 2023年まで延期を余儀なくされた。本稿では筆者が 2023年 10月 8日から 15日にかけて行ったニューヨークのインターネット望遠鏡のリプレイス作業について述べる。2　 ニューヨークのインターネット望遠鏡のリプレイス　ニューヨークのインターネット望遠鏡は、ニューヨーク州パーチェスにある慶應義塾ニューヨーク学院のカフェテリアの屋上に設置している。望遠鏡機器は天井がガラス張りの筐体の中に格納してあり、外の環境とは隔離された状態にある（図 1参照）。ガラスを通しての観測ということで撮影に影響が出てしまうが、観測のたびに屋根を開閉する必要がなく、全天候型で非常に使いやすくなっている。筐体の内部ではエアコンを稼働させて常時一定の温度と湿度に保たれるようにしている。132　この場所へのインターネット望遠鏡の設置は五藤光学研究所によって 2004年 9月に行われた。設置後しばらくは試験運用することで発生したいくつかの問題を解決し、2005年 9月に ITPのホームページを一般公開して運用を始めた。その後、故障した望遠鏡や望遠鏡サーバーの交換などを行いつつ運用を続けた。　望遠鏡機器がかなり老朽化してきたため、2018年に科研費の採択を受けてニューヨークのインターネット望遠鏡の機器とシステムをすべて新しくリプレイスすることにした。2019年 6月には現地視察で筐体と内部の状態を確認してリプレイスの計画を練った。　当時、筐体内に設置した望遠鏡を制御するための望遠鏡サーバーは OSがWindows 7で動作しており、そのサポートは 2020年 1月 14日に切れることからセキュリティのために 2019年 12月に稼働を停止した。　2020年にはリプレイス作業を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の全世界的な拡大によって渡米することが難しくなり、リプレイス作業は延期することにした。感染症がおさまるまで延期を繰り返し、2023年になってようやくリプレイス作業ができるようになった。慶應義塾ニューヨーク学院の事務担当者と日程調整をして現地で 2023年 10月 8日～ 15日の間で作業を行うように準備を進めた。 図 1　ニューヨークのインターネット望遠鏡133ニューヨークのインターネット望遠鏡のリプレイスについて 2.1　入れ替え機器　筐体を除くほぼすべての機器は入れ替えることにした。表 1は入れ替えた旧機器と新機器のリストである。表 1　入れ替えた主な機器のリスト　主望遠鏡と副望遠鏡は旧機器と新機器で同じタイプのものを使用している。主望遠鏡は鏡筒と自動導入の架台がセットのもので、固定したピラーの上に赤道儀ウェッジを設置して使用していた。新機器は同じタイプの望遠鏡のため極軸を合わせ直す手間を省くことができた。　主望遠鏡と副望遠鏡にそれぞれ接続するカメラは、旧機器ではアナログのビデオ出力するタイプであった。そのため、キャプチャーボードを介して望遠鏡サーバーで画像を取り込む必要があり、画質が劣化するという問題があった。新機器ではカメラはすべて USB接続となったため、望遠鏡サーバーでダイレクトに画像を取り込めるようになった。主望遠鏡には冷却 CCDカメラを導入したため、以前よりもかなり本格的な撮影が可能となった。　望遠鏡サーバーはルーターを介してインターネットに接続している。新機134器でルーターとして使用する ER-Xは Linuxをベースとした EdgeOSで動作し、Webブラウザによるグラフィカルな設定だけでなく、SSHで接続してコマンドラインによる詳細な設定も可能である。　電源制御装置はインターネット経由で望遠鏡、カメラ、USBハブ、LEDライトの電源をオンオフするために用いている。これがあると望遠鏡の再アラインメントや暴走したときにリモートで強制的に再起動できるので役に立つ。電源には停電対策として UPSを使用している。　望遠鏡やカメラを直接制御する旧機器の望遠鏡サーバーはOSがWindows 7であり、突然フリーズしたり勝手に再起動するなど不安定なところがあった。Windows 7は 2020年 1月 14日にサポートが終了することが分かっており、サポート終了後も使い続けるとセキュリティ面でのリスクが高くなるので、Windows 10 にアップグレードするか、他のOSに切り替えるかのどちらかを選択しなければならなかった。もしWindows 10にアップグレードすると、望遠鏡サーバーをまるごと入れ替えて望遠鏡やカメラの制御プログラムをWindows 10用に作り替える必要がある。Windows 10 にアップグレードしたとしても 2025年 10月 14日にサポートが終了予定のため、2025年までには再びアップグレードをしなくてはならなくなる。　そこで、これを機に OSを Linuxに切り替えて INDI Library［5］を使った新システムを開発することにした［6］。INDI Libraryを使用する利点は以下の通りである。●　オープンソースソフトウェア●　対応する機器が豊富 ●　Linuxで動作するため、安定した動作を期待できる●　負荷が小さいため、低スペックの PCでも動作する　また、主望遠鏡の LX200は起動の度にリモートで再アラインメントが必要となる。再アラインメントを行うにはハンドコントローラーでの操作が必須なため、ハンドコントローラーの操作をソフトウェア的に実現する AutoHBX［7］を利用してリモートで再アラインメントを行うことにした。1 2018 年時点ではまだWindows11 は公開されていなかった。135ニューヨークのインターネット望遠鏡のリプレイスについて 2.2　リプレイス作業における問題点　望遠鏡機器のリプレイス作業にあたっていくつかの問題が生じたので以下に述べる。輸送の問題　日本で購入した機器をアメリカに輸送する場合、安全保障貿易管理に対応しなくてはならない。「安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス（大学・研究機関用）第四版」［8］には以下のように記されている。「安全保障貿易管理とは、我が国を含む国際的な平和及び安全の維持を目的として、武器や軍事転用可能な技術や貨物が、我が国及び国際的な平和と安全を脅かすおそれのある国家やテロリスト等、懸念活動を行うおそれのある者に渡ることを防ぐための技術の提供や貨物の輸出の管理を行うことです。」　大学から海外へ輸送する場合、輸送する機器が外為法に基づいたリスト規制かキャッチオール規制に該当するかを大学で判定し（該非判定）、該当する場合は経済産業大臣に事前許可を取らなければ輸送できない。ただし、今回のアメリカへの輸送ではリスト規制になる。　本学ではこのチェック体制が不十分であったため郵便局に機器のリストを見せて相談したところ、特に問題となる機器は見当たらないので郵便局に通関委任（要手数料）をすれば送れるとのことだった。そこで、郵便局で EMS（航空便）による通関委任の手続きを行うことで無事現地に送ることができた。費用の問題　コロナ禍前に見積もったものよりも諸費用が高くついた。これは円安と物価高が進んだためである。コロナ禍前の 2019年の東京外為市場の平均為替レートは 1ドル 109円程度だったものが、円安がどんどん進み 2023年 10月 26日には 1ドル 150円台になった［9］。アメリカの消費者物価指数は 2019年と比較して 2023年 10月時点では 20%ほど上昇していた［10］。輸送費、航空運賃、ホテル宿泊費などが影響を受けて大幅に値上がりしていた。136　筐体内のエアコンも入れ替えたいと考えていたので、現地業者に見積してもらったところ、想定をはるかに超える金額だった。エアコンはまだ稼働していることから今回はエアコンの入れ替えを見送ることにした。　また、カフェテリア屋上に登るには、はしごを使うしかないため、重い荷物を持ち上げるのが難しい。以前はウインチが備え付けてあったため荷物を持ち上げることができたが、現在はすでに取り外されていた。そのため電動式シザースリフトを現地でレンタルすることになり、費用が余計にかかった。作業の問題　今回は現地での作業のためにホワイトプレインズのホテルに滞在した。慶應義塾ニューヨーク学院はホワイトプレインズからバスで約 20分かかる森の中にある。望遠鏡の設置は昼間行うためホテルから通うのに問題はないが、設置後に望遠鏡で天体を導入して調整を行うためにはどうしても夜間の作業が必要となる。バスは最終が夜の 7時のため、夜間の作業を行う場合は朝まで徹夜で屋上に居続けなくてはならなかった。10月だと夜間の気温が大きく下がり、夜露がひどくなるのでその対処がかなり大変だった。　また、日本のホームセンターのような店が近辺に見当たらず、足りなかった工具や接着剤などを調達できる店を探すのにも苦労した。2.3　リプレイス作業の内容　現地滞在中に行ったリプレイス作業の内容は以下の通りである。1.　旧機器の撤去筐体内からエアコンとピラーを除いた旧機器は撤去して廃棄処分とした。筐体内側に張られたスポンジは劣化してボロボロになっており、床の掃除が厄介であった。旧機器撤去後の内部の写真は図 2である。2.　新機器の設置主望遠鏡をピラー先端の赤道儀ウェッジまで持ち上げてねじで固定した。主望遠鏡は 20kg以上と非常に重いため、一人で持ち上げるのに苦労した。その後、その他の機器を設置して配線を行った。設置後の写真は図 3である。137ニューヨークのインターネット望遠鏡のリプレイスについて 3.　筐体の補修筐体自体は頑丈に作られているが、ガラスのシーリングがはがれているところがあったので、シーリング材で補修した。筐体のドア付近の密閉を保つためのゴムがはがれかけていたので接着剤で接着し直した。4.　光軸とフォーカスの調整（夜間）実際の天体を使って主望遠鏡と副望遠鏡の光軸を合わせて副望遠鏡のフォーカスの調整を行った。主望遠鏡のフォーカスはリモートで調整可能である。5.　天体導入のテスト（夜間）ルーターにノート PCを接続し、ノート PCから望遠鏡のアラインメントを行った後、新システムで天体導入ができるかテストを行った。副望遠鏡（サブスコープ）による撮影画像が図 4、主望遠鏡（メインスコープ）による金星の撮影画像が図 5である。　以上の作業を滞在最終日まで行い、いくつか残った作業はあったもののリモートで作業が可能と判断して帰国した。 138図 2　撤去後の筐体内部 図 3　新機器設置後の状態図 4　サブスコープによる観測画像139ニューヨークのインターネット望遠鏡のリプレイスについて 図 5　メインスコープによる観測画像（金星）3　まとめ　インターネット望遠鏡の新機器へのリプレイス作業において、いくつか問題はあったものの無事終了した。しかし、現地滞在中に慶應義塾ニューヨーク学院のネットワーク機器の故障により、筐体内のルーターからインターネット接続ができず、本学のコントロールサーバーとの接続テストもできなかった。帰国後に現地のネットワーク担当者からネットワーク機器の修理が完了したとの連絡があり、日本から筐体内のルーターへの接続ができることを確認した。今後は UPSと望遠鏡サーバーとの連携の設定、リモートでの再アラインメントを行って早いうちに運用を開始したい。謝辞　ニューヨークのインターネット望遠鏡の設置にあたって、慶應義塾ニューヨーク学院の佐藤吾郎事務長、大谷龍太氏、ボールドウィン静佳氏、そして秋140田大学の上田晴彦教授には多大なご協力をいただきました。心より感謝申し上げます。本研究は JSPS科研費 JP18K02986の助成を受けたものである。参考文献［1］　インターネット望遠鏡プロジェクト , “ インターネット望遠鏡プロジェクト”, https://www.kitp.org/, （参照 2022-11-01）.［2］　慶應義塾大学インターネット望遠鏡プロジェクト , “ インターネット望遠鏡で観測 ! 現代天文学入門 ”, 森北出版 （2016） 160p.［3］　表實 , 中西裕之 , 山本裕樹 , サイエンスネット 74, 14 （2022）.［4］　山本裕樹 , 東北公益文科大学総合研究論集 18, 185 （2010）.［5］　INDI Library, “INDI Library”, https://indilib.org/, （参照 2022-11-01）.［6］　山本裕樹 , 東北公益文科大学総合研究論集 44, 89 （2023）.［7］　Othmar Ehrhardt, “GitHub – stroblhofwarte/autohbx”, https://github.com/stroblhofwarte/autohbx, （参照 2023-08-01）.［8］　経済産業省貿易管理部 , “ 安全保障貿易に係る機微技術管理ガイダンス（大学・研究機関用）第四版 ”,https://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/tutatu/t07sonota/t07sonota_jishukanri03.pdf, （参照 2023-11-08）.［9］　日本銀行 , “ 外国為替市況（日次）”,  https://www.boj.or.jp/statistics/market/forex/fxdaily/, （参照 2023-11-30）.［10］　U.S. Bureau of Labor Statistics, “CPI Home”, https://www.bls.gov/cpi/, （参照 2023-11-30）.

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