Nishogakusha University Academic Repository / 二松学舎大学学術情報リポジトリ

川邉, 雄大

カワベ, ユウタイ

9000006320794

KAWABE, Yutai

10468720

Japanese

<Source Materials> On Kōsōshiyo Held by Hakka Library

執　筆　者　紹　介　ヴィグル　　マティアス二松学舎大学文学部准教授町　泉寿郎二松学舎大学文学部教授辜　　承堯中国農業大学人文与発展学院准教授川邉　雄大日本文化大學教授／二松学舎大学非常勤講師杉下　元明海陽中等教育学校教諭胡　　加貝二松学舎大学大学院文学研究科博士後期課程中国学専攻修了鈴置　拓也二松学舎大学大学院文学研究科博士後期課程中国学専攻修了―115―

Contributors

杉下, 元明

スギシタ, モトアキ

Sugishita, Motoaki

Emura Hokkai and Disciples of Kinoshita Jun’an

NISHOGAKUSHA DAIGAKU DAIGAKUIN-KIYONISHO 39BULLETIN OF THE GRADUATE SCHOOLOFNISHOGAKUSHA UNIVERSITY　　2025　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Tokyo  JapanCONTENTSThe Homophonic Different Characters “即”, “乃”, and “便” for “すなはち” in Kojiki: Their Usage as Conjunctions and Adverbs　………………………………………………………………………LI Qungyu …… 3The Compilation Structure and Purpose of Soushenji  ― In Relation to Chunqiu Zuozhuan and Shiji ―　………………………………………………………………… CHEN Pengfei ……31The publication ‘Yanchen’ about Japanese people in Beijing during the late Qing Dynasty　……………………………………………………………………Zhang Fumei ……63Wangzhiben（王治本）}s written conversation in Kanazawa（金沢）　……………………………………………………………… WANG Baoping ……93

English

王, 宝平

2890

オウ, ホウヘイ

WANG, Baoping

Wangzhiben (王治本) ‘s Written conversation in Kanazawa (金沢)

Guidelines for Submissions Original manuscripts of up to 10,000 words may be submitted for consideration for publication in The Journal of Kanbun Studies in Japan. Authors should submit one hard copy of their manuscript and an electronic version in Microsoft Word; the electronic version may be submitted on disk or by e-mail. （kangaku@nishogakusha-u.ac.jp） JKSJ will duplicate copies for referees. Please also submit an abstract （approx. 200 words）. Authors are requested to include a brief biographical statement with their submission. Manuscripts must be printed double-spaced with notes （also double-spaced） at the end. Graphics and tables should be appended to the document rather than inserted in the text if at all possible. Key terms, important names, and bibliographic references should include original language （i.e. Chinese characters） placed in a separate glossary, not in the body of the essay. The copyright to articles published in The Journal of Kanbun Studies in Japan belong to the journal. ―120―

Guidelines for Submissions

『日本漢文学研究』和文原稿投稿要領一．投稿原稿　⑴　投稿原稿は、ワープロ原稿または縦書きの手書き原稿（以下「原稿」という。（とし、一部を〝書留〟にて提出する。投稿原稿は返却しない。　⑵　ワープロ原稿の場合は、用紙サイズはＡ４版、一行三十字、毎ページ四十行、文字は十・五ポイントを用い、四百字詰原稿用紙に換算した全体の枚数を第一ページの見やすい箇所に明記すること。二．原稿の種類と枚数　⑴　原稿の種類は、「論文」「研究ノート」「資料紹介」「書評」「その他」とし、投稿原稿に明記する。　⑵　論文枚数は、四百字詰め二十枚以上六十枚を限度とする。論文以外の原稿については特に下限を設けないが、上限は六十枚を超えないものとする。　⑶　論文には「投稿者の簡単な紹介」及び「要旨」を添付する。　　　なお、「要旨」は、日本語八百字程度（別にキーワード五語を指示（、または英文三百語程度（別にキーワード五語を指示（とする。日本語要旨は編集委員会で英訳のうえ掲載する。　　　（「研究ノート」「資料紹介」「書評」は、「要旨」「キーワード」不要。（三．体裁・表記　⑴　「注」は、アラビア数字の通し番号とし、論文等の文末に置く。「引用文献」も注の一部として、編著者名・掲載書（誌（名・発行年・出版地・出版元・頁数を明記する。　⑵　「表記」は、特別な事情がある場合を除き、常用漢字体・現代仮名づかいとする。　⑶　引用する漢文への〝返り点〟〝送り仮名〟は、つけない。ただし、研究の性格上必要な場合はこの限りではない。　⑷　図表・画像などは、鮮明なものとし、挿入箇所を指定のうえ、原稿ファイルとは別に提出する。その掲載サイズは、編集委員会に一任する。四．掲載決定原稿は編集委員会において審査し、掲載が決定したときは、マイクロソフト・ワード、あるいはリッチテキストファイルのデジタルファイルとして再提出する。提出方法は、電子メールの添付ファイルまたはＦＤ・ＣＤなどのデジタルディスクとする。五．校正執筆者校正は、初稿のみとし、誤植などの最小限の訂正に限る。六．抜刷執筆者には、掲載論文誌五部、抜刷三十部を進呈する。ただし、抜刷の追加を希望する場合は、事前の申出を必要とし、実費を徴収する。以上（二〇一二年四月　　改定（（二〇一三年十一月　補正（―118―『日本漢文学研究』掲載論文等の著作権について一．本誌に掲載された論文等の全ての著作物の著作権は、原則として二松学舎大学東アジア学術総合研究所日本漢学研究センター（将来本センターを継承する組織を含む。以下同じ。（に帰属する。　　二．前項のうち、著作者が、自著の論文等を私的利用の範囲を超えて複製・転載等をすることは自由である。ただし、著作者は、その旨を本センターに書面にて通知し、かつ複製物及び転載先等に出典として本誌名・号を明記しなければならない。　　また、複製物・転載誌等を本センターに寄贈するものとする。三．本センターが、著作物を本誌またはデジタル化以外に印刷等するときは、本誌を通じ、あるいは個別に著作者にその旨連絡し、必要に応じて協議により措置するものとする。四．著作権に関する問題処理は、著作者の責任において処理するものとする。以上（二〇一二年四月　　改定（（二〇一三年十一月　補正（―119―

Manuscript Submission Guidelines

二松学舎大学博士（文学）2024年度PDFdoctoral thesi

Onuki, Masashiro

2101

大貫, 正皓

9000006963094

オオヌキ, マサシロ

- 1 -大貫 正皓博士学位論文要旨 題目：平安中期における九条流藤原氏の文芸についての研究博士学位論文要旨本論文は、十世紀中頃(平安時代中期)に政治社会のみならず、文芸の分野に積極的に参画していくことになる藤原摂関家の、特に政権を担った九条流藤原氏(師輔一門)に関わる文芸作品に焦点を当て、それら作品個々の、また全体の文学史上の価値を明らかにすることを目的とする。考察にあたっては、九条流の祖である師輔の和歌による文化面での豊かな交流を収める『師輔集』、自身を身分卑しい架空の男に仮託し、歌物語的展開を有する、伊尹(師輔長男)自撰の物語とされる「とよかげ」(『一条摂政御集』冒頭四一首)、若き日の兼通(師輔二男)とその「いとこ」との恋物語を描く『本院侍従集』、藤原道綱母の視点から兼家(師輔三男)との恋愛、結婚生活を描く『蜻蛉日記』、権門の家にありながら若くして妻子を捨て出家する状況を語る高光(師輔八男)の『多武峯少将物語』、また物語とは異なる視点から高光詠をまとめたとみられる『高光集』を取り上げる。上記の諸作品は従来、私家集、歌物語的私家集、日記、物語と、それぞれ別々のジャンルに分類されるものであるが、九条流藤原氏の文芸という枠組みを重視し、考察を深めていくことにより、それぞれの作品の成立、形成過程や作品解釈、作者、読者、享受の場などの問題について、そして一門の文芸活動という巨視的な問題について、新たな理解を提示することが可能であると考える。以下に本論文の目次を示す。凡例序論―研究の対象と目的、また各編の概要について第一編 藤原伊尹と「とよかげ」第一章 「とよかげ」の形成第二章 「とよかげ」の読者と増益第二編 藤原兼通と『本院侍従集』第一章 『本院侍従集』はどう読まれていたのか―「いとこ」の解釈をめぐって―第二章 『本院侍従集』の本文変容―「さとにはありて」から「さとにはあらで」へ―第三編 藤原兼家と『蜻蛉日記』第一章 兼家による『蜻蛉日記』執筆要請の実相―上巻の検討を通して―第二章 『蜻蛉日記』中・下巻成立考―後宮への提出という視点から―第四編 藤原高光と『高光集』・『多武峯少将物語』第一章 『高光集』の成立時期―『拾遺抄』にみられる高光歌との関係を通して―第二章 『高光集』西本願寺本巻末歌九首と『多武峯少将物語』- 2 -第五編 藤原師輔と『師輔集』第一章 内親王贈答歌群の詠者と配列第二章 『師輔集』の成立時期・作者・享受結―九条流藤原氏にとっての文芸初出一覧次に各論(序論・結)・各編・各章の内容を示す。序論ではまず、九条流藤原氏の文芸をめぐる歴史的背景および先行研究の状況を確認し、本論文の研究対象と目的、そして各編の概要を示す。藤原氏北家(いわゆる摂関家)は、十世紀中頃より文芸分野への積極的な参画をみせはじめるが、特に九条流藤原氏・師輔一門の周辺において、その動向は顕著である。既存の研究でも、九条流藤原氏の文学史的重要性は夙に指摘されている。上記の社会状況、先行研究を踏まえ、九条流藤原氏に関わる文芸を研究の対象とすることの文学史的意義を確認する。また本論文は、文学史の観点からの巨視的な問題提起の域を超えた成立、形成過程や作品解釈、作者や読者、享受の場についてなど、個々の作品の実態解明に重きを置いている。一つ一つの作品の解明が、最終的には九条流藤原氏の文芸活動という巨視的・文学史的な現象の解明に繫がっていくことになると考えるからである。第一編は師輔長男の伊尹自撰の物語とされる「とよかげ」(『一条摂政御集』冒頭四一首)について、その形成及び読者(享受)・増益という問題を考察している。第一章「「とよかげ」の形成」では、豊蔭と女との恋を描いた「とよかげ」の形成が、一度期ではなく、数度の増益を経て、現在の形となったことを論じている。主人公豊蔭に対し作中では「とよかげ(豊蔭)」、「おきな(翁)」、「しさう(史生)」の三種類の呼称が用いられるが、本作品は呼称の別により展開、人物像や使用語句に顕著な違いが確認され、そのうち「とよかげ」呼称のみが、同時代の歌物語(特に『伊勢物語』)の影響を顕著に受けていると判断される。そして、三種の呼称のうち「とよかげ」呼称箇所の文量が最も多く、またその他の「翁」や「史生」呼称箇所と展開、人物像や使用語句の面において相容れない関係にあることからも、本作は「とよかげ」呼称箇所が伊尹作の原態であり、他の箇所は後に第三者により増益されていったものであると推定する。第二章「「とよかげ」の読者と増益」の論考の前半は、「とよかげ」や『本院侍従集』、『蜻蛉日記』といった伊尹・兼通・兼家ら摂関家当主に関わる諸作品が、それぞれの一門を代表する作品として、娘の后の天皇入内に合わせ制作され、後宮に提出された可能性を検討し、その上で「とよかげ」の主たる読者層が、天皇に入内した伊尹娘懐子に付き従う女房たちであるとの推測を提示する。また「とよかげ」の形成過程について言及した第一章を踏まえ、第三者による増益と想定される- 3 -箇所について検討を行う後半では、『源氏物語』帚木巻、竹河巻における草子地の叙述に着目し、「とよかげ」が伝播の過程で異なる一門の女房の手に渡り、伊尹の意図していない内容や伊尹を貶める内容が語り伝えられ、その内容が本文化していったという推測を示す。なお推測にあたっては、草子地の叙述を現実における物語の伝播・生成の実態を反映するものと考える先行研究、九条流藤原氏の当主間の関係性、そして『伊勢物語』から続く「とよかげ」の歌物語としての性質ということを加味する。第二編は師輔二男の兼通に関わる文芸『本院侍従集』の作品解釈、本文変容の問題について考察している。第一章「『本院侍従集』はどう読まれていたのか―「いとこ」の解釈をめぐって―」では、従来、本院侍従とされてきた作中における兼通の相手である「いとこ」が、成立当時は朱雀天皇女御の藤原慶子(藤原実頼娘)と設定されていたことを論じる。慶子と兼通の恋物語とみられる本作原態は、天禄三年(九七二)の時勢を踏まえた本院侍従によって作られた物語で、『伊勢物語』二条后章段を基にした、兼通を業平に擬える物語であったことを提示する。そして、本作原態の設定については、二系統に大別される本作本文のうちの冷泉家本系本文(以下、甲本)から読み取れるものであり、穂久邇文庫本系統本文(以下、乙本)からは「いとこ」が本院侍従と認識された時期以降の内容が読み取れるものと推測する。第二章「『本院侍従集』の本文変容―「さとにはありて」から「さとにはあらで」へ―」では、兼通と本院侍従の恋と見做し得る本文を有する乙本の生成の実態について推測を提示する。乙本にみられる本文変容は、元々の享受者であったとみられる兼通一門の女房たちの手から本作が離れて以後、異なる一門の女房たちのもとで生成付加されたもので、兼通称揚の性質を有する内容から兼通を貶める性質を有する内容への変容であることを論じる。また二系統間において現在は共通する本文を有し、今日では本院侍従が宮中から主人の慶子の実家である本院に下ったものと解釈されている一〇番歌後書「女のさとにはあらで本院なりけり」(「さと」―乙本「里」)中の「あらで」に着目し、その原態の姿は「あらで」ではなく「ありて」であった可能性を提示する。そしてそのことを踏まえ、兼通を貶める意識に基づく本文変容は、甲本→乙本という単純なものではなく、乙本にみられる本文変容が甲本にもみられるという、二系統の本文がそれぞれ照応し合う側面を有したものであった可能性について言及する。第三編は師輔三男の兼家に関わる文芸『蜻蛉日記』の執筆意図、成立、享受の問題について考察している。第一章「兼家による『蜻蛉日記』執筆要請の実相―上巻の検討を通して―」では、『蜻蛉日記』が十世紀中葉における九条流藤原氏(師輔一門)の私家集や物語の盛行と連動した、兼家一門喧伝の書の側面を有することについて論じる。兼家による『蜻蛉日記』執筆要請の実相は、天皇に入内した娘の超子(冷泉天皇女御)や女房たちに読ませ- 4 -るものとしての執筆要請であったことを、従来の貴顕と女性との恋愛交渉には見られない、女性の立場からの貴顕への批判性を有する描写や、后超子の実母時姫に関わる描写、戯画的な兼家の人物描写の検討を通し、提示する。そして、超子入内と連動した書という視点を重視し、その成立を安和二年(九六九)末頃とされる従来説より以前の、安和元年(九六八)末から翌年初頭頃と推測する。第二章「『蜻蛉日記』中・下巻成立考―後宮への提出という視点から―」では、『蜻蛉日記』の執筆意図、成立、享受の問題について、上巻に続き中・下巻の本文に密着し、検討する。中巻については安和二年(九六九)八月の冷泉天皇退位という出来事により、予定していた後宮への提出が中断したとみられ、それが作風の変容にも結びついていると論じる。また下巻は、天延二年(九七四)一二月に擱筆する事実に着目し、この時期が、兼家により娘詮子の円融天皇入内が画策されていた時期で(『栄華物語』巻二)、結果的にこの時期の詮子入内は兼通に阻まれ実現しないものの、入内と合わせた下巻の後宮への提出が予定されていた可能性を提示する。前章の考察の内容も踏まえ、本編では『蜻蛉日記』上・中・下巻における性質の差異の原因が、提出先後宮の変容にあるという推測を示す。第四編は師輔八男の高光に関わる文芸『高光集』の成立、そして『高光集』との関わりを通した『多武峯少将物語』の形成過程の問題について考察している。第一章「『高光集』の成立時期―『拾遺抄』にみられる高光歌との関係を通して― 」では、『高光集』の成立時期の推定を試みる。『拾遺抄』には『高光集』との重出歌が四首、また『高光集』になく『拾遺抄』にみられる高光歌が一首存するが、この五首を両作品の先後関係の観点から検討する限り、成立は『高光集』が『拾遺抄』に先行すると推測する。この検討に、『高光集』で最も詠歌年次の降る詠歌(三九番歌)が詠まれた時期及び『拾遺抄』推定成立時期を加味し、『高光集』の成立を天元元年(九七二)一一月以後、長徳三年(九九七)までと推定する。第二章「『高光集』西本願寺本巻末歌九首と『多武峯少将物語』」では、『高光集』西本願寺本巻末歌九首(以下、巻末歌)が、『多武峯少将物語』(以下、物語)の生成途中の姿を示したものであるとの推定を試みる。歌の配列、叙述内容から推察される巻末歌と物語との緊密な関係を重視し、巻末歌と物語該当箇所(14、20、28、30 段)との先後関係及び別に物語の原形を示す可能性が指摘される『伊勢集』押紙歌との関係についての検討を踏まえ、巻末歌が物語の原形の姿を示したものである可能性について言及する。第五編は師輔に関わる文芸『師輔集』の作品解釈、成立、作者、読者(享受)の問題について考察している。第一章「内親王贈答歌群の詠者と配列」では、『師輔集』内の内親王贈答歌群(三五―五六番歌)の詠者および配列についての解釈を提示する。これまでの研究において内親王贈答歌群は、師輔と醍醐天皇皇女で師輔室となった勤子、雅子、康子三内親王との渾然一体のやりとりと解釈されてき- 5 -た。しかし、本集の詞書及び和歌表現を精査する限り、師輔と歌を交わす詠者は従来検討されてきた三人ではなく、雅子内親王ただ一人と理解することが可能であると思われる。また配列に関しても、過去から現在への時間の流れに沿った勅撰集にみられるかたちとは異なり、逢瀬にいたるまでの贈答歌の後に、恋愛最初期における贈答歌に立ち戻るといったような、私家集独自の時制展開を成しているものとみられる。第二章「『師輔集』の成立時期・作者・享受」では、作品の成立時期・作者・享受の具体的な検討を試みる。成立時期については、天暦五年(九五一)十月以後の梨壺における『後撰集』撰集作業と『大和物語』の成立との関連を検討された見解(妹尾好信氏説)を援用し、『師輔集』一・二番歌(源庶明とのやりとり)が『後撰集』の撰集資料を利活用し生み出された可能性を考慮し、『師輔集』もまた『大和物語』と同じく、天暦五年十月以後を作品成立の上限と見做し得るとする見解を示す。作者については、『後撰集』撰集事業と密接に関わる、撰和歌所長官で師輔長男の伊尹が妥当であるとの推測を提示する。享受については、『後撰集』撰和歌所が後宮内の梨壺にあったこと、そして撰集事業中の多くの期間、梨壺を居所としていたのは師輔長女、伊尹妹で村上天皇女御の安子であったことを重視し、本作の第一の享受の場は安子後宮であり、読者は女御の安子及び師輔一門の繁栄の志を同じくする安子付きの女房たちであったと推測する。結では本論文を総括し、これからの課題について記す。本論文全体から導いた、九条流藤原氏の文芸に共通する性質として、以下の三点を強調する。１、政治の枢軸からは外れて摂関体制に従属する男(在原業平)の、人々の共感を得る恋物語である『伊勢物語』を生成の模範とし(「とよかげ」、『本院侍従集』)、その『伊勢物語』と同質の段階的な作品形成の性質を有している(「とよかげ」、『本院侍従集』、『蜻蛉日記』上巻、『多武峯少将物語』)。２、一門の政治展開と親和性の高いものとして創りだされている(「とよかげ」、『蜻蛉日記』、『本院侍従集』は、伊尹・兼通・兼家それぞれの政治上の栄達に有益な喧伝の書と理解できる)。３、一門当主の娘の入内先後宮の女性たち(娘の后、女房)を主たる読者とし、彼女たちを楽しませる娯楽的側面がみられる(『師輔集』、「とよかげ」、『本院侍従集』、『蜻蛉日記』)。元々文芸の担い手ではなかった者たちが、摂関体制下において自身および自身の一門に関わり深いものとして創出していった(させていった)諸文芸は、政治性を帯び、かつまた文芸性をも有する性質のものであったとまとめる。そして今後は『枕草子』、『源氏物語』、『紫式部日記』、『和泉式部日記』や『御堂関白集』といった、一条朝以後における九条流一門に関わる文芸を研究課題とすることにも触れ、その上で、上述の性質を備えた九条流藤原氏の文芸が、実は平安中期の文芸の基盤となっていったとする、今後の研究の見通しを提示する。なお、上述した九条流藤原氏の文芸の性質のうち、特に２、３の性質(政治文化との関わり・作品鑑賞の実情)は、今日における古典研究の主流である実証的な文献学的観点や作家論的観点からだけでは見落としてしまいかねない性質でもある。まだ照射されていない文芸の多様な価値を見出し、考究していくため、様々な観点から、柔軟に研究に臨む姿勢が求められることについても言及する。

平安中期における九条流藤原氏の文芸についての研究

李, 清玉

3351

リ, セイギョク

LI, Qingyu

1  『古事記』における漢文助字の研究              二松学舎大学大学院文学部国文学科国文学専攻博士後期課程               李清玉 要旨 本論文では、『古事記』における漢文助字の使用について考察する。ここでの「助字」とは、「助辞」や「漢文助字」を指す。本論文の目的は、これらの漢文助字が持つ品詞性質や機能に注目し、その特性を明らかにすることである。 まず、『古事記』の序文には、「然、上古之時、言意並朴、敷文構句、於字即難」や「亦、於姓日下謂玖沙訶、於名帯字謂多羅斯、如此之類、随本不改」といった記述が見られる。これらの記述から、『古事記』における「字」の使用は、通常訓字または真名を意味することが示唆される。一方で、「辞」字は、「本辞」や「旧辞」、さらには「即、辞理叵見、以注明、意況易解、更非注」という意味で使用されており、文字そのものでなく、『古事記』以前に成立した書物やその文章をも指すことが示唆される。したがって、本論文では、漢字に関連する研究を目的として「漢文助字」という用語を使用することとする。  また、漢文助字と総称されるものは、和語として訓まれる際に「接続詞」「接続助詞」「副詞」「格助詞」など、様々な品詞が含まれる。本論文では、すべての品詞を網羅的に取りあげることはできないが、研究対象の多様性には配慮しながら考察することとする。本論文は五つの章に分けて、『古事記』における漢文助字について考察を行う。 第１章では『古事記』に関する研究史を整理し、例えば『古事記』の成立や偽書説に関する先行研究を取り上げ、『古事記』そのものに対する理解を深める。また、真福寺本『古事記』の伝来や書写者に関する情報を整理し、『古事記』研究の活発化に寄与した基盤、すなわち、『古事記』の写本の整備について考察する。 第２章では、「爾」の接続詞的な用法に焦点を当てる。『古事記』における「爾」の接続詞2  の用法は、正格漢文には見られないため、これまで諸先学によって重要な漢文助字として取り上げられてきた。この章では、太安万侶が正格漢文の「而」（順接・逆接）の接続詞的用法を「爾」（順接）に担わせた可能性について考察する。 さらに、正格漢文における「而」は接続詞として機能する際、「順接」の文章関係だけでなく、「逆接」の文章関係も表すことがある。『古事記』においては、順接・逆接の文章関係を表す接続詞「しか」系列は、すべて「而」と類字の関係を持つことを明らかにし、このような機能の分担は、類字の間で生じた〈同化〉および〈異化〉の現象である可能性について論じる。 第３章では、『古事記』における「すなはち」の同訓異字について考察する。はじめに、３．１節では、「すなはち」と訓まれる漢字表記を取り上げ、『古事記』における「すなはち」の同訓字を整理する。 ３．２節および３．３節では、本章の研究対象を明確にするために、『古事記』における「すなはち」の訓みとされる漢字表記をまとめる。さらに、３．４節では、３．２節と３．３節の調査結果を踏まえ、「即」「乃」「便」に見られる異なる接続の特徴に焦点を当て、太安万侶が使用した品詞の特徴について考察する。論文筆者が行った様々な調査により、『古事記』における「即」「乃」は、副詞と接続詞の用法を兼ね備えていることが明らかにする。したがって、３．５節では「すなはち」と訓まれる同訓異字から見られる異なる品詞の特徴を踏まえ、「即」と「乃」に絞って同訓異字の考察をさらに深める。 第４章では、「乍」が「つつ」の訓字として使用されていた理由について考察する。この章では、三つの部分に分けて考察を進めていくこととする ４．１節では、先行研究とその問題点を明らかにし、「つつ」と「乍」に見られる共通する意味を研究する目的を明確にする。次に、４．２節では、「乍」と「つつ」の関係を解明するために、古代文献に見られる「つつ」と訓まれる漢字表記を取り上げる。従来の研究では、『日本書紀』欽明天皇条に見られる「乍」が、漢文の原典に存在しない一字であるため、3  和語の「ながら」と訓読されてきた。しかし、上代語に見られる「つつ」と「ながら」の意味や漢字表記を比較し、欽明天皇条における「乍」が「つつ」と訓まれる可能性が極めて高いことを示す。 続いて、４．３節では、和語「つつ」に対する先行研究と異なる解釈を提示し、正格漢文の「乍」と共通する特徴を明らかにする。この新たな解釈は、漢文の「乍」に見られる用字法と深く関連していることが示される。 最後に、４．５節では、４．３節および４．４節の考察を踏まえて、正格漢文の用例を通じて、単字用法の「乍」が「つつ」の訓字として使用されていた理由を明らかにする。さらに、日本の上代文献において同様に「○Ａ○Ｂ」の構造を有する他の漢文助字が排除された理由について考察し、上代の人々が訓字を決める際の、基本的な原則を明らかにする。 第５章では、『古事記』における与格の「に」と考えられる助字「于」と「於」について考察する。『古事記』において、「于」字と「於」字はともに「に」と訓まれるが、それぞれに異なる使用法があることが指摘されている。従来の先行研究では、「於」は「範囲」を示す助字であり、「于」は「帰着点」を示す助字であるとされている。この章では、先行研究を踏まえて、「於」と「于」が両者ともに「帰着点」を示す機能があることを明らかにして、用字法に見られる特徴を明らかにする。 また、『古事記』においては、「於…生」や「於…於…於」のように、同一の助字が連続して使用される例が多く見られる。この章では、これらの特別な用字法について考察する。 総じて、本論文では研究対象の多様性に配慮しながら、品詞性質に跨る共通性にも重点を置くこととする。   

『古事記』における漢文助字

陳, 鵬飛

3354

チン, ホウヒ

CHEN, Pengfei

The Compilation Structure and Purpose of Soushenji -In Relation to Chunqiu Zuozhuan and Shiji-

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