18 research outputs found

    シゴト ノ ナカ ノ カフカ シゴト オ メグル テガミ ノ ゲイジュツカ トシテノ ジツムカ

    Get PDF
    仕事ができる人間は、人を見る目を持っている。フランツ・カフカ(1883-1924)の眼は、目ではなく、「眼」であった。カフカは『訴訟(審判)』『城』などの一見、幻想的にとらえられる小説を書きながらも、実生活では、半民半官の公務員としての仕事を全うしていた。小説を細部にわたって観察すると、カフカの細部の描写には、人を見る「眼」を持った人間の姿がある。カフカの父親は、実業家であったし、また、労働者保険局というところは、一代で工場主に成り上がったような野心家たちを相手にしなければならないことも多々あったであろう。カフカ自身、ユダヤ人であるが、90%以上が、ドイツ人、残りの数人がその他の民族という官僚社会で、最終的には、一等書記官まで上り詰めたのだから、やはり、仕事に対しては厳しい自分を持っていたに違いない。そのように見てみると、小説や日記から連想される夢想家とは、別の実務家としての徹底したリアリストのカフカの姿が浮き上がってくる。カフカの人を見抜く眼はやはり、最期の遺言(手紙)にも現れている。カフカは、彼の八つ折版のノートに書き残したアフォリズムに見られるように、人間通であったのだ。本論の目的は、カフカの小説や日記から浮かび上がってくる芸術家の姿-実際に、芸術家であったにせよ-とは、別の「実業家」の一面について仕事を巡る手紙を手がかりに考察することにある。実際、その実務体験は、作家の作品にも内在的に反映されている。本論では、カフカの職業体験が反映された小説『失踪者』(“Der Verschollene”)における「カフカ的モチーフ」を浮かび上がらせてゆく
    corecore