Meiji Gakuin University Institutional Repository
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経済学の成熟をめざして:追加すべき三要素
本稿では、現在の主流派経済学の成果と問題点を検討するとともに、経済学を豊かな学問分野とするために今後何が必要かを論じた。その結果、次のような主張をした。(1)主流派経済学は、人間を利己的・合理的な存在と仮定、それによって精緻かつ体系的な理論を構築することに成功し、経済学は「社会科学の女王」という評価を獲得している。(2)しかし、そうした理論に基づく政策論は市場原理主義(効率性を過度に重視する政策、規制撤廃万能主義)に陥るという問題が生じている。(3)それを矯正するには人間には多様な動機があること(とくに利他性、幸福の追求、相互間のきずなの3 点)を考慮することが不可欠である。(4)これらを考慮すると、社会は従来のように二部門(市場・政府)モデルによってではなく三部門(市場・政府・NPO)モデルに切り替えるべきである。(5)社会科学においては、個人の行動(幸福追求)が、より良い社会の構築に結びつくような方途の探究も視野に入れる余地があり、それを可能とする一つの興味深い実践哲学(現代的諸条件を備えている)があり、今後の展開が注目される。【研究ノート】othe
人間の社会的つながりと利他性:主流派経済学の盲点
現在の主流派(新古典派)経済学では「人間はそれぞれ選好を持ち利己的に行動する」と前提されている。その前提は分析上便利であり、そこから導かれる政策論もたいてい単純明快なものになる(例えば市場機能の活用と規制撤廃)。しかし、人間をこの視点だけから捉えるのは一面的に過ぎる。人間は相互のつながり(社会的ネットワーク)の中で生きる存在であり、相手のことを視野に入れたうえで行動する一方、他者から影響を受けて行動をする場合もある。本稿では、最近のネットワーク科学を踏まえつつ、人間のつながりの意味とその帰結を多面的に考察した。
主な論点は次のとおり。(1)人間がつながりを持つ(社会的ネットワークを形成する)のは人間の本性に起源を持つ、(2)そうした認識は多くの領域(進化論、遺伝学、生物学、行動科学等)の研究によって支持されている、(3)人の考えや行動はネットワークから影響を受ける一方、逆に他人に対しても影響を与える(但しいずれも「三段階の隔たり」まで)、(4)社会的ネットワークは人間の利他心を生み出す一方、人間社会が能力を発揮するための共有資源(社会関係資本)を創出する、(5)方法論的個人主義に立脚している主流派経済学ではこれらが考慮されていないので今後視野を拡げてゆく必要がある(三部門モデルはその一つの方向である)。othe
ヒューマノミクスー人間性経済学の探究(発表要旨)
本稿は、近刊書籍『ヒューマノミクスー人間性経済学の探究』(岡部光明著、2022年5月刊行)における中核的な議論を「ビジョン研究会」において発表した際に使用したパワーポイント画面を拡充して一つの研究資料としたものである。こうした画面による方が、文章化するよりも要点を簡潔に整理でき、また理解もし易いのでこの形式による研究資料として取りまとめた。要旨は次の通り。すなわち(1)現在の主流派経済学は、人間を単純に捉えること(利己的・個人的存在)により理論と政策につき堅固な体系を構築している(経済学は「社会科学の女王」)、(2)しかし人間の本質としては、利己性のほか、つながり感覚、利他性、潜在的な能力といった重要かつ多様な要素がある、(3)これは経済学の始祖アダム・スミスの人間観であり、また現代諸科学の研究結果でもあるので、経済学は今後これらを取り込んだ学問にしてゆく必要がある、(4)具体的には、人間社会は従来の「二部門(市場・政府)モデル」に代えて「三部門(市場・政府・コミュニティ)モデル」に即して理解することが望ましい、(5)三部門モデルを基準にすれば、従来の社会的目標(効率性と公平性)だけでなく準公共財・準公共サービスを適切に充足させうるほか、人間の幸福(well-being)をより高いものにしうる(これは経済政策の理論に基づき説明可能)、(6)人間一人一人がその潜在能力を引き出せば、個人の幸せ(ウェル・ビーイング)が高まるだけでなくより良い社会を実現できるとする一つの自己啓発の道(実践哲学)があり、今後の展開が注目される。othe
社会理解のための三部門モデル:従来の各種提案とその特徴
社会の基本的な仕組みは、従来の二部門(市場・政府)モデルでなく三部門(市場・政府・コミュニティ)モデルによって捉えるのが現実的かつ効果的である(岡部 2017a)。その場合、第三番目の部門はどのような性格を持つものとして位置づけるかについては、様々な見解とモデルが提示されてきた。本稿ではその主なものを概観した。その結果、米国では三番目の部門が「非営利部門」と称されて位置づけられる一方、欧州では「第三部門」という名称でより多様な特徴を持つ部門とされる傾向があることが明らかになった。othe
「宗教的ではないがスピリチュアル(SBNR)」という思想について
米国では、ここ20~30年間、そこでの宗教の動向ないし精神事情を理解するに際して「宗教的ではないがスピリチュアル」(spiritual but not religious: SBNR)という表現が用いられる場合が増えている。本稿では、その実情、背景、意義、先行きを論じるとともに、日本にとっての含意を考察した。その結果、(1)アメリカ人は生きる動機の追求を宗教教団に所属するよりもむしろ個人的に追求する傾向が強まっている、(2)その背景には新自由主義や個人主義の風潮がある、(3)スピリチュアリティ(精神性)には現代心理学などの知識や知恵が活かされている面がある、(4)こうしたスピリチュアリティという視点はとりわけ医師・看護師・カウンセラーなどヒューマン・ケアに関連する専門職によって重視されている、(5)日本でもスピリチュアリティを重視する自己研鑚の思想があり今後の展開が注目される、などを論じた。【研究ノート】othe