Musashigaoka College Repository / 武蔵丘短期大学リポジトリ

武蔵丘短期大学紀要に関する要領 目的 本学教職員の行った教育・研究上の成果を報告の形にまとめて共有し、互いの教育・研究面での理解と向上を図り、本学教職員の活動の軌跡を記録し、本学の活性化に寄与することを目的として武蔵丘短期大学紀要を発行する。 発行と編集 武蔵丘短期大学紀要は毎年一回、年度内に電子ジャーナルとして発行し、公開する。紀要の編集は図書委員会紀要分科会（紀要委員会と略、以下同じ）の責任で行う。 論文等の投稿資格 主著者は本学教職員を原則とする。但し、共著者に本学教職員が含まれ、紀要委員会が認めた場合は教職員以外も主著者となることができる。紀要委員会が認めた場合は教職員以外も共著者に加わることができる。論文以外の寄稿については紀要委員会が認めたものを掲載する。 掲載原稿の種別 １． 教育･研究に関するもの：総説、原著、研究ノート、実践報告、事例報告、資料など 総説：ある主題に対し、研究・調査論文等を総括および解説し、著者の見解を述べたもの。 原著：研究･調査に関する論文で、独創的な内容あるいは新しい事実を含むもの。 研究ノート：限られた範囲内の研究･調査で原著としてはまとまらないが報告に値するもの。また、研究･調査に関する技術的な考案。 実践報告：教育に関する実践的な活動内容をまとめたもの。 事例報告：教育･研究に関するもので、原著としては例数が少なくまとまらないが、事例として報告する価値のあるもの。 なお、論文の内容は原則として未発表の明確な結論のあるものとし、原稿の種別については紀要委員会が著者に変更を求めることもある。 ２． 本学の社会的貢献に関するもの：公開講座の記録など ３． 外部研究発表の要旨等、学術出版物及び学会発表の目録 ４． その他、紀要委員会が認めた寄稿 投稿原稿の取り扱い １．投稿原稿は原則として掲載を前提に取り扱う。但し、編集を効率化し、又、学術的に最低限の質を維持するため、紀要委員会の設定する提出締め切り等を守らない原稿は次年度の掲載とすることがある。 ２．投稿原稿は原則として紀要委員長を含む複数の試読者により試読し、表現や用語の不適切さ、あるいは明らかな論理矛盾等があれば、著者に再考を求める。 ３．このため、必要があれば、紀要委員会は学園内の専門領域の関連する教員に試読を依頼する。学園内に見つからない時は、適切な学外の専門家に意見を聞く事がある。 ４．編集作業の効率化のために、執筆要領に従わない原稿は著者に返却する。 - 68 -５．投稿者は試読希望教員があれば申し出る事が出来る。 ６．投稿原稿の著作権は本学に属するものとし、電子化での公開を了承したものとみなす。 ７．投稿原稿は、全著者の同意のもとに提出されたものとみなす。主著者は全共著者の同意を確認すること。 原稿の構成と体裁 １．原稿は、別に定める「武蔵丘短期大学紀要執筆要領」に基づいた記載様式で作成する。 ２．原著は原則として、Ⅰ目的（緒言、はじめに）、Ⅱ材料および方法（研究・調査方法、対象、材料等の小見出しを付ける）、Ⅲ結果（成績）、Ⅳ考察（考案）、Ⅴ結論（結語、おわりに）、Ⅵ謝辞、Ⅶ文献（注）の順とする。 ３．実践報告や事例報告は、わかりやすい構成で記載すること。活動内容を重んじることとし、たとえば、目的あるいは背景、活動状況、得られた効果などを示すこと。 ４．原稿には、原則として、抄録（200－400字程度）とキーワード（5語程度）を添付すること。総説および原著論文では、英文抄録を添付する。 外部研究発表の要旨等の記載要領 １．前年度の本学紀要以外に発表した論文の要旨とする。 ２．論文に掲載された要旨をそのまま転載するためには、著作権所有者（学会、出版社等）の許可が必要となる。許可が得られた者は、タイトル、著者名、要旨部分およびその他の必要事項をオフセット印刷で掲載する（転載の許可の交渉は著者が各自で行うこと）。 ３．転載許可を得ていない論文の要旨については、タイトル、掲載順の全著者名、掲載雑誌名、巻、引用ページ（○－○）、発行年（西暦）、要旨の順に、「執筆要領」に従って著者が作成する。 学術出版物及び学会発表の目録について 前年度内に公にされた学術出版物及び学会発表について、記入事項のある教職員は紀要委員会が示す書式を用い、記入例に従ったスタイルで、目録を作成する。 原稿の提出先および提出期限 １．提出先は、図書館とする。 ２．「紀要原稿」、「外部研究発表の要旨」の提出締め切り日は 10 月末日、試読者の意見等に対応した最終稿と「学術出版物及び学会発表の目録」の提出締切は 12月末日とする。 - 69 -武蔵丘短期大学紀要　第32巻

Japanese

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木元, 泰子

キモト, ヤスコ

菊地, 頼子

キクチ, ヨリコ

- 17 -  原著論文  １型糖尿病患者を対象とした運動による 血糖値の変動についての検証  Examination of blood glucose level changes due to exercise in Type 1 diabetes mellitus patients    木元 泰子  菊地 頼子      Yasuko Kimoto Yoriko Kikuchi      Abstract  This study examined the effects of exercise therapy in patients with type 1 diabetes. Changes of exercise type and intensity influence on blood glucose levels were evaluated. The subject was female type 1 diabetes patients in their 30s, who performed aerobic and anaerobic exercise using the fitness software "Ring Fit Adventure". Blood glucose levels were monitored using a FreeStyle Libre, and fluctuations before and after exercise were compared. As a result, daytime blood glucose levels got nearer to a suitable range of 80 mg/dL to 150 mg/dL, improving glycemic control. However, hypoglycemia occurred at night, and the blood glucose level tended to rise again when the exercise was interrupted. These results suggest that exercise therapy is effective for glycemic control in patients with type 1 diabetes, but appropriate dietary management and insulin adjustment are necessary to prevent hypoglycemia. In the future, it is necessary to study the combination of different exercise intensity and diet therapy.  Key words：Type 1 diabetes mellitus, blood glucose level, aerobic exercise, anaerobic exercise    Ⅰ はじめに 1 型糖尿病とは、自己免疫が関与している疾患である。膵臓のランゲルハンス島に炎症が生じ、インスリンを作る膵 β細胞が壊されることで、インスリン不足が引き起こされ、ブドウ糖が細胞に取り込まれなくなるために血糖値が上昇する。この状態が続くと、1 型糖尿病患者はインスリン注射をしなければ、生命の危機に瀕するインスリン欠乏状態におちいる１）。 1型糖尿病患者の血糖変動には、個人差が大きく、食事の摂取量や運動によって著しく変動する。先行研究によると、2 型糖尿病においては、適切な運動は血糖値コントロールを改善するとされているが、1 型糖尿病における血糖コントロールに対する運動療法の効果は一定の見解が得られていない２）。 本研究の目的は、運動をすることによって血糖値の低下と安定化を図ることである。30 代女性の 1型糖尿病患者を対象に、普段とは異なる運動を行った際の血糖変動をモニタリングし、運動と血糖変動の関係について検証した。この研究により、1 型糖尿病患者における運動療法の有用性を示し、今後の治療法の向上に寄与することを目指す。  Ⅱ 調査方法 1. 研究対象者  1 型糖尿病患者である 30 代女性。身長 152cm、体重 47kg、BMI 20.3kg/m2、歩幅 60cm である。2024 年 8 月 2日時点のHbA1c は 8.4%、平均血糖値183 mg/dLであった。普段は自転車で20分ほど通学している。血糖の目標範囲は医師のもと、70mg/dL～180 mg/dLに設定されている。また、治療として医師の指示に従い1日4回のインスリン投与を行っている。具体的には食前（朝食、昼食、夕食）に超即効型インスリンを、就寝前に持続型のインスリンを投与している。  2. 調査期間  調査期間は、運動実施中と運動中止後を比較する1 型糖尿病患者を対象とした運動による血糖値の変動についての検証  - 18 - ため、2024年8月12日から8月19日とした。  3. 研究方法 本研究の対象者は夕食後に運動を実施するために、任天堂 Switch 専用フィットネスソフト「リングフィットアドベンチャー」を使用した。運動実施期間は2024年8月12日から16日の5日間、運動中止期間は2024年8月17日から19日の3日間とした。運動の内容は、ジョギング、腹筋、ヨガ、上半身（腕）の運動とした。 各日エネルギー消費量は、「リングフィットアドベンチャー」の運動結果に基づき、表1に示す通りである。  日付 分 kcal kcal/分 METs kcal/分 8/12 33 66.06 2.00 2.43 0.82 8/13 11 32.00 2.91 3.54 0.82 8/14 10 25.52 2.55 3.10 0.82 8/15 7 21.96 3.14 3.81 0.82 8/16 15 37.14 2.48 3.01 0.82 表1 エネルギー消費量  このデータに基づき、運動の効果について検討を行った。 なお、本研究では、該当期間中に自転車運動は実施しておらず、特別な食事管理もしていない。  4. 血糖値の測定について 血糖値の変動はFreeStyle リブレを用いて連続的に測定（スキャン）し、記録されたデータを使用した。  5. 運動の強度（Mets）について 対象者は、普段は 20 分ほど自転車運動（4.0Mets）を行っている。本研究では、通常とは異なる運動（4.0～6.0Mets）を約 10 分間実施しその際の血糖値変動を測定した３）。     Ⅲ 結果 血糖値の変動結果 運動開始前（8月12日の日中6時から16時）の血糖値と、運動開始後（8月13日から17日）の結果を比較した。なお、グラフの下段の数値は、1 時間ごとの血糖値の最大値と最小値を示している。  1 日目（8/12）の日中血糖値は 200mg/dL～280mg/dL の範囲で推移していた（図 1）。しかし、夕食後にゲームを用いた運動を行った結果、2 日目（8/13）の日中血糖値は120 mg/dL～240 mg/dLの範囲に低下した（図2）。その一方で、夜間には低血糖（55mg/dL～65mg/dL）が発生した。3日目（8/14）の日中血糖値は 110 mg/dL～200 mg/dL を推移していたが、一時的に260 mg/dLの高血糖が記録した。これは食事の影響があると推察される。また、高血糖を記録したため、インスリンを3単位追加で注射した結果、血糖値は189 mg/dLまで低下した（図3）。 4 日目（8/15）の日中血糖値は 55 mg/dL～200 mg/dL（図 4）、5 日目（8/16）は 80 mg/dL～180 mg/dL（図 5）、運動中断後の 6 日目（8/17）は 50 mg/dL～200 mg/dLで推移した（図6）。運動開始前後の血糖値を比較した結果、平均して 80 mg/dL～150 mg/dL の範囲で血糖値が低下していることが確認された。しかし、運動を中止した翌日である 8月18日および8月19日の日中血糖値は260 mg/dL～380 mg/dLに上昇していた（図7・8）。 運動を行わなかった日（8/18）の血糖値と運動を行った日の翌日（8/17）の血糖値を比較したところ、最大血糖値で約 100 mg/dL、最小血糖値で150mg/dLの差が生じていた。また、グラフからは、運動実施期間中は血糖値が低下傾向にあり、運動中止期間中は血糖値が上昇傾向にあることが明確に確認された。（図9）。   図1 1日目（8/12）血糖変動  武蔵丘短期大学紀要 第 32 巻  - 19 -   図2 2日目（8/13）血糖変動   図3 3日目（8/14）血糖変動   図4 4日目（8/15）血糖変動   図5 5日目（8/16）血糖変動   図6 6日目（8/17）血糖変動   図7 7日目（8/18）血糖変動    図8 8日目（8/19）血糖変動    図9 運動と血糖変動  Ⅳ 考察 本研究の結果から、フィットネスゲームを用いた10分程度の運動でも、運動前後の血糖値に明確な変動が確認された。これは、有酸素運動により筋肉への血流が増加し、細胞内への血糖取り込みが促進され、インスリンの効果が高まるためと考えられる 4）。また、無酸素運動による筋肉量の増加もインスリン感受性の改善に寄与していると考えられる 5）。特に、運動後の昼間に血糖値が低下したことは、運動が血糖コントロールに効果的であることを示唆している。運動によるエネルギー消費や筋肉の活動が、インスリン感受性を向上させ、血糖値の低下を促進したと考えられる。 一方で、運動後の夜間に低血糖が発生したことから、運動後の低血糖には注意が必要である。運動による急激な血糖値の低下を防ぐために、適切な食事管理やインスリン調整が重要であり 6）、普段と異なる運動や強度の強い運動をする際は、患者への指導が求められる。例えば、食前のインスリン量は運動量に応じて、普段の1/2～3/4程度に減らすことが考えられる。運動前あるいは運動中、運動後に補食を摂ることも重要であり、運動は、空腹時ではなく食後1～3時間以内に行うのが望ましい 7）。また、運動を中止すると血糖値が上昇する傾向が見られたことから、習慣的な運動が血糖維持に有効であることが示唆された。 これらの結果から、1型糖尿病患者における運動療法の有用性が再確認され、運動の継続的な導入が推奨される。今後の研究では、運動強度の強化や、異なる種類の運動を実施した場合の効果を比較すること、また運動による消費エネルギーと食事による摂取エネルギーのバランスを考慮しつつ、適切な食事管理を取り入れた血糖コントロールが必要である。  1 型糖尿病患者を対象とした運動による血糖値の変動についての検証  - 20 - Ⅴ 結論  本研究では、1型糖尿病患者に対し、フィットネスゲームを用いた10分程度の運動が血糖値の低下および安定化に寄与することが明らかとなった。運動によって平均血糖値は医師の指示範囲内まで低下したが、運動を中止すると血糖値が上昇する傾向が確認された。また、夜間の低血糖リスクや運動中止後の高血糖が認識され、適切な運動管理に加えて、食事管理やインスリン調整の重要性が示された。今後は、運動の強度や種類、タイミングの検証に加え、食事管理を組み合わせることで、より効果的な血糖コントロール方法の探求が求められる。  【参考文献】 1） 一般社団法人日本糖尿病学会：糖尿病ってどんな病気？ https://www.jds.or.jp/modules/citizen/index. php?content_id=2 2024年10月5日アクセス 2） 一般社団法人日本糖尿病学会：糖尿病診療ガイドライン2024 4章 運動療法 pp.67 -72 （2023） 3） 厚生労働省：生活活動・運動のメッツ表 https://e-kennet.mhlw.go.jp/wp/wp-content/ themes/targis_mhlw/pdf/mets.pdf 2024年10月5日アクセス 4） 樋口満、（湊久美子、寺田新）健康・栄養系の運動生理学 栄養・スポーツ系の運動生理学 改訂第2版第5章運動と中間代謝・内分泌の機能A 運動と糖代謝pp.59-62（2024） 5） 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター 糖尿病の運動のはなし https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/040/040/03.html 2024年10月5日アクセス 6） 一般社団法人日本糖尿病学会：糖尿病診療ガイドライン2024 20章 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ（感染症を含む） pp.452-454 （2023）  7） 一般社団法人日本糖尿病学会：1型糖尿病はどのように治療するのか？https://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=9 2024年10月5日アクセス 

１型糖尿病患者を対象とした運動による 血糖値の変動についての検証

高橋, 琴美

タカハシ, コトミ

- 41 -  実践報告  北本市大学公開講座の実施報告  Report of university open lectures of kitamoto city   高橋 琴美     Kotomi Takahashi      Abstract 令和 5 年度北本市大学公開講座で実施した、運動指導を含めた講座である「家庭でできる健康体操」について報告する。参加者は北本市民及び近隣市町在住の 60 代から 80 代の 37 名で、健康づくりのための運動についての講義 30 分と、「365 歩のマーチ」の音楽に合わせて行う健康体操についての運動指導を 60 分実施した。参加者には講座修了後に北本市教育委員会によるアンケートへの回答を依頼した。アンケートの結果をみると、参加者は今回の講座の内容について「大変良かった」「良かった」と回答しており、大変有意義な時間を提供することができたと考えられる。そして、参加者に講義・健康体操ともに積極的に参加してもらえたことがこの感想につながったとも考えている。今後の課題としては、運動継続を促すためにも今回のような運動指導の場を定期的に設け、一緒に運動をする機会を作っていく必要がある。  キーワード： 大学公開講座、北本市、健康体操   Ⅰ はじめに これまで北本市と武蔵丘短期大学は、包括連携協定により「大学公開講座」を実施してきた。この講座は北本市、北本市教育委員会、武蔵丘短期大学が主催となり、北本市民及び近隣市町在住の 18 歳以上を対象に実施している。令和5年度は筆者が講師となり、健康体操の運動指導を含めた講座を実施しており、本稿ではその内容について報告する。   Ⅱ 講座内容 1．事前準備  11月下旬に北本市教育委員会より、本学ホームページに掲載されている令和元年度公開講座の内容である「家庭でできる健康体操」を北本市大学公開講座で実施して欲しいとの依頼があった。12月に大学公開講座の会場となる北本市文化センターに伺い、会場の下見、使用できる機材、内容についての打ち合わせを担当者と行った。広報掲載文とチラシ作成のために北本市教育委員会に提出した講座のテーマ、概要は以下の通りである。 ＜テーマ＞  家庭でできる健康体操   〜365歩のマーチで楽しく動きましょう〜  「健康のためにも運動をしよう！」と思ったときに、何をしますか？何をしたらいいのか迷ってしまうと、せっかくのやる気がしぼんでしまうかもしれません。そこで今回は特別な場所・道具を使わなくても、家庭でできる健康体操をご紹介します。聞きなじみのあるメロディーを口ずさみながら、ご家庭で簡単に体操ができるといいですよね。ぜひ覚えて実践してみてください。 ＜概要＞ 前半は健康づくりのための運動についての講義を行い、後半は健康体操の実技を行います。自分自身の体調に合わせ、無理なく運動できるよう、立位または座位での体操をご紹介する予定です。ただ、参加者や会場・設備等によっては、立位のみになるかもしれません。実技は途中、休憩をはさみながら実施する予定です。 持ち物： 運動のできる服装、タオル（フェイスタオル）、飲み物、筆記用具  2．開催日、参加者 開催は令和 6 年 3 月 6 日（水）13 時 30 分〜15時、参加申込は 41 名であった。前日の降雪で、開催を心配したが、当日は天気が回復し、申込者のう北本市大学公開講座の実施報告 - 42 -  ち 37 名に参加していただき、無事開催することができた。   3．アンケート調査 参加者には、講座修了後に北本市教育委員会によるアンケートへの回答を依頼した。アンケートの内容としては以下の通りである。 1．性別・年代 2．公開講座を何で知ったか   広報きたもと、北本市ホームページ   公民館チラシ・ポスター、駅ポスター   市役所チラシ・ポスター、その他 3．講座の内容について、感想   大変良かった   良かった   あまり良くなかった   良くなかった 4．その他、ご意見等 （会場、資料、告知方法についてなど）  4． 実施内容 事前にこれまでの大学公開講座では高齢の参加者が多いと伺ったため、90分の講座の時間すべて体操を実施するのではなく、講座時間の30分を講義に、60分を運動指導の時間とした。  30分の講義では、健康づくりための運動について講義を行った。    写真1 講座の様子  60 分の運動指導では、「365 歩のマーチ」の音楽に合わせて、タオルを用いた健康体操を実施した。始めに動画で健康体操の内容を視聴してから運動指導を行った。今回は全員が立位での運動であったため、こまめに休憩時間を入れ、水分補給などを促しながら、参加者にとって無理のない範囲で実施できるよう配慮した。   写真2 運動指導の様子  Ⅲ アンケート結果 1．参加者の性別・年代 参加者は女性 30 人、男性 4 人、未回答 3 人であった。年齢別にみると60代10人、70代19人、80代以上6人、未回答2人であった（表1）。 表1 年齢別参加人数 年齢 60代 70代 80代以上 未回答 人数 10人 19人 6人 2人  2．公開講座を何で知ったか 大学公開講座を知ったきっかけは、「広報きたもと」が 16 人と最も多く、次いで「公民館チラシ・ポスター」「市役所チラシ・ポスター」が多かった。その他の回答としては、講座講師の紹介（1名）、市民大学きたもと学苑の講座（5 名）、友人の誘い（3名）などがあった。 表2 講座を何で知ったか（複数回答可） 広報きたもと 16人 北本市ホームページ 1人 公民館チラシ・ポスター 8人 駅ポスター 3人 市役所チラシ・ポスター 5人 その他 8人 武蔵丘短期大学紀要 第 32 巻 - 43 -  3．講座の内容 講座の内容については、「大変良かった」との回答が81％（30名）、「良かった」が16％（6名）、未回答が3％（1名）であった（図1）。           図1 講座の内容  内容についての感想としては、「音楽に合わせて体操することがとても楽しかった」との回答が最も多く、次いで「分かりやすかった」、「職場や自宅、地域などで続けたい」との回答が多かった。また、「無理をしないで自分のできることからでいいなら、自宅でも続けられそう」との感想もあった（表3）。  表3 講座への感想（複数回答可） 音楽に合わせて体操をして楽しかった 21人 分かりやすかった 10人 自宅や職場、地域で続けたい 7人 知っている曲でよかった 2人 元気が出る 2人 短時間で運動した感じがした 1人 自宅でもできそう 1人  4．その他、ご意見等 今後の大学公開講座への要望として、体操などの講座の開催、今回の講座での会場設営（椅子の移動と実技の隊形への移動がきゅうくつだった）などについての意見があった。  Ⅳ おわりに 今回の講座は、北本市教育委員会から「参加者が楽しく参加できるような運動を講座の内容にしたい」との依頼で実施した講座である。前日からの悪天候で、参加者に来てもらえるか不安だったが、応募した41名のうち37名に参加していただくことができた。今回の参加者も 70 代を中心に 60 代から80代の参加者であり、講義と運動指導の時間配分としては適当であったと考えている。 30分の講義では、健康づくりための運動についてということで、令和6年1月に策定された「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」1）の解説を中心に解説を行った。その中で全体の方向性である「個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む」をポイントとして、「示されている運動を行わなければ効果がない」ではなく、「自分自身ができることから始める」ことでも効果が得られること、「無理なく自分のペースで行う」ことで運動継続につながることを伝えた。参加者からの感想を見ると、講座後半の健康体操の内容も含めて「続けたい」との感想が多数得られ、ポイントをしっかり伝えることができたのではないかと考えている。 60 分の健康体操の指導では、「365 歩のマーチ」の音楽に合わせて体操を実施した。これは音楽に合わせて行う健康体操であるが、使用する曲が参加者にとってよく知っている曲であるため、CD などの音源がなくても、曲を口ずさむことで行うことができる健康体操である。また、立位だけでなく、椅子に座った姿勢でも行えるため、個人の体力レベルや体調に合わせて運動強度を変えることもでき、一人でも複数の人でも一緒に行えるといった利点がある。今回の講座では、参加者全員が立位で行うことができたため、座位での体操は紹介程度となってしまったが、機会があれば座位での体操も実施できればと考えている。これまでに筆者が行った健康体操の指導では、簡単な説明の後、すぐに運動指導を行っていたが、今回は運動指導の前に講義の時間があったため、運動指導の前に動画で健康体操の内容を視聴してから体操を行った。動画の視聴を行うことで動きのイメージができ、動画を視聴せずに体操を実施した場合よりも、比較的スムーズに進めることができた。参加者からの感想を見ると「知っている曲での体操が楽しかった」「自宅や地域でも続けられそう」との感想が多数得られた。合わせて「無理をしないで自分のできることからでいいなら、家に帰っ北本市大学公開講座の実施報告 - 44 -  てからもできそう」「職場や地域での体操の時にやりたい」との感想もあり、運動継続につながる講座を、そして非常に満足してもらえる健康体操を提供できたのではと感じた。 今後の課題としては、参加者の運動継続を促すためにも今回のような運動指導の場を定期的に設け、一緒に運動をする機会を作っていく必要があると考えている。また、今回の講座では、講義と運動指導が同じ会場であったため、運動指導の前にスペースを確保するために、参加者に椅子を移動していただくことになった。それについての指摘も感想の中では見られたので、今後は参加者の負担にならないような展開を検討する必要があると感じた。 最後に、今回の講座の参加者は非常に熱心であり、講義も健康体操も積極的に取り組んでもらうことができた。参加者から「大変良かった」「良かった」との感想をいただけたのも、参加者の協力のおかげであり、参加者全員に大変感謝している。また、このような運動指導を含めた講座の機会を作って下さった北本市教育委員会の皆さまにも感謝している。  【参考文献】 1）健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023：厚生労働省、2023  

Report of university open lectures of kitamoto city

学術出版物及び学会発表の目録 - 63 -1．学術出版物A.著書氏 　名専 　攻書名 単著共著発行所名 概　　要分担執筆の章等名、分担題名 、開始頁　-　終了頁発行年月カレント　食べ物と健康3：改訂　食品衛生学 改訂版第4刷共著建帛社管理栄養士国家試験出題基準（ガイドライン）に沿い、新しい内容やデータを加えた管理栄養士・栄養士養成課程の教科書として執筆した。今回の改訂版4刷では食中毒関連データを新しいものに修正した。第4章3.細菌性食中毒p46-56、第4章5.自然毒食中毒p60-68、第4章6.化学性食中毒p68-692024年1月公衆衛生学　2024／2025共著同文書院管理栄養士国家試験出題基準（ガイドライン）に沿い、新しい内容やデータを加えた管理栄養士・栄養士養成課程の教科書として執筆した。第16章　産業保健　p215-2242024年2月B． 学術論文氏 　名専 　攻論文題名 概　　要全共同研究者名発表年月小河原佳子健康栄養ミネラル摂取量と組織内ミネラル量について　女子サッカー選手の年間変化食事調査によるミネラル摂取量と組織内ミネラル量の変化について、女子サッカー部員7名について測定し、組織内ミネラル量と食事によるミネラル摂取量の相関を検討した。組織内ミネラル量は摂取量の増加が体内ミネラル量の増加との相関は示さなかった。小河原佳子、田本育代、島田里緒菜2024年3月Effects of Continuous CarbohydrateIntake with Gummies during the GolfRound on Interstitial Glucose, GolfPerformance, and Cognitive Performanceof Competitive Golfers: A RandomizedRepeated-Measures Crossover Design本研究では、ゴルフラウンド中の継続的な炭水化物摂取が、競技ゴルファーの間質グルコース、ゴルフパフォーマンス、認知能力に及ぼす影響を検討した。本研究の結果、継続的な炭水化物摂取が競技ゴルファーの疲労軽減とパフォーマンス維持に有効である可能性が示唆された。長島洋介、江原清浩、江原義智、三ツ目彩菜、久保希恵、峰尾茂2023年7月Association Between Carbohydrate IntakeDuring Golf Rounds and Its RelatedFactors in Japanese Elite Junior Golfers. 本研究の目的は、エリートジュニアゴルファーの競技ラウンド中の炭水化物摂取量とその関連因子を明らかにすることである。本研究では、栄養教育は、年齢、性別、BMIにかかわらず、ゴルフラウンド中に推奨量の炭水化物を摂取することと関連していることを明らかにした。(オッズ比、3.70；p = 0.039)長島洋介、伊藤由香、峰尾茂、内木場雄平、三ツ目彩菜、堀川昭子2024年3月掲載誌名掲載巻号頁Nu trients15(14), 3245International Journalof Golf Science12(1)健康栄養岡﨑　英規武蔵丘短期大学紀要31, 1-6長島　洋介健康栄養- 64 -氏 　名専 　攻論文題名 概　　要全共同研究者名発表年月地域住民を対象とした防災に関する意識調査専門学校生を対象に基本5味に対する識別調査を行い、現状の評価と傾向の把握を行った。池田大佑、木元泰子、浅香透、藤岡幸枝、鈴木涼介、朝日直人2024年3月市販惣菜類の細菌汚染状況について～市販の揚げ物と手作りの細菌汚染状況の比較～コンビニ揚げ物と手作り揚げ物の細菌汚染を比較調査した結果、市販品は衛生管理が適切で、手作り品は加熱調理と二次汚染防止が重要であることが確認された。池田大佑、木元泰子、浅香透、朝日直人2024年3月調理における廃棄部位を使用したメニュー開発（第1報）～食品ロス削減に向けての取り組み～食品ロス削減を目的に、廃棄部位を再利用したメニュー開発を試み、実習で活用できる可能性を検討した。澤坂明美、木元泰子、鈴木涼介、若井麻由、深田由美子2024年3月Effects of Continuous CarbohydrateIntake with Gummies during the GolfRound on Interstitial Glucose, GolfPerformance, and Cognitive Performanceof Competitive Golfers: A RandomizedRepeated-Measures Crossover Design本研究では、ゴルフラウンド中の継続的な炭水化物摂取が、競技ゴルファーの間質グルコース、ゴルフパフォーマンス、認知能力に及ぼす影響を検討した。本研究の結果、継続的な炭水化物摂取が競技ゴルファーの疲労軽減とパフォーマンス維持に有効である可能性が示唆された。長島洋介、江原清浩、江原義智、三ツ目彩菜、久保希恵、峰尾茂2023年7月Association Between Carbohydrate IntakeDuring Golf Rounds and Its RelatedFactors in Japanese Elite Junior Golfers. 本研究の目的は、エリートジュニアゴルファーの競技ラウンド中の炭水化物摂取量とその関連因子を明らかにすることである。本研究では、栄養教育は、年齢、性別、BMIにかかわらず、ゴルフラウンド中に推奨量の炭水化物を摂取することと関連していることを明らかにした。(オッズ比、3.70；p = 0.039)長島洋介、伊藤由香、峰尾茂、内木場雄平、三ツ目彩菜、堀川昭子2024年3月内藤　郁芳健康スポーツ学校保健・学校安全・危機管理に関する研究　群馬県内高等学校における新型コロナウイルス感染症への対応についての考察その4新型コロナウイルス感染症への対応は、学校現場において多くの困難な状況を伴ってきた。令和5年5月8日からは感染症法上の位置づけ変更がなされ、患者が発生した場合等の対応は、行政が強く関与するものから各学校の判断に任せられることとなったが、教育活動と感染防止対策の両立を模索する日々は続いている。そこで、感染法上の位置づけ変更後の各学校の対応について調査し、今後の学校運営等の参考とするべく考察を加えた。2024年3月掲載誌名掲載巻号頁武蔵丘短期大学紀要31, 13-17International Journalof Golf Science12(1)武蔵丘短期大学紀要31, 31-34武蔵丘短期大学紀要31, 45-50武蔵丘短期大学紀要31, 19-29Nutrients15(14), 3245三ツ目彩菜健康栄養木元　泰子健康栄養- 65 -氏 　名専 　攻論文題名 概　　要全共同研究者名発表年月田本　育代健康スポーツミネラル摂取量と組織内ミネラル量について　女子サッカー選手の年間変化食事調査によるミネラル摂取量と組織内ミネラル量の変化について、女子サッカー部員7名について測定し、組織内ミネラル量と食事によるミネラル摂取量の相関を検討した。組織内ミネラル量は摂取量の増加が体内ミネラル量の増加との相関は示さなかった。小河原佳子、田本育代、島田里緒菜2024年3月福島　邦男健康マネジメント令和4,5年度特定非営利活動法人武蔵丘スポーツクラブの地域貢献事業総合型地域スポーツクラブが地域で果たす役割が今までより広がっていく今日、地域のニーズを把握してそれに応えていくことは、短期大学の地域貢献とあわせ、欠かすことはできない責務といえる。ボランティア活動は、学生にとって貴重な体験となる。今後も地域住民のニーズに応える総合型地域スポーツクラブでありたいと考えている。太田あや子、福島邦男、伊藤えつ子、島田里緒菜2024年3月武蔵丘短期大学紀要31, 35-38武蔵丘短期大学紀要31, 1-6掲載誌名掲載巻号頁- 66 -

Lists of academic publication and achievement

長島, 洋介

ナガシマ, ヨウスケ

葛城, 恵三

カツラギ, ケイゾウ

杉本, 尚子

スギモト, ナオコ

宿泊客において低ナトリウム/カリウム食が 尿中栄養バイオマーカー、主観的評価項目に及ぼす効果

福島, 邦男

田本, 育代

タモト, イクヨ

A practical report on winter outdoor activity class 2023 A Study on Instruction Methods through Long-Distance Skiing Using Transceivers

村井, 輝久

ムライ, テルヒサ

- 51 -  資料 講演記録「教育の原理としての弁証法」 Lecture Record Dialectics as a Principle of Education  村井輝久 Teruhisa Murai  Abstract 本講演の目的は、教育の原理について、弁証法という観点から述べることである。より具体的にいえば、以下では教育という行為が辿る過程について、「発展」「他者」などを手がかりとしながら提示する。その際、本講演では次に示す手続きに従って論述を展開する。第一は、教育という行為についての意味合いを確認することである。第二は、弁証法の基本図式を示すことである。第三は、教育を弁証法的に展開する際の課題を整理することである。論述するにあたっては、篠原助市や高久清吉などの考えを参照する。  キーワード：弁証法、発展、他者   1. 本講演を始めるにあたって(1) 近年、生徒指導事例研究協議会(2)では、主に生徒指導に関する具体的な問題が取り上げられ、それを解決するための方法が議論されている。具体的には、「不登校の子供をもつ親へのアプローチ」(令和3年)、「インターネット社会における人権」(令和 3 年)、「家庭教育に課題を抱える親への支援」(令和 4 年)などの問題である(3)。これらの問題は、教育および学校教育に携わる者が共通して関心を示す問題であると考えられる。それは、教員自身または受け持った子どもたちが上に示した諸問題に直面する可能性があるからである。こうした教育の現実的な問題について議論を積み重ねているという意味において、同研究会の活動は教員の実践的研究を深める機会になる。 だが、教員の実践的研究において必要であるのは、教育問題の解決方法を単に検討することのみではない。実践的研究においても、教員自身が直面している問題について理解を深めることが重要である。実践的研究における問いについて、高久は次の二つの問いを示す。それは、「何か」と「いかに」という二つの問いである。「いかに」の問いとは、「実践の方法を明らかにしようとする問い」である(4)。一方、「何か」の問いとは、「対象の本質を明らかにしようとする問い」である。これら二つの問いは、切り離すことができない関係にある。たとえば、「教材研究をいかに進めるか」という問いは、「教材研究とは何か」という問いを前提に据えることによって成り立つ(5)。教員の実践的研究は、「何か」と「いかに」の二つの問いを軸に展開することが必要である。 上に示した考えに基づいて、本講演が設定する問いは、「教育とは何であり、それはどのような過程を辿るのか」という問いである。この問いを設定する理由は、生徒指導も教育活動の一環だからであり、教育を実践する上でこの問いの追求は必要不可欠であると考えられるからである。 上記の問いに基づいて、本講演では教育の原理について述べることを目的として設定する。その際、ここでは弁証法という考えに着目する。本講演が弁証法に着目するのは、この考えが他者との出会いや関わり合いを人間の成長過程にとって必要不可欠な経験として組み込む教育のあり方を示すものだからである。 まずは、弁証法について整理する。中村によれば、弁証法とは「真理の自己完成の運動形式」である。この考えでは、「弁証法のもつ重要な点」が「矛盾の自覚あるいは認識」に求められており、それがむしろ「動的展開を促す」と捉えられている(6)。弁証法では、他者という存在がこうした矛盾の自覚または認識を生じさせるきっかけとして捉えられている。 次は、他者または他者との関わり合いに着目する理由を述べる。自己形成上の問題の一つに「島宇宙化」という問題がある。これは、他者の視線への無関心さを表現した言葉である。宮台によれば、1990講演記録「教育の原理としての弁証法」  - 52 - 年前後から、人びとは共通する趣味嗜好などを有する特定の人びとと人間関係を築くようになり、それに伴って、人びとの人間関係が特定の人びととの人間関係へと閉じるようになる。このようにして自己とは異なる他者への無関心が生じた(7)。本講演の内容の背景には、こうした自己形成上の問題がある。 上記の目的と問いに基づき、本講演では、まず教育という行為についての意味合いを確認し、次に弁証法の考え方を示した上で、最後に教育を弁証法的に展開する際の課題を整理する。論述するにあたっては、篠原助市(1876-1957)や高久清吉(1925-)などの考えを参照する。両者はともに、弁証法の考えに基づいて教育を論じている。  2. 価値的行為としての教育 本節では、「教育とは何か」という問題についてまとめる(8)。教育については、様々な定義がある。以下では、中内敏夫と広田照幸による教育の定義を取り上げる(9)。 まず、中内は「教育」という行為の「本質」を「助成的介入」という言葉によって説明する。この考えでは、教育があくまでも「子どもの自発的な学習活動を組織してゆくものでなければならない」と捉えられている(10)。次に、広田は「教育とは、誰かが意図的に、他者の学習を組織化しようとすることである」と教育を定義づける(11)。両者ともに、教育を「他者の学習を組織化しようとする行為」と捉えている点では共通する。 ただ、本講演において着目したいのは、教育という行為が何らかの価値を実現しようとする行為であるという点である。篠原助市の教育観には、そうした考えが端的に見られる。 篠原にとって、「教育」とは「被教育者の発展を助成する作用」を意味する(12)。篠原のいう教育の意味合いは、彼のいう「発展」が指し示すものを整理することによって理解できる。「発展」とは、人間が生まれたままの状態からより望ましい方向性へと高まることを意味する。それは、「自然より価値へ」(13)という彼の言葉に表現されている。「自然」とは「あるもの」という生まれたままの状態のもの、または自然のままの状態のものを指す言葉であり、「価値」とは「あらねばならぬ」ものというより望ましい方向性を指し示す言葉である。このように篠原にとって、発展とは人間の価値への「無限の発展過程」を意味する(14)。このように篠原のいう発展を整理するならば、彼のいう教育とは人間の価値への発展を助成する行為と捉えられる。 こうした考えは、高久清吉の考えにも見られる(15)。高久のいう教育とは、子どもたちの人間性が「ある人間性」から「成る人間性」へと高まるように働きかけることを意味する。「ある人間性」とは「生まれつき、またはさまざまな環境要因によって子どものそれぞれがひとりでに身につけている自然的な人間性」を指す。一方の「成る人間性」または「成りつつある人間性」とは、「この自然的なものへの人為的なはたらきかけを通して、子どもそれぞれにだんだんと磨きあげられていく人間性」を意味する(16)。 このように篠原および高久はともに、教育を子どもたちが自然のままの状態のものからより望ましい方向性へと高まるように働きかける行為として捉えている。問題は、篠原のいう「あるもの」から「あらねばならぬ」ものへの無限の発展、または高久のいう「ある人間性」から「成る人間性」への限りのない向上とは「どのような過程を辿るのであろうか」、また「それはどのようにして生じるのであろうか」ということである。なお、「あらねばならぬ」ものにしても、「成る人間性」にしても、それらには最終地点はない。その理由は、より価値的な方向への発展には限りがないからである。  3. 弁証法の考え方 本節では、「教育とはどのような過程を経るのか」という問題について、弁証法の考えに基づきながら整理する。問題は、弁証法とはどのような考えであるのかということである。 高久によれば、弁証法の基本図式は「自→他→自」の図式によって示される。「第一段の「自」」は、「低いレベルでの自我」または「浅いレベルでの自我」を指す。先ほどの高久の言葉と関連させるならば、「第一段の「自」」は、今現在の「ある人間性」を意味するものと考えられる。それに対して、「第三段の「自」」が指し示すのは「高いレベルでの自我」である。それは、「成る人間性」に対応する言葉である考えられる。「第一段の「自」」と「第三段の「自」」と武蔵丘短期大学紀要 第 32 巻 - 53 -  は異なる水準にあるのであって、同じ水準のものではない(17)。 それでは、「第一段の「自」」から「第三段の「自」」への展開はどのような過程を辿るのであろうか。その鍵は、弁証法の基本図式の第二段に示されている「他」という存在である。高久によれば、「浅いレベルでの自我」は、「他の媒介を経ること」によってより「高いレベルでの自我」に至る。「他の媒介を経る」とは、「自分とは違うさまざまな立場や思想に心を開き、これらを虚心に受け入れていくこと」を意味する。それは、言い換えるならば、「他者にはいりこむという経験」である。こうした経験によって、「第一段の「自」」は、次の「第三段の「自」」へと高まる(18)。自己は、このような「自→他→自」を繰り返しながらより高い水準へと向上するのである。 ここで説明しなくてはならないのは、「第一段の「自」」が「他の媒介を経ること」によって「第三段の「自」」へと至るのは何故かという問題である。この問題については、篠原によって既に論じられている。篠原が問うているのは、人びとが「現在の自分」または「低い現在」から「離脱」し、「より高い」または「より深い自ら」へと至るのはどのようなきっかけによってかという問題である(19)。上述の篠原の言葉に置き換えれば、「あるもの」はどのようにして「あらねばならぬ」ものへと発展するのかという問題である。 この問題を考える鍵は、篠原にとっても「他者」の存在である。篠原は、「自我は他我に対立することによつて、己の本源的活動に還る」と述べる。何故なら、人間は他者と「対立」することによって、「自己の現在」に「矛盾と誤謬と不統一」を見出し、それらがより高い水準へと自己を「努力」させる「動因」となるからである(20)。 このようにして考えるならば、「矛盾」「誤謬」「不統一」は、決して人間にとって否定的な経験ではない。むしろそれらは、現在の自己がより高い水準へと至るために必要な経験である。  4. 子どもの価値への発展を促すもの 次に考えなくてはならないのは、教育を「他の媒介を経ること」という観点から捉える場合の課題についてである。それは、子どもたちはどうすれば価値を目指すようになるのかという問題である。この問題について、以下では二つの観点から整理する。特に、本講演では教員と子どもの関係に着目しながら論述する。 第一は、教員自身が価値を目指すことの必要性についてである。篠原によれば、子どもたちが価値を目指すきっかけとなるのは、「眞善美に向へる教師の純眞な愛」である(21)。それは、子どもたちにとって教員が重要な他者として存在することを意味する。何故なら、「教師の、価値に對する純眞な愛によつて、純眞な価値への愛を生徒に吹き込み、吹き込むことによつて、未だ覚めてゐない此の愛に點火し、點火することによつて、より高き価値に向上せしめる」ことが可能になるからである(22)。 この考えは、言い換えるならば、「よりよいもの」を目指さない教員は子どもたちの価値への意志または意欲などを惹き起こすことができないということを意味する。この考えに依拠すれば、教育は単なる技術ではないということになる。だからこそ、篠原は教育という行為を「人格と人格との相互交渉」として捉えるのである(23)。 第二は、教員の子どもたちへの関わり方についてである。篠原は、「教育は愛によつて成る」と述べる。彼によれば、子どもたちの価値を目指そうとする動機は、「教育者が被教育者の内に潜む価値を尊敬し、価値に對する愛」を抱くことによって惹き起こされる(24)。 子どもたちに対する教員の愛が盲目的な愛へと陥らないようにするために、教員はどのようなことに注意しなくてはならないのであろうか。篠原によれば、教員は「被教育者が現在如何なる状態にあるかを理解」しなくてはならない(25)。子どもたちの現状を理解することによって、その子に対する愛は盲目的な愛から脱することができる。それは、教育における子ども理解の重要性を示すものである。 このように教員は、子どもたちにとって重要な他者である。何故なら、子どもたちは教員と関わり合いながら、「あるもの」から「あらねばならぬ」ものへの発展、言い換えれば、「自然から価値へ」の発展へと動機づけられるようになると考えられるからである。  講演記録「教育の原理としての弁証法」  - 54 - 5. 本講演を終えるにあたって 本講演では、「何か」と「いかに」の二つの問いのうち、あえて前者の問いに重きを置き、授業および生徒指導などのすべての教育活動に共通する問題である「教育とは何であり、それはどのような過程を辿るのか」という問いを設定した。 この問いを追求するにあたり、本講演が特に重視したのは、教育を「自然から価値へ」という発展を促す行為として捉えることと、発展の過程が「自→他→自」という過程を経ることの二つである。その上で、本講演では発展の過程を弁証法という考えに基づきながら説明した。 最後に、本講演の機会をお与えいただきました岡﨑先生に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。  【註】 (1) 本稿は、令和5年度生徒指導事例研究協議会において発表した基調講演「教育の原理としての弁証法 ― 価値への発展の過程 ―」の内容をもとに執筆した。同研究会の開催日は 2024 年 2 月7 日水曜日であり、開催校は吉見町立吉見中学校であった。 (2) 生徒指導事例研究協議会とは、東松山地区学校警察連絡協議会および埼玉県の比企東部地域小・中・高校合同生徒指導委員会を対象に行われている研究会である。研究会の参加者は、主に小学校、中学校および高等学校において生徒指導に日々尽力しておられる先生方である。 (3) これらの内容については、同研究会会長岡﨑康友先生(吉見町立吉見中学校長)よりご提供いただいた研究会資料「過去数年の演題(参考)」をもとに列記した。 (4) 高久清吉『教育実践の原理』協同出版株式会社、1970年、29頁。 (5) 高久清吉、同書、30頁。 (6) 中村雄二郎『術語集 ― 気になることば ―』岩波書店、1984年、174-175頁。 (7) 宮台真司『制服少女たちの選択』朝日新聞社、2006年、277-278頁。 (8) この問いは教育および教育学において古くから長く問われてきた問題である。本講演では、この問いの歴史について詳細を論じることはできない。本講演にできることは、発表者の関心に応じて教育の特質について概略的に整理することのみである。 (9) 中内も広田も、両者ともに教育学の概説書を公刊している研究者である。 (10) 中内敏夫『教育学第一歩』岩波書店、1988年、9-11頁。 (11)  広田照幸『ヒューマニティーズ 教育学』岩波書店、2009年、9頁。 (12) 篠原助市『理論的教育学』教育研究会、1929年、1 頁。篠原は、東京高等師範学校や京都大学において教育学および哲学を学び、研究した人物である。篠原の教育学構想の背景には、主に西田幾多郎らによる京都学派の考えとドイツ観念論の考えがある(矢野智司『京都学派と自覚の教育学 篠原助市・長田新・木村素衞から戦後教育学まで』勁草書房、2021年。)。 (13) 篠原助市、同書、23頁。 (14) 篠原助市、同書、16頁。 (15) 高久清吉は、茨城師範学校や東京教育大学において教育学を学んだ後、東京教育大学や茨城大学などにおいて教育学を研究および指導した人物である。 (16) 高久清吉、前掲書、67-68頁。 (17) 高久清吉、同書、101頁。 (18) 高久清吉、同書、101-102頁。 (19) 篠原助市『批判的教育学の諸問題』寶文館、1922年、291-292頁、再版。 (20) 篠原助市、同書、290-298頁。 (21) 篠原助市、同書、328頁。 (22) 篠原助市『教育の本質と教育学』教育研究会、1930年、119-120頁。 (23) 篠原助市、前掲書、1929年、35頁。 (24) 篠原助市、同書、29頁。 (25) 篠原助市、前掲書、1930年、115頁。  

Lecture Record　Dialectics as a Principle of Education

内藤, 郁芳

ナイトウ, イクヨシ

The Study of school health, school safety and crisis management  Correspondence to COVID-19 in the high school in Gunma prefecture part 5

フクシマ, クニオ

高橋, 季絵

タカハシ, トシエ

久保, 直也

クボ, ナオヤ

二村, 絹江

フタムラ, キヌエ

山村, 穂高

ヤマムラ, ホタカ

巣立, 佳宏

スダチ, ヨシヒロ

太田, あや子

曽我部, 玉枝

ソガベ, タマエ

大室, 千夏

オオムロ, チナツ

Regional contribution project of Musasioka Sports Club,　 in 2022 and 2023

武蔵丘短期大学武蔵丘短期大学紀要 第 32 巻 2024 年 目 次 原著論文  学生の食品別の目測能力の検討  ･･･････････････････････････小河原 佳子･･････ 1 ～ 6 宿泊客において低ナトリウム／カリウム食が尿中栄養バイオメーカー、 主観的評価項目に及ぼす効果 ･･････長島 洋介、葛城 恵三、杉本 尚子･･････ 7 ～16 1 型糖尿病患者を対象とした運動による血糖値の変動についての検証 ･･････ 木元 泰子、菊地  頼子･･････ 17 ～20 冷却刺激が筋パフォーマンスに及ぼす影響    －冷却は筋パフォーマンスを改善させるのか？－ ･･････ 田中 美帆、佐々木 優之介、佐藤 李帆、玉木 啓一･･････ 21 ～26 研究ノート 孤独感が与える体と食事の関係性について ････････････德野 裕子、熊谷 里紗、小河原 佳子･･････ 27 ～34 学校保健・学校安全・危機管理に関する研究 群馬県内高等学校における新型コロナウイルス感染症への 対応についての考察 その 5  ･････････････････････････････ 内藤 郁芳･･････ 35 ～39 実践報告 北本市大学公開講座の実施報告 ････････････････････････････････高橋 琴美･･････ 41 ～44 令和 5 年度冬季アウトドア実習実践報告 無線機を用いた長距離滑降による指導法の検討 ････････････････福島 邦男、田本 育代･･････ 45 ～50 資料 講演記録「教育の原理としての弁証法」･･････････････････････････村井 輝久･･････ 51 ～54  学生の水泳指導に関する心配や不安についての調査 ･･･････････福島 邦男、高橋 季絵、久保 直也、二村 絹江、山村 穂高、 巣立 佳宏、太田 あや子、曾我部 玉枝、大室 千夏･･････ 55 ～61 学術出版物及び学会発表の目録  ･･････････････････････････････････････････････････ 63 ～66 武蔵丘短期大学紀要に関する要領 ･････････････････････････････････････････････････ 68 ～69 追悼 岡﨑英規先生のご逝去を悼んで ･････････････････････････････････････････････････ 71 ～72 編集後記 ･･･････････････････････････････････････････････････････････････････････････ 73 ISSN  2759-095X (Online)

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１型糖尿病患者を対象とした運動による血糖値の変動についての検証

Report of university open lectures of kitamoto city

Lists of academic publication and achievement

宿泊客において低ナトリウム/カリウム食が尿中栄養バイオマーカー、主観的評価項目に及ぼす効果

A practical report on winter outdoor activity class 2023 A Study on Instruction Methods through Long-Distance Skiing Using Transceivers

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