Iwate Prefectural University Institutional Repository / 岩手県立大学機関リポジトリ

山田, 敬三

ヤマダ, ケイゾウ

－34－R４地域協働研究（ステージⅠ）R04-Ⅰ-08「盛岡における持続可能な除雪体制整備のためのエリア検討について」課題提案者研究代表者研究チーム員 盛岡市 ソフトウェア情報学部　山田 敬三 豊岡 淳（道路管理課）、栗山 裕介（盛岡市まちづくり研究所）〈要旨〉　本研究では、盛岡市における効率的な除排雪事業を図るための一つの方策として、効率的な作業ルートの構築を目指し、各事業者への合理的な除雪エリアの割り当てについて検討した。そして、各事業者の除雪の起点となる事業所を母点としたボロノイ図（Power diagram）を松園地区の地図上に作成し、それぞれのボロノイ領域を除雪するよう調整を図った。その結果、松園地区で本年度に新しく参入した事業者に、妥当と思われる除雪エリアを割り当てることができたほか、総合的に見て除雪に必要とした時間の減少がみられた。１　研究の概要（背景・目的等）　盛岡市では「盛岡市道除排雪計画」をもとに、冬季間の円滑な交通を図るため、市道の除雪を実施している。除雪作業にあたっては、事業者への委託のほか、市民の協力も得ながら実施している。　現状では、作業を担う事業者は一定数確保できているものの、オペレーターの高齢化が進んでいるほか、今後は事業者の働き方改革による作業時間への影響も見込まれる。　このような中、多様化する市民のニーズや事業者の現状に対応するため、より効率的で効果的な除雪作業を実施する必要がある。　そこで、効率的な除雪事業を図るための一つの方策として、除雪作業ルートに着目し、効率的な作業ルートを構築するため、除雪エリアの割り当てを検討した。２　研究の内容（方法・経過等）　土木研究所の寒地機械技術チーム［２］は、除雪機械の保有形態と稼働状況の調査や、効果的な機械の稼働時間などを算出することで、より低コストで効果的な機械の保有形態を検討し得ることを明らかにした。しかし、［２］では、除雪機械の配置の適正化を目的としており、除雪エリアの見直しは考慮していない。　そこで、本研究では、盛岡市松園地区における各除雪事業者の除雪作業の起点となる事業所を母点としてボロノイ図（Power diagram［１］）を作図し、合理的な除雪エリアの割り当てについて検討した。ボロノイ図では、それぞれの事業者の除雪能力に応じて除雪エリアを決めるため、その評価を行った。その結果、図１のような結果を得た。図中、緑の円の大きさが各事業者の除雪能力の高さを表している。　また、ベースとなった地図上で、道路が色分けされているのは、現状の各事業者が除雪作業を担当している道路を表している。この結果を基に、次のボロノイ図（図２）を作図した。図１　事業者別の除雪能力の評価図図２　ボロノイ図　これら２つの図を見比べると、除雪エリアを見直すことで、松園地区全体としての除雪作業の効率化を図ることが期待できる。　また、地図上の中央に位置する業者は、令和４年度から新たに松園地区の除雪事業に参入しており、参入前のボロノイ図は次の図３のようであった。－35－図３　ボロノイ図（新規事業者の参入前）　我々は、新規事業者の参入時の除雪エリア割り当てによる効果を評価するために、新規事業者と参入前にそのエリアを大きくカバーしていた事業者について、除雪にかかった合計作業時間の変化を令和３年度のデータと比較した。３　これまで得られた研究の成果　令和３年度に松園地区を担当していた事業者（A業者）の除雪エリアの路線延長約10.7kmのうち、約3.5kmを令和４年度から松園地区に参入した事業者（B業者）に割り当てた。　A業者の令和３年度の作業時間と約3.5kmをB業者に割り当てたことによる変化したA業者の令和４年度の作業時間を比較した結果を整理したものが表１である。また、令和４年度のA業者の短縮された作業時間と令和４年度のB業者の作業時間を比較し、除雪エリアの見直しにより、短縮または延長された作業時間を整理したものが表２である。表１　A業者の作業時間の比較ケース 積雪深 令和４年度の作業時間（②）令和３年度の作業時間（①）増減（③=②－①）１ 約26㎝ 約28時間27分 約34時間57分 △約６時間30分２ 約18㎝ 約17時間25分 約34時間57分 △約17時間32分３ 約17㎝ 約18時間58分 約34時間57分 △約15時間59分４ 約31㎝ 約24時間36分 約34時間57分 △約10時間21分５ 約23㎝ 約15時間15分 約34時間57分 △約19時間42分　令和３年度の作業時間と令和４年度の作業時間（５ケース）の結果を比較し、５ケースのうち３ケースで作業時間が短くなったという結果を得られた。５ケースのうち１ケースは作業時間が約４時20分長くなったという結果を得られたが、新たに割り当てた除雪エリアでの初回の作業だったことが、作業時間が長くなった要因として挙げられる。　本研究では、除雪の実績管理に使用していたGPSロガーや事業者の保有車両、道路の幅員、事業者の過去の実績を踏まえ作業能力を算出し、その結果をもとにボロノイ図を作図することで事業者の実情に合った作業範囲を可視化することができた。　また、新たなデータを収集しなくとも、蓄積されたデータを活用することで作業ルートの改善を図ることができる可能性を示すことができた。表２　A業者とB業者の作業時間の比較ケース A業者の作業時間の増減（③）B業者の作業時間（④） 増減（③+④）１ △約６時間30分 約10時間50分 　約４時間20分２ △約17時間32分 約７時間49分 △約９時間43分３ △約15時間59分 約７時間23分 △約８時間36分４ △約10時間21分 約10時間21分 増減なし５ △約19時間42分 約10時間46分 △約８時間56分４　今後の具体的な展開　本研究によって設定した除雪エリアに基づく作業ルートをもとに、除雪指定路線の再構築を目指す。　再構築後は、従前とどのような変化があったのか、具体的な作業記録や事業者、市民へのアンケートなどを通じて確認することが想定される。　一方で、作業ルートの再構築によって事業者の作業路線延長に影響がでることから、除雪作業の報酬に影響する可能性、事業者が従来の作業ルートで蓄積してきた経験を次の事業者への引継ぎが課題として挙げられる。　また、当該地域の市民への説明のほか、事業者の理解や協力も必要となる。　以上を考慮し、まずは特定の地域を対象に作業を実施し、検証しながら他地域への展開ができないか検討をしていきたい。５　その他（参考文献・謝辞等）［参考文献］［１］Power diagram、　　　https://en.wikipedia.org/wiki/Power_diagram［２］ 片野浩司、牧野正敏、大上哲也、小宮山一重：除雪機械配置の最適化に関する研究、平成25年度土木研究所成果報告書、国立研究開発法人土木研究所、2013.［謝辞］　ボロノイ図を作図し、地図上に合成していただいた（株）パスコ様に深く感謝申し上げます。

Japanese

盛岡における持続可能な除雪体制整備のためのエリア検討について

Hosogoe, Kumiko

細越, 久美子

ホソゴエ, クミコ

－56－R４地域協働研究（ステージⅠ）R04-Ⅰ-19「持続可能な医療通訳者派遣制度の構築に関する研究」課題提案者研究代表者研究チーム員 奥州市、奥州市国際交流協会 社会福祉学部　細越 久美子 吉原 秋・熊本 早苗（盛岡短期大学部）、アンガホッファ 司寿子（看護学部）、石橋 敬太郎（東北学院大学）、木地谷 祐子（北上市）、佐々木 甚久・高橋 佐緒里（奥州市協働まちづくり部）、渡部 千春・ケネディ 芳子・曽穎（奥州市国際交流協会）〈要旨〉　本研究では、医療従事者が感じる医療通訳の現状と課題、およびニーズを明らかにし、奥州市の医療通訳派遣制度が持続的なより良いものとなる知見を得ることを目的とした。岩手県内の医療従事者を対象に無記名自記式質問紙調査を行った結果、約７割が医療通訳の利用によって患者とのコミュニケーションがうまくいったと回答した。一方で、医療通訳の周知不足が課題として挙げられ、また緊急時にも対応できる派遣制度のニーズも明らかになった。１　研究の概要（背景・目的等）　岩手県においても、在留外国人の増加に伴い多文化共生社会の実現が課題となっている。奥州市では、県内では先駆的に、平成31年度に医療機関への医療通訳派遣制度を開始した。実績も増えてきているなか、より外国人住民や医療従事者側のニーズに応え、医療通訳派遣制度を継続していくことをめざしている。そのためには、受益者である外国人住民、医療従事者、一般市民の視点に立ちながら、広域的に進めていくことが求められる。　そこで本研究では、医療従事者が感じる実際の医療通訳の現状と課題、およびニーズを明らかにし、奥州市が実施している医療通訳派遣制度が持続的なより良いものとなる知見を得ることを目的とした。２　研究の内容（方法・経過等）　医療従事者が感じる実際の医療通訳の現状と課題、およびニーズを明らかにするため、医療通訳者を利用した経験をもつ岩手県内の医療従事者を対象に無記名自記式質問紙調査を行った。１）調査対象　医療通訳を利用した経験をもつ岩手県内の医療従事者（医師、看護師、理学・作業療法士、薬剤師、検査技師、医療ソーシャルワーカー、事務職など）２）調査の依頼方法　奥州市医療通訳派遣制度に登録の医療機関８施設を含めた岩手県内の22施設（施設長宛）に、依頼説明文、質問紙を各10部、および返信用封筒を送付した。施設担当者より、医療通訳を利用した経験のある職員へ個別に依頼文、質問紙、返信用封筒の配布を依頼した。３）データ収集方法　無記名自記式質問紙に記載後、返信用封筒にて返送するか、依頼文に記載したウェブ回答用QRコードから回答を送信してもらった。なお、質問紙の返送あるいはweb回答送信確認ボタンのクリックにて、研究に同意を得たものとした。４）質問内容質問項目は「愛知県における外国人診療および医療通訳に関する研究」アンケート１）を参考にして作成した。内容としては、職種や医療通訳利用の経験の実際について、よかったことや課題、要望などを選択および自由記載にて質問をした。５）分析方法　回答データは単純統計を行った。６）倫理的配慮　回答は無記名であり、質問紙を受け取っても回答するかどうかは自由意思であることを依頼文にて説明した。調査に協力したかどうかは施設長や施設の担当者には報告していない。なお本調査は岩手県立大学倫理審査委員会の承認を得て実施した（承認番号395）。３　これまで得られた研究の成果　岩手県内の22施設に質問紙をそれぞれ10部、合計220部配布し、24人から回答が得られた（回収率10.9％）。回答者の職種は、図１のとおりであり、医師や看護師のみならず、病院内に勤務する多職種が医療通訳の必要な場面を経験していた。回答者のうち、医療通訳者を介して外国人患者の対応した経験がある医療従事者は19名、その中で奥州市派遣制度の通訳者であったと認識があったのが７名（36.8％）で、奥州市派遣制度以外の通訳者を介したと回答したものが５名、そして７名がわからないと回答した。　現状として、医療通訳者を介した対応の経験のある回答者の半数以上が医療通訳者を利用する際「できるだけ専門用語を使わない」「わかりやすく話す」「患者が理解しているか確認しながら話す」配慮をしていた。医療通訳者の必要性については、「業務上いると助かる」としたものが最も多く21名（87.5％）、次いで「医療機関では不可欠」と回答したものが11名（45.8％）、一方で「アプリ等の通訳サービスで対応可能」としたものは６名（25.0%）にとどまった。誰が通訳費用を負担すべきかに関しては、「国（自治体）」の回答が最も多く11名（45.8％）であった。　医療通訳者による通訳を利用してよかった点の複数回答で－57－は、８割が「患者とのコミュニケーションがうまくいった」と回答した（図２）。一方で、困ったことについては、６割が「特にない」としたものの、「医療通訳者の利用で診察等の時間が長くなった」（３名）との回答がみられた。本研究の対象者の半数近くが、通訳アプリや多言語リーフレットを活用し、ある程度役立っていると回答したが、患者とのコミュニケーションは医療通訳者の利用によって効果を実感していることが推察される。　奥州市医療通訳派遣制度については、総合満足度は「満足」「どちらかというと満足」という肯定的な回答が81.8％であった。具体的には、「柔軟に対応してもらえる」「受付から会計まで付き添ってもらえる」「顔のみえる関係の安心感」「費用がかからない」という回答が高かった（図３）。一方で、「周知不足」という課題を指摘する回答が少数ながらあった。実際、本アンケートによってはじめて医療通訳派遣制度があることを知ったと記載した回答者もあった。　また奥州市の派遣制度に関わらず、医療従事者は、必要な時にすぐ利用でき、緊急時にも対応できる医療通訳を望んでいることも、自由記載の回答から明らかになった。加えて、医療従事者の研修に対する意識として、「医療通訳の利用方法に関して」および「医療や健康行動に関する文化の違い」どちらも、必要あるいはどちらかといえば必要と回答したものが約８割であり、ニーズ意識が高いことが明らかになった。図１　対象者の職種図２　医療通訳（者）を利用してよかったこと（複数回答）図３　奥州市医療通訳派遣制度のよかったこと（複数回答）４　今後の具体的な展開　結果から、様々な通訳翻訳ツールが進化するなかでも、医療従事者は医療通訳者を利用することによるコミュニケーションの円滑さを実感しているといえる。今後も、そのような医療通訳派遣制度の強みをいかして継続できるよう、明らかになった課題やニーズに対応していくことが望まれる。　あいち医療通訳システムの利用経験のある医療従事者を対象とした先行文献２）の結果でも、課題として、医療通訳派遣が予約制であることによる限界、希望する言語の通訳者確保の難しさ、システムのPR不足、が挙げられており、本研究の結果と共通する点がみられる。今後はさらに、多くの利用者に医療通訳派遣制度を周知すること、緊急時や急な場面での柔軟な対応をより可能とする体制が課題である。具体的には、ウェブを活用した情報提供や対応について検討していく。また今回は医療従事者を対象とした調査であったが、外国人患者、医療通訳者と派遣側、医療従事者と、関わるすべての人にとって活用しやすい工夫が求められると考える。５　その他（参考文献・謝辞等）〈参考文献〉１） 糸魚川美樹他,2020年度愛知県立大学学長特別教員研究費「愛知県における外国人診療および医療通訳に関する研究」アンケート調査結果報告, 共生の文化研究, 6-125, 2022.２） 柴邦代他, あいち医療通訳システム利用経験をもつ医療従事者の語りからみえる医療通訳の現状と課題, 愛知県立大学看護学部紀要26, 95-102, 2020.〈謝辞〉　調査にあたりましてお忙しい業務のなかご回答くださいました医療従事者の皆さま、また配布の際にご協力いただいた岩手県医療局職員課のみなさまに、深く感謝申し上げます。

持続可能な医療通訳者派遣制度の構築に関する研究

松田, 淳

マツダ, ジュン

－42－R４地域協働研究（ステージⅠ）R04-Ⅰ-12「女性の社会増に向けた効果的な施策形成のための調査研究」課題提案者研究代表者研究チーム員 宮古市企画部企画課地域創生推進室 宮古短期大学部　教授　松田　 淳 中居 裕美（宮古市企画部企画課地域創生推進室）、 大志田 憲、谷藤 真琴、平田 哲兵（以上、宮古短期大学部）〈要旨〉　人口減少を抑制し、地方の活力を取り戻していくためには、人口の社会減に歯止めをかける必要がある。宮古市では、平成27年度から令和元年度まで「第１期宮古市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、取り組みを進めてきた。第１期の計画期間が終了し、評価及び検証を行ったところ、10代から20代に転出した女性の大部分が戻ってきていないことが判明した。　人口政策において母親候補人口となる若年女性（定義上は15～34歳の女性）の増加は重要な要素である。したがって、20代から30代の女性を引き寄せる要因、及び戻ってこない要因を分析し、他市町村の成功事例を調査しながら、宮古市における効果的な施策を研究する。１　研究の概要（背景・目的等）　宮古市の総人口は、昭和35年の81,093人をピークに徐々に減少し、令和５年３月現在では47,816人にまで減少している。国立社会保障・人口問題研究所の平成30年推計準拠においては、2040年の推計人口は37,439人と予測されており、人口減少は今後も続くものと見込まれる。　宮古市では、人口減少社会において持続可能なまちづくりを進めるため「第１期宮古市まち・ひと・しごと創生総合戦略（平成27～令和元年度）」を策定し、取り組みを進めてきたが、数値目標として掲げた「社会減数０人」の達成には至らなかった。これを受け、人口移動分析を行ったところ、転出超過は、高校生が就職及び進学するタイミングで最も大きくなっていること、また2010年から2015年の間の「年齢階級別純移動数」において大きな男女差がみられ、転出した若年女性の多くが再度転入していないことが判明した。しかし、宮古市が行った評価及び検証において、若年女性が転出超過となっている要因の詳細な分析までには至っていない。　持続可能なまちづくりのためには、若年層の人口流出に歯止めをかける必要があり、特に今回明らかとなった若年女性の転出超過を抑制するため、宮古市として有効な施策の実施が必要であると考える。　このことから、本研究により若年女性が転出超過になっている要因を明らかにし、それに基づく政策提言を行うことは重要である。２　研究の内容（方法・経過等）　本研究の主たる流れは、宮古市から転出した若年者に対するアンケート調査やインタビューにより情報を収集し、これに統計分析を加えることで、転出した理由や、今後の宮古市との関係性などについてどのような意識を抱いているかを評価する。さらに、この分析結果をもとに、今後、宮古市の人口減少、特に若年女性の転出超過に歯止めをかける有効な政策を検討し、提言する。（１）情報の収集・分析　令和３年度の本研究では、宮古市出身でありながら県内外他市町村に転出して、現在も市外に居住している若年者（比較のために20歳代、30歳代の男女、合計100名程度）に、アンケート調査を実施し、市外に転出した理由や、現在の生活状況、今後の居住地を含めた生活の方向性、宮古市との関係性などについて意識調査を行うことで、研究に必要な情報を収集した。今年度は、さらにインタビューなどを行うことで、これらの情報をさらに掘り下げる。（２）情報の評価　収集・分析した情報をもとに、宮古市の人口減少、特に若年女性が転出超過に至った要因を抽出する。その際、若年男性の動態と比較することで、若年女性の動態との共通点や相違、さらには県内外他市町村の同様の調査・研究結果や統計データを参照することで、他市町村との間で共通した要因、あるいは宮古市に固有の要因がみられないかを探り、宮古市出身の若年女性の動態が有する意味を解明する。（３）政策の検討・提言　情報の評価に基づき、これまでの宮古市の人口政策をはじめとした各種の政策について、何が欠けているのか、あるいは何が強みなのかを明確にすることで、今後、宮古市がどのような政策を採用すれば、有効な対応策となりうるのかを検討する。その際、県内外他市町村が講じている各種の政策を参照しつつ、宮古市に必要とされている政策を際立たせることで、最終的には宮古市の人口政策として、人口減、特に若年女性の転出抑制に対応した政策を提言する。３　これまで得られた研究の成果（１）統計データの分析　岩手県の年齢階層別の県外転出数をみると、20～24歳の転出数が最大規模だが、同階層に次いで、15～19歳及び25～29歳もまた、転出数の多い年齢階層となるなど、「性別を問わず、幅広い若年世代の転出超過」が極めて顕著な状況にあることがわかる（図１）。また、一般的に「若年女性の東京圏への流出」といわれる状況とは異なり、岩手県の若年女－43－性の転出先をみれば、岩手県内移動が最も多く、次いで東京圏、他地域、宮城県と、極めて多様であり、必ずしも「東京一極集中」ではない実態が浮上してくる（図２）。さらに、その県内各市町村の若年女性の県内転出先をみると、盛岡市が他の市町村を圧倒しており、岩手県の場合「盛岡一極集中」という実態が鮮明となっている（図３）。（２）インタビュー調査１ 　Aさんへのインタビュー（Aさん：20代前半の女性、宮古市出身で一度も転出せず、現在も宮古市在住）　 　宮古について学びたいとの思いから、宮古の学校を卒業して、そのまま宮古の現在の職場に就職した。現在の職場を選んだ理由は、収入が安定していて、福利厚生などもしっかりした職場だから。仕事のやりがいと収入を比較すれば、収入の比重が高い。大都市への憧れはあるが、アクセスできる距離であれば、わざわざ住まなくてもよい。むしろ、友人がいたり、趣味が楽しめる宮古を選択した。２ 　Bさんへのインタビュー（Bさん：30代前半の女性、宮古市出身で福島県に転出し、現在は宮城県在住）　 　大学進学のため福島県に転出した。その後、就職で宮城県に転出し、大学時代の友人と結婚した。大学卒業後、宮古に戻る選択肢もあったが、取得した資格を活かせる仕事に限りがあった。職場を選んだ理由は、職場間でやりがいなどに差がないものの、地域によって収入の差が大きいため、地方よりも大都市圏の職場のほうを選択した。子育て支援も重要ではあるが、転出先を選ぶ条件として必ずしも最重要条件ではない。（３）研究の成果　インタビューも含めて分析すれば、転出理由も、勉学や仕事のやりがいを求めるものであったり、伸び悩む収入を増やそうとするものであったりと、やはり多様だが、やりがいや収入を含めた「故郷での選択肢の少なさ」が、流出の最大要因として浮上してくる。　また、「若年女性」とひとくくりにするのは危険であり、15～19歳、20～24歳、25～29歳、さらに30歳以上…と、それぞれの年齢階層が、それぞれの理由で、それぞれの目的地に向けて、転出しているという、一様ではない実態も看過してはならない。仮に、こうした状況に対応する施策が必要なのであれば、多様な流出の実態や要因に応じた、きめ細かい施策を推進すべきであり、すべてを包括するような施策は、決して効果的ではないし、これで現状を変えることも容易ではないといえる。４　今後の具体的な展開　令和３、４年度の２年間にわたる本研究で、おおむね若年女性の転出状況や理由を把握することができた。今後は、この分析結果を政策提言にどう生かすかという最終課題が残されている。地域協働研究における本課題は、令和４年度をもって終える予定であり、さらに課題提案者の異動などもあって、別途、連携相手を見出す必要がある。また、従来は「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に活かすことを目指した政策提言を想定していたが、政府が推進する「デジタル田園都市国家構想」に即した新たな戦略への転換が今後、予想されることから、こうした流れに即した政策の立案に舵を切った調査研究にシフトしていくことを企図している。

女性の社会増に向けた効果的な施策形成のための調査研究

佐野, 嘉彦

サノ, ヨシヒコ

－38－R４地域協働研究（ステージⅠ）R04-Ⅰ-10「岩手県内における気候変動の影響とその適応策に関する調査研究」課題提案者研究代表者研究分担者研究協力者 岩手県 環境生活部 環境生活企画室 総合政策学部　教授　佐野 嘉彦 岩手県 環境生活部 環境生活企画室　主査　晴山 久美子 齋京 壱（IT・コミュニケーションズ）〈要旨〉　地球温暖化対策には「緩和」と「適応」の両面での対応が必要であるといわれている。温室効果ガスの削減などの「緩和」については、わが国でも広く対策が取られている。省エネによる二酸化炭素放出量の削減はわかりやすく、数値目標なども設定しやすい。対して「適応」は種類が多く、広い分野にわたるため取り組みが進みづらい状況となっている。岩手県では県立大学と協働し、「適応策」についての現状を調査し、「地域気候変動適応センター」の設置に向け、情報を収集・分析する。１　研究の概要　最新のIPCCの報告書である第６次評価報告書によると、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには「疑う余地がない」と明記されている。向こう数十年の間に温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、二十一世紀中に世界平均気温は現在より２℃以上上昇すると予測されている。京都議定書に代わる新たな国際枠組みとしてのパリ協定では、全球温度を２℃上昇以内に抑える目標を立てたほか、気候変動による影響は避けられないため、適応計画プロセスや行動の実施、適応報告書の提出など、気候変動に対する適応に関する事項が盛り込まれた。適応策とは温室効果ガスの増加により発生する気候変動（特に地球温暖化）に対処し、被害を減らすための対策である。適応策はリスク回避を目的としており、不確定な要素を含んでいるため、コスト的に余裕のない企業は対策に取り組むことを優先しにくいと推測されている。さらに、適応策は種類の幅が広く、結果が数字に表れにくいことから、適応策の定義、評価をすることが可能なのかが問題として提起されている。地球温暖化が進行し、温室効果ガスの排出削減を要請され、適応を考慮しなければいけない現状、自治体においても地球温暖化について認知と理解をさらに深めていく必要がある。そこで、岩手県内の事業所が温暖化対策としての緩和策と適応策をどのように認識しているのか、特に「気候変動への適応」に対してどのように対応すべきかについて意識などを調査し、そのデータの分析結果から岩手県における「地域気候変動適応センター」の設立に向けて提言できる材料を示すことを研究の目的とする。２　研究の内容　本研究においては、農業従事者向けのアンケートと県内事業所向けのアンケートの二つの調査を行った。農業分野を第１の対象としたのは、特に地球温暖化の影響を受けやすく、すでに影響が生じている可能性も大きく、他業種よりも適応策を意識しているのではないかと仮説を立てたためである。事業所向けのアンケートについては、農業従事者向けアンケートと比較し、分析することを目的としている。農業従事者向けアンケートは県内９箇所の農業改良普及センターにおける重点対策農家から抽出し、郵送法にてアンケート調査を行った。質問数は全17問となっており、複数選択式、記述式を主に採用した。アンケート内容は、生産状況に変化が生じていると感じる作物、近年、新たに生産に取り組むようになった作物、また生産に取り組んでみたい作物、「気候変動への適応」という言葉の認知について等を質問項目として採用した。　事業所向けのアンケートについては、質問数は全15問用意し、温室効果ガスの排出を削減するための対策（緩和策）に取り組んでいるか、気候変動影響に対処し被害を軽減するための対策（適応策）に取り組んでいるか、また「気候変動への適応」という言葉の認知について等を質問項目に入れ、調査を行った。３　これまで得られた研究の成果　本研究においては、267の農家に向けてアンケート調査票を送付し、返送された数は121通、回収率は45.3％であった。また、事業所向けのアンケートについては、18業種×20の360社に向けアンケート調査票を送付し、返送された数は144通、回収率は40％であった。今回、二つのアンケート調査を行ったが、回収率はどちらも目標であった50％に満たないという結果になった。コロナ禍の中、ヒアリング調査を行うつもりで、アンケートを記名式にしたために、回収率が低くなったことが予想される。　農業従事者向けのアンケートで「近年、新たに生産に取り組むようになった作物、今後生産に取り組んでみたい作物」を尋ねたところ、どちらも回答率が低く、現状を維持したい農家が多数であり、温暖化に適応できる可能性をもつ作物を考慮するという状況は現在のところみられていない。種まき、収穫、いずれも時期が早まっていると感じている農家は半数以上であり、温暖化の影響を懸念していることもデータ上からは読み取れるが、実際にどのように対応していけばよいのか、判断はできていないようである。「近年、新たに生産に取り組むようになった作物、今後生産に取り組んでみたい作物」について、具体的な作物名を挙げた回答率は全体の－39－25％ほどであることからも、現状維持を重要と考えている。次に、「『気候変動への適応』という言葉の認知」について、「気候変動への影響に対処し、被害を軽減することをいう。」と提示したうえで認知について問いかけたところ、一番多く挙げられた回答が「知らなかった」で回答率は50％、二番目に多く挙げられた回答が「聞いたことはあるが、意味は知らなかった」であった。事業所向けのアンケートでも同様の質問をしたが、統計上では二つのアンケート結果に差異はみられなかった。事業所向けアンケートの質問項目「温室効果ガスの排出を削減するための対策（緩和策）に取り組んでいるか」について、「時点で取り組む予定はない」と回答した割合が最も大きく、二番目に多く挙げられたのが「既に取り組んでいる」であった。また、「気候変動影響に対処し、被害を軽減するための対策（適応策）に取り組んでいるか」についても、「時点で取り組む予定はない」と回答した割合が最も大きかった（表１）。表１　緩和策と適応策の取り組み状況の比較既に取り組んでいる 現在検討している 今後検討することとしている 時点で取り組む予定はない緩和策 31% ４% 11% 54%適応策 25% ５% ７% 63%　事業所向けのアンケートについて、緩和策と適応策について比較してみると、緩和策の方が「既に取り組んでいる」と回答した割合が大きいことから、緩和策の方が明確なイメージが付いているといえる。適応策に関しては、「異常気象による施設の損傷に対する保険の加入」や「気候変動についての学習会」などといった予測できなかった回答が多くみられた。このことから適応策の認知の低さ、また明確なイメージの不足、種類の多さを再認識することとなった。　次に、緩和策と適応策の取り組みについてクロス集計をかけたところ、緩和策に「既に取り組んでいる」と回答したものは、適応策についても「既に取り組んでいる」と回答した割合が最も大きかった。逆に、緩和策に「時点で取り組む予定はない」と回答したものは、適応策においても「時点で取り組む予定はない」と回答した割合が最も大きい結果となったが、「既に取り組んでいる」と回答した事業所が10％存在していた。　また、岩手県内の事業所は適応についての認知度が低く、適切な情報提供や対策に関する資金の支援などといった県に対する要望や意見が多数挙げられた。このことから、岩手県全体の様々な業種の適応に関する情報を収集、分析、発信をする必要性があると考え、情報を統括し、事業所が適応計画に取り組む際の技術的助言や援助をする役割として、地域気候変動適応センターの設置をすることは重要な施策であるといえる。４　今後の具体的な展開　コロナ禍のために、ヒアリング調査が難しく、今後の課題として、現場の声をさらに詳細に聞く必要があることがあげられる。　農業に続いて、水産業に対しアンケート調査を行い、海洋の環境変化などと適応策の可能性を分析するべきであると考える。　また、自然環境への温暖化の影響を、生態系の変化の現状でとらえ、さらに生態系の保全と「適応策」がどのような関係になるのか。さらに、災害に関しても、災害が甚大になっているのか、件数の増加がみられるのか、などを防災の観点から現状の把握をおこない、その対応に関して、「適応策」との関連という視点での各分野の専門家との情報交換が必要であると考える。５　論文・学会発表等の実績　なし（学部のワーキングペーパーとしてまとめることを予定している）。６　参考文献　IPCC「AR６ 特別報告書」　気象庁“気候変動に関する政府間パネルIPCC”　　　　　　　　　最終アクセス日：2023/１/25　IPCC第５次評価報告書 特設ページ“緩和・適応とは”　　　　　　　　　最終アクセス日：2023/１/25　IPCC「R５ 評価報告書」　今井葉子、田村誠、増冨祐司、馬場健司（2020）「農業従事者の気候変動に対する認知：適応策の実践意図に影響する要因の分析『土木学会論文集 G（環境）』第76巻５号 ppI-221-I-229　浜本光紹（2021）「自主的取り組みによる地球温暖化対策の効果」『環境共生研究』14号 pp１-８　環境省「気候変動適応計画」　環境省「気候変動適応法案の概要」

岩手県内における気候変動の影響とその適応策に関する調査研究

市川, 尚

イチカワ, ヒサシ

－14－R３地域協働研究（ステージⅡ）R03-Ⅱ-04「小中学校児童生徒のプログラミング的思考の育成へ向けた取組について」課題提案者研究代表者研究チーム員 滝沢市教育委員会 ソフトウェア情報学部　市川　 尚 堀川 三好・小嶋 和徳（ソフトウェア情報学部）、小原 聡直（滝沢市教育委員会）〈要旨〉　本研究では、滝沢市内の小中学校のプログラミング教育のモデルカリキュラム策定を目的として、特に小学校の４年生から６年生向けのモデルカリキュラムの策定と実践を行った。プログラミング教育の導入として楽しく取り組める授業を目指し、４年生と５年生向けの内容は、小型コンピュータを用いて、簡単なゲームや、センサーを用いたプログラミングを行う内容とした。６年生はドローンを実際に動かすプログラミングを行った。滝沢市内の全小学校の４・５・６年生に向けて授業を展開し、結果として一定の授業の効果を確認することができた。１　研究の概要　新学習指導要領では、情報教育の充実が図られており、プログラミング教育を含めた情報活用能力が学びの基盤となる資質・能力として明確に位置付けられた。特に小学校においては、プログラミング教育［１］は新たに導入されたものであり、現場ではその内容や進め方について、模索が続いている。課題提案者の滝沢市教育委員会も例外ではなく、滝沢市のプログラミング教育の方針を早急に策定し、実施と改善を進めていく必要がある。　本研究では、滝沢市内の小学校を中心に、プログラミング教育のモデルカリキュラムの策定に向けた授業の設計・実施と効果の検証を行なった。２　研究の内容　本研究は、地域協働研究ステージⅠ（研究番号R02Ⅰ04）［２］の継続研究である。2021年度から２年間で行われ、滝沢市内の小学校のプログラミング教育モデルカリキュラムを策定するために、授業実践を通して検討を進めた。プログラミング教育の導入として、プログラミングを楽しく体験し、情報の科学的な理解に触れるような内容とした。総合的な学習の時間か、教科に明確に位置付けない授業とし、このカリキュラム以外にも、各学校でプログラミング教育が推進されることを想定している。プログラミング教育の目的を踏まえ、次の２つを目標とした。（１）身近にあるコンピュータやそれを用いたサービスが、プログラムを用いて動いているという仕組みを理解する。（２）プログラミング的思考力（論理的思考力や試行錯誤できる能力）を育成する。　研究方法は以下の通りであった。（１）ステージⅠにおいて内容を確定して滝沢市内の全小学校４年生に実施した、小型コンピュータIchigoJamを用いたプログラミング授業を、継続して展開した。（２）ステージⅠで試行した５年生向けの授業を改善しながら、滝沢市内の全小学校に展開した。（３）６年生用の内容を新たに設計し、１年目は模擬授業をモデル校で実施した。その内容を踏まえて、２年目には滝沢市内の全小学校に展開した。　授業の実施は、大学教員が講師をするには限界があるため、確定したカリキュラムの内容について、地域のNPO法人（IRCプロジェクト）に徐々に実施を移行しながら進められた。３　これまで得られた研究の成果3.1　策定したモデルカリキュラム　策定したモデルカリキュラムを表１に示す。４年生から６年生まで、それぞれ授業２回分（90分）で構成される。表１　策定したモデルカリキュラム４年生（時数２）プログラミング教育の導入として、楽しさを重視し、児童がIchigoJamにキーボードとモニターを接続して、BASICによる簡単なプログラムの作成を行った。コマンドでLEDを光らせたりしながら、簡単なゲームのプログラム作成を通して、試行錯誤をしながら取り組む内容とした。児童にはコンピュータが身近な電子機器に入っていて、プログラムで制御していることを想像してもらうようにした。５年生（時数２）IoT（Internet of Things）を踏まえ、IchigoJamにセンサデバイス（距離センサー）を接続することで、身近にあるコンピュータがセンサーからの情報をもとに動くことの仕組みを、人が近づくと自動で電気がつくことを再現するプログラミングを行った。2022年度からは、ペアでIchigoJam２台を接続して簡単なネットワークのプログラミングを行う活動を追加し、２時間分の授業とした。６年生（時数２）ドローンの利用技術やドローンが社会にどのように役立っているのかについても触れながら、実際にドローンを動かすためのプログラムをグループで考える。児童はブロック型のプログラムを組んでドローンを飛ばし、想定した動きと違っていれば、試行錯誤をしながらプログラムを調整していく。また、ドローンに付属するカメラの画像認識を用いて、図形やQRコードを認識すると、動きを変えるプログラミングも行った。　授業で利用した機材を表２に示す。IchigoJamは、株式会社Jig.jpによる小型コンピュータであり、初心者向けのBASICというプログラミング言語を用いる。表２のIchigoJamの－15－セットとは、IchigoJam本体と、4.3インチLCDモニタ、キーボード、ケーブル等で構成される。ドローンは、プログラミング可能な屋内用のトイドローンである。ドローンの操縦やブロック型のプログラミングでドローンを動かす専用のアプリケーションがあり、タブレットにインストールして利用した。　４年生と５年生は理科室等の教室（１クラスごと）、６年生のドローンは体育館（２クラス同時）で実施した。いずれの授業も、PC上のスライドをプロジェクターで投影して進めた。授業で活用した機器や授業の様子を図１と図２に示す。表２　利用した機材４年生 小型パソコン（IchigoJam）セット５年生 小型パソコン（IchigoJam）セット、距離センサー（SHARP社GP２Y０A21YK）、IchigoJam同士をつなぐケーブル（ジャンパー線）６年生 ドローン（Shenzhen Ryze Technology社 Tello/Tello EDU）、タブレット（iPad）図１　IchigoJamと距離センサー（左）と授業の様子（右）図２　ドローンを用いた授業の様子3.2　評価　本実践の効果を検証するために、授業を実施した市内の全小学校９校の児童に対してアンケートを実施した。４・５年生の内容については、 2021度に実施した結果を、６年生については、2022年度に実施した結果を述べる。なお、2022年度に５年生の内容を一部変更したが、その点については分析できていない。また、各学年についてデータがすべて揃っておらず、４年生は７校（364名）、５年生は５校（360名）、６年生は７校（455名）のデータについて分析した。　児童へのアンケートは、５件法により実施し、選択肢は１:「まったくそう思わない」、３:「どちらとも言えない」、５:「とてもそう思う」とした。この数字を得点として、集計した結果を、表３と表４に示す。表３は３つの学年に共通に質問した内容である。一部の質問に無回答があったため、厳密には各質問で件数Nに若干のばらつきがあった。　表３の結果から、どの学年についても、授業は楽しかったと回答されており、児童は授業を肯定的に捉えていることが示唆された。また、授業が難しかったと回答した児童が一定数存在した。標準偏差の値が示すように、難しかったと捉えていたかどうかは、ばらつきが見られた。表４の結果からは、各学年の授業のねらいに対して、一定の理解がなされていたと考えられる。また、４年生の時点で試行錯誤をしながらプログラムを検討していることも示唆された。表３　アンケート結果（平均値と括弧内はSD）対象 授業は楽しかったか 授業は難しかったか４年生 4.90（0.38） 3.30（1.28）５年生 4.84（0.42） 3.11（1.28）６年生 4.72（0.65） 3.39（1.17）表４　各学年に固有のアンケート結果対象 質問内容 平均値（SD）４年生 身の回りにはコンピュータがあってプログラムで動いていることがわかったか4.79（0.51）プログラムを作ったら動かしてみて、エラーがでたら直しながら、進めることができたか4.62（0.67）５年生 センサーからの情報を利用してプログラムを動かせることがわかったか4.78（0.47）６年生 ドローンは社会の問題解決に役立つと思うか4.61（0.70）　この取り組みは、岩手日報（2021年８月28日、11月27日）、盛岡タイムス（2021年11月27日）で報道された。４　今後の具体的な展開　本研究終了後も、モデルカリキュラムの継続的な実施に向けて、大学と教育委員会、NPO法人で連携をしながら進めていく。今後の具体的な展開は、以下を予定している。・継続的な授業実施のために、NPO法人への移行が進められ、５年生までが完了した。６年生のドローン授業については、2023年度にNPO法人への引継ぎを進める。・小学校にはGIGAスクール構想により、配置された１人１台の環境を活用した実践が可能であるのかの検証を行い、可能な限り小学校の端末を利用することを検討していく。・本研究で用いている機器の故障等への対応について、検討していく必要がある。・本研究では、中学校のプログラミング教育の策定には至らなかった。何らかの問題解決を試行したプログラミングやAIに関連する内容など、今後検討していく必要がある。参考文献［１］ 文部科学省：小学校プログラミング教育の手引き（第三版）, 2020［２］ 市川尚ほか：小中学校児童生徒のプログラミング的思考の育成へ向けた取組について. 地域協働研究 研究成果報告集９（令和２年度ステージⅠ）, pp. 26-27, 2021

小中学校児童生徒のプログラミング的思考の育成へ向けた取組について

Tsuji, Morio

辻, 盛生

ツジ, モリオ

－26－R４地域協働研究（ステージⅠ）R04-Ⅰ-03「湧水・汽水の混在する湿地ビオトープの水域および植生管理計画策定」課題提案者研究代表者研究チーム員	 三陸自然学校大槌	 総合政策学部　辻	盛生	 島田	直明・臼澤	良一（三陸自然学校大槌）〈要旨〉　湧水群が存在する大槌駅南側には、津波後の復興計画において「郷土財活用湧水エリア」としてビオトープが創出された。しかし、敷地面積の半分以上を占める湿性園地において、湿地を維持する水分供給が不足し、降水量の少ない時期には乾燥が進む状況にある。ここでは、豊富に存在する湧水を活用し、サイホンによって導水することで湿地環境創出を試行すると共に、十分な水が確保できない湿性園地については、「郷土の森」として地域に自生する樹種を選定し、郷土財にふさわしいビオトープ創出のための構想を検討した。１　研究の概要（背景・目的等）　大震災から10年が経過し、ハード整備は一段落しつつある。新たに作り出された景観と、以前から残る景観をいかにつなぐか、そしてその意味や目的をどのように位置づけるか、その中で人の生活しやすい環境をいかに整えるかなど、今後はソフト面での環境整備が果たす役割が大きくなる。大槌町では、震災の津波を受け、陸封型のイトヨと遡河回遊型のイトヨの交雑や、土中に眠っていたミズアオイ休眠種子の発芽、開花など、自然環境の中でトピックとなるような変化が生じた。これらは学術的に貴重な知見であり、今後の震災復興に活かしていける郷土財である。これら郷土財を活かすべく2021年整備されたのが郷土財活用湧水エリア（図１）のビオトープである。淡水池においてはイトヨの保全（写真１）が進められている。また、湿性園地３、５についてはミズアオイの保全地として水域が創出され、ミズアオイは順調に生育している（写真２）。しかし、それ以外の湿性園地は、水分供給が不安定であり、湿地環境が維持されていない課題がある（写真３）。ここでは、水分供給に課題が残された湿性園地への水分供給を試みると共に、草本中心の湿性園地に木本植生の導入するための植栽計画を検討した。図１　大船渡町郷土財活用湧水エリア番号が振られた箇所が「湿性園地」。湿性園地３の脇にある湧水から導水を実施（赤矢印）。写真１　イトヨを保全する淡水池写真２　湿性園地３におけるミズアオイ観察会（2022年８月）写真３　乾燥が進む湿性園地（湿性園地4,2021年９月）　大槌－27－２　研究の内容と成果１）導水による湿地環境の創出　2022年５月22日に、湿性園地３脇の湧水から湿性園地１への導水（導水A）を実施した。25mmのポリエチレンパイプを用い、サイホンで道路を越して湿性園地１に導水した。湧水は、潮汐によって湧出量が変わることから、流量の少ない干潮時流出量を超えない流量にバルブで調整した。また、ミズアオイを保全する湿性園地３に必要な水量を確保できるよう、満潮時に越流する構造とした（写真４）。　導水Aの実施により、湿性園地１の一部に浅水域が創出され、前年に播種した湿生植物であるミソハギの開花が確認された（写真５）。しかし、湿性園地１および２の範囲は、三陸鉄道に隣接しており、導水による影響が懸念されたことから、湿性園地１、２への導水を取りやめ、2022年11月13日に湿性園地４への導水（導水B）に切り替えた。導水延長が長いことから、導水量を確保する目的で導水Aより５mm太い30mmのポリエチレンパイプを用い、導水Aと同様にバルブで流量を調整した。浅水域の広がりが確認されたことから（写真６）、湿性園地１と同様に、ミソハギ等の播種を行う等、今後の湿地景観の創出に期待したい。写真４　湧水導水部の状況（2022年５月）写真５　湿性園地１におけるミソハギの開花状況（2022年８月）写真６　湿性園地４への導水状況（2023年３月）２）木本の植栽による「郷土の森」創出の構想　本研究の取り組みの中で、湿性園地の湿地環境の創出を試みた。しかし、湿地環境の創出が困難な場所は依然残り、また、現在の植生は草本が中心で木本が見られない。湿地環境の創出が難しい場所を中心に、現地周辺に自生する岩手県産の苗を植栽し、「郷土の森」とする構想を検討した。地元大槌高校との協働で、地域に自生する樹種を種子から育てる試みも検討中であるが、時間のかかる作業である。この構想は、エリアの一部に目標景観を先取りする意味で、苗木の植栽を実施する。樹林は鳥や昆虫等に対し、重要な生息環境を創出するだけでなく、水域に緑陰を作り、水中の環境条件を調整する。また、訪れる人にも木陰を提供し、景観を整える効果も期待できる。　実現するために、イオン環境財団による「第32回イオン環境活動助成」に2022年８月に応募し、2023年３月に採択された。植栽位置の現地での確認作業等を進め、実施に向けて検討中である。また、日本ビオトープ協会からは、ミズアオイ保全の取り組みが「環境活動推進賞」に選定された。これらを励みに、大槌の方々との協力関係を築きつつ、今後の活動の広がりを期待したい。謝辞　大槌町教育委員会生涯学習課の皆様には、現地での共同作業をはじめ、格段のご配慮をいただきました。地元大槌高校の皆様をはじめ、現地で共同作業を実施していただいた皆様に、記して感謝申し上げます。

湧水・汽水の混在する湿地ビオトープの水域および植生管理計画策定

富澤, 浩樹

トミザワ, ヒロキ

－68－R４地域協働研究（ステージⅠ）R04-Ⅰ-25「紙ベースの従来型広報からデジタル化を含めた次世代の行政広報のあり方の検討」課題提案者研究代表者研究チーム員 矢巾町 ソフトウェア情報学部　富澤 浩樹 役重 眞喜子（総合政策学部）、藤原 一仁（矢巾町企画財政課）〈要旨〉　近年、SDGsの観点からペーパーレス化が推進されている。紙の利用を減らして電子化にシフトしようとするもので、国を挙げての取組ともなっている。岩手県矢巾町においては、広報誌「広報やはば」の将来的な電子化に向けての取組が必要であることが認識されている。しかし、配布しても見られない、最後はごみとして捨てられることによる環境負荷が大きいこと、配布に携わる人員の負担が大きいこと、SNS等のインターネットによる自治体広報がその代わりになりえていないことが課題である。これらの課題の解決を図ることで無駄な紙類の排出量を減らすことができるだけでなく、自治体広報DXにも寄与できると考えられるが、そのためには住民を巻き込んだ合意形成が必要である。そこで本研究では行政広報のあり方について検討するために、広報やはばを取り巻く現状の把握、事例調査、住民の意見収集を行った。１　研究の概要（背景・目的等）　総務省は「自治体デジタル・トランスフォーメーション（DX）推進計画（令和２年12月25日）」において、自治体は「自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、デジタル技術やAI等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていくことが求められる」として、その先に「行政の効率化・高度化」や「新たな価値の創出」が期待できるとしている。一般にDXは、既存業務の置き換えによる従来のICT化とは異なり、デジタル技術を浸透させることによって人々の生活をより良いものへ変革するということであり、既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションをもたらすものとして捉えられている。そのため、矢巾町においても、自治体における広報の意味そのものを問い直し、そのプロセス自体を再構築していく、一朝一夕にはいかない取り組みになることが容易に想像できる。　以上の背景のもと、岩手県矢巾町（人口：28,056人、世帯数：10,986世帯、令和２年国勢調査）では矢巾町地球温暖化対策実行計画［１］を策定し、「町民への配布物は、できるだけ広報誌掲載、班回覧にするなど、紙の使用量を控えるよう努めます」と記載し、SDGsの観点からリサイクル・省資源の推進による紙使用量の削減に取り組むとしている。一方、自治体広報の要として配布される自治体広報誌は、全国的にPDF等による電子化やSNSとの連携が進む一方で、あくまでも紙媒体を主として併用されている場合が多い。町内の全世帯（住民票の有無に関わらず）や町内企業に月１回の頻度で配達されている矢巾町の広報誌である「広報やはば」もSNSとの連携により運用されているが、１）配布しても見られない、２）最後はゴミとして捨てられる、３）配布に関わる負担が大きい、といった課題が行政によって認識されている。２　研究の内容（方法・経過等）　以上の背景を踏まえて、本研究では広報やはばの部数・ページ数削減を目標として定めた上で、次の３つの研究課題に取り組む。（１）広報やはばを取り巻く現状の把握　情報システムの設計手法等を用いて、現在の状態をモデル化（見える化）する。そのための情報収集や検討は、矢巾町担当者と協力して行う。（２）事例調査　自治体広報をめぐる先行研究、先行文献について調査する。（３）住民に対する意見収集　既存広報媒体について、アンケートを用いて住民の意見を収集する。それらを踏まえて、矢巾町における広報のあり方について検討する。３　これまで得られた研究の成果3.1　広報やはばを取り巻く現状の把握　本研究では、関係者間で世界観を形成しプロジェクトの進むべき方向や方針を探ることのできるSSM（Soft Systems Methodology）のフレームワークを採用した［２］。矢巾町の広報DXにおいては、課題の把握はされていたものの、課題解決に向けての目標や実現の方向性が明らかでないためである。　SSMは次の７つのステージによって進められる。すなわち、１）問題の発見、２）問題状況の表現、３）基本定義の成文化、４）概念活動モデルの構築、５）モデルと知覚された現実世界との比較、６）ディベート、変革の定義、７）行為（試作システムの開発）である。　本研究では、上記ステージを念頭にステージ３まで進捗させ、研究チームで各種ドキュメントを作成・共有し、基本定義の成文化を図った。具体的には、ステージ１で作成されたリッチピクチャ（図１）より、自治体広報誌の他に、関連諸団体（県、社会福祉協議会、町議会等）が相乗りして自治会に配布依頼されていること、地域の回覧板、ご近所の見守り機能も兼ねていることが図示された。この状況を踏まえてステージ２として、関連システム（図２）が図示された。これらは行政職員によって洗い出された自治体広報誌のXYZ分析（ZのためYによってXするシステム）によって表現された関連システムを仮分類したものである。－69－一般的にSSMのステージ３では、関連システムの中の１つを基本定義として定め、次のステップに進むことになる。しかし、研究チームで検討した結果、システムの基本定義を１つに絞ることが難しいことが明らかになった。すなわち、自治体広報誌の役割が多岐に及んでいることを示しており、１つのシステムでは賄えないということである。ここで、仮分類で共通しているキーワードに着目すると「コミュニケーション」が該当する。なるべく多くの関連システムを内包する基本定義を検討すると、自治体広報DXは、「自治体広報誌の部数・頁数の削減（環境負荷低減）のため、住民と行政とのコミュニケーションシステムによって、住民参加の地域づくりを行うためのもの」と仮置できる。図１　リッチピクチャ図２　関連システム3.2　事例調査　自治体広報誌について、デジタル化の特性を活かしたコミュニケーションシステムとしての運用事例は、CiNii、インターネット検索等の調査から確認できなかった。　オープンデータを活用した事例としては「マイ広報誌（https://mykoho.jp/）」がある。全国約1,000の広報誌のオープンデータを集約して、自治体横断的に参照したり、記事の内容をSNSで共有したりすることができる。しかし、自治体広報誌のテキストデータのみを用いているため、誌面のレイアウトや掲載されている写真等を確認するには、自治体のホームページを閲覧する必要がある。長塚［３］は、自治体広報誌のデジタル化・オープン化の進展により、１）過去の地域での取組に容易に接することができるようになる、２）他の自治体との比較もたやすくなる、といった効果により、地方自治への住民参加がより促進されるのではないかと述べているが、デジタル版は自治体ホームページでの公開がほとんどと指摘する。3.3　住民に対する意見収集　以上を踏まえて、住民の意見収集を実施した。実施の方法は、Googleフォームを用いたWebアンケートとし、インセンティブとして図書カードを抽選50名に進呈することとした。周知の方法は、広報やはば（2023年１月号）にWebアンケート用ちらしを差し込んだ。質問項目は研究チームで精査した上で、基本属性（性別、職業、郵便番号）の他に13の質問で構成することとした（図３）。回答期限を2023年１月末として、18歳以上を対象に呼びかけたところ、117件の回答を得た。基本属性は、図４の通りであった。　本研究では、結果の一部について検討した。まず、地域情報へのアクセス頻度（図３右・１）について、「よく見聞きしている・まあ見聞きしている」は82件（70.1％）、「あまり見聞きしていない・まったく見聞きしていない」は35件（29.9％）であった。地域情報の入手先（図３右・２）について、「広報やはば」は110件（94％）を占めており、次いで「回覧板」41件（35％）、「自治体ホームページ」37件（31.6％）、「友人からのくちコミ」34件（29.1％）であった。一方、矢巾町が運用しているSNSアカウントについては、LINEは28件（23.9％）、Facebookは３件（2.6％）、twitterは４件（3.4％）、Instagramは10件（8.5％）、YouTubeは５件（4.3％）であった。回答者の属性を考慮したとしても、現状「広報やはば」の役割が大きく、自治体広報DXにより地域情報の主要入手経路を変更する際には、住民の協働意識を醸成しながら慎重に進めていく必要があることが示唆された。図３　Webアンケート用ちらし（左）と主な質問項目（右）図４　Webアンケート回答者の基本属性（n=117）４　今後の具体的な展開　将来的な目標として掲げる配布物のペーパーレスの実現を目指して、今後はWebアンケートの結果を精査するとともに住民と共有し、自治体広報DXの段階的な実現方法の考案に結びつけていく。５　その他5.1　参考文献［１］矢巾町：矢巾町地球温暖化対策実行計画【事務事業編】,https://www.town.yahaba.iwate.jp/docs/2020042200020/（参照日：2023/６/１）［２］Peter Checkland, Jim Scholes（著）, 妹尾堅一郎（訳）：ソフト・システムズ方法論, 有斐閣（1994）.［３］長塚隆：地域資料としての自治体広報誌のデジタル化・オープン化に関するアンケート調査から, 情報知識学会誌, pp.189-196（2022）.

紙ベースの従来型広報からデジタル化を含めた次世代の行政広報のあり方の検討

大志田, 憲

オオシダ, ケン

－70－R４地域協働研究（ステージⅠ）R04-Ⅰ-26「宮古市の地域色を活用したシティプロモーションの手法に係る研究」課題提案者研究代表者研究チーム員 宮古市 宮古短期大学部　教授　大志田 憲 中居 裕美（宮古市企画部企画課地域創生交流推進室長） 河野 暁子（宮古短期大学部准教授）、松田 淳（宮古短期大学部教授）〈要旨〉　岩手県宮古市では若年層の流出による人口減少が大きな課題となっており、当市出身の若年層（20～30代）に向けてシティプロモーションを行い、地元の魅力と快適な居住環境を再確認してもらうきっかけをつくることが、Uターン者の増加に繋がる可能性のひとつとして考えている。シティプロモーションの取り組みのひとつとして、一般社団法人日本地域色協会と連携し「海」の地域資源である「浄土ヶ浜」の地域色（カラー）を「浄土ヶ浜エターナルグリーン」として決定し、その活用を検討している。そこで、主となるターゲットが若い世代でもあることから、本学の学生参加による地域色に関するアンケートを実施し、その調査分析、地域色を活用した取り組みなどの意見交換を行った。１　研究の概要（背景・目的等）　岩手県宮古市では、高校卒業からの進学、就職のタイミングで転出し、その多くが宮古市に戻らずに社会減が続いていることが課題となっている。宮古市への居住、さらには当市出身の若年層（20～30代）に向けてシティプロモーションを行い、地元の魅力と快適な居住環境を再確認してもらうきっかけをつくることで、Uターン者の増加に繋がる可能性があると考えている。シティプロモーションの取り組みのひとつとして、一般社団法人日本地域色協会（以下地域色協会）と連携し「海」の地域資源である「浄土ヶ浜」の地域色（カラー）を「浄土ヶ浜エターナルグリーン」として決定した。地域色の決定にあたっては、市民を巻き込んだプロモーションの取り組みとして、市民投票など市民参画の形で行われた１。この地域色のアンケートを実施し、学生参加による調査および意見交換を行い今後の取り組みに結び付ける。（a）浄土ヶ浜エターナルグリーン （b）市民投票用チラシ図１　宮古市「浄土ヶ浜エターナルグリーン」２　研究の内容（方法・経過等）　以下の内容で宮古市と共に、地域色協会の協力のもと、学生が参画する形で協働研究を進めた。・学生を対象とした地域色に対するアンケートおよび分析　浄土ヶ浜エターナルグリーンと比較検討のため、地域色協会が他の県内地域と連携して進めている他の４色も含め、形容詞対による尺度評価アンケートを実施した。　調査対象者：本学部学生１年生および２年生　日時：2022年６月16～23日　回答方法：Webアンケート方式　回答内容：各地域色について、形容詞対の尺度評価入力　比較地域色については、「浄土ヶ浜エターナルグリーン」「陸前高田ゆめブロッサム」「龍泉洞ドラゴンブルー」「久慈アンバーイエロー」「南部紫」とした。　回答者数：127名図２　形容詞対・市内イベントにおける聞き取りアンケート調査　 市内イベントにおける聞き取りアンケート調査（地域色協会への協力）　調査対象者：「しおかぜフェスタ」来場者　日時：2022年７月17日　回答方法：対面式アンケート方式　回答内容：浄土ヶ浜エターナルグリーンに対する認知度調査　回答者数154名・学生参加による地域色「浄土ヶ浜エターナルグリーン」を　活用した企業および宮古市へのヒアリング図３　市内イベントでのアンケート調査図４　市役所へのヒアリング－71－・学生による地域色活用方法のグループワーク　地域企業や宮古市へのヒアリング、アンケート集計結果などをもとに学生による活用方法等の意見交換を実施した。図５　学生によるグループワーク３　これまで得られた研究の成果　得られた成果の中から、以下に地域色に関するアンケート結果についてまとめたものを述べる。はじめにプロフィール分析を行った（図６参照）。「浄土ヶ浜エターナルグリーン」の特徴として、「静かな」「穏やかな」といった数値が高く出ていることがわかる。次に、株式会社日本カラーデザイン研究所２によるカラーイメージスケールシステムにおける言語イメージスケールにマッピングを行った（図７参照）。ナチュラル、クリア、シック、エレガントを中心とした印象が多く得られていることがアンケート結果からわかる。アンケート結果から、もともと持っている色のイメージを具体的に可視化することができた。　また、５色のアンケートの形容詞対19項目について因子分析を行い、表１に示す様に、意味づけ（解釈）を行った。因子１は「柔らかく、暖かい」といった印象を強くもつものと解釈し、因子１は〈癒し性〉とし、因子２は動的な形容詞が集まることから〈活動性〉、因子３は〈清爽性〉とし、因子４を〈洗練性〉とした。次に各地域色ごとに検討を行うために因子得点についてまとめたものが表２となる。この表は各地域色ごとの因子得点について平均値を算出したものである。外観すると、「浄土ヶ浜エターナルグリーン」については、因子３のさわやかなといった因子得点が高く、積極的な、ダイナミックなといった因子２の得点が低いことがわかる。表１　形容詞と因子の意味づけ（解釈）表２　因子得点の平均値一覧４　今後の具体的な展開　本協働研究において、学生参加による地域色の意識調査および分析を行った。また、イベントでの聞き取りアンケートや、市、企業へのヒアリング、意見交換を実施した。選定された地域色は住民参加による幅広い世代により決定されたものではあるが、若い世代（学生）にどのようなイメージを及ぼすか、宮古市との協働研究の第一段階としてアンケート調査を実施することで可視化することができた。「浄土ヶ浜エターナルグリーン」を含めた地域色５色についてのみの調査ではあるが、それぞれ印象が大きく異なり、どのような因子が色の印象に影響を及ぼすかを数値化することができた。今後はこれらのアンケート結果を参考にしつつ、学生参加による市との連携研究を進めていきたい。今年度は、このアンケート調査以外にも連携研究の一環として研究の内容にも記載している新遊覧船就航式と併せて開催された宮古市のイベント「しおかぜフェスタ」での浄土ヶ浜エターナルグリーンの認知度調査や、市内企業へのヒアリングなども行っていることから、これらのまとめも進めて行く。５　その他（参考文献・謝辞等）【参考文献】岩手日報：景勝発信この色で（2021年12月１日）.株式会社日本カラーデザイン研究所,http://www.ncd-ri.co.jp/,（2022年10月30日最終閲覧）【謝辞】　本研究を進めるにあたり、多大なるご協力を頂きました一般社団法人日本地域色協会代表理事竹村育貴氏、理事杉立修氏に感謝申し上げます。図６　尺度プロフィール図７　言語イメージスケールへのプロット

宮古市の地域色を活用したシティプロモーションの手法に係る研究

倉原, 宗孝

クラハラ, ムネタカ

－40－R４地域協働研究（ステージⅠ）R04-Ⅰ-11「「婚活」から拓く「混活」まちづくりの実践調査と分析 －多様性を触発する中で山田町から仕事・移住・結婚施策の事業創出に向かう－」課題提案者研究代表者研究チーム員 山田町（山田町若手職員施策等研究会） 総合政策学部　倉原 宗孝 大川 修一（政策企画課）、花﨑 和博（同）、芳賀 大輔（同）、他11名〈要旨〉　山田町では新たな総合計画策定を前にして役場若手有志が中心になり町の今後の施策を学習・議論してきた。結果、取り組みの柱に「仕事づくり」「移住促進」「婚姻率の向上」の３テーマが抽出され、その具体的方法の一つに「婚活」があげられた。ただし単なる婚活ではなく、真の山田町まちづくりの今後の持続展開に向けては、東日本大震災後の復興で形成された様々な交流を活かし育むことが大事だとの認識のもと、本研究においては「混活」（地域内外の多様な人々が混じり合う仕組みとその効果促進）の概念提起のもと幾つかの視点から活動を行った。今年度研究においては高校生に焦点を当てた自主的な地域・政策活動、また町を舞台とテーマにした大学生と行政職員による交流・触発の場を試みた。なお、当初計画においては地域内外・男女・各世代の交流実践のもとその効果・検証を計画していたが、コロナ禍にあり交流の場は限定的になった。しかし今回の経験・成果をもとに更なる持続発展的な活動を狙っている。１　研究の概要（背景・目的等）　全国同様に山田町においても少子高齢化・人口減少の流れのなか危機感は強く、特に東日本大震災以降、その打開策を模索し続けている。岩手県沿岸の一自治体である山田町は地理的・歴史的にも独自の発展を遂げ現在にあるが、ある意味で旧態的な体質にあり、地縁関係は強く、他者に対して閉鎖的な気質は否めない。一方で、東日本大震災以降、町外からの様々な支援を受け（このことは深く感謝したい）、同時にそのなかで様々な人々の往来や交流も生まれている。　そのなか町では地方創生戦略のもと、まち・ひと・しごとづくりの施策・計画と実現に取組んでいるが、町内選抜有志による学習会のもと「仕事・移住・結婚」を重要な施策テーマとして掲げられた。そのなかで、特に町民・関係者にも分かりやすく、また（選抜メンバーは若い世代が多かったせいか）夢が広がる結婚への思いは強く「婚活」のテーマが揚がった。一方で安易な婚活とは別に東日本大震災以降にみる地域内外の多様な人々が混じり合い様々な個々の思いや力を編み合うような活動が必要・重要、すなわち「混活」のテーマとイメージが生成された。本研究においては、「婚活」（という全国で行われ分かりやすい取り組み）を動機にしながら「混活」という閉鎖性を打ち破る多様性・開放性のテーマと働きかけを行いながら、これからの山田町のまちづくりに向う方針と方法として実践することが本研究の狙いとなる。２　研究の内容（方法・経過等）　本研究の着想動機でもあり、これまでの町内の現状・課題を整理・分析した庁内若手有志による研究会の成果（図１）を今回の活動指標とした。指標「仕事の創出」「移住の促進」「婚姻率の増加」の３テーマが整理され、取り組むべき重要な「調査項目」と「実施方法」を一定程度整理されており、その各内容については庁内担当部署・研究員がそれぞれ現在も取り組んでいるが、今回はその中から「高校生・大学生の就業・進学」（仕事の創出）、「町の魅力確認」「みんなの生活ケース」（移住の促進）、「出会いの場の調査」（婚姻率の増加）といった内容（図１中の赤枠）に近い情報収集・分析・成果を目的に、地元山田高校生との取り組み、県立大学生による地域体験調査、大学生と庁内職員とのワークショップなどを行った。なお、先のように当初予定していた地域内外・老若といった多様な交流・活動（混活）は今年度は見送ったが、図中の調査課題の進行と並行しながら今後取り組んでいきたい。その持続展開のための動機・基盤が今回の研究活動において整ってきたと考える。３　山田高校生の思い・アイディアの採集・顕在・具体化　「混活」の重要主体である山田高校生の思いや考えを座談会方式ですくい上げた。創立100周年を迎える伝統ある山田高校だが、進学・就学など現実の課題のもと高校生も様々な思いがあることが分かった。幾つかの項目で記す。図１　町内研究会で整理した仕事・移住・婚姻のテーマと段階的な調査プログラム－41－〈山田高校への入学理由から〉単純に「家が近いから」という理由があるが、通学など交通費に対する経済性、自身の自由な時間を確保しやすいなど冷静な目もある。また「ボート部」の存在は大きいようで今後町の政策としても検討すべき課題と思われる。兄弟・知人からの影響もあり高校の魅力を如何に発信していくか今後問われる。〈山田高校の魅力〉「海の運動会」を評価する声がある。海岸を持つ本町ならではの魅力でもある。内陸の高校との交流も評価されており今後期待される。〈今後の課題〉上記の様に評価される点はあるものの、一方で課題として高校の魅力不足、情報不足などの指摘も上がっている。山田中学は洋式トイレだが、高校は和式の状態にある不満の指摘もある。若い世代の指摘だが多くが納得する。一定の入学者数を確保し続ける上で、施設整備や情報発信は政策的な課題ともなりそうだ。　様々な思いや考えを持ちながらも山田高校への愛着は強い。100周年の伝統のもと仮に地元を離れる人がいても応援してもらえるような親しみやすい高校が期待されている。　また山田高校生と町教育委員会の協働により津波碑の碑文説明パネルが今年度設置された。現地に足を運び津波碑の状態を確認したり碑文解読する等の調査のもとに出来上がった。山田町の魅力や災害も含めて様々な歴史を高校生（若い世代）が調査活動しながら現代・未来に成果を残すこうした活動も今後の一つの有効なまちづくり手法となる。役場職員と協力し具体政策課題・現場にも関わっていく山田高校生。４　大学生による町の魅力体験・評価　町外若者（大学生）の目からみた町の資源評価、同時に混活の一コマとして町役場職員と大学生との交流を行った。双方にとって触発される点が大きかったようだ。　まず大学を会場にして役場職員と大学生との交流のもと町に対する印象、体験してみたい事、知りたいことを出し合った。そのもと山田町を大学生が訪問し各種体験を行った。オランダ島（マリンスポーツ、釣り）、海岸観光スポット、神社、料理など町の各資源と共に、大学生にとっては東日本大震災後の復興整備の様子も印象に残ったようだ。　事前に学生要望を収集し町から体験素材が提案された。山田町には海と山の素材があるが、夏季だったこともあり結果、海を主とした体験が多くなった。オランダ島マリンスポーツは最も好評だった一つだ。当初海を敬遠していた女子学生も次々に楽しんでいた。その後のバナナボート体験は大絶賛だった。せっかくあるこうした魅力を如何に対外的にアピールするかが提示された。その地域に人と触れ合いながら食する食べ物も印象が深い。よくある蒸かした芋だが出会ったおばさんが「山田風だよ」と提供してくれた芋を美味しく頂いた。こうした食と人の交流する体験、観光も有効だろう。釣りを楽しむ学生もいた。普段の趣味の延長のようだが、あえて住まいを離れた別の場所で、観光体験と同時に自身を見つめるといった「内的観光体験」の示唆も有ろう。彼女は一匹も釣れなかったようだが、それでも意義は大きい。海だけでなく、古い神社仏閣など学生（若者）にとっても興味深いようだ。今回夏季だったが冬季の体験を期待する声が多かった。５　学生・町職員とのワークショップ　各交流・体験のもと学生と役場職員によるこれからの町の政策・事業提案と共にその優先順位などが検討された。短期間だったが有効な提案が生まれたと思う。その実現に向けて今後も町内外の持続的な研究活動が期待される。若本（大学生）・町外の視点は町職員にとっても思考を触発するものだった。同時に学生においても多面的学びのある良い関係である。６　おわりに　お世話になった町内多くの皆様に感謝したい。短い活動だったが交流そのものが有効な成果となった。今回取り組めなかった他の要素との混活を今後仕掛けていきたい。町職員による大学訪問と学生との交流（写真左）、大学生による山田町訪問と交流（同右）。場所を替えた互いに現地交流も効果的だった。

「婚活」から拓く「混活」まちづくりの実践調査と分析 －多様性を触発する中で山田町から仕事・移住・結婚施策の事業創出に向かう－

Yamaoka, Yumi

山岡, 由美

ヤマオカ, ユミ

－44－R４地域協働研究（ステージⅠ）R04-Ⅰ-13「水福連携の沿岸全域への普及と可能性拡大に向けた研究」課題提案者研究代表者研究協力者 岩手県復興防災部復興くらし再建課 社会福祉学部　山岡 由美 合同会社地域計画　代表　熊谷 智義 岩手県社会福祉協議会　福祉経営支援部　副部長　田澤 晶子 岩手県保健福祉部障がい保健福祉課　主事　阿部 ななは〈要旨〉　本研究は、水福連携の岩手県沿岸全域への普及に向けては、水産加工事業者及び障がい福祉サービス事業所の双方において、連携の意義、メリット、進め方への理解が十分に進んでいないことから、既に水福連携により成功している事例の分析や、障がい者に適している業務・作業の掘り起こし等を行い、体系化を試みた。具体的には、障がい者に適している業務・作業の掘り起しについては、岩手県内の水産加工事業者（208者）と障がい福祉サービス事業所（89者）へのアンケート調査を実施し、障がい者の雇用や業務委託の実績がある事業者及び今後の連携に興味を持っている事業者に対してヒアリングや作業見学を行い、業務・作業や課題等の洗い出しを行った。１　研究の概要（背景・目的等）　岩手県の沿岸地域では水産加工業が基幹産業の一つとなっているが、平成23年３月11日に発生した東日本大震災津波（以外「震災」と言う。）により、沿岸の産地13魚市場全てが甚大な被害を受けるとともに、水産加工事業者の約９割が被災した。　その後、復旧に向けた取組により、全ての市場が営業を再開するとともに、加工事業者においても、施設・設備の復旧を支援する各種補助金や税制優遇制度を活用してハード面での復旧を図り、約９割の事業者が事業を再開するなど、産地における水産物の受入態勢はほぼ復旧している。　その一方で、加工業務に従事する労働力については、労働力不足が売上の回復・拡大における大きな課題となっている。　他方で、福祉分野においては、障がい者の低工賃が課題となっており、障がい福祉サービス事業所においては、事業所内での仕事の確保と施設外就労等の就労先の拡大、そして工賃の向上に取り組んでいるところである。　このような状況において、慢性的な人材不足にある水産加工業の業務・作業と、就労機会が少ない障がい福祉サービス事業所利用者とを結びつけ、生産力の向上と障がい者の賃金向上や社会参画を図る「水福連携」の取組は、双方のニーズの充足及び課題解決につながるものと考えられる。　岩手県では、このような認識のもと、令和元年度から水福連携の普及に取り組んでおり、令和３年度までに８件の連携をマッチングし、そこで得られた知見や事例などを掲載した、「水福連携マッチングマニュアル」を発行した。　水福連携の岩手県沿岸全域への普及に向けては、水産加工事業者及び障がい福祉サービス事業所の双方において、連携の意義、メリット、進め方への理解が十分に進んでいないことが課題となっている。２　研究の内容（方法・経過等）　本研究では、既に水福連携により成功している事例の分析や、障がい者に適している業務・作業の一層の掘り起こし等を行い、体系化を図った。　成功事例の分析については、令和元年度から令和３年度にマッチングした８件のうち、連携が継続されている事例について、ヒアリングや作業見学を行い、連携に至るまでのプロセスや課題などの背景を探り、また、障がい者に適している業務・作業の掘り起しについては、岩手県内の水産加工事業者（208者）と障がい福祉サービス事業所（89者）へのアンケート調査を実施し、障がい者の雇用や業務委託の実績がある事業者及び今後の連携に興味を持っている事業者に対してヒアリングや作業見学を行い、業務・作業や課題等の洗い出しを行った。　そのうえで、水福連携が実現・継続するための条件を整理するとともに、障がいの種類・程度に応じて、適している業務・作業の体系化を試みた。３　これまで得られた研究の成果（１）調査結果の概要　①アンケート調査　アンケート調査は、岩手県では初めてとなる実態調査として実施したものである。結果として、アンケート調査の総回収率は42.2％と半数を下回っているが、自由記述では多くの記載が寄せられ、またヒアリング調査においても貴重な情報を得ることが出来た。以下、調査の概要である。【水産加工業者調査】地球環境の変化による影響と人材不足・従業員の高齢化　現在の課題と事業を続ける上での不安に関しては、原材料・資材・仕入れ等価格の高騰が（76.1％）と最も多く、続いて、従業員確保・育成（49.3％）、販路（顧客）の確保・開拓（45.1％）、資金繰り（40.8％）の順となっていた。自由記述では、水産資源の減少、水揚げされる魚種の変化、海水温度の上昇など、環境の変化により、今後の見通しが立ちに－45－くいこと、また従業員等の高齢化に伴う体調不安による仕事への影響等が挙げられていた。障がい者雇用のイメージと情報不足　現状としては、「過去も現在も雇用していない（47.9％）」が最も多かったが、「以前雇用していた」、「雇用しており現在も続いている」を合わせると41.1％であり、障がい者雇用の経験がある事業所も相当数みられた。　これまで障がい者雇用を行っていない理由としては、「人手に困っていない」とする回答以外でみると、障がい者との接し方やどのような仕事が任せられるかわからない、障がい福祉サービス事業所とのつながりや情報がない、興味はあるがどこに相談窓口があるか分からないといった回答も多かった。【障がい福祉サービス事業所調査】取り組まれている作業や事業の特徴と賃金・工賃向上に向けた取組　現在、取り組まれている作業や事業は多岐に渡っている。「その他の回答（50％）」の主なものとしては、部品・機械組み立てが36.0％、農作業、菓子製造、清掃・施設管理が32.0％、リサイクル事業が28.0％、飲食店・喫茶店の運営が26.0％、パン製造、印刷、郵便物封入・仕分・発送がそれぞれ20.0％であった。これは、利用者の障がいの種類・程度や個々の特性が多様であり、利用者それぞれに適した作業を考えて取り入れられていることが推測される。施設外就労の取組の状況と課題について　施設外就労に関しては、「以前取り組んでいたが今は取り組んでいない」と「現在取り組んでいる」を合わせると70％の事業所が取り組んだ経験があると回答しており、その内容は多岐に渡る。施設外就労に取組上での課題（取り組んだ経験のある事業所）では、「作業場までの移動時間・送迎人員の確保」が60.0％であり、ついで「施設外就労に対する加算がなくなった」が42.9％であり、この２つが大きな負担となっている。水福連携の認知度と取組状況　水福連携については、現在取り組んでいるか否かに関わらず、85.4％が知っているとの回答であり、認知度の高さが示されたが、「情報不足・相談窓口が不明」を要因として、取組のイメージがわからないという状況が示され、水産加工業者と障がい者福祉サービス事業所とのマッチングを進めるための仕組みづくりが求められていると推測される。　②ヒアリング調査　水産加工業者７か所と障がい福祉サービス事業所４か所を対象にヒアリング調査を実施し、障がい者雇用や障がい福祉サービス事業所とのマッチングに成功した事例について、それぞれの概要を把握し、成功要因の分析を行った。水産加工業者と障がい福祉サービス事業所をつなぐ支援機関の役割　水福連携の取組に至った経緯として、水産加工業者での人材の不足が挙げられた。また、のマッチングに成功した要因の一つとして、支援者や支援機関の橋渡しが挙げられ、水産加工業者と障がい福祉サービス事業所をつなぐ支援機関の役割の重要性が示された。　また、施設外就労での働きぶりを評価され正社員として雇用につながったケースもあり、作業受託だけでなく雇用につなぐといった視点も重要であることが示された。障がい者に適した作業の体系化　ヒアリングと作業見学にて、業務・作業を洗い出し、障がい者の能力・特性との適性を「障害特性マトリクス表」としてとりまとめ、個々の障がいに適した作業の体系化を試みた。４　今後の具体的な展開　上記の調査結果を踏まえ、以下の取組が求められている。（１）水福連携に係る連携推進体制の確立に向けて、全県又は地域において、関係機関による情報・意見交換の場を設置し、関係機関へのヒアリング等により把握した課題や、他県の水福連携及び県内の農福連携の先進事例などの共有を図るとともに、連携推進体制のあり方についての提案を行うことで、体制の構築に向けた取組を促進していくこと。（２）情報・意見交換の場において、事業者・事業所の課題・ニーズや、県内外における成功事例から考えられる支援施策の方向性を共有することで、関係機関それぞれの役割における取組の促進を図っていくこと。（３）事業者・事業所へのヒアリングにより把握した現状・課題を踏まえて「マッチングマニュアル」を改訂し、事業者・事業所への配布や説明を行うことで、水福連携の一層の周知・普及が進み、沿岸地域全域における連携や、多様な形での連携を進めること。５　その他（研究成果のまとめと成果の普及）【論文等】熊谷智義・山岡由美（2023）「農福連携の知見をふまえた水福連携の現状分析と今後の方向性-岩手県における水福連携の現状と可能性の検討-」岩手県立大学社会福祉学部紀要第25巻1-14

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