Nakamura Gakuen University: Repository / 中村学園大学学術リポジトリ

Ikeda, Yuko

池田, 祐子

Japanese

翻案『サロメ奇譚』についての一考察 : 未婚女性をめぐる視点から

Nigo, Ryosuke

Yamato, Takako

Matsuguma, Miki

Hayase, Saori

Tsuda, Akiko

仁後, 亮介

大和, 孝子

松隈, 美紀

早瀬, 沙織

津田, 晶子

DA16856565

Survey of university students' attitudes towards food education in English: From the perspective of food diversity

Tanaka, Rumiko

Ennyu, Tomohito

田中, るみこ

圓入, 智仁

DA17225526

中村学園創始者中村ハルの教育思想(2) : 幼児教育論、子どもの食育論編

Iwao, Fumi

Iwao, Naomi

Maruyama, Akiko

岩男, 芙美

岩男, 尚美

丸山, 明子

自閉スペクトラム症を有する児童・思春期女児グループにおける体験評価手法の検討 : 実践と課題

Kai, Satoshi

甲斐, 諭

DA01579406

世界の穀物事情からみた日本の農業と食料安全保障中村学園大学 名誉教授中村学園大学 流通科学研究所 協力研究員甲　斐　 　諭１．はじめに　令和 6 年夏頃より、日本の主食である米の価格が急騰し、全国的に米不足が顕在化した。米 5 kgの小売価格（全国平均）の推移を示す図１を見ると令和 6 年 5 月は2,264円であったが、 9 月には3,038円に急騰している〔 1 〕。　米 5 kgの小売価格を都市別にみると令和 6年 9 月現在、小売価格が最も高い都市は大津市（3,894円）であり、 2 位旭川市（3,893円）、 3位神戸市（3,725円）である。ちなみに福岡市は 8 位（3,469円）である。　本稿の目的は、①なぜ米の価格が令和 6 年夏頃から急騰したのか、その要因を分析し、②その背景にある備蓄の不足を中国の穀物備蓄事情と比較しながら検討し、③日本における米生産を維持するための価格条件の解析を通して、日本の食料安全保障を強固にしていくための課題を考察することである。２ ．昨今の米価格高騰を引き起こした直接的な６要因　過去16年間の米（玄米）の需給動向を示した図２によれば、平成21年（20年産）の生産量は866万トンであり、需要量は824万トン、 6 月末の民間在庫量は212万トンであった。その後、生産量も需要量も漸減し、平成28年（27年産）には生産量の744万トンに対して、需要量は766万トンとなり、需要量の方が生産量より多くなった。その後も生産量は減少し続け、令和 6年（ 5 年産）は661万トンまで減少した。　一方、需要量は令和 5 年（ 4 年産）の691万トンを底に令和 6 年（ 5 年産）は702万トンに増加に転じた。そのため毎年200万トン程度あった 6 月末民間在庫量が令和 6 年には156万トンと激減した。　以上が近年の日本の主食である米の価格、生産量、需要量、民間在庫の動向である。資料：総務省統計局「小売物価統計調査」令和 6 年10月21日より作成。図１　米の 5 kg当たり小売価格（全国平均）―…71…―　上記の動向を踏まえて、昨今の米価高騰要因を分析しよう。価格高騰は需要量の増加と生産量の減少、備蓄対応の遅れにより発生する。　まず、需要量の増加から検証する。令和 6 年に需要量が昨年より11万トン増加したが、農林水産省では、次の 3 要因を指摘している〔 2 〕。すなわち、　第 1 要因：…食料品全体の価格の上昇が続く中、米の価格は相対的に上昇が緩やか。　第 2 要因：インバウンド等の人流の増加。　第 3 要因：…高温・渇水の影響により、精米歩留まりが低下。　この指摘に異論はない。しかし、それだけではない。消費者価格指数の推移を表１からみると米の競合食品であるパンの令和 6 年の指数（令和 2 年＝100）は121.2であり、麺類も121.8である。一方、米類は103.9であるため、消費者は生活防衛上、値上がり率の小さい米に殺到したものと考えられる。　そのことを如実に示しているのが、表２である。同表によれば、家庭における令和 5 年の 1世帯当たり年間支出金額は、パンが33,874円、めん類20,672円に対して、米は20,397円であった。年増加率もそれぞれ+4.2％、+2.8％、+2.9であった。　しかし、令和 6 年 6 月には月間支出金額の増加率がパン+2.0％、めん類+7.1％、米+25.8％に大きく逆転している。消費者が令和 6 年 3 月頃からパンとめん類から米に消費の比重を移したことが理解できる。その理由は、表３に示すように消費者が実質可処分所得の低下の影響を受け、生活防衛のために単価の高い加工品であるパンやめん類から、半加工品で比較的安価な米に消費を回帰させたことが、第 4 の米価格高騰要因である。　また図３に示すように在庫量が減少し、令和6 年 8 月には65万トンに急減している。この在庫量の減少に対する迅速な対応の遅れが、価格高騰の第 5 番目の要因と判断される。　第 6 番目の要因は、国民の長期的米離れに起因する低米価による生産者の意欲の低下である。表４に示すように国民 1 人・ 1 年当たり供給純食料は昭和40年の117kgから令和 5 年（概算）には51kgに減少している。そのために米価は図４に示すように平成 8 年の玄米60kg当たり20,751円から平成26年には11,967円に低下している。この低米価が生産者の生産意欲を喪失させ、供給不足を招く遠因になったと判断される。資料：農水省「米に関するマンスリーレポート（令和 6 年 9 月号）」図２　最近の米の需給動向（玄米の需要量、生産量、民間在庫）―…72…―甲　斐　 　諭表１　消費者物価指数の推移表２　家庭における 1世帯当たりの支出金額の推移表３　可処分所得の対前年増減率の推移（ 2人以上の世帯のうち勤労者世帯）資料：農水省「米に関するマンスリーレポート（令和 6 年 9 月号）」資料：農水省「米をめぐる状況について」令和 6 年 8 月資料：総務省「家計調査報告家計収支編2023年平均結果の概要」―…73…―世界の穀物事情からみた日本の農業と食料安全保障図３　全国段階の民間在庫率の推移（うるち米）資料：農水省「米に関するマンスリーレポート」令和 6 年10月号表４　国民 1人・ 1年当たり供給純食料の推移資料：農水省「食料需給表 令和 5 年度」令和 6 年 8 月図４　米価の推移資料：農水省「米に関するマンスリーレポート（令和 6 年 9 月号）」―…74…―甲　斐　 　諭３．世界の穀物需給と日本の価格変動要因⑴　投入財の多投入による需給均衡とその弊害　世界の穀物（コメ、とうもろこし、小麦、大麦など）の需給の推移を図５に示す。世界の人口は毎年増加するので、穀物の需要量も増加する。世界の耕地面積はほぼ一定であるので、増加する穀物の需要を満たすためには単収の増加を図る必要があった。　世界の穀物生産の現場では、単収を増加させるために単位面積当たりの肥料と農薬などの投入量を増加させ、また品種改良を重ねてきた。　その結果、増加する需要に生産が対応できた。しかし、単位面積当たりの肥料や農薬などの多投入は環境に負荷を与え、地球環境汚染の一つの原因を含みながら今日に至っている。⑵　人為的ならびに気候的な価格変動要因　上記のように長期的に見れば世界の穀物需給はほぼ均衡してきたが、短期的にみれば、近年、需給均衡を壊し、価格急変を誘発する人為的、気候的な事態が頻発している。　図６に穀物需給を急変させる近年の諸要因を図示している。最も深刻な政治的要因はロシアのウクライナ侵攻（2022年 2 月以降）である。世界的な穀倉地帯が戦場になり、穀物の生産と流通が大混乱し、世界の穀物価格が図７のように高騰した。また日米金利差の拡大に起因する円安（2022年 3 月以降）が経済的要因として日本の輸入穀物の価格を高騰させた。　さらに気候的要因として、中央アメリカで発生した旱魃による水不足によりパナマ運河の水位低下が顕著になり、通航が制限（2023年11月）され、穀物の物流が制約された。くわえて、宗教的要因としてスエズ運河でのイエメンのフーシ派による商船攻撃（2023年11月以降）も穀物物流に混乱をもたらし、日本などアジアの商船は南アフリカの希望峰を迂回せざるを得ず、物流費の高騰に悩まされている。　これらの諸要因が日本の穀物価格変動の要因となっている。図５　穀物（コメ、とうもろこし、小麦、大麦など）の需給の推移資料：農水省「米国農務省穀物等需給報告」2024年 3 月11日―…75…―世界の穀物事情からみた日本の農業と食料安全保障４ ．中国に偏在する穀物在庫と日本の脆弱な食料・飼料の安全保障⑴　穀物の適正在庫率　世界の穀物の需要量に対する適正在庫率は、おおよそ17～18％とされている。この数値は、国際連合食糧農業機関（FAO）などの国際機関が示す食料安全保障のための指標で、異常気象、地政学的リスク、輸送障害などにより一時的な供給不足が生じても、一定期間の供給を賄える在庫量の目安である。この適正在庫率は、供給不安がある時期や収穫量の変動に備え、市場での穀物価格の急騰を防ぐことができる水準とされている。　前記の図５に示すように世界の穀物の2023年/24年の予想在庫率は27.5％であり、世界の穀物は一見安定しているように見える。しかし、現実の世界の穀物在庫は中国に偏在しており、問題が深刻である。以下、中国に偏在する穀物在庫を検証しよう。⑵　中国に偏在する世界の穀物在庫　以下の分析はアメリカ農務省（USDA）のデータ（2023年）に依拠している〔 3 〕。2023年の世界の人口は80.5億人であり、中国の人口は14.3億人であるので、中国の世界人口に占める図６　穀物需給を巡る近年の諸要因図７　小麦の10年間のシカゴ相場の推移資料：https://tradingeconomics.com/commodity/wheat（2024年12月 8 日閲覧）資料：筆者作成―…76…―甲　斐　 　諭割合は17.8％である。　一方、図８に示すように中国の小麦在庫量の世界に占める割合は51％、米は60％である。世界の小麦と米の在庫量の大半は中国が占めていることが分かる。⑶　穀物在庫の日中比較分析　図９に日本の米の期末在庫量と期末在庫率の推移を示す。2023年の期末在庫率は19.2％である。図10に示した中国の66.7％と比較すると日本は約 3 分の 1 以下であり、その差は歴然としている。米は日中で主食であるが、主食の確保に対する日中の理念と対応には雲泥の差がある。日本政府の主食確保に対する危機感の薄さが、上述の米不足と米価高騰の遠因と考えられる。　図11と図12に日本と中国の小麦の期末在庫量と期末在庫率を示す。期末在庫率は日本17.2％で、中国は85.5％である。日本は中国の 5 分の1 であり、米以上の格差がある。　穀物の在庫には費用が発生するが、それ以上に食料危機には政治不信という大きなリスクを払わなければならなくなるという大きな費用が発生することを、中国政府当局は認識していると考えられる。図８　世界に占める中国の小麦と米の期末在庫量の割合 図９　日本の米の期末在庫量と期末在庫率図10　中国の米の期末在庫量と期末在庫率 図11　日本の小麦の期末在庫量と期末在庫率資料：USDA:…PS&D…Online…March…2024より作成。資料：USDA:…PS&D…Online…March…2024より作成。資料：USDA:…PS&D…Online…March…2024より作成。資料：USDA:…PS&D…Online…March…2024より作成。―…77…―世界の穀物事情からみた日本の農業と食料安全保障５．日本人の食生活における米の重要性の確認⑴　農業総産出額からみた米の比重の低下　令和10年以降の日本農業の総産出額を図13からみると総額が9.9兆円で推移しているが、その内容は大きく変化している〔 4 〕。令和10年当時は米の割合が25.3％で、畜産は24.9％であったものの令和 4 年には米は15.5％に低下し、畜産が38.5％に拡大している。　農業産出額からみると米の比重は徐々に低下しているのは否めない現実である。⑵　供給熱量ベースからみた米の重要性　日本の昭和40年度以降の国内総供給熱量を図14から見ると昭和40年は242兆calであり、その後徐々に増加して平成 8 年には336兆calのピークに達した。その後は減少して令和 4 年には282兆calになった。　一方、同期間の国産総供給熱量をみると昭和40年の177兆calから令和 4 年には106兆calに減少した。その結果、供給熱量ベースの総合食料自給率は昭和40年の73％から令和 4 年には38％に半減している。　上記の図13に示すように農業総産出額からみると令和 4 年の米の比重は15.5％に過ぎないが、供給熱量ベースではどうであろうか。図15によれば、国民 1 人 1 日当たり供給熱量は2,203kcal（令和 5 年）であり、国産供給熱量は841kcalであるので、供給熱量ベースの食料自給率は38％である。　その内訳をみると米からの供給熱量は478kcalであり、全体（2,203kcal）の22％を占めており、最も大きな供給熱量の供給源であることがわかる。　 2 番目の供給熱量は畜産物の398kcal（18％）である。しかし、それは輸入飼料部分から生産された熱量を含んでおり、自給部分からの熱量は68kcal（ 3 ％）に過ぎない。　上記のように米は依然として日本人に最大の熱量を供給する作目であり、食料安全保障を担う重要な作目であると言えよう。図12　中国の小麦の期末在庫量と期末在庫率資料：USDA:…PS&D…Online…March…2024より作成。図13　農業総産出額資料：農水省「令和 5 年度…食料・農業・農村白書」令和 6 年 5 月―…78…―甲　斐　 　諭６．むすび～米生産を維持するための価格条件～　米は食料安全保障を担う重要な作目ではあるが、生産を維持するのが困難になっていることは前掲の図13からも理解できる。生産衰退の原因は前掲の図４に示したように、今夏までの消費者の米離れによる長期的な米価低落である。　図16は令和 4 年度の米生産における60kg当図14　供給熱量ベースの自給率の推移図15　食料消費の構造と食料自給率（令和 5年度）資料：農水省「令和 5 年度 食料・農業・農村白書」令和 6 年 5 月たり規模別米生産費を示している。規模の経済により規模が拡大すれば生産費は漸減する。令和 4 年 9 月の60kg当たり米価は13,961円であったので、規模が 5 ha未満では米価より生産費が高く、米生産により赤字が発生していることが読み取れる。　換言すれば、米生産において 1 戸当たり米生資料：農水省「食料自給率の基本的考え方」令和 6 年―…79…―世界の穀物事情からみた日本の農業と食料安全保障産規模が 5 ha以上でないと採算が取れないことが明白である。しかし、 5 ha以上の水稲生産経営は日本全体の7.7％でしかない。しかもその大半は北海道の稲作経営と判断される。　日本で米生産を維持拡大するには規模拡大と米価の引上げが必要である。しかし、事態は逆参考文献〔 1 〕総務省「小売物価統計調査」令和 6 年10月21日。〔 2 〕農水省「米をめぐる状況について」令和図16　規模別米生産費と米価（令和 4年度）図17　肥料価格資料：農水省「米をめぐる状況について」令和 6 年 8 月資料：熊本県農林水産部「熊本県農業動向年報」令和 5 年 6 月に進展している。図17に示すように令和 4 年以降肥料価格が高騰するなど生産費を引き上げる要因が明確になっているので、それに対応した米価の引上げを行わなければ、米生産が益々衰退するものと危惧される。6 年 8 月。〔 3 〕USDA,PS&D…on…line,…March…2024.〔 4 〕農水省「令和 5 年度…食料・農業・農村白書」令和 6 年 5 月。―…80…―甲　斐　 　諭

世界の穀物事情からみた日本の農業と食料安全保障

浅岡, 由美

全州農協農産物産地流通センター

Sasaki, Yuki

佐々木, 有紀

大学英語授業におけるオンライン英会話活用に関する考察佐々木　有　紀A Case Study of Online-English Program Introduction to a College English CourseYuki Sasaki（2024年12月９日受理）執筆者紹介：中村学園大学教育学部児童幼児教育学科別刷請求先：佐々木有紀　〒814-0198 福岡市城南区別府5-7-1　E-mail：yukisasaki@nakamura-u.ac.jp１．はじめに2019年に端を発したコロナ禍をきっかけに小学校から大学に至る日本のすべての教育機関でオンライン化が大きく進み、2020年５月には、大学生・大学院生の95％以上が少なくとも一部の授業をオンライン授業で受講する状況となった１）。その後感染状況が落ち着き、対面授業が再開された後も、オンラインを利用した教育は様々な形での利用が促進され、その一つが PC やタブレットを利用したオンライン英会話である。オンライン英会話は、日本にいる学生・生徒がオンラインを利用して海外にいる外国人講師との英会話を行うもので、学習形式としてはコロナ禍以前から導入されていた。そして、オンライン英会話は、コロナ禍の影響で海外への渡航および人との直接接触が制限される中でも英会話を実践できる方策としてさらに普及が進み２）、様々な教育段階での利用が拡大している。大学の教養教育課程で行われる英語授業の場合、少人数クラスが好ましいこと３）、また、大人数のクラスは教員の負担が大きく学習効果が上がりにくいこと４）について長年議論が行われてきたが、オンライン英会話を導入すれば、担当教員が一人であっても授業に参加する学生すべてに一対一の英語によるコミュニケーション機会を保障することができる。つまり、大学の英語授業改善のため、オンライン英会話は非常に魅力的な選択肢であり、今後も普及への議論が進むと思われる。本論文は、オンライン英会話を取り入れた大学教養課程の英語授業の事例研究を通じて、オンライン英会話を授業に導入する際の注意点、授業内での利用の仕方とその効果、問題点等を検討し、今後のオンライン英会話の授業導入に関する議論の活発化を促すことを目的とする。２．先行研究と研究課題大学の英語授業におけるオンライン英会話の導入はここ数年で事例が増えつつあるところであり、大規模な研究結果はまだ発表されていない。しかし、導入事例の増加に伴い、様々な角度からの事例報告数が増えつつある。英語授業における導入事例として、オンライン英会話の受講と英語力の向上の相関関係の検証した研究以外にも、フィリピン人のオンライン講師に対する学生の心理を分析し、ノンネイティブスピーカーに対する日本の英語教育の問題点を国際理解教育の視点から論じる研究もおこなわれている（小林2022）５）。オンライン英会話が受講学生の英語力向上に与える影響については、まだ、十分な検証が進んでいるとは言えない。永田（2022）６）はオンライン英会話の受講により TOEIC® の点数が向上した報告しているが、多くは外部の客観的なアセスメントテストではオンライン英会話の受講前後の有意な変化が認められなかったとしている（畠山2017, 瀧野2018, 米崎・田中2022）７）８）９）。また、オンライン英会話の受講回数とスピーキング力の相関を研究した江口（2019）10）でも有意な相関関係は認められなかった。一方、外部試験による客観的な英語力の有意差は認められなくても、オンライン英会話に対する受講学生の高評価や英語学習意欲の向上、英語を話すことへの自信の向上等の効果は指摘されている（畠山2017, 瀧野2018, 米崎・田中2022）７）８）９）。また、学生の発話を研究した瀧野（2018）８）は英会話中の「聞き返し」などのコミュニケーション方略に向上が認められたことを報告しており、オンライン英会話が学生の英語学習に好影響を与えていることは認められていきている。大学の英語授業に導入されたオンライン英会話の効果の結果についての検証結果が一致しないのは、英会話を導入した授業の形態・形式、参加学生の特性、オンライ研 究 報 告181中村学園大学・中村学園大学短期大学部　研究紀要　第57号　2025ン英会話の教材としての特性等、授業実施に関係する状況や要因が多岐にわたり変数として授業の効果に影響を与えているためであると思われる。どのような種類のオンライン英会話プログラムを、実際にどのように授業に導入し、授業の他の要素とどうやって組み合わせて効果的な授業プログラムとするのかは、さらに、多くの研究を行い検証・整理する必要がある。英語力向上の検証に加え、大学の英語授業へのオンライン導入について、実施運用面の問題点も指摘されており、顕著なのは、受講率の問題である。畠山（2017）７）は、オンライン英会話を取り入れた３年間の英語カリキュラムを継続調査した結果、学生は受講率の高いグループと低いグループに分かれ、この二極分化の傾向は受講期間が長くなるほど顕著になることを報告している。また、瀧野（2018）８）もオンライン英会話への学生の反応について、受講率の高い学生には非常に好評である一方、受講しない学生は最初から受講せず、受講期間を通じてその傾向が変化しない、としている。本論文では、オンライン英会話を導入した大学の英語授業の事例を通じ、オンライン英会話の受講率を改善する実施方法や受講学生のアンケートをもとにオンライン英会話の効果と問題点を考察する。３．事例対象とデータ（１）事例対象①　オンライン英会話プログラム研究対象事例では、学研社が開発したオンライン英会話教材「ロジカルスピーキング」を使用した［注］。ロジカルスピーキングはワークブックと呼ばれる紙媒体のテキスト教材とテキストの内容に基づく１回25分間の外国人講師との英会話を組み合わせて利用するオンライン英会話プログラムである。テキストはトピックと難易度によって４種類あり、４種類とも全12ユニット＋12回のオンライン英会話で構成されている。今回の事例では SDGs 等の社会問題に特化したトピックで構成された「ロジカルスピーキング社会課題編スタンダード」コースを利用した。ロジカルスピーキングはもともと授業中に教室内でオンライン英会話を行うことを想定して開発された教材で、教室内で受講生全員がテキストを用いて同じユニットの同じトピックについて、同時にオンライン英会話を行う形が基本である。これは、トピックや難易度を受講者が幅広く自由に選択し、好きな時間に好きな場所で受講できることを特徴とする通常のオンライン英会話プログラムとは大きく異なる点であるが、今回の事例では、大学の１コマ90分の授業時間を利用して、履修学生が同じ内容のインプット・アウトプットの経験ができることを優先して、ロジカルスピーキングを採用した。②　対象授業についてオンライン英会話を導入したのは地方国立大学の A大学における全学部共通の英語授業（２単位）である。A 大学には教養教育の一部単位を英語で開講されている科目で履修する副専攻の「英語コース」があり、本論文の対象授業は英語コースの必修科目として2023年度前期（４月―７月）に開講された「Intensive English I」科目である。副専攻「英語コース」は、50名を定員として、大学の入学時に履修希望者を応募・選考して履修者を決定しており。2023年度は TOEFL ITP テストデジタル版を履修希望者に実施し、上位50名中、48名が履修登録を行った。Intensive English I はこの48名の英語コース１年生が履修した。Intensive Englishは2023年度前期に15回（１コマ90分）行われ、第１回から第12回までは、毎回「ロジカルスピーキング社会課題編スタンダード」（全12ユニット）の１ユニットに基づく学習とオンライン英会話を教材として扱い、最後の２回（第14回・15回）は、テキストの内容に基づく英語劇のグループ発表、第13回はグループ発表の準備・リハーサルを行った。毎回のオンライン英会話の授業は25分間であるが、48名の履修学生全員が PC やタブレットでネットワークにログインし、アプリを開いて英会話を行うためには、授業中に事前準備の時間を取ることが必要であり、音声が聞こえない等の対応が必要なトラブルが生じると、終了時間が延長される。このため、学生がオンライン英会話の利用に慣れるまでの最初の６回は授業中にオンライン英会話を行い、オンライン英会話の前後に事前・事後の言語活動を行う形式で授業を進めたが、第７回から12回は、授業を受ける前に学生が自分で予約をして該当ユニット部分のオンライン英会話を受講し、実際の授業時間はオンライン英会話を受講したことを前提に、ディスカッションなどのグループ活動と発表を主とする90分の授業を実施した。学生が毎週自分で計画的にテキストを予習し、オンライン英会話を受講する必要があるため、授業の進行や課題を把握できるよう授業進度は学習管理システムのMoodle で学生と共有し、グループ活動の進行管理と学生間のフィードバックは教育活動用のオンライン掲示板Padlet の無料版を活用して行った。（２）データ今回の事例報告のデータとして、① 　学生の「ロジカルスピーキング」オンライン英会話受講記録182 佐々木 有紀② 　A 大学の別授業でのオンライン英会話受講記録（①との比較のため）③ 　「ロジカルスピーキング」全12回受講後の受講アンケート（学研社制作）④ 　「Intensive English I」クラスの授業評価アンケート（A 大学制作）②を除くデータはすべて2023年度前期期間中に収集されたもので、②は2022年度後期に A 大学の英語特別プログラム（副専攻英語コースの前身）の中で実施されたオンライン英会話のプログラム（他社）のデータで、授業の一環として導入され、受講状況が成績の一部に反映されることは Intensive English I と同様であるが、オンライン英会話（全14回、一回30分）の受講を初回のオリエンテーション１回をのぞき授業時間外に学生自身が予約した時間に行うものとして実施し、受講学生は全16名であった。４．結果（１）受講率Intensive English I の授業の一環として受講生が「ロジカルスピーキング」（全12回）の平均受講率は90.6％であった。一方、同じく A 大学で前年の2022年度に他の授業でオンライン英会話（全15回）を導入した際の受講率は56％であった。また、Intensive English の受講者48名のうち、最も受講回数が少なかった学生は６回（受講率50%）であったのに対し、比較した授業では、全16名中の６名が受講率100％であったのに対し、０％の学生も４名おり、受講率の高い学生と低い学生に２分された。（２）「ロジカルスピーキング受講アンケート」受講後に行われたオンライン英会話の受講アンケートでは、48名の履修者のうち39名が回答した（回答率81％）。アンケートは５件法の選択肢による質問と、自由記述に分かれていた。選択肢による質問では、「Q ２全体を通して、オンライン英会話レッスンは有益でしたか？」との問いに対して、37名が「とても有益だった」、８名が「有益だった）」と回答し（残り１名は「どちらでもない」）、「Q ４ 全体を通して、オンライン英会話は自分の英語力向上の役に立ちましたか？」との問いには全回答者が「役に立った」と回答した（「とても役に立った」20名、「役に立った」19名））。オンライン英会話が自分の英語力向上に役に立った理由を説明する自由記述では、今まで英語で会話をする機会が少なかった（なかった）ので、オンライン英会話で英語を話し、コミュニケーションをとる機会が得られたことを評価する回答が多かった（「実際に英会話を１対１でするのは初めてで、どのようにすればいいかが分かって英会話に慣れることができた。」「普段英語を使って話したりする機会が少ないので１週間に１度ネイティブの人とコミュニケーションがとれたことが良かったから。」回答より引用）。受講回数を重ねるごとに英語力の向上を感じられたことを報告する記述も見受けられた（「だんだんかいを重ねるごとに慣れていき、自分が表現したいことも表現できるようになった」「初めはとても緊張して何も話せないような状態でしたが最後はクラスの内容以外にも会話を広げることができるようになった気がします」回答より引用）。（３）A 大学授業評価アンケート各授業の終了後に行われる大学の授業評価アンケートの結果においても、授業の満足度が大学全体、教養教育授業全体と比べて高い結果となった（「満足」「非常に満足」を合わせて66.7％）。さらに、学生主体の学び（アクティブラーニング）・協働学習・フィードバックについても他の授業と比べて高評価を得た。５．まとめ今回の報告は、１授業を対象とする事例報告であり、結果を応用することは難しいが、大学の英語授業にオンライン英会話を導入するにあたって問題となっている受講率の改善については、オンライン英会話を学生自身が授業買いに受講する形式ではなく、授業内に全員一斉で受講することでかなり改善されることが示唆された。また、学生自身はオンライン英会話を貴重な英語コミュニケーションの実践の機会ととらえており、学習のモチベーション維持に役立てられるという点では、先行研究を裏付ける結果となった。オンライン英会話で共通の学習を行うことによりより高度な協働学習が行えることもわかったので、今後はどのようにオンライン英会話を利用して学生の学びを深めることができるか、研究を深めていきたいと思う。注「ロジカルスピーキング」については、現在は株式会社 Glats が運営会社となっており、教材については以下の URL に説明されている。https://kimini.online/school/book/logical-speaking/?saf_src=google_x&saf_pt=&saf_kw=&saf_dv=&saf_cam=20881490578&sa f _g rp=&sa f _ ad=&sa f _acc=3230041635&utm_term=&utm_campaign=%E3183大学英語授業におけるオンライン英会話活用に関する考察%80%902022%E3%80%91%E3%83%91%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3%E3%82%B9%E6%9C%80%E5%A4%A7%E5%8C%96&utm_source=adwords&utm_medium=ppc&hsa_acc=3230041635&hsa_cam=20881490578&hsa_grp=&hsa_ad=&hsa_src=x&hsa_tgt=&hsa_kw=&hsa_mt=&hsa_net=adwords&hsa_ver=3&gad_source=1&gclid=CjwKCAjwooq3BhB3EiwAYqYoEo03e7n6vGj_Ie6siYpLZN_xhPfpdAOqjRSA0CGMYJWwvKzvKNEMRxoCy_AQAvD_BwE参考文献１） 総務省. （2021）. 「データで見る遠隔・オンライン教育の状況」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd122230.html（2024年９月10日参照）２） 藤城　孝輔他. （2023）. 「オンライン英会話の有効性に関する考察―DMM 英会話を例にとって」『岡山理科大学教育実践研究』第７号, pp.31-43.３） 文部科学省高等教育局大学教育・入試課. （2024）.「令和５年度大学入学後の総合的な英語力の育成・評価に関する好事例について」　https://www.mext.go.jp/content/20240529-mxt_daigakuc01-000005144_01.pdf （2024年９月10日参照）４） 大 学 英 語 教 育 学 会（JACET） 第 ４ 次 実 態 調 査 委 員会. （2018）, 「大学英語教育の担い手に関する総合的研究」https://www.jacet.org/wp-content/uploads/%E ５ %AE%９F%E ６%85% ８B%E ８%AA%BF%E ６% ９F%BB%E ５%A ７%94%E ５%93%A １%E ４%BC% ９A%E ５%A ０%B１%E ５%91% ８A%E ６% ９B%B ８WEB%E ６% ８E%B２%E ８%BC%89%E ７%89%8820180904-1.pdf （2024年９月10日参照）５）小林 葉子. （2022）. 「フィリピン人講師によるオンライン英会話レッスンの受講動機：調査と考察」『アルテス　リベラレス』第111号, pp. 49-62.６）永田　雅啓. （2022）. 「マンツーマン型オンライン英会話学習が TOEIC スコアに与える効果の定量的分析」Reitaku International Journal of Economic Studies, 29（１）, 12-23.７）畠山　均.（2017）. 「オンライン英語学習プログラムの成果と課題」『純心人文研究』第23号, pp. 227-241.８）瀧野　みゆき.（2018）. 「英語の授業に導入したオンライン英会話の評価・課題・可能性；英語コミュニケーションのアクティブラーニングの試み」『立教女学院短期大学紀要』第50号, pp. １-21.９）米崎　里、田中　幹太．（2022）. 「英語授業でのオンライン英会話プログラム導入の成果と課題」『甲南女子大学研究紀要 I』第58号, pp.55-63. 10）江口　真理子. （2019）. 「オンライン英会話はスピーキング能力と相関するか」『島根県立大学総合政策論叢』第38号, pp. 41-52.184 佐々木 有紀

A Case Study of Online-English Program Introduction to a College English Course

Zushi, Ayano

Mizumoto, Kaori

Sasaki, Kouhei

Mishima, Yuto

Yamaguchi, Naho

圖師, 彩乃

水元, 芳

佐々木, 皓平

三島, 悠人

山口, 菜帆

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