Seinan Gakuin University: Institutional Repository / 西南学院大学 機関リポジトリ

佐古田, 彰

2021 ITLOS Judgment (Preliminary Objections) ‘Delimitation of the Maritime Boundary between Mauritius and Maldives in the Indian Ocean’ (Mauritius/Maldives): Japanese Translation (4)

工藤, 栄一郎

Process and Discussion on Accounting Standard Setting for Heritage in IPSASB

片山, 隆裕

Japanese

「大学の顔」としての博物館 ～博物館と関わってきた 40 余年の経験から思うこと～

新原, 俊樹

A study on the impact of university enrollment capacity and the number of students advancing to university on local enrollment rates

鬼束, 芽依

Kirishitan (Japanese Christian or Hidden Christian) related Fake Artifacts Cllection of the Seinan Gakuin University Museum

2013 ITLOS Provisional Measures Order ‘Arctic Sunrise' (Netherlands v. Russian Federation): Japanese Translation

新郷, 英弘

１．はじめに母校の博物館学芸員課程設置 40 年を迎えるにあたり、当該課程を履修し、学芸員として職を得た者の一人として、私に執筆の依頼をいただいた。本学在学中にご指導いただいた西南学院大学博物館長片山隆裕教授からメールをいただき、驚きとともに当時のことが懐かしく思い出された。優秀な学生ではなかった私で良いのか迷いもあったが、初代博物館長の高倉洋彰教授は私の恩師であり、そのような御縁からも僭越ながらお引き受けすることにした。学部生として在学していたのは 25 年以上前のことであり、手持ちの数少ない記録から、当時の記憶を呼び起こしながらここに記す。大きな錯誤は無いと思うが、やや曖昧な部分があることをお許し願いたい。なお、私の略歴を先に記しておく。私は、2001 年 4 月より、芦屋町役場（福岡県遠賀郡）に入庁し、芦屋町教育委員会所管の芦屋釜の里という施設の学芸員となった。2022 年より施設の管轄は首長部局に移ったが、現在も同様の場所に勤務しており、芦屋釜・歴史文化課長という役職で、芦屋釜の里及び芦屋町歴史民俗資料館の 2 館の博物館学芸員課程の学びと学芸員の仕事新郷　英弘芦屋釜の里資料館の内観西南学院アーカイヴズ  第 3 号 22館長を務めている。地方の小さな資料館ではあるが、他の学芸員や施設スタッフと共に、如何にして魅力ある展覧会とするか、効果的な教育普及の方法をどうするか等、様々に議論しながら日々の運営を行っている。２．博物館学芸員課程の思い出私が西南学院大学に在学したのは、1995 年 4 月から 1999 年 3 月であり、当時は文学部国際文化学科であった。さらに、1999 年 4 月から 2001 年 3 月に本学大学院文学研究科国際文化専攻に進学した。この期間に、博物館に関する科目として必修科目17 単位、選択科目 24 単位を修得し、2000 年 3 月、学芸員となる資格を取得した。私は高倉洋彰先生のゼミに所属し、日本古代社会論（特に考古学）について学んでいた。大学 3 年生の頃から、夏休みなどの長期休暇を利用して、発掘調査や遺物整理のアルバイトをしながら、漠然と文化財を扱う仕事に就くことができないかと考えていた。しかし、当時は就職の氷河期時代。発掘現場や埋蔵文化財調査室にも、大学や大学院卒業後、嘱託職員として働きながら、採用の機会を待つ方が多くおられた。そのような世相の中で、文化財関連への就職という薄い望みを抱きながら、博物館学芸員課程を履修した。大学 3 年生頃の私が抱く学芸員のイメージは、博物館内で展示資料に向き合いながら、あまり外部との接触もなく、研究と展示を行うという、非常にインドアなイメージであった。それは、私にとっては決してマイナスのイメージではなかった。しかし、博物館課程の講義を受けるようになると、そのイメージは大きく変わった。必修科目では、「生涯学習概論」、「博物館概論」、「博物館経営論」、「博物館資料論」、「博物館情報論」、「視聴覚教育」、「教育原理 A」、「博物館実習」を履修した。「博物館概論」をはじめとするいくつかの科目を、高倉洋彰先生が担当されていた。高倉先生は、もともと福岡県の職員として九州歴史資料館に勤務されていた関係で、博物館での実際の体験を交えながらの講義であった。印象に残っているのは、『学芸員は「雑芸員」とも揶揄される（あるいは自嘲する）ように、様々な仕事をこなさなければならない。実際の博物館の現場は、イメージとは違うものだ。』と言われていたことである。当時はそのようなものか、と思う程度であったが、実際に学芸員として職に就くと、身をもって体験することになった。地方公共団体が設置する小規模な館の学芸員は、一般行政職並みに事務をこなしつつ、学芸業務を行うことになる。池泉回遊式の日本庭園を有する当館では、「人員が足りない時は鯉の餌やりなどもしています。まさに雑芸員ですね。」と高倉先生にお話すると、笑顔で頷かれていた。のちに、「雑芸員」の例として、そのことを講義でお話されていたようである。23 西南学院アーカイヴズ  第 3 号「博物館経営論」では、博物館の運営方法や組織形態、計画策定等を学んだ。博物館の具体的な活動内容を知ることができ、興味深かった。博物館に行くと、随分と安価な入館料で素晴らしい文化財や美術品を見ることができる。当然、黒字になる訳ではなかろうと考えていたが、一緒に受講していた友人と、運営費の赤字分はどこから出るのだろうかと話していた。講義の中でも、財政的に厳しい中でどのように工夫するか、学芸員の腕の見せ所だという話をされたように思う。前述のように、私は芦屋釜の里、芦屋町歴史民俗資料館の 2 館の館長職を務めており、両館とも行政の直営施設である。「経営」という視点で見た場合、そのベースとなる館の予算確保において、本庁財政サイドとの交渉は難儀するものである。予算交渉の席においては、予算内容の説明と年度比較、収支の見込み、展覧会の内容と必要性、入館者数予測等、厳しく査定を受けることになる。そもそも、入館料等の収入で、支出をカバーできるものではなく、大変厳しい（弱い）立場で交渉に臨むのである。結局、与えられた予算の中で最善を尽くすしかないのだが、博物館を経営する立場になって、財政上の厳しさを実感している。おそらく、地方自治体が運営する館は、どこも似たようなものではなかろうか。選択科目では、「日本文化史」、「東洋文化史」、「東洋・日本美術史」、「考古学」、「日本民俗学」、「文化人類学」を履修した。「考古学」では、高倉洋彰教授より発掘の土器編年や層位学的な考え方など、考古学の基礎を学んだ。発掘された遺物から、当時の生活や社会の在り方を解明するという先生の講義を興味深く拝聴した。後に、西南学院大学の地下から出土した元寇防塁の発掘調査にも参加したが、石組みの内部は粘土が積まれており、その断面を見ると崩れにくいように版築（層状に突き固める技法）されていた。当時の人達の技術や工夫が良く分かり、講義で学んだ遺物から当時の生活や社会を知るという意味を経験的に知ることができた。高倉先生には大学院、学位論文の指導等、この後も長らくご指導いただくことになるが、この時学んだ考古学的な考え方、モノの見方は、私の研究の基礎になっている。選択科目では、様々な専門の先生方に幅広い分野をご指導いただいた。多くの学芸員は、専門分野のみを仕事とすることはできないものである。私にとっても、選択科目の幅広さは、大いに役立った。例えば、私は国内の鋳造関係の民俗資料調査や、東アジア（特に中国）の鋳造工房の調査等を行うことがあるが、大谷裕文教授や片山隆裕教授にご指導いただいた文化人類学的、あるいは民俗学的なアプローチや考え方が調査に大変活きている。また、歴史民俗資料館等では、人員的な制約もあり、学芸員の業務はあらゆる分野に及ぶ。多くは埋蔵文化財を専門としながらも、様々な歴史資西南学院アーカイヴズ  第 3 号 24料や民俗資料を扱い、地域の民俗行事の調査や存続のサポート等を行う。時には所蔵する絵画資料を扱うこともある。学芸員課程の選択科目で、幅広い学問分野を学ぶことは、その職に就くとその意義が良く分かるものである。博物館学芸員課程履修時のことを思い出しつつ、現況にもふれながら記してきたが、履修科目で最も印象深いのは、博物館実習であった。３．博物館実習の思い出私の博物館実習を受け入れていただいたのは、佐賀県立博物館であった。大学院 1年生の時である。受講者は 17 人で男性 4 人、女性 13 人であった。様々な大学から学芸員資格取得を目指す学生が集まっており、美術専攻の学生が多かった。皆に学芸員として博物館等に就職したいかと問うてみたが、熱意のある学生は一握りだったように思う。佐賀県立博物館での実習は、しっかりとカリキュラムを組んで実施していただいた。今にして思うと、各専門の学芸員の方々に、代わるがわる 1 週間近く実習に時間を割いていただき、非常にありがたかった。昨年 2 月、資料調査で 20 数年ぶりに館内のバックヤードに入る機会を得たが、当時のことが思い起こされた。書画の取り扱いを学ぶ講義では、確か儒学者の草場佩川の書画であったように思うが、3 本の掛軸の中から真贋を見分ける、という問題を出された。私は軸部分の古さを見て判断したが、残念ながら不正解であった。実物と印刷の書画との見分け方等を解説いただき、得心がいったが、世の中には贋作があるものだということを実物から教えていただいた。考古学の分野では発掘資料を主に扱うことが多く、真贋問題のあるような資料を研究対象とすることはあまりなかったので、印象に残っている。博物館実習参加者の集合写真（筆者は最上段左）25 西南学院アーカイヴズ  第 3 号なお、現在は、茶の湯釜の中でも、特に「芦屋釜」を研究対象としており、茶道具という特性上、箱書や折紙等も含め、真贋問題を避けては通れない中で研究している。学生の頃は、本当に資料の真贋等が判別できるのか疑問に思っていたが、人間の眼は不思議なものである。専門分野の資料であれば、外見で 9 割方は判別でき、残りの 1割も熟覧すれば判別可能である。短期間ではあったが、実習に参加した学生同士の仲は良かった。実習を終えると、帰りに酒を酌み交わしながら色々な話をした。私と同じように学芸員の資格が就職に活きた学生はいたのだろうか。今となってはわからない。４．学芸員としての現在の仕事私が 2001 年に学芸員として職を得てから、早や 22 年が経過した。この間の学芸員としての仕事について記すとともに、博物館学芸員課程で学んだことがどう活きているのかについて記してみたい。前述のように、博物館に関する科目の履修では、多くの学びがあった。そして、学芸員として職を得た私にとっては、結果としてその学びを存分に活かすことができる環境に身を置いている。私が勤務する芦屋釜の里は 1995 年に開館した。総面積約 4000 坪の敷地の中に、資料館、芦屋釜復興工房（鋳物工房）、大小の茶室、抹茶処である立礼席等が点在する文化施設である。資料館内には、2 つの展示室、映像室、講座室があり、茶の湯釜を中心とした資料が収蔵・展示されている。芦屋釜とは、南北朝時代頃から江戸時代初期頃までの約 250 年間、筑前国芦屋津（現在の芦屋町一帯）で造られた鋳鉄製の茶の湯釜である。室町時代には、美しい文様が京の貴人達に好まれ、一世を風靡した。製作が途絶えた後も、芦屋釜は茶の湯釜の名品と重要文化財　芦あしや屋霰あられじ地真しんなり形釜がま　室町時代　芦屋釜の里蔵西南学院アーカイヴズ  第 3 号 26して茶道の世界で珍重された。その評価は現代でも高く、国指定重要文化財の茶の湯釜9 点の内、8 点を芦屋釜が占めている。当館の設置目的は、一度途絶えた「芦屋釜の復興」である。そのために、当館の鋳物師養成員とともに芦屋釜の製作技術を解明すること、現代に芦屋釜を復元すること、鋳物師養成員を民間事業者として独立させ、そこで技術を継承させることが、当館のミッションである。鋳物師養成員は町の嘱託職員として雇用し、16 年間の養成期間を設定した。そのような特殊な事業を進めつつ、学芸業務を担ってきた。博物館のもつ主な役割として、資料の収集、保存、調査・研究、展示、教育普及等がある。当館の特性上、私の主たる業務は、全国に残る芦屋釜の調査・研究であった。調査から、芦屋釜の製作技術の痕跡を探り、その技術を推定し、館内の工房で鋳物師養成員がその技術の復元実験を行うということを繰り返した。資料館の展示では、調査から判明したことをパネル展示したり、復元で成功した釜を展示したりするなど、調査・研究と展示は常に連動して行った。当館では、茶の湯釜を主とした資料の収集を行っている。主な収集の方法は、施設内の復興工房で鋳物師養成中に製作された茶の湯釜を収蔵するか、寄贈を受けるかであり、購入予算はもっていない。ただし、特殊な事情があれば購入することもあり、その最も顕著な例が重要文化財指定芦屋釜の購入であった。重要文化財に指定された芦屋釜は 8 点あるが、当館では 1 点も所蔵していなかった。それら 8 点の内 7 点は東京、京都、福岡の博物館・美術館等に所蔵されており、残り 1点は民間にあったが長らく所在不明であった。それらを当館が所蔵することは叶わない状況であったが、芦屋の先人達が生み出し、重要文化財に指定された芦屋釜を、生まれ故郷の芦屋町に戻すことは町の悲願でもあった。そのような状況下、2016 年、民間にあった重要文化財指定の芦屋釜 1 点の所在が判明する。芦屋町では、これを最後のチャンスと捉え、入手に向けた取り組みを開始した。私は主担当として数年かけて交渉にあたり、2020 年 11 月、入手に成功した。購入額は 2 億 7500 万円であった。今後も含め、おそらく私の学芸員人生の中で最も重要な収集となるだろう。それがきっかけとなって、文化庁が定める基準に基づく、重要文化財の保存・展示に適した環境を備えた新たな資料館を増築した。その保存・展示環境の基準は実に厳しい。学芸員課程で保存環境のことを学んだが、その基準をクリアする難しさが実感としてわかった。あらためて、文化財を後世に伝えることの意義を考え直す機会となった。新館の建設に携わることができたことも、私にとっては貴重な経験となった。文化庁の定める 2 夏の「枯らし（通風乾燥）」期間を経て、2024 年 11 月、資料館がリニューアルオープンする。以後、様々な教育普及を行うよう計画している。27 西南学院アーカイヴズ  第 3 号５．おわりに学芸員として職を得た私にとっての博物館学芸員課程は、結果的に素晴らしい準備期間であった。必修科目は当然ながら、選択科目においても、様々な分野を専門とする先生方にご指導いただいたことで、深い学びになった。学際的な学部を有する本学の良さであろう。実際に学芸員として仕事をしてみると、資料の収集、調査・研究、保存、展示、教育普及等は、日常的な業務である。本学で学んだことは、その仕事の中で存分に活かされている。私が大学、大学院で共に学んだ友人や先輩、後輩の中にも、学芸員となる資格を取得し、博物館や文化財関連の職に就いた方々が少なからずおられる。時々、情報交換をしながら、現在の仕事の状況や悩みを聞いたり、執筆した論文等を送りあったりしている。やはり、同窓生の存在は心強いものであり、その活躍をみると嬉しいものである。本学の博物館学芸員課程設置 40 年の中で、学芸員や文化財関連の職に就かれた方がどのくらいおられるのかわからない。おそらく、学芸員となる資格を取得しても、関連する職に就いた人は一部ではなかろうか。実際、私が所属する芦屋町にも、行政職でそのような方もおられるが、皆、博物館や文化財への理解が深く、何かと助けられている。たとえ学芸職に就かなくても、博物館や文化財へ理解ある人材を、40 年に亘り輩出してきたという本学博物館学芸員課程の社会的意義は、実に大きいものであると考える。西南学院アーカイヴズ  第 3 号 28

博物館学芸員課程の学びと学芸員の仕事

中ノ子, 寿子

Undetermined

Issues and Prospects for Research on Self-Regulation in Young Children

渡邉, 陽大

A Communication Study on “Masculinity” and “Femininity” in Japan:In Light of Family Communication

蔡, 遠杭

Formation of Ritual Circles and Village Communities in Guangdong Province ― Focusing on the Worship of the Three Mountain Kings in Dacheng Town, Raoping County ―

Seinan Gakuin University

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