京都府立医科大学附属北部医療センター　耳鼻咽喉科Department of Otolaryngology, North Medical Center, Kyoto Prefectural University of Medicine6歳、男児。扁桃肥大、睡眠時無呼吸症候群に対して、全身麻酔下にて両側口蓋扁桃摘出術施行予定であったが、麻酔導入のマスク換気時に上顎の乳歯が消失した。挿管前後、術中も発見に至らず、気管支ファイバーにて右上葉気管支B2 に陥頓する乳歯を確認。様々な器具を用いたが、最終的にバスケット鉗子にて摘出できた。その後特に合併症なく4 日後に退院した

Kenji Nobuhara

Riwoo Chang

Yasuhiro Mizuta

信原 健二

張 里宇

水田 康博

京都府立医科大学附属北部医療センター　耳鼻咽喉科Department of Otolaryngology, North Medical Center, Kyoto Prefectural University of Medicine6歳、男児。扁桃肥大、睡眠時無呼吸症候群に対して、全身麻酔下にて両側口蓋扁桃摘出術施行予定であったが、麻酔導入のマスク換気時に上顎の乳歯が消失した。挿管前後、術中も発見に至らず、気管支ファイバーにて右上葉気管支B2 に陥頓する乳歯を確認。様々な器具を用いたが、最終的にバスケット鉗子にて摘出できた。その後特に合併症なく4 日後に退院した。departmental bulletin pape

張, 里宇

チョウ, リウ

Chang, Riwoo

水田, 康博

ミズタ, ヨシヒロ

Mizuta, Yasuhiro

信原, 健二

ノブハラ, ケンジ

Nobuhara, Kenji

Kyoto Prefectural University of Medicine Institutional Repository (Kissei)

北部医療センター誌　Vol.  6-202061全身麻酔時に発生した小児気管支異物の 1 例張 里宇、水田康博、信原健二京都府立医科大学附属北部医療センター　耳鼻咽喉科Riwoo Chang,  Yasuhiro Mizuta,  Kenji NobuharaDepartment of Otolaryngology, North Medical Center, Kyoto Prefectural University of Medicine要　　旨　6 歳、男児。扁桃肥大、睡眠時無呼吸症候群に対して、全身麻酔下にて両側口蓋扁桃摘出術施行予定であったが、麻酔導入のマスク換気時に上顎の乳歯が消失した。挿管前後、術中も発見に至らず、気管支ファイバーにて右上葉気管支B2に陥頓する乳歯を確認。様々な器具を用いたが、最終的にバスケット鉗子にて摘出できた。その後特に合併症なく 4 日後に退院した。キーワード : 小児気管支異物、軟性気管支鏡、フォガティーカテーテル、バスケット鉗子、乳歯AbstractA 6-year old boy was scheduled for bilateral tonsillectomy due to enlarged tonsils and sleep apnea syndrome (SAS). The loose milk tooth disappeared during the mask ventilation of the general anesthesia induction. We were not able to identify the foreign body, before and during the operation. After the operation, we found the tooth stuck in the bronchus of the superior lobe (B2) using the flexible uteroscope. We collected the tooth using the uteral basket catheter. No major post-operative complications arose, and the patient was discharged after 4 days. Key Words: Pediatric Bronchial Foreign Body, Flexible Bronchoscope, Fogarty Catheter, Basket Catheter, Milk Tooth症　例全身麻酔時に発生した小児気管支異物の1例62は じ め に　気管支内異物の除去には硬性鏡の使用が標準的とされてきたが、近年ラリンジアルマスク（laryngeal mask airway：LMA）と軟性気管支鏡を用いた異物除去の報告が増えてきている。今回我々は全身麻酔導入時のマスク換気で発症した気管支内異物に対して、軟性鏡下でフォガティーカテーテルとバスケット鉗子を使用した 1 例を経験したので報告する。症　　例6 歳、 男 児。 身 長 117cm、 体 重 27.8kg、BMI=20.10臨床診断：扁桃肥大　睡眠時無呼吸症候群疑い現病歴：いびき、無呼吸を主訴に当院耳鼻咽喉科を受診。Ⅲ度の扁桃肥大を認め、両側口蓋扁桃摘出術目的に入院。既往歴：なし家族歴：なしアレルギー：なし　全身麻酔導入時のマスク換気中に乳歯（左上中切歯）の脱落を認めた。すぐに喉頭鏡で展開して探索したが確認できず、挿管後再捜索の方針となった。その後、問題なく挿管、全身麻酔施行され開口器で視野を確保した。扁桃裏面や舌根付近を探索するも見つからず、透視下でも乳歯を確認できなかった。特にバイタルに異常を認めなかったので、術後再捜索する方針になった。手術は無事終了した。術後、喉頭ファイバーで上咽頭、下咽頭方向を観察したが同定できなかった。挿管チューブ(内径5.0mm)より気管支ファイバーにて気管内を観察したところ、右上葉気管支B2 に陥頓する乳歯を発見した。呼吸状態に注意しながら、適宜マスク換気で十分に酸素化を行い、気管支ファイバーによる吸引での摘出を試みたが、一切動かなかった。処置用の気管支鏡が手術室になかったため、軟性腎盂尿管鏡 URF type Ⅴ（OLYMPUS 社，外径 3.4mm，チャンネル径 1.2mm）に変更し、鰐口鉗子で把持を試みたが、滑って把持できず、フォガティーカテーテル（12TLW803F，エドワーズライフサイエンス社）、バスケ ッ ト 鉗 子（NGE － 017115 and NTSE －015115，クックジャパン社）（図１）を用いて摘出を試みた。フォガティーカテーテルで図１ａ．バスケット鉗子　　（NGE-017115）ｂ．バスケット鉗子　　（NTSE-015115）ｃ．フォガティーカテーテル　　（12TLW803F）末梢側より中枢側に乳歯を押し上げ、バスケット鉗子にて捕捉することに成功した。乳歯を捕捉したバスケット鉗子が挿管チューブ内を通過することできず、挿管チューブの抜管と共に摘出した。抜管後、酸素化の異常等は認められなかったが、ポータブルレントゲンにて右上肺野の透過性低下を認め（図２）、集中治療室にて 1 日厳重に経過観察する方針となった。翌日、レントゲン（図３）で改善を認め、一般病棟へ転棟し、4 日後に退院した。考　　察　小児気管支異物摘出は全身麻酔下で、硬性気管支鏡を用いるのが一般的であったが、内視鏡の小型化・鉗子類の発達により軟性気管北部医療センター誌　Vol.  6-202063支鏡とラリンジアルマスクを用いた報告が増えてきている 1 － 8) 。硬性気管支鏡による方法では換気が可能、中枢気管支に対しては操作範囲が広く、異物が中枢気管支に存在する場合摘出率が高い 2-4)。使用する鉗子の把持力、種類も豊富にある一方で操作には修錬が必要で喉頭浮腫のリスクがある。軟性気管支鏡は硬性鏡に比べ喉頭浮腫のリスクが少なく、末梢気道での操作性において有利であるが、鉗子の把持力、種類、摘出操作においては硬性鏡に劣る 1)4)5)。　また、軟性気管支鏡による気管内異物摘出では確実な気道確保が必須である。通常の挿管チューブを挿入すると内腔が十分に保たれず軟性気管支鏡の操作性を困難にしてしまうことが欠点であった 4)。最近では、LMA による気道確保と軟性気管支鏡利用での異物摘出の報告が増加している 6)8)。この方法で、外径 5mm のファイバー挿入後も気管内腔を保ったまま気道確保が可能となり、安全に異物摘出することができる 3-5)。　本症例では、手術終了直後に気管支異物とわかり、挿管を継続したまま適宜マスク換気を行い、挿管チューブを経由して処置用軟性鏡の出し入れを行った。十分に酸素化を行う時間が繰り返し必要であったため、摘出まで時間がかかってしまった。異物が長時間嵌頓すれば呼吸器合併症のリスクが高まるため、今後、このような症例では LMA による気道確保に変更し、換気を十分に保たれる環境での速やかな異物摘出が必要だと考える。　また、気管支に嵌頓した丸みのある乳歯は把持鉗子では滑って把持できず、バスケット鉗子も嵌頓している影響でバスケットがうまく広がらずに難渋した。最終的にフォガティーカテーテルで中枢側に押し上げて嵌頓を解除することでバスケットがしっかり広がり、乳歯を捕捉することに成功した。過去の報告でも摘出時に使用するデバイスは生検鉗子だけでなく、本症例のようにバスケット鉗子やフォガティーカテーテルのようなバルーンカテーテルでの報告も散見され 1)4)5)、異物の種類や状態によって選択することで速やかな異物摘出に繋がると考える。　摘出後の管理であるが、本症例では抜管後の呼吸状態に異常は見られなかったが、長時間の異物嵌頓による、あるいは摘出操作の刺激による気道粘膜浮腫によって無気肺を認めた。無気肺の増悪や肺炎などによる呼吸状態の悪化を懸念し、集中治療室にて手術翌日まで厳重観察したが、結果的には一時的な無気肺のみで終わった。一方で、異物摘出後も換図２　術後胸部レントゲン図３　術翌日後の胸部レントゲン全身麻酔時に発生した小児気管支異物の1例64気不全を生じ、人工呼吸管理や、ステロイド、酸素投与が必要になった報告もあるため、本症例のように摘出後少なくとも 24 時間は呼吸状態を厳重に観察すべきである 7) 9)。　また、今後の動揺歯を認める場合への対策であるが、術前に歯科口腔外科を受診しトゥースガード、抜歯の適応について判断してもらう方法が最も好ましいと考えられる。しかし、やむを得ず受診ができない場合は動揺歯を麻酔導入前に暫間固定するなどの対策が必要である 10)。結　　語　全身麻酔導入時のマスク換気で乳歯が脱落し、気管支異物となった症例を経験した。小児の気管異物に対して軟性鏡とバルーンカテーテル、バスケット鉗子を使用することで摘出できたが、今後は LMA による気道管理の元、適切なデバイスを選択して速やかな摘出を行いたいと考える。　開示すべき潜在的利益相反状態はない。参　考　文　献1) 桑原　強、河野美幸、安井良僚、他：ナッツ以外の小児気道異物の治療経験．日小外会誌 53:282-288,20172) 大原卓哉：特集・診断に苦慮した耳鼻咽喉科疾患 - 私が経験した症例を中心に - 小児気管・気管支異物．MB ENT 205:131-137, 20173) 桝田幹郎、鈴木　隆、鈴木秀一、他：小児気道異物の摘出におけるラリンジアルマスク (Laryngeal mask) の有用性．気管支学 26:83-87, 20044) 森川洋匡、平井　隆、山中　晃、他：気管支鏡にて摘出できた気管支異物症例13 例の検討．気管支学 26:505-510, 20045) 鳥羽博明、先山正二、森本雅美、他：摘出時にラリンジアルマスクを使用した小児気管支異物の 1 例．気管支学 34:180-183,20126) 森田真理、濱島有喜、渡邉暢浩、他：小児気管支異物摘出における工夫．小児耳 30:42-46,20097) 香取幸夫、川瀬哲明、小林俊光：小児気管・気管支異物の診断と治療．小児耳 26:67-74,20058) 松本　悠、秦　美暢、笹本修一、他：ラリンジアルマスクと軟性気管支鏡を用いた小児気管支異物摘出の 1 例．気管支学 31:10-14,20099) 橘　一也、木内恵子、竹内宗之：気道異物症例の周術期管理．日臨床会誌 31:946-951,200110) 堀江明久、関谷秀樹、山口祐佳、他：周術期センターにおける選択的受診による口腔機能管理システム．日臨麻会誌 34:510-515,2014

全身麻酔時に発生した小児気管支異物の1例

https://kpu-m.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=2486&item_no=1&attribute_id=22&file_no=1

全身麻酔時に発生した小児気管支異物の1例

Abstract

Similar works

Full text

Available Versions

Kyoto Prefectural University of Medicine Institutional Repository (Kissei)