田中 晃

Tsukuba Repository

Studies on the Mechanism Regulating
Reproductive Function in Puberty and the
Application of Kisspeptin Analogs for the
Treatment of Prostate Cancer
著者 田中 晃
発行年 2020
その他のタイトル 性成熟期の生殖機能制御機構とキスペプチン誘導体
の前立腺癌治療への応用に関する研究
学位授与大学 筑波大学 (University of Tsukuba)
学位授与年度 2019
報告番号 12102甲第9457号
URL http://hdl.handle.net/2241/00160770
                                            
 
 
 
  氏名                田中 晃 
 
  学位の種類      博 士（生物科学） 
 
  学位記番号      博 甲 第 ９４５７ 号 
 
  学位授与年月日    令和２年３月２５日 
 
  学位授与の要件    学位規則第４条第１項該当 
 
  審査研究科      生命環境科学研究科 
 
  学位論文題目     Studies on the Mechanism Regulating Reproductive Function in 
Puberty and the Application of Kisspeptin Analogs for the Treatment 
of Prostate Cancer 
（性成熟期の生殖機能制御機構とキスペプチン誘導体の前立腺癌治療への 
応用に関する研究） 
 
主査        筑波大学教授   博士（理学）  中田 和人 
 
  副査        筑波大学教授   博士（理学）  中野 賢太郎 
 
  副査        筑波大学准教授     博士（理学）     徳永 幸彦 
 
  副査        筑波大学教授   博士（医学）  千葉 智樹 
 
 
 
論   文   の   要   旨 
  
 前立腺がんは世界的に高い罹患率を示す男性に特有のがんである。前立腺がんは男性ホルモン
の１種であるアンドロゲンに依存的な細胞増殖をすることが知られている。このため、前立腺が
んの治療にはアンドロゲン除去療法が有効である。しかしながら、先行研究においてアンドロゲ
ン除去療法は一定期間後に高い確率で抵抗性を獲得し、前立腺がんが再燃してしまうことが報告
されている。そのため、前立腺がんの再燃を遅延、または、予防しうる薬剤の開発が望まれてい
る。本研究において著者は、性成熟期のアンドロゲン産生を含む生殖機能制御機構の理解に基づ
いて、奏功期間のより長い新規のアンドロゲン除去療法薬を開発することを目的とした。 
 まず著者は、性成熟期の生殖機能制御機構を詳細理解するためにエストロゲンが雌ラットの性
成熟期の性腺刺激ホルモン放出ホルモン（GnRH）と黄体形成ホルモン（LH）分泌を制御する機
序に着目した。精巣におけるアンドロゲン合成を含む生殖機能は、視床下部-下垂体-性腺（HPG）
軸を介して、GnRHによって中枢性に制御されている。性成熟は、哺乳類の生殖機能の成熟過程
における重要なプロセスであり、GnRH/LH分泌の昂進と定義することができる。当該領域の先
行研究によって、エストロゲンが性成熟前の雌ラットのGnRH/LH分泌を強力に抑制し、その抑
制効果が性成熟を境に低下することが示されているが、その詳細なメカニズムについては未だ十
分には解明されていない。キスペプチンはヒトGタンパク質共役型受容体GPR54の内因性のリガ
ンドである。2003年に２つの独立した研究グループがGPR54の機能喪失変異が性性腺機能低下症
患者の性成熟障害の原因であると報告して以来、その機能に関する研究は行われ、キスペプチン
-GPR54シグナル伝達が性成熟期のGnRH/LH分泌の昂進に重要な役割を担っている可能性が示唆
されている。著者は、卵巣切除（OVX）ラットにおける視床下部内エストロゲン微量インプラ
ントの実験によって少なくとも２つの異なる視床下部領域、内側視索前野（mPOA）および弓状
核（ARC）が、性成熟前の雌ラットにおけるGnRH/LH分泌抑制のためのエストロゲンの作用部
位であることを特定した。また、興味深いことに、免疫組織化学および遺伝子発現解析によって、
性成熟期に観察されるエストロゲン応答性の減弱はmPOAおよびARCにおけるエストロゲン受
容体発現の減少によるものではないことを明らかにした。さらに、エストロゲンを代償的に補完
した性成熟前のOVXラットにおいて、ラットキスペプチンアナログrKp-10またはGnRHの皮下注
射が、その刺激に呼応する形で繰り返し有意なLH分泌を誘導することを見出した。これらの結
果から著者は、mPOAおよびARCに存在するエストロゲン応答性ニューロンを含む神経複合体が
キスペプチンシグナルの制御を通じて性成熟期のGnRH/LH分泌を制御すると結論した。 
 次に著者は、キスペプチン誘導体の前立腺癌治療への応用について検討を行った。キスペプチ
ンシグナルを薬理学的に遮断する手段として、２つの異なるアプローチが考えられる。１つは受
容体へのリガンド結合の阻害で、もう一方は慢性的なリガンドの曝露による受容体の脱感作であ
る。本研究の前段階として著者はGPR54に対する強力なアゴニスト活性を維持しながら、薬理学
的安定性を向上させたキスペプチン誘導体であるKiss-001とKiss-002を合成することに成功して
いる。そこで著者は合成したKiss-001およびKiss-002の慢性的な暴露を容易にするために、1ヵ月
持続放出型製剤Kiss-001-SR(1M)およびKiss-002-SR(1M)を開発し、それらの体内動態、薬力学的
特性および効力に関する生物学的な評価を行った。その結果、Kiss-001-SR(1M)および
Kiss-002-SR(1M)は少なくとも4週間、血中薬物濃度を一定に維持した。このような安定した薬物
動態特性に対応して、Kiss-001-SR(1M)およびKiss-002-SR(1M)は、1ヵ月製剤として有効な薬力学
的反応を示し、既存化合物であるTAP-144-SR(1M)よりも優れた血中テストステロン濃度のコン
トロールを示した。すなわち、両製剤共に、正常雄ラットにおいて血漿中テストステロン濃度を
急速かつ強力に抑制し、その抑制作用は用量依存的に維持された後に、正常レベルへと回復する
ことが示された。さらに、アンドロゲン感受性前立腺がんの細胞株であるJDCaPを移植したラッ
トモデルを用いた抗腫瘍試験では、長期観察において最終的には前立腺がんの再燃は観察された
ものの、Kiss-001-SR(1M)およびKiss-002-SR(1M)は、既存化合物であるTAP-144-SR(1M)よりも、
優れた前立腺特異抗原PSAコントロール、すなわち抗腫瘍効果を示した。 
 
 
 
審   査   の   要   旨 
  
 本論文において著者は、視床下部領域に存在する内側視索前野、および、弓状核に内在され
るエストロゲン応答性ニューロンが雌ラットの性成熟期における性腺刺激ホルモン放出ホルモ
ンと黄体形成ホルモン分泌の亢進に重要であることを細胞生物学的な実験によって明らかにし
た。さらに著者は、このラットモデルの性成熟における生殖機能制御機構を考慮して合成した
キスペプチン誘導体が前立腺がんの再燃を抑制するための有力な候補化合物となりうることを
分子細胞生物学的、ならびに、実験動物学的な実験系を活用して立証した。本研究の成果は性
成熟における神経−ホルモン連関に立脚した独創的な前立腺がんの治療戦略を提案しており、
学術的な価値が高いと評価された。 
 令和２年１月２９日、学位論文審査委員会において、審査委員全員出席のもとに論文の審査
及び最終試験を行い、本論文について著者に説明を求め、関連事項について質疑応答を行った。
その結果、審査委員全員によって合格と判定された。 
よって、著者は博士（生物科学）の学位を受けるのに十分な資格を有するものとして認める。 
 
 


性成熟期の生殖機能制御機構とキスペプチン誘導体の前立腺癌治療への応用に関する研究

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性成熟期の生殖機能制御機構とキスペプチン誘導体の前立腺癌治療への応用に関する研究

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