Kozo KONAYASHI

Yoshito YAMASHIRO

小林 浩三

山城 義人

Tsukuba Repository

細胞伸展装置の製作
著者 小林 浩三, 山城 義人
雑誌名 筑波大学技術職員技術報告書
巻 39
発行年 2020
URL http://hdl.handle.net/2241/00160329
細胞伸展装置の製作 
小林 浩三a、山城 義人b 
a 筑波大学医学医療系技術室、b 筑波大学生存ダイナミクス研究センター 
〒305-8575 茨城県つくば市天王台 1-1-1 
概要 
血管を構成する細胞は、心臓の拍動・血管内圧に
起因する伸展張力を受けている。伸展張力応答のメ
カニズムを理解し、血管病態発症の根本原因を明ら
かにすることが重要である。この目的のための血管
平滑筋細胞の伸展刺激応答の解析を行う装置は市販
されているものの高額であり、簡単には導入できな
い。そこで、伸展動作を単機能化し、安価に装置を
製作した。その装置を使用して血管平滑筋細胞の伸
展刺激応答の解析を行った結果、伸展刺激下におけ
る細胞外マトリクスの役割と血管病態発症の関わり
を明らかにしたので報告する。
キーワード：血管平滑筋細胞、伸展装置
１．はじめに 
細胞伸展装置は、シリコーン樹脂製の培養容器で
細胞を培養し、培養容器の伸展を繰り返し行う。同
時に実験できる培養容器の数、周期、伸展率、使用
環境などの仕様をもとに、筑波大学医学工作室が、
生命科学分野の研究・教育に使用される実験装置、
機器の製作を長年にわたり手がけてきたノウハウを
生かし、装置製作を実施した。 
２．設定した装置の仕様 
市販の装置は、カタログ上でのスペックを見ると
多機能であることがわかる。反面、高額である。そ
こで、機能を極力削減し、低価格な装置の実現を目
指し、仕様を表 1 のように設定した。 
表 1 設定した装置の仕様 
培養容器装着個数 6 個 
伸展率 5％、10％、20％ 
周期 1Hz 
連続運転時間 24 時間 
異物混入防止対策 アクリル樹脂製カバー
３．デザインおよび部品の構想 
仕様をもとにデザインのもととなる構想を進めた。
装置が仕様を満たし機能するための機構を決定する。
仕様以外で求められたのが低価格である。その方針
を念頭において作業を進めた。 
a kkouzou@md.tsukuba.ac.jp 
3.1  機構の決定 
仕様を満たすための機構としてサーボモーター等
を用いた電子制御式にすると高額になるので採用す
ることは難しい。そこで、機械式の単純なクランク
機構を用いることにした。伸展率を変更するにはモ
ーターの回転軸との偏心量を変えることで実現でき
るので、その偏心量の違う部品(偏心軸)を必要数用
意すればよい。 
クランク機構の欠点は、偏心軸の回転による水平
軸の移動の加速度が一定とならない。しかし、今回
の装置では目的に影響がないことを確認の上、採用
するに至った(図 1)。 
図 1 クランク機構 
3.2  購入部品の選定 
機構の決定に伴い、構成する部品を購入または製
作することになる。そこで、方針に従い購入する部
品の選定を最初に行った。 
3.2.1  スライドガイド 
市販のシリコーン製の培養容器を伸展させるため
片側を固定して、もう一方の側を牽引する。培養容
器には四隅に穴が開いている(図 2)。この穴にピンを
差し込むことを想定している。そこで、培養容器に
差し込んだピンを直線上に牽引するためにスライド
ガイドを採用することは、自動的に決まった。スラ
イドガイドとは、そういった直線運動を正確に行う
ための部品である(図 3)。
培養容器 6 個を同時に伸展させるには横に並べる
デザインが最もよいと判断した。したがって、スラ
イドガイドは培養容器 6 個分よりも幅が広いものが
要求されたが、現実的ではなかった。そこで、市販
b yamayoshito@tara.tsukuba.ac.jp 
されている中で最も適当と考えられたスライドガイ
ドを 2列並べるデザインを採用した。 
図 2 シリコーン製培養容器 
図 3 スライドガイド 
3.2.2  ロッドエンドベアリングとユニバー
サルジョイント
スライドガイドは水平に直線運動する。一方、ク
ランク機構では偏心軸によりスライドガイドに運動
を伝えるシャフトは角度が変化する。そこで、ロッ
ドエンドベアリングとユニバーサルジョイントを組
み合わせることで、角度の変化を吸収することに成
功した(図 4)。
図 4 角度の変化を吸収する仕組み 
3.2.3  ドライブシャフト 
ドライブシャフトはモーターに取り付けたロッド
エンドベアリング側とスライドガイド側にそれぞれ
あり、偏心軸とスライドガイドの距離を調節する役
目を持っている。距離を調節できることで培養容器
をどの位置から牽引するか位置合わせをすることが
可能となる(図 5)。 
図 5 ドライブシャフト(赤丸)と 
リニアブッシュハウジングユニット(青丸)
3.2.4  リニアブッシュハウジングユニット 
偏心軸とスライドガイドは上記各部品によって連
結された。しかし、そのふたつの部品間の距離が長
く、不安定であった。そこで、スライドガイド側の
ドライブシャフトをリニアブッシュハウジングユニ
ットで支持し、安定させることにした(図 5)。 
3.2.5  ピン 
培養容器に差し込むためのピンは、全部で 24 本必
要となる。適当なものを探したところ、要求された
太さ、長さのものが部品として安価に販売されてい
たことから購入品に分類した。 
図 6 ピン(4 本で培養容器 1 個分) 
3.3  医学工作室で製作する部品 
医学工作室では開設当初から錆びにくい材質の材
料を使用することを求められた。金属では真鍮・ア
ルミ、樹脂ではアクリルが多かったので、それらの
加工に慣れている。
本装置では、全体のベースとなる板をはじめ、製
作する部品のほとんどはアルミ板で、一部でアクリ
ル板を使用することを前提とした。
さらにアルミ材料は、穴あけ、ねじ切り加工だけ
で済むように心がけた。 
レール
ブロック 
レールをブロックが
正確にトレースする
ユニバーサルジョイント
ロッドエンドベアリング
４．装置のデザイン 
機構が決定し、デザインや部品の構想が整ったと
ころで、実際に装置をデザインした。 
4.1  3DCAD 
デザインには、3DCAD ソフトの SolidWorks を用
いた。SolidWorks は 3DCADソフトの中では、ミッ
ドレンジに位置付けられる。更に本格的な商用ソフ
トには劣るものの医学工作室での使用に十分なソフ
トウェアである。
ここでは、モーター以外のデザインを完了させる。 
4.1.1  部品の 3DCAD図 
現在では、部品の 3DCAD 図がメーカーサイトや
部品専用のサイトから多くダウンロードできるよう
になっている。それらを活用し、デザイン時間の短
縮を心がけた。 
4.1.2  デザインの 3DPDF化 
SolidWorks にはソフトウェアを持たないユーザー
とデザインを共有するためのツールとして
eDrawings が装備されている。これを使用する方法も
あるが、コンピューターの環境に依存されるので誰
とでもデザインを共有することはできない。そこで、
デザインを共有するツールとして Acrobat の 3DPDF
ファイルを活用した。3DPDFファイルも一部で表示
できないとの報告もあるが、ごくごく希なことであ
る。今回も活用することで問題なくデザインを共有
することができた(図 7)。
図 7 デザインを 3DPDF 化 
５．負荷の測定とモーターの選定 
モーターの選定は、モーターメーカーの選定サー
ビスを利用した。選定してもらうための条件として、
最低でも、機構と負荷が必要となる。 
ここまでで、すでにモーターを除くデザインが完
了している。(実際はモーターの選定にあたって仮の
モーターもデザイン上で存在している。)
本装置での負荷は主に培養容器を牽引する力とな
り、装置自体の摩擦抵抗等はほぼ無視できるレベル
である。負荷の測定は、バネばかりを使用した。培
養容器の穴に 2 本のピンを差し込んでバイスに固定
し、もう一方の穴に差し込んだピンは板に固定して
その板をバネばかりに引っ掛けて牽引し力を測定し
た。 
デザインと負荷の測定結果をもとにメーカーにモ
ーターを選定してもらった。今回は、選定結果に｢実
機での確認が必要｣と追記があったので、採用したモ
ーターはメーカーに選定してもらったものよりも大
きいものであった。 
６．装置の製作 
6.1  材料・部品の調達 
アルミ材料は、専門の材料販売会社から購入した。
前述したようにアルミ材料は必要最低限の加工にと
どめることにしていたので、材料を購入する段階で
すでに前処理が完了していることが望ましい。そこ
で、指定のサイズで購入する際にそのサイズの寸法
精度が要求する誤差の範囲内に収まっていることが
重要である。購入先の材料販売会社は、そのような
材料の切断方法を備えていてかつ安価に提供しても
らえる。 
部品は、頻繁に取引のある機工商社から購入した。
ある程度の部品については、インターネット上で探
し、仕様や部品図を入手可能であるが、それが難し
いときに機工商社に依頼すると目的の部品を探して
もらえる。今回もいくつかの部品は探してもらった。 
6.2  部品の加工 
部品の加工は、全て医学工作室で実施した。室内
での加工は、図面上で特に指定のない限り、要求す
る寸法精度で部品が仕上がることが、これまでの実
績から明らかなので安心である。 
図 8 完成した装置 
6.3  組立・調整 
組立は、定盤の上で Mブロックを用いながら平行
や直角になるよう行った。その結果、各部品の位置
のずれなどからくる抵抗がない、スムースな動きが
実現できた。(図 8) 
ドライブシャフトは、組み込みの際に培養容器を
どの位置から牽引するかの位置合わせをする機能を
持っている。しかし、メモリなどがなく、正確な位
置合わせができないので、位置決めのための調整用
ブロックを製作した。このブロックを用いてモータ
ーが回転しスライドガイドが往復運動するときの停
止する位置、すなわち死点の位置を決めることで、
偏心軸を交換したときでも同じ場所を死点とするこ
とが可能となった。 
6.4  試運転 
完成後に試運転を実施した。仕様では連続運転が
24 時間ということであったが 30 時間くらいの試運
転を実施した。それでもモーターの発熱、機構部品
からの異音などの異常は全く見られなかった。 
７．成果 
研究グループは、血管平滑筋細胞において、周期
的な伸展刺激によって細胞外マトリクス
Thrombospondin-1 (Thbs1)の発現が誘導されること
を明らかにし(図 9、10)、大動脈瘤の形成に重要な
働きを担う知見を 2018 年 8月 9日付 Circulation 
Research誌で報告した1［1］。また、伸展刺激中の細
胞上清を回収し、伸展刺激によって分泌される細胞
外マトリクス 85種を同定した。さらに、伸展刺激
によって分泌される Thbs1 が細胞接着斑のインテグ
リンに結合し、細胞内のメカニカルストレス応答因
子 Yes-Associated Protein (YAP)の核内移行を制御し
ている知見を報告した［2］。 
これらの成果は、血管病態の根本的な病因となる
細胞内シグナル伝達の分子メカニズムを明らかにす
るものであり、本装置が果たした貢献度は高い。 
図 10 伸展刺激による Thbs1 の発現(定量) 
謝辞 
本装置製作にあたり、部品加工にご協力いただい
た筑波大学医学医療系工作室、沼尻久技術専門職員
に感謝する。 
参考文献 
[1] Yamashiro Y, Thang BQ, Shin SJ, Lino CA, Nakamura
T, Kim J, Sugiyama K, Tokunaga C, Sakamoto H, Osaka
M, Davis EC, Wagenseil JE, Hiramatsu Y and Yanagisawa
H, Role of thrombospondin-1 in mechanotransduction and
development of thoracic aortic aneurysm in mouse and
humans, Circ. Res. 123(6) (2018) 660-672.
[2] Yamashiro Y, Thang BQ, Ramirez K, Shin SJ, Kohata T,
Ohata S, Nguyen TAV, Ohtsuki S, Nagayama K and
Yanagisawa H, Matrix mechanotransduction mediated by
thrombospondin-1/integrin/YAP signaling pathway in the
remodeling of blood vessels,  BioRxiv (2020)
https://doi.org/10.1101/814533
1 筑波大学・プレリリース http://www.tsukuba.ac.jp/wp-
content/uploads/180810yanagisawa-3.pdf 
図 9 伸展刺激による Thbs1 の発現 
 
 
Production of cell stretching device 
 
 
Kozo Kobayashia), Yoshito Yamashirob) 
 
a) Technical Service Office for Medical Sciences, University of Tsukuba, 
 1-1-1 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki, 305-8575 Japan 
b) Life Science Center for Survival Dynamics, Tsukuba Advanced Research Alliance (TARA), University of Tsukuba, 
1-1-1 Tennodai, Tsukuba, Ibaraki, 305-8577 Japan 
 
 
The cells that comprise the blood vessels receive tensile-stretch tension due to cardiac pulsation and intravascular 
pressure. Understanding the physiological response to this may clarify the fundamental role in the vascular pathogenesis. 
A device for analyzing the stretch stimulus response of vascular smooth muscle cells (VSMCs) for this purpose is 
commercially available but expensive and complex. Therefore, the extension operation was condensed into a single 
function and an apparatus was manufactured at low cost. Using this device, we revealed the extracellular matrix protein, 
Thrombospondin-1 plays crucial role in response to cyclic stretch and involved in vascular pathogenesis.  
 
Keywords: Vascular smooth muscle cells, Extension apparatus   
 
 


細胞伸展装置の製作

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細胞伸展装置の製作

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