京都大学0048新制・課程博士博士(農学)甲第22787号農博第2430号新制||農||1081(附属図書館)学位論文||R2||N5307(農学部図書室)京都大学大学院農学研究科森林科学専攻(主査)教授 井鷺 裕司, 教授 森 直樹, 准教授 大澤 直哉学位規則第4条第1項該当Doctor of Agricultural ScienceKyoto UniversityDFA

Pham, Duy Long

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RIGHT:URL:CITATION:AUTHOR(S):ISSUE DATE:TITLE:Ecological studies on dispersal flight andhost selection of the ambrosia beetlePlatypus quercivorus (Murayama)(Abstract_要旨 )Pham, Duy LongPham, Duy Long. Ecological studies on dispersal flight and host selection of the ambrosiabeetle Platypus quercivorus (Murayama). 京都大学, 2020, 博士(農学)2020-09-23https://doi.org/10.14989/doctor.k22787許諾条件により本文は2021-04-01に公開; Pham DL, Ito Y, Okada R, Ikeno H, Isagi Y, Yamasaki M (2017) Phototacticbehavior of the ambrosia beetle Platypus quercivorus (Murayama) (Coleoptera: Platypodidae) before and after flight.Journal of Insect Behavior 30(3): 318-330. doi: 10.1007/s10905-017-9615-3. Pham DL, Ito Y, Okada R, Ikeno H, Isagi Y,Yamasaki M (2019) Effects of leaf conditions and flight activity on the behaviour of Platypus quercivorus (Murayama)(Coleoptera: Platypodidae). Journal of Applied Entomology 143(9): 1000-1010. doi: 10.1111/jen.12671 - 1 -（ 続紙 １ ）                             京都大学 博士（  農 学  ） 氏名  Pham Duy Long 論文題目 Ecological studies on dispersal flight and host selection of the ambrosia beetle Platypus quercivorus (Murayama) （カシノナガキクイムシの飛翔と寄主選択に関する生態学的研究） （論文内容の要旨）  樹皮下穿孔性及び養菌性キクイムシは二次性昆虫と呼ばれ、主に衰弱木や枯死木を利用している。しかし、個体群密度が上昇すると、健全木も利用する一次性昆虫となることがある。日本では、病原菌を媒介し、ブナ科樹木の集団枯死（ナラ枯れ）を引き起こすカシノナガキクイムシがこの事例に相当する。本論文では、ナラ枯れ被害防除のための基礎的な知見を得るために、カシノナガキクイムシの飛翔特性・走光性・寄主由来の揮発性物質に対する反応を、室内実験によって明らかにした。本論文は6章で構成され、各章の概要は以下の通りである。   第1章では、樹皮下穿孔性キクイムシと養菌性キクイムシの飛翔分散と寄主選択に関する研究、及び日本におけるナラ枯れ被害とカシノナガキクイムシに関する研究の概要を説明した。体長が 5 mm程度にすぎないカシノナガキクイムシは飛翔分散を野外で測定することは困難であり、室内で昆虫の飛翔をシミュレートするフライトミルと呼ばれる装置の有用性を紹介した。また、寄主選択に関して、これまで提唱されてきたカシノナガキクイムシに関する仮説を検討し、寄主木からの揮発性物質が誘引物質として機能している可能性が高いことを議論し、本研究の意義と目的を記述した。   第2章では、フライトミルを用いてカシノナガキクイムシを飛翔させ、その飛翔特性を調べた。カシノナガキクイムシの平均飛翔速度は、雌雄ともに時速約 4 kmであったが、飛翔時間に個体変異が大きく、その飛翔距離は 40 mから 29 kmと推測された。また、飛翔速度が大きな個体に関しては、雄の場合、飛翔開始時の速度と飛翔終了時の速度の両方が高く維持されていたのに対し、雌の場合は飛翔開始時の速度のみが高くなる傾向があり、飛翔様式の雌雄間の違いに関する適応的意義を考察した。   第3章では、飛翔前後におけるカシノナガキクイムシの走光性の変化を調べ、その適応的意義について考察した。室内実験の結果、飛翔前には正の走光性が高く維持されているが、飛翔後は走光性が低下することがわかった。この傾向には雌雄の違いが認められず、雌雄ともに正の走光性が飛翔前に重要な特性であることが示唆された。カシノナガキクイムシが羽化脱出する際、寄主木は既に枯死していることが多く、その直上には林冠ギャップが形成されている。正の走光性は、羽化後ギャップ上部に向かって飛翔するために必要であり、また、林冠上部に到達後、その重要性は低下すると推測される。従って、飛翔前後の走光性の変化は、カシノナガキクイムシの生活史において適応的な意義があるものと考えられる。   第4章では、寄主の葉由来の揮発性物質へのカシノナガキクイムシの誘引性や、葉の状態による誘引性の差異について解析した。Y字管による選択試験を行った結果、 - 2 -カシノナガキクイムシは健全葉に由来する揮発性物質を選好しており、本種が林冠上部から寄主木に到達する際、匂い物質が関与している可能性が示唆された。衰弱木や枯死木を利用する二次性昆虫の場合、乾燥葉を選好すると考えられるが、カシノナガキクイムシは乾燥葉を忌避し、健全葉を選好した。これらの結果から、カシノナガキクイムシは従来考えられていたような二次性昆虫ではなく、積極的に健全木を選択している一次性昆虫であることが示唆された。   第5章では、揮発性物質に対するカシノナガキクイムシの選好性の飛翔前後の変化と、その選好性の雌雄の違いについてY字管による選択試験で明らかにした。また、寄主および非寄主樹種由来の揮発性物質の化学組成を、ガスクロマトグラフ質量分析計で解析した。その結果、1) カシノナガキクイムシは寄主の葉由来の揮発性物質を選好し、非寄主の葉由来の揮発性物質を忌避すること、2) 揮発性物質への反応性は飛翔後に高くなること、3) 雄の方が雌よりその誘引性が高いことが明らかとなった。また、非寄主であるスギ由来の揮発性物質の化学組成は、寄主とは大きく異なっていた。一方、非寄主であるブナ由来の揮発性物質は、寄主と類似していたことが示された。化学組成の調査結果は、Y字管による試験の結果を全て説明できるものではなかったが、カシノナガキクイムシが樹木の葉由来の揮発性物質をその寄主選択に利用している可能性が示唆された。   第6章では、以上の内容を踏まえ、想定されるカシノナガキクイムシの飛翔分散と寄主選択の過程について考察した。寄主から羽化脱出したカシノナガキクイムシは、寄主の枯死により生じたギャップに向かって直上に飛翔し、飛翔分散中はエネルギーに余裕のある雌は速く飛ぶことで、飛翔距離を伸ばし適応度を上げていると考えられた。森林内では林冠より上部を飛翔し、樹冠からの揮発性物質を利用して寄主と非寄主を識別し、寄主の中では健全木を選択していると考えられた。           注)論文内容の要旨と論文審査の結果の要旨は１頁を３８字×３６行で作成し、合わせ て、３,０００字を標準とすること。 論文内容の要旨を英語で記入する場合は、４００～１,１００wordsで作成し 審査結果の要旨は日本語５００～２,０００字程度で作成すること。     - 3 -（続紙 ２ ）                            （論文審査の結果の要旨）  カシノナガキクイムシは全国的に著しいナラ枯れを引き起こしている森林害虫であり、防除のための生態の把握は喫緊の課題である。本論文は室内実験により、カシノナガキクイムシの飛翔特性、走光性、寄主由来の揮発性物質に対する反応を明らかにしたものである。評価できる点は以下の通りである。  (1) 野外では直接的な観察が困難な微小昆虫の飛翔生態を室内実験で解析し、平均時速が 4 km程度、最大飛翔距離は 30 km近くに達することなどを明らかにした。また、飛翔データの解析から、雌雄で異なる飛翔パターンやエネルギー配分様式を見出し、カシノナガキクイムシの野外生態解明と、その被害の防除に役立つ知見を得た。 (2) カシノナガキクイムシの飛翔に伴う行動の変化を、フライトミルを用いて明らかにした。飛翔に伴う走光性の低下と葉からの揮発性物質に対する反応性の増加について、羽化脱出から飛翔分散、寄主選択に至る過程における適応的意義を考察し、森林昆虫の寄主選択に関する重要な知見を得た。 (3) 健全葉と乾燥葉、寄主と非寄主の葉に由来する揮発性物質に対するカシノナガキクイムシの反応が明確に異なることを、Y字管による選択試験で明らかにし、カシノナガキクイムシが樹木の葉に由来する揮発性物質を寄主選択に利用している可能性を示した。カシノナガキクイムシが寄主選択に化学物質を利用していることについては多くの報告があるが、葉からの揮発性物質に関する報告は少なく、本知見は基礎的にも応用的にも意義がある。   以上のように本論文は、全国的に著しいナラ枯れを引き起こしているカシノナガキクイムシを対象に、その飛翔能力、飛翔に伴う行動変化とその適応的意義、誘引物質などについて、詳細な室内実験に基づいて明らかにしたものである。重大な森林被害をもたらす森林性昆虫が、寄主木から羽化脱出し、飛翔分散を経て新たな寄主木を選択するまでの過程を明らかにした本研究は、森林保護学、森林昆虫学、行動生態学の発展に寄与するところが大きい。  よって、本論文は博士（農学）の学位論文として価値あるものと認める。   なお、令和 2 年 8 月 24 日、論文並びにそれに関連した分野にわたり試問した結果、博士（農学）の学位を授与される学力が十分あるものと認めた。     注）論文内容の要旨、審査の結果の要旨及び学位論文は、本学学術情報リポジトリに掲載し、公表とする。 ただし、特許申請、雑誌掲載等の関係により、要旨を学位授与後即日公表することに支障がある場合は、以下に公表可能とする日付を記入すること。  要旨公開可能日：   年   月   日以降（学位授与日から３ヶ月以内） 

カシノナガキクイムシの飛翔と寄主選択に関する生態学的研究

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