伊藤 弓月

白鳥 周子

阿部 一樹

イトウ ユヅキ

ACGU / ACJC Academic Repository / 青森中央学院大学・青森中央短期大学学術機関リポジトリ

− 37 −[研究資料他]介護職の離職要因に関する一考察−介護職の職場定着を目指して−A Study on Factors of Care Worker TurnoverWith the aim of workplace fixation of long-term care workers伊藤　弓月※　　　阿部　一樹※※　　白鳥　周子※※Yuzuki ITO※　　　Kazuki ABE※※ 　Shuko SHIRATORI※※※青森中央短期大学　幼児保育学科Aomori Chuo Junior College, Department of Infant Education※※社会福祉法人　中央福祉会Social Welfare Corporation Chuo FukushikaiKey words；介護人材、離職問題、ワークライフバランスⅠ．背景と目的　「平成25年介護労働実態調査」によると、介護職の離職率は16.6％であり、他産業の12.4％に比べ高い離職率であることが明らかになっている。介護職の離職理由については、先行研究等において、職場の人間関係や給与水準、職務に対する満足度等に関する指摘や報告がなされている。そこで国においても処遇改善加算等、介護職に対する待遇の改善・向上に向けた取り組みを打ち出しているものの、現状において介護職の離職に対する問題解決には至っていない。このような状況下にあって、青森県Ｓ市で特別養護老人ホーム「Ａ園」並びに「Ｂ園」の２施設を運営しているＴ法人においても、以前より介護職の離職率の高さが問題となっていた。基幹施設であるＡ園では、平成25年度の介護職離職率が29.7％、平成26年度が18.9％であったことに加え、平成27年に開設されたＢ園においても、初年度の介護職離職率が18.8％、翌平成28年度は25％と、全国平均の16.6％を上回る事態となっていた。そこでＴ法人では、平成27年度より職員の雇用形態を大きく見直し、さらに平成28年度からは給与の支給内容を大きく見直すなど、介護職員に対する処遇改善に取り組んできた。その結果、Ａ園の介護職員の離職率は、平成28年度が2.7％、翌平成29年度は2.6％と、大きな減少が見られた。一方で、Ｂ園の平成29年度の介護職の離職率は14.3％と、以前に比べれば減少したものの、Ａ園ほど大きな減少には至っていない。　このような現状を受け、Ａ園では「介護職の働き方課題検討ワーキンググループ」を立ち上げ、介護職にとっての魅力ある職場、働きやすい職場を実現すべく、両園の全介護職員に対するアンケート− 38 −調査を実施し、離職に至る要因を探ると共に、働きやすい職場を実現するための要因をもまた探ることとした。Ⅱ．研究目的　本研究は、介護職の離職に至る要因、また働きやすい職場を実現するための要因を明らかにすることで、介護職の離職減少や職場定着を目指すための課題を見出すことを目的とした。Ⅲ．研究方法１．研究デザインおよび対象者　本研究は、質問紙を用いた無記名自記式調査研究とし、調査を受諾した青森県Ｓ市内において特別養護老人ホーム「Ａ園」並びに「Ｂ園」の２施設を運営しているＴ法人に勤務する介護職員65名を対象に、数回の集合調査法にて実施した。なお、調査は2018（平成29）年７月に行った。２．調査項目　質問内容は、対象者の基本属性（性別、年代、勤務年数）に加え、介護業務（24項目）、処遇・待遇（22項目）に関する質問を行った。３．分析方法　調査項目全体に対し、単純集計及び２変量の相関分析を行った。統計処理には統計ソフトSPSSバージョン24を使用。検定では有意水準を５％とした。４．倫理的配慮　対象者には、無記名式で個人が特定されないこと、研究目的以外に使用しないこと、同意せずとも今後の勤務等に不利益が生じないこと、研究協力は自由意志であることなどを説明の上、同意書の提出をもって同意を得たものとした。Ⅳ．結果１．回収結果　65名中、65名からの回答を得られた（回収率100％）。基本属性は、男性17名（26.6％）、女性46名（71.9％）で（無回答２名）、年代については、20代以下が13名（19.7％）、30代が18名（27.3％）、40代が15名（22.7％）、50代が11名（16.7％）、60代以上が８名（12.1％）であった（無回答１名）。さらに勤務年数については、３年未満が13名（46.9％）、５年未満が18名（14.1％）、10年未満が14名（17.2％）、15年未満が11名（14.1％）、16年以上が８名（５％）であった（無回答１名）。２．介護業務に関する項目（単純集計）　「介護の仕事が楽しいと感じることはありますか？」の問いに対しては、「はい」が84.4％、「いいえ」が7.8％、「わからない」が7.8％、「利用者さんとのコミュニケーションが楽しいですか？」の問いに対しては、「はい」が87.5％、「いいえ」が3.1％、「わからない」が9.4％であった。また、「介護の仕事が自分に合っていると思いますか？」の問いに対しては、「はい」が53.1％、「いいえ」が1.6％、「わからない」が45.3％であり、さらに「介護、福祉の仕事に将来性を感じます− 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−か？」の問いに対しては、「はい」が60.9％、「いいえ」が14.1％、「わからない」が25.0％であった。　次に、「排泄介助で不安に思うことはありますか？」の問いに対しては、「はい」が23.4％、「いいえ」が57.8％、「わからない」が17.2％、「食事介助で不安に思うことはありますか？」の問いに対しては、「はい」が50.0％、「いいえ」が34.4％、「わからない」が15.6％、「入浴介助で不安に思うことはありますか？」の問いに対しては、「はい」が35.9％、「いいえ」が48.4％、「わからない」が14.1％、「移乗介助で不安に思うことはありますか？」の問いに対しては、「はい」が51.6％、「いいえ」が34.4％、「わからない」が12.5％、「介護記録で不安に思うことはありますか？」の問いに対しては、「はい」が46.9％、「いいえ」が31.3％、「わからない」が20.3％、「ITC導入に対するリテラシー（扱い能力）に不安を抱えていますか？」の問いに対しては、「はい」が25.0％、「いいえ」が20.3％、「わからない」が53.1％であった。３．処遇・待遇に関する項目（単純集計）　「ワーク・ライフ・バランスはとれていますか？」の問いに対しては、「はい」が45.3％、「いいえ」が21.9％、「わからない」が32.8％、「現在の生活や将来に不安を抱えていますか？」の問いに対しては、「はい」が59.4％、「いいえ」が31.3％、「わからない」が9.4％であった。次に、「職場が好ですか？」の問いに対しては、「はい」が64.1％、「いいえ」が6.3％、「わからない」が29.7％であり、「職場に相談できる人はいますか？」の問いに対しては、「はい」が82.8％、「いいえ」が9.4％、「わからない」が7.8％であった。　さらに「仕事を辞めたいと思ったことはありますか？」の問いに対しては、「はい」が57.8％、「いいえ」が29.7％、「わからない」が12.5％であり、「給料に満足していますか？」の問いに対しては、「はい」が23.4％、「いいえ」が54.7％、「わからない」が21.9％であった。４．各項目間における相関（２変量の相関分析）　各項目間で２変量の相関分析を行った結果、「仕事を辞めたいと思ったことはありますか？」と多項目との間に相関がみられた。まず、「現在の生活や将来に不安を抱えていますか？」との間でやや弱いながらも相関（r = .318, p < .005）がみられたほか、介護技術に関する各質問項目との間で同様の相関がみられた。具体的には、「排せつ介助で不安に思うことはありますか？」（r = .321, p < .005）、「食事介助で不安に思うことはありますか？」（r = .363, p < .001）、「入浴介助で不安に思うことはありますか？」（r = .316, p < .005）、「移乗介助で不安に思うことはありますか？」（r = .366, p < .001）、「介護記録で不安に思うことはありますか？」（r = .378, p < .001）などとの相関であり、特にこれ等は勤務年数３年未満に多くみられた。　また、「健康面（腰痛以外）に不安を抱えていますか？」と「職場に相談できる人はいますか？」（r = .−314, p < .001）、「職場で困った時に助けてくれる人はいますか？」（r = .−344, p < .001）との間では、弱いながらも負の相関がみられた。さらに、「介護の仕事が楽しいと感じることはありますか？」と「服装、身だしなみについて厳しいと感じますか？」との間には、やや強い相関がみられた（r= .508, p < .001）。　なお、「仕事を辞めたいと思ったことはありますか？」と「給料に満足していますか？」との間には、相関がみられなかった（r=.−048, p < .707）。− 40 −Ⅴ．考察　上記の２項目間における相関分析の結果を受け、Ｔ法人における介護職定着に向けた課題は３点ほどあると考えられる。まず１点目は、現職経験３年未満の介護職ほど、介護技術に不安を感じ、離職を考えたことがあるという現状である。このことは、Ｔ法人内において人材育成がまだまだ不十分な状態にあると推察できよう。養成校等の新卒介護職のみならず、既に他所にて現場経験を持つ介護職も含め、今後は新人職員に対し、勤務初年度から暫くの間、経験のある介護職によるサポート体制の構築が必要であると考える。　続いて２点目は、仕事の不安を相談できる相手が居ない、業務を助けてくれる人が居ないという現状である。このことは、Ｔ法人内が安心して働ける職場環境の実現に至っていない状態であると推察できよう。よく言われることであるが、職場内における円滑なコミュニケーションをどう実現していくかが今後の課題であると考える。　そして３点目は、介護の仕事自体は楽しいと感じながらも、服装や身だしなみについて不満を感じている現状である。このことは、Ｔ法人が働き易い職場環境の実現に至っていない状況であると推察できる。今後は就業規則の見直しを含め、改めて法人内で働きやすい職場の実現に向けた議論を進めていくことが必要であると考える。　一方で、離職と給与の不満との間に相関がみられなかったことから、Ｔ法人内には、給与以外の部分で勤務し続けられる“何らかのプラス要因”が存在していることが推察できよう。Ⅵ．まとめ　本研究は、介護職の離職要因を明らかにするため、介護職を対象に介護業務や処遇・待遇について調査した結果、以下の課題が明らかになった。１　勤務年数の浅い職員に対し、介護技術をはじめとした日々の業務に対するフォローアップの必要性があること。２　どの職員であっても、相談できる相手や助け合える相手が存在するような「風通しの良い」職場の実現を目指す必要性があること。３　「働きやすい職場環境」の実現に向け、職場全体で考えていく必要性があること。Ⅶ．本研究の限界と今後の課題　本研究は、調査対象であるＴ法人のＡ園及びＢ園の介護職員のみに対して実施した調査であった為、全国的な調査等、更なる広範囲での調査を行った場合には別の結果が生じる可能性がある。今後の課題としたい。付記本論文の一部は、2018年10月の第11回日本ヒューマンケア科学学会学術集会において報告した。参考文献１）公益財団法人介護労働安定センター：平成29年度「事業所における介護労働実態調査」．2018．− 41 −２）公益財団法人介護労働安定センター：平成29年度「介護労働者の就業実態と就業意識調査」．2018．３）厚生労働省：介護労働の現状．2013．４）中澤秀一：介護職員の離職とその要因～環境因子及び個人因子からの考察～，キリストと世界28号，2018．

介護職の離職要因に関する一考察―介護職の職場定着を目指して―

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介護職の離職要因に関する一考察−介護職の職場定着を目指して−

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