付記する学位プログラム名: グローバル生存学大学院連携プログラム京都大学0048新制・課程博士博士(工学)甲第22432号工博第4693号新制||工||1733(附属図書館)京都大学大学院工学研究科建築学専攻(主査)教授 牧 紀男, 教授 神吉 紀世子, 教授 小林 広英学位規則第4条第1項該当Doctor of Philosophy (Engineering)Kyoto UniversityDFA

Otsuyama, Kensuke

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TitleLost in Mobility and Immobility Examining Trade-off Relationon Disaster Recovery through A Multiple-Case Study inMyanmar and U.S.( Abstract_要旨 )Author(s)Ot uyama, KensukeCitationKyoto University (京都大学)Issue Date2020-03-23URL https://doi.org/10.14989/doctor.k22432Right許諾条件により本文は2021-03-20に公開Type Thesis or DissertationTextversionETDKyoto University  京都大学 博士（工学） 氏名 大津山 堅介 論文題目 Lost in Mobility and Immobility Examining Trade-off Relation on Disaster Recovery through A Multiple-Case Study in Myanmar and U.S. （被災者移動と復興のトレードオフ関係の考察 ―ミャンマー・米国における国際事 例研究―） （論文内容の要旨） 本論文は、自然災害復興政策の差異に着目し、人口流動性と資産・資源の関係性をトレードオフ関係と捉え、リスクへの対処もふまえ、自然資源に依存し均質性が高い「在地社会」と現代都市に見られる「人口流動性の高い社会」における世帯レベルの復興プロセスを国際事例研究によってモデル化するものである。本稿ではミャンマー農村部洪水常襲地と米国フロリダ州都市部を国際事例研究の調査対象地としている。本論文は全 7 章構成となっており、各章の詳細は以下の通りである。 第 1 章では経済的資産に基づく移住と脆弱性のトレードオフに関する既往研究、在地社会に見られるリスク対応としての「在地リスク回避」の概念を整理した上で、本研究で用いる Structure and Agent Model を概説し、研究目的、対象地選定の意義について論じている。Structure and Agent Model とは社会学、計画学で用いられる概念であり、本研究では Structure とは防災政策体系、Agent とは被災地における住民の対応と位置付けている。また本論文の研究意義に触れ、日本における復興事例を客観的に見る相対的視点の提供と災害復興の事前検討に資する基礎資料となることを示した。 第２章では Structure 研究として、グローバルな視点で災害復興政策体系を概観し、事例対象となりうる国の選定を行っている。政策介入が低くかつ人口流動性の低い事例として気象災害がリスクの高いミャンマーのデルタ地帯を、その対照事例として政策介入がなされ、かつ人口流動性が高い米国において気象災害リスクの高いフロリダ州を選定した。また米国では被災経験をふまえ綿密な政策体系を構築されてきたこと、特にフロリダ州では復興体制が高度化されていること、一方ミャンマーにおいては地域レベルでは防災政策の実装に課題が残されていることを明らかにした。 第３章では一つ目の Agent 研究として、洪水常習地であるミャンマー農村部での復興事例を対象に「在地リスク回避」に見られる予防原則と弱者生存権についての検証を行っている。調査対象地であるミャンマー南西部のデルタ地帯に位置するエヤワディ地方ヒンダタ区は、歴史的にモンスーン期の洪水に晒されていた地域であり、英国植民地時代の 1870 年代に土塁堤防が建設された。堤防はヒンダタ区の洪水防止による都市施設保護に貢献し、農地の拡大及び税収の向上は実現したが、2015 年に発生した大洪水では堤防外の村において約 2 か月を超える浸水被害が発生した。堤防内外での復興対応の違いを明らかにするためヒンダタ区 Leik Chaung Village Tract から無作為抽出により堤防内外各２つの村を選択し、合計 80 世帯に対して半構造化インタビュー調査を実施した。調査の結果、堤防の内外で住宅と生業に大きな違いがみられ、復興においても堤防の内外では異なる対応が取られていることが明らかになった。堤防外の村落では長期の冠水に耐えうる高床式住宅となっており、収入と床高に正の相関が見られる一方、堤防内の家屋は相関がみられず、災害対策としては堤防に依存していることが明らかになった。また、堤防内の生業は稲作とビンロウの栽培が主な収益源となっているため、破堤した場合に甚大な被害が懸念される一方、堤防外の村落では耐水植物である葦を使ったマット生産が弱者生存権として機能していた。以上のこと京都大学 博士（工学） 氏名 大津山 堅介 から、堤防外の集落では洪水に適応するため住宅と生業を変化させ災害対応能力を向上させてきた一方、堤防内の村落では堤防への依存が生じ、堤防保護が唯一の災害対策となっていることを明らかにした。  第４章では、米国における Structure 研究として、「事前復興計画パイロットプロジェクト」から約 10 年が経過したフロリダ州の自治体を対象に事前復興計画の見直し状況についての検討を行っている。分析の結果、事前復興計画から「復興準備」の要素を抽出し「復興計画」として独立させることにより復旧計画に留まっていた事前復興計画が長期復興も含む計画としてきていること、市と協調することで中間自治体である郡による事前復興の取組みが実効性を持つものとなっていること、住民参加による計画策定は見られず地域住民との接続性は限定的であること、を明らかにした。 第５章では米国フロリダ州における Agent 研究として、人口流動性を、流動性(Mobility)、不動性 (Immobility)、移動できない人々  (Trapped Populations)に分類し、緊急時に頼れる対象を有するソーシャルサポートが移動とトレードオフの関係にあると仮定し、ハリケーン・イルマ（ 2017）の被害を受けたヒルスボロウ郡を対象に検討を行っている。ミャンマーと同様、対面式質問紙調査法を用い、民族・収入が異なる４つの住区を調査対象とし 82 世帯に対して調査を行った。調査の結果、居住年数とソーシャルサポートに有意差（5％）が見られ、移住回数が多い世帯はソーシャルサポートが少ないのに対し、移住回数が少なく同地区に長く居住している世帯のソーシャルサポートは多いことを明らかにした。また今後の移住を予定している世帯は 5 年以下の居住者が多く、また住宅の保険所有率も低いことから、低所得層が移住を繰り返していることも明らかとなった。さらに移住すべきか判断がつかない世帯は、被災経験を有し、ソーシャルサポートが少ない「移動できない人々」の特徴を持っていることが明らかとなった。以上からフロリダ州の事例ではミャンマーでみられたような在地リスク回避の対応は見られず、個人対応のみでリスク対応が行われていることが明らかとなった。また、流動性が高かいことによりソーシャルサポートが喪失されていることも示唆された。  第６章では総合考察として、ミャンマー、米国の事例から類似点と差異の抽出を行っている。両国の共通項として、ミャンマーにおける堤防に依存した集落及びフロリダの事例における「移動できない人々」には、社会的に醸成された無知（Construct Ignorance）が存在し、想定外への備えに対して構造的な課題を有していること、流動性が高い集団は、繰り返される移住や経済的資産と自然資源に紐づく地域との接続性の切断によって没場所性  (Placelessness) に陥る可能性があることを指摘した。 第７章では、リスク対処、住民移住と資産・資源のトレードオフ関係の概念モデルを示している。既往研究で示された収入と移動の単一的な相関関係に留まらず、富裕層と貧困層の二つの移住が見られること、資産・資源には、経済的資産保有に加え自然資源に紐づく地域との接続性が存在し、各々の資産・資源の所有、両方保有、両方の欠乏という４つの段階が存在すること、経済的資産・地域との接続性の両方保有する住民が「不動性」有することを明らかにした。また両資産・資源の欠乏によって没場所性に陥る「移動できない人々」に対する政策的介入の必要性を指摘した。         氏 名 大津山 堅介 （論文審査の結果の要旨）  本論文は、リスク対処、人口移動の差異、及び住民の資産・資源を保護すべく構築された制度設計に着目し、人口流動性と資産・資源をトレードオフ関係として捉え、防災政策体系が整備された地域と整備されていない地域における国際事例研究によって、資産・資源を活用した被災住民らの復興適応策を明らかにした研究である。結論として提案された、リスク対処もふまえた、住民移住と資産・資源のトレードオフ関係の概念モデルは、既往研究では説明できなかった新たな二つの流動性を示し、経済的資産と自然資源に紐づく地域との接続性を有する住民が「不動性」持つことを明らかにしている。 また、両資産・資源が欠乏する「移動できない人々」についての政策介入の必要性を示しており、新規性に富む研究となっている。得られた主な成果は次のとおりである。  1. 人口の移動は、資産（資源）を持つ富裕層だけではなく、家屋の保険を持たず被災経験の多い世帯にも見られ、既往研究が示す経済的資産と移動性という単一の相関関係ではない流動性の存在を示した。  2. 経済的資産と自然資源に紐づく地域との接続性を有する住民が「不動性」を持つ集団であることを明らかにした。  3. 「移動できない人々」には潜在的なリスクとして、社会的に醸成された無知（Construct Ignorance）によって生じうる想定外の事態に対する脆弱性を持つことを指摘した。  4. 復興のプロセスを俯瞰的に理解する上で有用な、住民移動、リスク対処、資産・資源のトレードオフ関係も踏まえた新たな概念モデルの提案を行っている。  以上のように、本論文は、国際事例研究を通じて、リスク対処、人口流動性と資産・資源のトレードオフ関係のモデルを世帯レベルの綿密な現地調査によって示したもので、学術上、実際上寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士（工学）の学位論文として価値あるものと認める。また令和２年１月１７日、論文内容とそれに関連した事例について試問を行い、申請者が博士後期課程学位取得基準を満たしていることを確認し、合格と認めた。  要旨公開可能日：     年   月   日以降  

被災者移動と復興のトレードオフ関係の考察―ミャンマー・米国における国際事例研究―

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/253268/1/ykogk04693.pdf

被災者移動と復興のトレードオフ関係の考察―ミャンマー・米国における国際事例研究―

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