京都大学0048新制・論文博士博士(理学)乙第13321号論理博第1568号新制||理||1663(附属図書館)名古屋大学大学院生命農学研究科(主査)教授 石田 厚, 教授 田村 実, 教授 永益 英敏学位規則第4条第2項該当Doctor of ScienceKyoto UniversityDFA

Harayama, Hisanori

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TitleLeaf ecophysiology of lucidophyllous trees growing near theirnorthern limits in Japan( Abstract_要旨 )Author(s)Harayama, HisanoriCitationKyoto University (京都大学)Issue Date2020-03-23URL https://doi.org/10.14989/doctor.r13321RightType Thesis or DissertationTextversionETDKyoto University  （ 続紙 １ ）                             京都大学 博 士（ 理 学 ） 氏名 𠩤山 尚徳 論文題目  Leaf ecophysiology of lucidophyllous trees growing near their northern limits in Japan (北限域に生育する照葉樹の葉の生理生態特性)  （論文内容の要旨）  照葉樹は東アジアに広く分布する常緑広葉樹林の優占樹種であり、特に葉の表面にあるクチクラ層が発達し、照り輝く葉を持ち、またその葉も厚いことが特徴である。照葉樹林の北限は主に冬の低温（寒さの指数）によって規定されていることがよく知られている。また冬越しする常緑葉を持つが、特に気温の低下する冬季にその光合成速度は著しく低下することが良く知られている。そのため常緑広葉樹林の葉は、冬季の細胞外凍結による強度の脱水ストレスや、炭素獲得量の減少につながる光合成の低下など、冬の低温に伴う生理生態学的な制約に対処する必要がある。しかしながら、こうした制約に対する照葉樹の葉の生理生態学的な適応については、十分に理解されていない。そこで本研究では、日本の北限近くに生育する照葉樹について、葉の水分特性、光合成特性、および乾燥ストレスに対する気孔制御の点から、冬の低温に対する照葉樹の葉の生理生態学的適応について研究した。特にこの研究で初めてわかってきた重要な三点について以下に要約する。  第一に、照葉樹の当年葉の水分特性の季節変化を調べ、細胞外凍結などによる冬季の脱水ストレスに対して、照葉樹の当年葉がどのように対処しているのか検討した。その結果、研究した照葉樹全３樹種において、葉の耐乾性の指標となる十分に吸水したときの浸透ポテンシャル、および膨圧を失い萎れるときの葉の水ポテンシャルの値は、真冬に最低値を示し、葉の耐乾性が真冬に最大となることが明らかとなった。冬季に細胞内水割合や葉乾重あたりの含水量が低下したこと、また、秋から冬季にかけて葉面積あたりの乾重と十分に吸水したときの浸透ポテンシャルの間には負の相関が認められた。このことから照葉樹の当年葉では、冬季に細胞壁が厚くなり細胞内水量が低下することで、受動的な浸透調節が生じ、葉の耐乾性が高まっていることがわかった。このように照葉樹は、葉面積あたりの乾重が高く、厚い葉の形成が、照葉樹当年葉の冬季の脱水ストレス耐性の向上に寄与すると考えられた。  第二に、照葉樹の当年葉について、厚い葉の形成に伴う葉の成熟遅延と冬季低温による光合成の低下よる炭素獲得量の低下に対する、生理生態学的な補償作用について研究を行った。当年葉の炭素獲得量の低下に対する適応として、１）展葉時期を早める、２）光合成能力を高める、３）シュートあたりの葉面積を増やす、という３つの仮説が考えられた。これらの仮説を証明するため、日本のブナ科の中から、照葉樹として常緑性のカシ類４樹種、その対照として冬季落葉性のナラ類１樹種を用いて検証  した。常緑性カシ類において、葉面積あたりの乾重が高く葉の成熟に時間がかかる種ほど展葉時期が早い傾向が認められた。しかし葉の成熟に最も時間がかかった種では、他の常緑カシ２樹種よりも葉の成熟が１週間程度遅れて完了した。また、葉の成熟完了時期が遅い樹種ほど、葉乾重あたりの光合成速度、および光合成窒素利用効率が高い傾向が認められた。一方、葉の成熟時間や成熟完了時期とシュートあたりの葉面積について、明瞭な傾向は認められたなかった。これらの結果より、冬の寒さによって制限された光合成期間による減少した炭素獲得を補うメカニズムとして、上記１）の早い展葉時期仮説に関しては一部寄与、２）の高い光合成能力仮説は支持、３）のシュート構造仮説は否定された。さらに研究した日本の常緑性カシ類のデータを、地球規模の葉特性データベースを用いて、他の暖温帯に生育する常緑樹種と比較した。その結果、世界の常緑樹種と比べ、日本の常緑性カシ類の方が葉窒素濃度および葉乾重あたりの光合成速度が有意に高かった。また葉窒素濃度、重さあたりの光合成速度および光合成窒素利用効率間の相関関係が、地球規模で認められる傾向と常緑性カシ類では大きく異なった。これらの結果から、北限域に生育する常緑性カシ類では、冬季の低温および厚い葉の形成によって生じる炭素獲得量の低下に対して、開葉を早めつつ、光合成能力を高めることで適応していることが示唆された。  第三に、照葉樹の葉が、光合成が活発な生育期に乾燥ストレスに対してどの様に気孔を制御しているのかを、葉の通水性と関連して検討した。生活型や葉脈構造の異なる照葉樹の常緑性カシ２樹種、冬季落葉性広葉樹２樹種、および落葉ツル植物１種の５つの植物種を用いて研究を行った。葉の通水性には、葉脈構造と、アクアポリンの活性や量によって大きく規定されると考えられる。そこで異なった水の経路を遮断するため、主脈系葉脈の通水遮断（葉脈の人為的切断）や、アクアポリン阻害（塩化水銀の吸水）によって葉の通水性を低下させた。その結果、研究したすべての種で、気孔コンダクタンスが低下した。そのことから、葉の通水性が気孔制御に直接的に関与しうることが示唆された。常緑性カシ類は、落葉広葉樹と同様、水ポテンシャルの低下に対して緩やかに気孔を閉鎖させたのに対し、ツル植物は、気孔を素早く閉鎖させ、水ポテンシャルは高く維持された。研究した植物種間において、アクアポリン阻害による葉の通水コンダクタンスや気孔コンダクタンスの低下割合と主脈系葉脈密度には負の相関が認められたことから、葉の通水性や気孔制御に関連し、葉脈構造とアクアポリン活性にトレードオフ関係が存在する可能性が示唆された。この結果から、照葉樹の葉は、主脈系葉脈に投資を行うことで、冬季低温に対する適応として高まっている光合成能力を、乾燥ストレス時にも持続的に活用できることが示唆された。         （続紙 ２ ）                            （論文審査の結果の要旨）  本学位論文は、常緑広葉樹林の東アジアの北限域に生育する日本の照葉樹の葉が、どのように冬の低温による制約に対処しているか、その生理生態学的な適応様式を初めて明らかにした。日本に生育する照葉樹は、常緑樹としてはその分布の北限域に生育することから、冬の寒さに対処する必要がある。しかしながら今まで、照葉樹の葉がどのように冬季の低温に対処しているか、明らかではなかった。それに対し、特に分布北限に位置する日本の照葉樹種の葉は、海外の常緑広葉樹種の葉と比べ、厚い細胞壁による厚い葉、高い窒素濃度による高い光合成能力を持っているといった、特異な特性を持つことを世界で初めて明らかにした。照葉樹は、夏よりも冬に強い脱水ストレスを受けていた。そしてその厚い細胞壁が、受動的な浸透調節を通じて細胞の脱水ストレス回避に大きく寄与していることを明らかにした。また冬の寒さによって光合成速度は大きく低下し光合成に有効な期間を減少させるが、その高い葉の窒素濃度による高い光合成能力により、夏季の炭素獲得量を増加させ、冬季の炭素獲得の低下を補っていることも明らかにした。このように照葉樹が持つその特異な形質が、寒い冬季を乗り越えるのにどのように寄与しているかも明らかにした。さらにこの研究によって明らかになってきた、葉の様々な形質間の相関関係や乾燥ストレスに対する気孔制御メカニズムは、今後の温暖化による気候変動環境下での生態系の変化予測のモデリングの向上にも貢献できるものと評価された。 よって本論文は、博士（理学）の学位論文として価値あるものと認める。令和２年１月２０日に専門（植物学）と外国語（英語）の試問を行った結果、合格と認められ、また令和２年１月２１日に論文内容とそれに関連した事項について試問を行った結果、合格と認めた。                要旨公表可能日：   年   月  日以降 

北限域に生育する照葉樹の葉の生理生態特性

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