京都大学0048新制・課程博士博士(理学)甲第22238号理博第4552号新制||理||1654(附属図書館)京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻(主査)教授 松田 祐司, 教授 石田 憲二, 教授 寺嶋 孝仁学位規則第4条第1項該当Doctor of ScienceKyoto UniversityDFA

Naritsuka, Masahiro

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Title Controlling unconventional superconductivity in artificiallyengineered heavy-fermion superlattices( Abstract_要旨 )Author(s)Naritsuka, MasahiroCitationKyoto University (京都大学)Issue Date2020-03-23URL https://doi.org/10.14989/doctor.k22238RightType Thesis or DissertationTextversionETDKyoto University  （ 続紙 １ ）                             京都大学 博 士（ 理 学 ） 氏名 成塚 政裕 論文題目 Controlling unconventional superconductivity in artificially engineered heavy-fermion superlattices （重い電子系人工超格子における非従来型超伝導の制御） （論文内容の要旨） 強相関電子系の物理は、現代の固体物理学におけるホットトピックであり、理論・実験の両面から盛んに研究が行われている。実際、強相関電子系においては非フェルミ液体、超伝導と磁性・新奇秩序相の共存、非従来型超伝導などが観測されている。なかでも非従来型超伝導の解明は強相関電子系の研究における中心課題のひとつである。現存するほとんどの超伝導体では、ゲージ対称性のみが破れ格子振動により電子対形成が起こるのに対し、非従来型超伝導体はゲージ対称性以外の対称性の破れや格子振動とは別の対形成機構で特徴づけられる。したがって、複数の対称性が破れた超伝導状態や対形成機構を解明することが最重要課題である。例えば、ある種のCe系化合物やU系化合物では、空間反転対称性や時間反転対称性の破れた超伝導体が示唆されており、特異な超伝導状態の出現が理論的に予言されている。また、強相関電子系においてはしばしば秩序相の消失点（量子臨界点）近傍で発現することが知られており、磁気ゆらぎ等を媒介とした超伝導が実現すると示唆されている。これまで強相関電子系における超伝導体の研究はバルク物質を用いて行われてきたが、成塚氏は新しいアプローチとして異種物質を交互積層させた超格子構造を用い、以下の２つの内容について研究を行った。  (1) 三色超格子による空間反転対称性の破れた超伝導の研究 近年、空間反転対称性の破れた結晶構造を持つ物質群における超伝導が発見されている。このような系では空間反転対称性の破れに伴うスピン軌道相互作用により、スピン分裂したバンド間で対形成が起こるため、スピン一重項状態と三重項状態の混成状態（パリティ混成）が実現する。さらには磁場中で重心運動量を持つ対状態やトポロジカル超伝導などの興味深い超伝導状態が実現することが理論的に示唆されている。このようなスピン軌道相互作用の効果は、強い電子相関によりさらに顕著に現れることが期待されており、これらの関係を明らかにすることは新奇超伝導状態を探索する上で極めて重要である。これまでバルク物質や二次元電子系において空間反転対称性の破れた超伝導状態が発見されてきたが、バルク物質では空間反転対称性の破れの度合いは結晶構造により決定されてしまい、二次元電子系では強いスピン軌道相互作用を持ちそれを制御できるものの電子相関が弱いという問題があった。したがって、スピン軌道相互作用と電子相関の関係を明らかにするためには、スピン軌道相互作用を制御でき、かつ電子相関の強い二次元電子系の実現が望まれていた。  そこで成塚氏は、重い電子系超伝導体CeCoIn 5を用いた超格子で実現する二次元超伝導に着目し、人工的な空間反転対称性の導入を試みた。CeCoIn 5は重元素Ceを含むゆえスピン軌道相互作用が強く、さらに電子相関効果により電子の有効質量が自由電子の1000倍にも増強された重い電子が実現し、非常に強い電子相関をもつとともに非従来型超伝導を示す。また、通常金属とCeCoIn 5を交互積層した超格子を作製することで、重い電子超伝導の二次元閉じ込めが可能であることが示されている。CeCoIn 5自身は空間反転対称性を持つスピン一重項超伝導体であるものの、成塚氏はCeCoIn 5と二種類の通常金属を交互積層した三色超格子を作製することで、グローバルな空間反転対称性の破れを強い電子相関を持つ二次元超伝導体に人工的に導入することに初めて成功した。そして上部臨界磁場を詳細に調べることにより、以下の重要な知見を  得た。 (i) 超格子構造における超伝導層の厚みを制御することで、スピン一重項超伝導体における対破壊効果のひとつであるパウリ対破壊効果が大きく抑制されることを示し、スピン軌道相互作用に伴うパリティ混成を人工的に制御できることを明らかにした。 (ii) グローバルな空間反転対称性の破れを導入することにより、空間反転対称性をもつバルク物質では観測されない上部臨界磁場の異常な上昇を極低温において観測した。これはヘリカル状態やストライプ状態と呼ばれる、理論的に予言されたものの実験的には観測されてこなかった重心運動量を持つ対形成状態の形成を示唆するものである。  (2) 超伝導体/反強磁性体ハイブリッド超格子を用いた非従来型超伝導の制御  銅酸化物高温超伝導体、鉄系高温超伝導体、有機物超伝導体、重い電子系化合物超伝導体などの強相関電子系化合物において、非従来型超伝導はしばしば反強磁性量子臨界点近傍に現れ、反強磁性揺らぎを媒介とした対形成機構が実現していると信じられている。CeCoIn 5の超伝導も反強磁性量子臨界点近傍に出現することが示唆されているが、これまでのバルク物質における精力的な研究にも関わらず、超伝導と磁性の関係は依然として謎に満ちていた。  成塚氏は新しいアプローチとして超伝導体と反強磁性体を交互積層したハイブリッド超格子を作製し、隣接した超伝導層と反強磁性層の間の相互作用を調べた。成塚氏はまず類似した準二次元電子構造を持つ超伝導体CeCoIn5と反強磁性体CeRhIn5を用いた超格子を作製し、電気輸送測定や上部臨界磁場測定により、超伝導と反強磁性がともに二次元閉じ込めされ、それが交互積層して共存した状態が実現していることを示した。さらにロスアラモス国立研究所において高圧下電気輸送測定を行い、反強磁性層を量子臨界点近傍に制御することで、超伝導層と量子臨界点近傍の磁性層が交互積層した前例のない物質系の実現に成功した。これにより、隣接する磁性層の量子臨界揺らぎが超伝導層にどのような影響をもたらすかを調べることが可能となった。上部臨界磁場の精密測定を行うことにより、磁性層を量子臨界点に近づけることで電子間の対形成相互作用が大きく増大されることを示した。これは磁性層の量子臨界ゆらぎが隣接する超伝導層に侵入し、注入された磁気揺らぎを通じて超伝導電子対の対形成相互作用が増強されることを示している。対形成相互作用は従来の超伝導状態に比べて極めて大きく、前例のない超強結合超伝導状態が実現していることが明らかとなった。以上の成果は超伝導の新しい人工制御方法を提案するものである。 さらに成塚氏は、反強磁性体CeIn3を用いたハイブリッド超格子を作製し、界面を通じた超伝導層と反強磁性層の間の相互作用についてさらに詳細な研究を行った。CeRhIn5が準二次元的な電子構造を持つのに対し、CeIn3は三次元的な電子・磁気状態を持ち、かつCeRhIn 5に比べて高い反強磁性転移温度を示す。層数依存性を詳細に調べた結果、CeCoIn5/CeRhIn5超格子ではCeRhIn5層間結合がない一方、CeCoIn5/CeIn3超格子ではCeIn3層間結合が存在し、超格子全体で3次元的な反強磁性秩序が実現し、この反強磁性が超伝導と共存していることが明らかとなった。このことは、CeCoIn 5層にも磁気モーメントが誘起されていることを示唆している。さらに圧力により磁性層を量子臨界点近傍に制御し、上部臨界磁場測定を行うことで超伝導層の対形成相互作用の変化を調べた。その結果、CeCoIn5/CeRhIn5超格子とは異なり対形成相互作用はバルクと同程度であることが明らかとなった。以上の結果は注入される揺らぎの次元性により対形成への影響が大きく異なり、CeCoIn 5において三次元的な磁気ゆらぎではなく二次元的な磁気ゆらぎが対形成に本質的な役割を果たしていることを示唆している。成塚氏の成果は、これまでバルク物質の研究では明らかにされてこなかった対形成機構を解明する、極めて重要なものである。      （続紙 ２ ）                            （論文審査の結果の要旨） 凝縮系物理学における最も重要な問題のひとつは非従来型超伝導の発現機構である。多くの強相関電子系における超伝導体ではしばしば反強磁性秩序の消失点（量子臨界点）近傍で非従来型超伝導が発現することが知られており、磁気ゆらぎを媒介とした対形成機構が示唆されている。CeCoIn5はCe系重い電子系化合物の中で最も高い超伝導転移温度を示す超伝導体であり、量子臨界点近傍の非従来型超伝導が実現していると考えられてきたが、これまでの膨大な研究にも関わらず超伝導と磁性の関係は依然として謎に満ちている。本研究で成塚氏は、これまでのバルク物質を用いた研究とは異なり、超伝導体と反強磁性体を交互積層した超格子を用いた新しいアプローチと圧力下輸送測定を組み合わせた研究を行った。その結果、磁性層の磁気ゆらぎが隣接する超伝導層に侵入し、注入された磁気揺らぎを通じて超伝導電子対の対形成相互作用が増強されることを明らかにした。以上の成果は超伝導の新しい人工制御方法を提案するものである。また、二種類の超格子構造を作製することで、CeCoIn5において三次元的な磁気ゆらぎではなく二次元的な磁気ゆらぎが対形成に本質的な役割を果たしていることを明らかにした。  このように成塚氏の学位論文の研究内容は、バルク物質では明らかにされてこなかった対形成機構を解明するにとどまらず、超格子を用いた超伝導の人工制御法を提案するものである。したがって本論文はその学術的価値は高く、博士（理学）の学位論文として価値あるものと認める。また、令和２年１月１６日、論文内容とそれに関連した事項について試問を行った結果、合格と認めた。   要旨公表可能日：     年   月   日以降    

重い電子系人工超格子における非従来型超伝導の制御

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/253073/1/yrigk04552.pdf

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