京都大学0048新制・課程博士博士(工学)甲第22424号工博第4685号新制||工||1731(附属図書館)京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻(主査)教授 林 為人, 教授 小池 克明, 准教授 村田 澄彦学位規則第4条第1項該当Doctor of Philosophy (Engineering)Kyoto UniversityDFA

Kamiya, Nana

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TitleEvolution of the Mio-Pleistocene forearc basin induced by theplate subduction in the Boso Peninsula, central Japan(Abstract_要旨 )Author(s)Kamiya, NanaCitationKyoto University (京都大学)Issue Date2020-03-23URL https://doi.org/10.14989/doctor.k22424Right許諾条件により本文は2021-03-22に公開Type Thesis or DissertationTextversionETDKyoto University - 26 -  京都大学 博士（工学） 氏名 神 谷 奈 々 論文題目 Evolution of the Mio–Pleistocene forearc basin induced by the plate subduction  in the Boso Peninsula, central Japan （プレート沈み込みによる房総半島新第三系および第四系前弧海盆の形成過程） （論文内容の要旨） 日本列島は、世界でも有数の沈み込み型プレート境界に位置し、プレートの沈み込みにより発達してきた。そのため、列島の形成過程や沈み込み帯で発生する地震や火山噴火といった自然現象の理解において、沈み込みプロセスの解明は必要不可欠である。沈み込み帯には、海溝から陸側に向かって順に、付加体、隆起帯、前弧海盆、火山弧といった特徴的な一連の構造が形成される。これまで沈み込み帯の発達解明においては付加体が主要な研究対象とされてきたが、近年の研究により、前弧海盆においても沈み込み運動のプロセスが記録されていることが分かってきた。しかし、現有の掘削研究結果ではメソスケールの地質情報が抽出できない、掘削サイトが限定的であるため面的な広がりが捉えにくいといった問題がある。そこで、本研究では、プレート境界に位置し、沈み込み帯を構成する典型的な一連の地質体から成る房総半島に着目した。房総半島に露出した前弧海盆（房総前弧海盆）を研究対象として、地質踏査を中心とした地質構造解析、炭質物分析による古地温解析および圧密試験による最大上載圧検討を主軸として、房総前弧海盆の地質学的特徴および工学的特徴を統合的に検討し、プレート沈み込み運動による前弧海盆の形成過程を明らかにした。前弧海盆は、天然ガスなどの天然エネルギー資源が生成と貯留される場としての一面も担っており、前弧海盆の形成過程の解明は、資源生成と貯留プロセスの解明にも寄与することが期待される。本論文は７章からなり、それらの内容の概要は次のとおりである。 第１章では、序論として研究目的および研究背景について述べた。南海トラフに沿った西南日本の各地では、不整合の形成や堆積速度の急変といった大規模な地質イベントが同時期に発生したことが確認されており、フィリピン海プレートの運動方向変遷との関連が指摘されている。房総前弧海盆には、この地質イベントに該当する黒滝不整合が分布しているため、不整合を含む前弧海盆の形成過程を明らかにすることは、房総沈み込み帯におけるプレート沈み込み運動を考える上で重要である。また、房総前弧海盆に分布する堆積岩は、変成作用を受けていないため、堆積時の組織構造を保持していると考えられ、圧密履歴などの解析に適した研究対象といえる。   第２章では、研究対象である房総半島の地質学的背景について述べ、房総前弧海盆の特徴について既存研究をレビューしてとりまとめている。房総半島はプレートの沈み込み運動にともなって形成・発達してきた経緯がある。房総前弧海盆には、新第三紀から第四紀の堆積岩が分布し、半島を東西に横断する大規模な地質境界（黒滝不整合）を境に、その南北で発達する地質体の特徴が異なることや、黒滝不整合の削剝量が東西で異なることなどが指摘されてきた。しかしながら、古地温や埋没深度の詳細は明らかになっておらず、それらの特性が東西で同一であるかどうかは不明であった。  第３章では、房総前弧海盆の地質構造解析の結果をまとめた。現在、日本においては地質図や反射面地震波探査のデータが整備されている。しかし、地質図や地震波断面のみでは、数十センチから数メートル規模のメソスケールの構造を抽出できない。そこで、地質踏査を行い、房総前弧海盆を特徴づける地質構造を抽出し、断層や堆積物の微細構造の観察・分析を行った。その結果、房総前弧海盆は南部ほど変形が激し - 27 - 京都大学 博士（工学） 氏名 神 谷 奈 々 く、褶曲構造が発達していることが確認された。また、メソスケールの変位を伴う断層が確認され、それらの断層姿勢の傾向が、黒滝不整合を境に異なることを解明した。確認された断層の多くが、境界部が不明瞭な癒着した断層面をもち、地層が堆積直後の未固結な状態で形成されていることを見いだした。また、褶曲を伴って変形しているにもかかわらず、堆積物の微細構造は、圧密組織が卓越することが確認された。  第４章では、房総前弧海盆の古地温解析について述べている。一般に、堆積盆の温度は地温勾配に規制され、深部ほど高温となるため、露頭堆積物の被熱温度は、年代が古い堆積物ほど大きくなる。しかし、南部では隆起帯と接しているほか、房総前弧海盆は褶曲を伴って変形しており、地温勾配以外の影響を受けている可能性がある。そこで、堆積物の古地温とその温度分布を解明する目的で、ビトリナイト反射率測定を行い、房総前弧海盆の古地温を算出した。その結果、黒滝不整合より下位の層群では、全域において最高被熱温度がほぼ一様であるのに対し、上位の層群では、東西で最高被熱温度が異なることが判明した。また、黒滝不整合を境に、西部では明瞭な差異が確認されたのに対し、東部では明瞭な変化がみられなかった。房総前弧海盆の南部に分布する隆起帯の最高被熱温度が高いことを考慮すると、黒滝不整合の下位層群が、隆起帯からの熱移流によって広域的に被熱作用を受けた可能性を示唆した。 第５章では、泥質岩の圧密試験による最大埋没深度の検討について述べた。房総前弧海盆に分布する堆積岩は、工学的に堆積軟岩に分類され、圧密試験による圧密降伏応力の算出が可能である。この特性を利用して、各層準の最大上載圧を得る圧密試験を行った。その結果、西部と東部で圧密降伏応力の傾向に異なる特徴が明らかになったほか、圧密過程においてひずみ軟化現象という特異的な現象を見いだした。房総前弧海盆西部においては、黒滝不整合を境に圧密降伏応力の傾向が異なるのに対して、東部では、差異が見られなかったことから、黒滝不整合の上位層群の堆積過程が半島の東西で異なることが示唆された。また、東部における一部層準で、圧密が埋没深度に相応するように進行していない領域が確認され、過去に間隙水圧が高かったことを示唆する結果を得た。過剰間隙水圧の発生層準が海底地すべり堆積物の分布域と一致していることから、相互の関係性が見いだされた。このように、工学的手法である圧密試験を用いた地質学的検討により、これまで明らかでなかった新しい知見を得た。 第６章では、以上の結果を統合し、房総前弧海盆の形成過程について総合的な検討を行い、当前弧海盆の形成過程と広域テクトニクスとの関係について論じ、形成過程のモデルを新たに提示した。房総前弧海盆西部では、地質構造、最高被熱温度、圧密降伏応力の傾向に関するすべての特徴において、黒滝不整合を境に明瞭な違いが見られた。一方東部では最高被熱温度、圧密傾向ともに黒滝不整合上下での特徴の違いは見いだされず、圧密傾向は連続的であることが判明した。この東西バリエーションは、黒滝不整合形成後の上位層群の埋没深度の違いを反映していると考えられ、フィリピン海プレートの沈み込み運動の解明に重要な科学的証拠となることが期待される。 最後に、第７章では結論として本研究のまとめを記述した。地質構造、古地温、圧密履歴の解析を行い、房総前弧海盆の形成過程を統合的に解明したと共に、前弧海盆の泥質岩の圧密過程におけるひずみ軟化現象、過去の過剰間隙水圧の発生が判明した。  - 28 -   氏 名 神 谷 奈 々 （論文審査の結果の要旨） 沈み込み帯の主要な構造の一つである前弧海盆の形成過程の解明は、プレートの沈み込みプロセスに伴って発達してきた日本列島とその周辺において、プレート沈み込みにより発生する地震や火山活動などの各種事象を理解・解明するための基礎的な知見になるとともに、堆積盆に賦存する天然ガスなどの地下エネルギー資源の貯留条件の究明にも寄与するものである。これまで、沈み込み帯については付加体に関する研究が盛んになされてきたが、前弧海盆に関しては十分に研究されておらず、特に前弧海盆の形成過程の解明に不可欠な古地温分布や最大上載圧力の研究は、皆無に等しい状態であった。それに対して、本研究論文はフィリピン海プレートの沈み込みによる前弧海盆が陸上に広く分布する房総半島を研究対象とし、地質踏査を中心とした地質構造解析、古地温解析および最大上載圧力の測定を主軸として、房総前弧海盆の地質学的特徴および工学的特徴を統合的に検討し、プレート沈み込み運動に伴う前弧海盆の形成過程を明らかにした。得られた成果の概要は以下のようである。  (1) 房総半島の東西を横断する黒滝不整合を跨いで、三浦層群と上総層群において、メソスケールでの断層と地層の姿勢・特徴や堆積軟岩の微細構造について観察・分析を行い、房総前弧海盆内の褶曲構造や断層姿勢の分布傾向が黒滝不整合を境に異なることを明らかにした。 (2) 黒滝不整合をカバーする広域において多数の地点から採取した堆積物試料に含まれる微量の植物起源の炭質物を抽出して、ビトリナイト反射率の測定を行い、各地層の古地温データの分布を得た。その結果、黒滝不整合の上位と下位地層とでは、古地温の分布特徴が異なることを解明した。 (3) 房総前弧海盆の各層準における最大上載圧力を見積もる目的で、堆積軟岩試料の圧密試験を行った。その結果、房総前弧海盆の西部と東部で圧密降伏応力の傾向が異なるという特徴が明らかになったほか、軟岩の圧密過程においてひずみ軟化現象が生じるという特異的な現象を見いだした。 (4) 上記の結果を統合し、房総前弧海盆の西部では被熱温度と上載圧力が黒滝不整合を境に明瞭に異なる一方、東部では両者とも連続的であることが判明した。これらのことを踏まえ、房総前弧海盆と広域テクトニクスとの関係について論じ、それらを反映した前弧海盆の堆積・埋没・削剥などを含む形成過程のモデルを新たに提示した。  以上のように、地質学と地球工学の学際に位置する本研究では、プレート沈み込みによる房総半島新第三系および第四系前弧海盆の形成過程における古地温構造と最大上載圧力などに関する新知見が多く得られた。その学際的な研究手法は有用で、汎用性が高く、種々の関連研究にも広く応用でき、当該分野に対し、学術上、実際上寄与するところが少なくない。よって、本論文は博士（工学）の学位論文として価値あるものと認める。また、令和 2 年 2 月 20 日、論文内容とそれに関連した事項について試問を行って、申請者が博士後期課程学位取得基準を満たしていることを確認し、合格と認めた。 要旨公開可能日：令和２年３月２３日以降  

プレート沈み込みによる房総半島新第三系および第四系前弧海盆の形成過程

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/253260/1/ykogk04685.pdf

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