小島 道裕

榊原 滋高

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小島, 道裕

コジマ, ミチヒロ

榊原, 滋高

サカキバラ, シゲタカ

Kojima, Michihiro

Sakakibara, Shigetaka

National Museum of Japanese History Repository

第 2章遺跡の位置と歴史的環境じゅうさんこ とさみなと津軽半島の西側，岩木川が日本海へと流れ出る手前に十三湖がある。十三湊遺跡はその西側の砂洲上に， J福喜被うは北岸の台地上にそれぞれ位置している（第2図， 3図）。現在は共に青森県北津軽郡市浦村に属しているが， 1955年の合併による市浦村成立以前は，福島城は北津軽郡結局村，十三湊遺跡は西津軽君併竺加に属しており，両者は必ずしも常に一体の地域に属していたわけではない。この地方が日本という国家に組込まれたのは遅く，前九年・後三年の役を経た後の12世紀，奥州藤原氏の時代からと恩われる。十三湊である程度遺物が見られるようになるのもこのころからである。そして鎌倉期にいたり，北条氏の被官安藤氏が蝦夷管領（蝦夷代官）に任じられ，この地方と蝦夷の管轄に当ったことが知られている。民族としての蝦夷の問題についてはここではあえて触れないが，この地方にアイヌ語地名が多く見られることは注意すべきであろう。十三湊の「トサ」の語源は「トー・サム（湖・の傍）」というアイヌ語であるとする説が有力であり〔金田一もや1932，山田 1989〕Il 十三湊の北に見える秀麗な三角形の霜山も，モ・イワ（小さい・ （神の住む）山）というアイヌ語地名に由来すると言われ，この付近一帯にはかつてアイヌ語を話す人々が広範に居住していたことは間違いなく，それは十三湊・福島城といった遺跡が成立した歴史的前提としても見逃すことのできない条件であったと思われる。津軽地方は，擦文文化など考古学的に知られる面でも北海道とも密接な関係があり，歴史的に，中央の権力が及び難い時代には，北海道側と強く結び、つく傾向があったようである。南北朝～室町期には，中央の権力の低下と相侯って安藤氏が大きな勢力を持ったようだが，この間の歴史については信頼しうる文献が非常に少なく，具体的な様相は知りがたい。ただ，永享4年 (1432）には安藤氏が南部氏に敗れてエゾガ島（北海道）へ逃げるという事件のあったことは間違いなく（『満済准后日記』），十三湊もこの頃を境に衰退に向ったらしい。その北方へのターミナルとしての機能と繁栄は，上ノ国勝山館など北海道側に引継がれたのであろうか。次に遺跡について述べると，十三湖北岸の標高約20mの台地上に位置する福島城は， 1955年の東京大学東洋文化研究所の調査の時点では大部分が原野だったようだが，その後植林と耕地化が進み，現在は林・畑・荒地が混在している。内郭部分は営林署の苗圃，畑などとして利用され，一時高等学校の校舎も置かれていたが，調査時点では特に利用されていなかった。周辺の遺跡としては，まず，福島城の西北に接するオセドウ貝塚などの縄文時代の遺跡が著名よもぎたおおだて なかだが，福島城に関係するものとしては，蓬田町の蓬回大館〔棲井清彦ほか 1987〕，中里町の中ふんだて里城〔粛藤純 1990, 1991, 1992〕，市浦村磯松の古館（墳館） (1993年に市浦村lごよって部分的な発掘調査が行われた）など， 10～1世紀ころの築造とされる城館ないし丘陵上の集落遺跡が多33 国立歴史民俗博物館研究報告第64集 （1995)太平洋〈コ第 1図 北東アジアのなかの日本列島と福島減・ 十三湊j千島列島、ミaM.N A仏1i寸｜ll100km 第 2図 福島城 ・十三湊周辺の古代末 ・中世の主要遺跡地図第 1表 福島城 ・十三湊周辺の古代末 ・中世の主要遺跡一覧番号｜ 遺跡名 ｜ 所 在 ｜ 時代 ｜種類1 I福島減跡 ｜青森県北津軽郡市浦村 I10後～11 I 域社2 I十三湊遺跡｜青森県北津軽郡市浦村 I12後～15中 ｜都市31蓬回大館｜青森県東津軽郡蓬田村 110後～164 I蓬田小館｜青森県東津軽郡蓬回村5 I尻八館｜青森県青森市 I 14～15 l内真部（惜跡｜青森県青森市 11恥 157 I油 川 城｜青森県青森市8 I浪岡城 ｜青森県南津軽郡浪附町9 I中崎館遺跡 ｜青森県弘前市10 I境関館遺跡｜青森県弘前市1 I根 城 ｜青森県八戸市12 I矢立廃寺｜秋田県大館市15～16 12後13前～1612中～17初12後13 Iエヒパチ長僻鯛 ｜秋田県ー ツ井町14 I隠内館｜北海道松前郡福島町15 I；芝、苔館 ｜北海道函館市志海苔町16 I勝山館｜ 北海道桧山郡上ノ国町17 I夷.fJ1蹟掛｜ 北海道桧山郡上ノ国町18 I花沢館｜ 北海道桧山郡上ノ園町19 I洲 崎館 ｜北海道桧山郡上ノ国町20 I瀬田内チャシ｜北海道瀬棚郡瀬棚町21 I二風谷遺跡 ｜北海道沙流郡平取町22 I大 川遺跡 ｜北海道余市郡余市町I12後15前15～16 15～16 15 17～18中17前14～15 15 15 参考文献江 t波夫 ・関野雄 ・慢井清彦1958『館祉←東北地Jjにおけるm謡祉の研究』．東洋文化研究所。千田嘉博ほか1993「領島城 ・十三湊遺跡1991年度調査概報」 『国立歴史民俗博物館研究報告』 第48集。域館 Il哩井清彦・菊池徹夫編1987「進国対官遺跡i早都田大字考育学研筑霊与城館山城集落慢井治彦「青森県小館遺跡の調倉」 『考古学ジャーナJレ』 62。三上次兇ほか1981『尻八館』，尻八館調査委員会。青森県教育委員会1994『内真部遺跡141』青森県一埋厳文化財調査報告台第158集。城書官｜浪間町教育委員会1987～1989『浪岡城跡』I～X。城館 ｜青森県教育委員会1990『中崎館遺跡』青森県埋厳文化体側査報告曾第129Jl,城館 ｜背森県教官T委員会1987『測地館遺制青森県埋厳文仙棚倉報告曾第102!1与城館 ｜八戸市教育委員会1979～1989『史跡銀域発掘調査報告書』 I～X。寺院 ｜大館市教育委員会1987『大館市矢立廃寺発掘調査報告曾』 。｜二y井町教育委員会1990 『エヒパチ長恨窯跡・大川口館跡・ .r.~野遁跡』窯跡 ｜二ツ井町埋厳文化財閥査報告害第1集。域館城館 ｜函館＂＇教育委員会 1984～1985.1986『史跡志苔削 I～H，『史跡！：.苔則。山城 ｜仁ノ国町数育委員会1980～1990『史跡上ノ国勝山館跡』 I～x。墳墓 i上ノ凶町教育委員会191. 1984『夷王山墳墓前』 ri:l王山tJ'l[¥l;昨日』。城館城館チャシ｜瀬棚町教育委員会1980『瀬川内チャユノ跡発掲調査報告暫』。｜北海道製品主文化財セ ンタ 1987『ユオイチ ャシ跡 ・ポロモイチャシ跡集落 ｜・二風谷追跡』 。｜北海道余市町教育委員会1993,1994『1992年度大川遺跡発揚劉主主慨報』集落 ｜『1993年度大川i量跡発鍋刻査傾報』ロ34 遺跡の位置と歴史的環境番号 遺跡名 所 在 地 時 代 種別 番号 遺跡名 所在地 時 代 種別1 十ニ湊遺跡 市浦村十三 中世，近世 散布地 15 五月女活（2）遺跡 市浦村相内字相内 縄紋 散布地2 福島城跡 市浦村相内字実取 平安 城跡 16 笹 畑 遺 跡 市浦村相内字岩井 縄紋中期 貝塚3 唐川城跡 市浦村相内字岩井 平安 城跡 17 二ッ沼遺跡 市浦村相内字岩井 縄紋晩期，平安 散布地4 山王坊遺跡 市浦村相内字岩井 平安 墳墓 18 岩 井 遺 跡 市浦村相内字岩井 縄紋後・晩期，平安 集落跡5 古館遺跡 市浦村磯松字磯野 縄紋，平安 散布地 19 大 沼 遺 跡 市浦村相内字岩井 不明 散布地6 磯松砂山遺跡 市浦村磯松字磯野 縄紋 散布地 20 露 草 遺 跡 市浦村相内字露草 平安 散布地7 磯松遺跡 市浦村磯松字磯野 平安 墳墓 21 オセドウ遺跡 市浦村相内字露草 縄紋前・中・後期 貝塚8 唐川 Il遺跡 市浦村磯松字唐川 平安 集落跡 22 実 取 遺 跡 市浦村相内字実取 平安 集落地9 唐 Jl121遺跡 市浦村磯松字唐Jl 平安 散布地 23 蛇 石 遺 跡 市浦村相内字実取 縄紋後・晩期．平安 散布地10 唐川 131遺跡 市浦村磯松字唐川 平安 散布地 24 中島遺跡 市浦村十三字土佐 平安 散布地11 ナガレ山遺跡 市浦村太田字山ノ井 縄紋，平安 散布地 25 明神遺跡 車力村大字富稽 中世 神社跡12 赤坂遺跡 市浦村相内字赤坂 平安 集落跡 26 唐 崎 遺 跡 中里町今泉字唐崎 平安 散布地13 相内遺跡 市浦村相内字相内 平安 祭記跡 27 今泉大石崎遺跡 中里町今泉字唐崎 縄紋，平安 散布地14 五月女泊Il遺跡 市浦村相内字相内 縄紋晩期 散布地 28 神明宮遺跡 中里町今泉字唐崎 不明 減跡第3図十三湖周辺の遺跡地図（縮尺 1/80000)35 国立歴史民俗博物館研究報告第64集 (1995)く検出されていることが注意される。構造から見てこれに類すると思われる遺跡はさらに多く，先述した律令国家との抗争・包摂に関わる政治史の過程にも関わる問題と思われる。後に述べるように，福島城は実はこの頃の築造である可能性が高く，おそらくこれらの遺跡群と密接な関連を持った遺跡であったと考えられるのである。中世安藤氏に関わると思われる遺跡としては，まず福島城の北約2kmの谷あいに山王坊遺跡があり，発掘調査によって， 14～15世紀頃の大規模な宗教施設であることが確認されている〔加藤ほか1987〕。山王坊の西側，標高160mの山上には唐川城があり，山王坊との位置関係や，十三湊を見おろす立地からも，安藤氏に関わる遺跡の可能性が考えられる。この他周辺では，小泊村間柴鼻の長詰城，青森市後潟の鼠穴語なと、が関連する中世の山城として注目される。十三湊は，十三湖の西側に発達した半島状の砂洲の上に位置し（以下「砂洲」とする），西側まえがたは「前潟」と呼ばれる潟湖（かつての岩木川最下流の一部）と，さらに七里長浜を隔てて日本海に面している。中世段階では，南方の湊明神宮付近が日本海への出口（水戸口）であったが，湊の衰退と共に水戸口は次第に北に位置を移し，現在で、はかつての港とは全く無関係に，単なる排水口としての水戸口が十三湊のある砂洲の北端付近に聞けられて，かつての水路は三つの小湖沼（前潟，内湖，明神沼）となっている。近世にも鯵ケ沢，深浦，青森と共に弘前藩の四浦の一つに教えられ，岩木川水運の中継港として相当の機能を持ったが近代に入って衰退し，現在ではシジミ漁を中心とする漁業のみが行われている。もっとも，戦後の食糧難の時代には，江差など北海道からの魚を積んだ船が入港し，岩木川流域の米を積んだ船が十三湊で交換を行っていた由であり，特に国家的な統制が弛緩した時代には，北方との貿易が自然に行われる条件を備えた場所であったと思われる。きんこが〈 てうぽうだい そうごうじ遺跡としては，輸入陶磁器などの散布が知られ，琴湖岳遺跡，鉄砲台遺跡，湊迎寺遺跡といった部分的な個別の遺跡の形で認知され，半島を縦断するバイパス道路の建設の際，および十三小学校校舎改築の際には発掘調査も行われている〔村越 1975，新谷ほか 1988〕。また，十三湊南方の字通行道の通称「インキョ（隠居）」に存在する寺院祉（「道抹寺」とされるが，根拠はない）でも発掘調査が行われている（第7章第4節参照）。十三湊に直接関わる遺跡としては，この他さらに南方2kmほどの湊明神宮が重要であると恩われる。現在も「出船入船の明神Jとして漁業関係者の信仰を集めているが，中世段階での日本海への出入口（水戸口）付近の丘陵に位置することから，港の守護神であると共に，灯台のような港湾機能の一部も担っていたのではないかと想像される。境内からは幕末に百体以上の懸仏などが出土しており，相当規模の宗教施設があったことがうかがわれる（第3章第1節参照）。l小島道裕：国立歴史民俗博物館歴史研究部榊原滋高：市浦村学芸員，国立歴史民俗博物館特定研究協力者注(1) 菅江真澄は「外ケ浜奇勝』の中で「等散は十三ンの湖をいふ」と記しており（寛政8年6月10日条天注入当時「トーサン」というアイヌ語的な発音が生きていたことを示すのではないかと恩われる。「十36 遺跡の位置と歴史的環境三」という文字が宛てられたのも，この発音の故であろう。なお，「十三」の「トサ」と「ジュウサン」という二つの読みの関係については，第7章第3節で長谷川成ーが詳述している。参考文献新谷雄蔵ほか 1988『琴湖岳遺跡』市浦村教育委員会。加藤孝ほか 1987『青森県北津軽郡市浦村山王坊遺跡昭和57年度～昭和62年度調査中間報告』市浦村教育委員会・山王坊跡調査団。金田一京助 1932「北奥地名考」『金沢博士還暦記念東洋語学の研究J三省堂，「金田一博士喜寿記念アイヌ語研究金田一京助選集I』三省堂， 1960。斎藤純ほか 1990『中里城跡I」中里町・中里町教育委員会。1991『中里城跡E・平山西』中里町教育委員会。1992『中里城跡概報』中里町教育委員会。棲井清彦・菊池徹夫 1987『蓬回大館遺跡』六輿出版。豊島勝蔵ほか 1983『市浦村史』第一巻，市浦村。村越潔 1975「十三琴湖岳遺跡」『日本考古学年報』第26号。山田秀三 1983『アイヌ語地名の研究」第3巻，草風館。同 1989「津軽のアイヌ語地名」菊池徹夫・福田豊彦編『よみがえる中世 4北の中世津軽北海道』平凡社。37 

II. Site Location and Historical Background

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第2章遺跡の位置と歴史的環境

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