Hashimoto Takako

Kuboyama Tetsuji

Riri Fitri Sar

Sakura Tamaki

Shirota Yukari

Terry Widyani

久保山 哲二

佐倉 環

橋本 隆子

白田 由香利

Yukari Shirota

Widyani Terry

Takako Hashimoto

Fitri Sar Riri

Tamaki Sakura

Tetsuji Kuboyama

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 幾何学的統計学の可視化教材の作成  学習院大学経済学部 白 田 由香利 セベラスマレ大学生物学部 Tetri Widyani 千葉商科大学商経学部  橋 本 隆 子 インドネシア国立大学工学部 Riri Fitri Sari 公益社団法人 日本経済研究センター 佐 倉   環 学習院大学計算機センター 久保山 哲 二   本稿は、2017 年度計算機センター特別プロジェクト「幾何学的統計学の可視化教材の作成」について、解説を加えるものである。  1 始めに  生物は進化の過程で形を変える．形態測定学は生物の形の変化の分析を行うが，その分析においては，幾何学と統計学に関する各種の知識，幾何学的形態測定学（geometric morphometrics）的知識と幾何学的統計学（geometry-driven statistics）知識を必要とする．これらの学問は，英国 Leeds 大の研究グループを中心として形成されつつある新しい学問である[1]．本研究では，幾何学的統計学の基礎を分かりやすく学べるような可視化教材を開発したので、報告する．幾何学的統計学の分析手法とは，(1)形状座標の多変量統計学，及び(2)薄板スプライン関数に基づく変形の解析の２段階から構成される．プロセス(1)では，位置移動，回転，拡大縮小といったアフィン変換に依存しない，形の不変量を抽出する．プロセス(2)は，アフィン変換で表現できない非アフィン変換部分の分析であり，局所的な形状変化を分析する[2,3]．これは，仮想無限薄板の屈曲エネルギーを最小化するように，形状を薄板スプライン関数で表現し，薄板スプライン関数の各標識点での基底関数の線形結合によって非アフィン部分を表現する．局所的な形状変化は，屈曲エネルギー行列の固有ベクトルの線形結合で表される．その固有ベクトルが「歪み」変化の方向を示している．本研究では，この 2プロセスの教材を開発した．次節では，開発した教材について説明する．第 3節では，教材の効果を調査するためにこの教材を用いて講義を行ったので，報告する．第 4節はまとめである．  2 教材  本節では開発した web 教材について解説する．興味深い教材とするため，幾何学的統計学で分析するデータはインドネシアのジャワ原人などの骨格標本データを使用した．著者の一人である Tetri Widyani が Sangiran museum（サンギラン博物館）が保管展示しているジャワ原人およびフローレス原人などの頭蓋骨データをもって，目白に来てくれた．期間は 2017 年 5 月 9日から 15 日である．Sangiran museum は，ジャワ原人の骨の発掘現場計算機センター　Vol. 39　2018-2-研究報告近くに作られた博物館で，も最も近隣の国立大学としてセベラスマレ大学がある．Tetri Widyani は，セベラスマレ大の生物学者であり，骨格の研究を専門とする．白田の研究室で頭蓋骨のデータの幾何学的統計学を用いて分析し，その結果を使って可視化教材の開発のプログラムを開発し，web で公開した(http://wwwcc.gakushuin.ac.jp/~20010570/mathABC/SELECTED/ShapeAnalysis/)（図 1参照）．分析及び可視化プログラムは Mathematica を用いた．学習者は，幾何学的統計処理の対話的かつ視覚的なプログラムを自分で操作しながら学習することが可能である．このツールは，Mathematica で作成し，Wolfram CDF に変換してあるので，無料ソフトウェアFigure 1: 作成した web 教材のトップページ Figure 2：伸びていた猫が怒ったときの形状変化(イラストは村上朱音氏による) -3-幾何学的統計学の可視化教材の作成である Wolfram CDF player を自分の PC にインストールすることで，動かせることができる．  教材では図 2のような，伸びていた猫が怒ったときの形状変化を事例とした．猫の背中に等間隔のランドマーク 9個が設定されていたとする．そのランドマークがどのように形状変化したかを分析する．本教材では，2次元でのランドマークの変化を扱っている．対応するランドマークの形状変化前の位置から変化後の位置にベクトルを描くと，図 3の左のような図が得られる．猫の体が局面のように曲がる物体だと仮想する．この曲がる薄板を幾何学的統計学では，薄板スプライン関数で補間近似する．上からランドマークの位置の変化を見て，どのように猫の体の薄板が曲がると，得られたようなランドマークの変化がなされるかを考えてみよう．考えられる変化は，(1)猫が怒ってアーチ状になるか，(2)逆向きにお腹部分を鎮めるかであるが，猫の場合は骨格の関係で，前者(1)のアーチ状しか可能ではない． この変化をアフィン変換と非アフィン変換に分けると，図 3の右の２つの図のようなものとなる．トランスフォーメーショングリッドは変化の様子を見易くするために引いた．変換前は直行していたグリッドが変換によって曲げられている．ランドマーク座標は変わらない．座標は変わらず，グリッドのほうが曲がるのである．変化はアフィン変換と非アフィン変換に分離すつことが可能である．アフィン変換は行列変換で表現される．そこでは，拡大縮小，回転，スキューが表現可能である．しかし，各ランドマークごとに独立になされた局所的な変化はこの行列では表現できない．その局所的な変化が非アフィン変換と呼ばれる部分である．図 3のアフィン変換を見ると，全体的に縮小が起こっていることが分かる．非アフィン変換を見ると，x軸方向の変化のみが起こったこと，また，それはお腹の部分に寄っている変化であることが見える．  Figure 3：ランドマークの変化を表すベクトルと，それを分解して得られたアフィン変換と非アフィン変換．変化が見やすいようにランドマークは 12 個に増やしてある．  計算機センター　Vol. 39　2018-4- ランドマーク座標を使って，その屈曲エネルギーを表す，屈曲エネルギー行列を計算することができる．伸びている猫のランドマーク座標の屈曲エネルギー行列は図 4のようになる．  Figure 4: 伸びている状態の猫の形状を表現する屈曲エネルギー行列．ランドマーク数が 12個なので，３を引いて 9×9の行列が得られる．  Figure 5: 図 4 の屈曲エネルギー行列の固有値とその固有ベクトル．  図 5 にその 9個の固有値の大きさを示した．第 1固有値が他の固有値に比較して大きいことが分かる．この第 1番目の固有値に対応する固有ベクトルを見てみる(図 3中央上のグラフ参照)．要素数はランドマークの数である 12 個ある．この要素値は負，正，負，正．．．と正負の値を取っている．この値を使って薄板スプライン関数を作り，それを図示した(図 3の右の曲面の図)．これが，伸びている猫の形状の第 1固有ベクトルである．この固有ベクトルをプリンシプルワープ(principal warp)と呼ぶ．図 3では，第 2プリンシプルワープの要素値も示した(図中央下図)．教材では，ランドマークの座標を対話的に動かすと，9個のプリンシパルワープがどのように変化するかを視覚的に確認できるツールも公開している(図 6参照)．これにより，学習者はプリンシパルワープに対して具体性をもって直感的に理解可能となる．その後に数式による説明を読む際，格段に数式の理解がよくなる．  次にこのプリンシパルワープを基底として，形状変化の非アフィン変換を表現する．そ-5-幾何学的統計学の可視化教材の作成の結果を示した(図 7参照)．図 7では左から，形状変化のベクトル表示，ｘ方向の形状変化のようす，y方向の形状変化の様子を示す．ｘ方向には変化があるが，y方向には変化がないことが分かる．ｙ方向の変化の図では，垂直方向の軸のスケールが非常に小さく，ほぼ 0であることが読み取れる．X方向の変化を見ると，中央部のランドマークが中心方向に寄っている傾向が見て取れる．薄板スプラインの補間が，猫のお腹部分が下がる方向になっているが，どちらの方向を正の方向にするかは問題ではない．背中側を負，お腹側を正と解釈すれば問題はない．  Figure 6: ランドマークの座標を対話的に動かすと，9個のプリンシパルワープがどのように変化するかを視覚的に確認できるツール   Figure 7: 伸びていた猫が怒ったときの形状変化の非アフィン変換の様子． 計算機センター　Vol. 39　2018-6- 3.講義による教材の評価 教材の効果を調査するため，インドネシア大学工学部，ボゴール農科大学自然科学部および学習院大学経済学部経営学科などで本教材を用いて講義を行ない，その結果を用いて教材の改善を行った．また，IEEE DSAA 2017 でチュートリアルを行った（図 8参照）．本節では，講義の際に出た質問をまとめる．   参加者には，予め教材の URL を知らせておき，対話的可視化教材を自分の PC にインストールして動かしてもらった．数学プロセスが可視化されているので，それを見てから数式を見ると分かり易い，と好評であった． ＜ボゴール農科大学理学部数学科での講義＞ 参加者は約 20 人，学部生と院生．数学科の学生であるので数学に関する質問が多かった。 (Q1)デフォメーションにおいては２つの形態を合わせるために回転操作も必要であるが, 与えられた形態をプリシェープにする変形では回転操作は行っていない．どこで回転を行っているのか？ 回答：回転はアフィン変形に含まれる． (Q2)本日のデモでは，フローレス原人の骨もサンプルが一つで，ホモサピエンスの骨もサンプルが一つだけあった[5]．実際は、このような個体間のデフォメーションではなく，種としてのデフォメーションを測るべきではないのか．その場合はどうすべきなのか？ 回答：実際には，30 以上のサンプルを集めて分散分析 ANOVA を行う．我々も多数のサンプルを集めたかったが，フローレス原人の骨はこれまでに 9体しか発見されておらず，デーFigure 8: DSAA 2017 のチュートリアルのサイト[4]. -7-幾何学的統計学の可視化教材の作成タを収集することが困難であった．今後の課題としたい． (Q3)リーマン幾何学においては，ひとつの形態がリーマン球上の一つの点として表現される．二つの点の位置関係から今後の進化の方向を予測することができるだろうか？ 回答：可能である．またそのような予測を可能としたことが，この shape analysis の特出すべき特徴といえる．予測だけでなく二つの形態の間にこのような種が存在したのではないかと予測を立てて，その骨を探す，ということが可能となる．恐竜などの進化において，そのような利用がなされることを期待する．  ＜インドネシア国立大学工学部電気工学科＞ 参加者は 21 名，すべて院生以上，レクチャラー2名，共著者の Prof Riri．工学部の学生なので，テキストマイニング及び深層学習の応用としての質問が多かった． (Q1)昨年は LDA(Latent Dirichlet Allocation)モデルのアルゴリズムの講義を白田先生がしてくれたが，この shape analysis はテキストマイニングに活用することが可能なのか？ 回答：可能である．同じ分析対象に対して異なる複数の分析手法を利用することにより，分析結果の信頼性向上につながる．一つの分析手法だけでは良い分析結果にたどり着けない場合もある．また、2つの分析結果が全く異なってしまうこともある．その場合はどちらかが間違った分析を行っている可能性が高い．そのような判断のためにも複数のアプローチを取ることが重要である． (Q2)昨年の白田先生の講義では、SVD(Singular Value Decomposition)の説明があった．Shape analysis においても固有ベクトルを求めるが，その意味はどう考えればよいのか？ 回答：SVD の分析結果の固有ベクトルと同様に，分析者がその固有ベクトルを見て，その解釈を行う．それは PCA の固有ベクトル及び SVD の固有ベクトルの解釈を人間の分析者が考えなくてはならないことと同じである． (Q3)本日の講義では骨の分析だけでなく GDP の 2000 年と 2010 年の変化の分析を行ったが[6]，GDP の分析において第 2 partial warp 固有ベクトルのローカルな変化が，あまり明確なものではないように思えた．固有ベクトルの解釈は明確ではない場合もあるのか？ 回答：固有ベクトルの解釈が明確に説明づけて行えることもあるし，行えないこともある．それは利用したサンプルの質にも大いに依存する．しかし，与えられたデータに関して，その特徴を見ようとするならば，固有ベクトルは非常に多くの知見を与えてくれるので分析に役立つ． (Q4)音声の信号処理を研究している．本日の shape analysis をこの分野で活用することは可能か？ 回答：可能と考える．指標となる変数として適切なものを選択することで，それを座標としてランドマークを設定することができる．ランドマークとして何を設定すればよいかは，アプリケーションに依存する問題であろう．例えば同じ人間が喜んでいる時の声，怒計算機センター　Vol. 39　2018-8-っている時の声などを各ランドマークにするようなことが可能かもしれない． (Q5)テキストマイニングでオピニオン分布の時系列変化を研究している．Shape analysisを適用するにはどうすればよいか？ 回答：一つの提案としては、word2vec のような別の深層学習手法によってベクトルモデルを作り，その主成分軸を座標軸として使うことが考えられる．そして，ある人のある問題に対するオピニオンを一つのランドマークとして表現する．影響力のある人間をランドマークとして選択し，その人の意見がどのように時間変化したかを分析する，というようなことが考えられる．オピニオンのデフォーメーションをどのように定義するかが問題となるが，同じ人のオピニオンがどのように時間変化したかを，対応するランドマークとして表現すればよい．ランドマークをどう定義するかが課題となるであろう．  DSAA のチュートリアルでも類似の質問がでた．Mathematica のプログラムも公開しており，Mathematica ユーザであれば，すぐに自分のアプリケーションで使えるようにしてある．Mathematica ユーザからは，2次元データだけでなく，3次元データの分析がしたいので，早くプログラムを作って公開してほしい，という要望が出た．また，ライブラリが整然としていないので使いにくそうなので，整備してほしいという要望が出た．この後，ライブラリの整備は行った．３次元化のプログラム作成は今後の課題である．  4.まとめ 幾何学的統計学の分析手法とは，(1)形状座標の多変量統計学，及び(2)薄板スプライン関数に基づく変形の解析の２段階から構成される．本研究では，この 2プロセスの教材を開発した．幾何学的統計学は形態測定学以外にも，広い応用範囲をもつ学問であるが，新しい学問であるため入門的教科書はまだない．生物学および経済学では，形態測定学の潜在的ニーズが高いと予想されるので，本教材作成はその需要に応えるものである．また，本研究で開発する可視化教材により，その難解な数学の理解のハードルを大幅に下げることができたと考える．今後とも，教材を拡充し，各地でレクチャーを行っていきたい．  参考文献 [1]英国 Leeds 大 Leeds Annual Statistical Research Workshop 資料. http://www1.maths.leeds.ac.uk/statistics/workshop/lasr2015/． [2] Ian L. Dryden, Kanti V. Mardia: Statistical Shape Analysis: With Applications in R, 2nd Edition, Willey, 2016. [3] 三中信宏：「古生物の形態と解析」，３章 形態測定学，朝倉書店，1999． [4] Y. Shirota, R. F. Sari, T. Widiyani, and T. Hashimoto, "Visually Do Statistical Shape Analysis! as TUTORAL," in Data Science and Advanced Analytics (DSAA) Tokyo, Japan, 2017. http://www.dslab.it.aoyama.ac.jp/dsaa2017/tutorials/ [5]T. Widiyani, Y. Shirota, and R. F. Sari, "Morphometrics Analysis on -9-幾何学的統計学の可視化教材の作成Craniofacial Differences of Ancient Humans," in The 2nd International Conference on Automation, Cognitive Science, Optics, Micro Electro-Mechanical System, and Information Technology (ICACOMIT 2017), Jakarta, Indonesia, 2017, pp. 22-27, doi: 10.1109/ICACOMIT.2017.8253380 [6] Yukari Shirota, Takako Hashimoto and Riri Fitri Sari: “Visualization of Time Series Statistical Data by Shape Analysis – GDP Ratio Changes among Asia Countries,” ICODIS 2017, Dec. 5-6, 2017, Bandung, Indonesia.  計算機センター　Vol. 39　2018-10-

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