Sato Shigeto

佐藤 茂人

Shigeto Sato

GLIM IR Institution Repository

国際数学教育調査における高等科の成績佐藤茂人1　中間報告「中学・高校生の数学の成績」概要　昭和56年9月，国立教育研究所から，国内の集計結果がまとめられて，中間報告として発表された。以下，その概要を述べる。田第2回数学教育調査について　IEA（国際教育到達度評価学会）の国際教育事業の一環として1964年（昭39年）に第1回，今回1980年（昭55年）に第2回を実施した。日本では国立教育研究所が担当した。（注）第1回，第2回とも学習院高等科は標本校に選ばれた。　今回はオーストラリア，ベルギー，カナダ，チリ，イギリス，フィンランド，フランス，日本，香港，韓国，アメリカ，スウェーデンなど23ケ国26機関が参加した。　調査対象は，13才の生徒が主となる学年（日本では中学1年生）と，大学へ進みうるコースの最終学年に在学し，数学に重点をおいて学習している生徒（日本では高校3年で数学皿を履修している生徒）であった。　調査は，中学1年生は55年5月，56年2月の2回，高校3年生は55年11月に行った。図　調査の目的　国際的に共通なテスト問題によって生徒の成績（学習到達度）を調べるとともに，生徒の成績と各国の学校制度・カリキュラム・指導法・教員資質・生徒の環境条件との関係を分析し，それらを比較考察する。　特に，次の点について重点的に考察する。一81一　①　数学科のカリキュラムについて（カリキュラムの性格，数学応用の役割，　　最小限度必要な数学学力など）　②指導法について（履修状況，指導の実際など）　③生徒の成績について（前回との比較，電卓の利用との関連，男女の差，メ　　ートル法の定着度など）團　調査の構成　①学校質問紙　②教師質問紙　③指導に関する質問紙　④履修状況に関する質　問紙　⑤生徒質問紙　⑥数学問題からなる。　また，標本校及び標本生徒の数は，高3集団（以下中1集団については省略する）では，207校，7982人であり，内訳けは公立178校　6859人，私立27校1061人，国立2校62人であった。母集団に対する割合は学校数11．0％，生徒数4．5％であった。囚　数学問題の構成　〔内容〕　数学科の内容を次のように分類した。1．集合・関係・関数3．代数5，解析7．有限数学9．論理〔目標〕2．数の体系4．幾何6．　　確率　●　統言十8．コンピュータ科学　　　　　　シカゴ大学のB・S・ブルーム教授らの「教育目標の分類学」によって，次の4領域に分類した。　1　「計算」（Computation）生徒がすでに学んだ規則に従って，問題の要素を　　直接に操作することをみる。特殊な事実，用語に関する知識やアルゴリズム　　を実行する能力等をみる。　ll　「理解」（Comprehension）概念，原理・法則，一般化の想起，あるやり方　　から別のやり方へ問題を変換する能力をみる。一82一　皿　「応用」（Application）関連ある知識の想起，適切な演算の選択，演算を　　遂行する能力をみる。きまりきった手順で問題を解く能力をみる。　IV　「分析」（Analysis）きまりきった手順ではできない応用を要求する能力　　をみる。パターンの発見，証明を構成したり，批判したりする能力のように　　高次の思考過程を要する能力をみる。　問題は，それぞれ17題ずつの（1）～（8）の8種類のセットからなっている。　一方，生徒は全体を4等分し，4つのグループをつくる。　各グループには，いずれか2種類のセットを課した。團　調査の結果①分布　平均値より右に偏った巣峰型の分布で，第1回よりもかなり成績が　　　　よくなっていると推測される。②内容・目標領域別平均正答率（％）　　内容ﾚ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 計1 748 77．4 84．1 58．2 71．9 87．5 73．3H 81．9 57．7 68．3 53．1 68ユ 53．1 83．9 66．0皿 87．2 75．0 72．6 6L5 6＆7 62．4 68．6 69．1IV 75．5 72．1 65．4 56．3 65．6 65．7計 79．7 71．8 75．5 57．7 69．1 71B 76．2 69．2（注）内容の1～9，目標の1～IVは，上の分類による。　この結果から正答率は　内容別では，幾何が最も低く，次が解析，その他はかなり高い。　目標別では，分析，理解が低く，計算が高い。　内容一目標別では，幾何一理解，確率・統計一理解が低く，集合・関係・関数　一応用，確率・統計一計算が高い。③難・易について（やさしかった問題）　内容別では，集合・関係・関数（集合），数の体系（数と計算法則，自然数・小　数・実数。複素数），代数（多項式，根，方程式，不等式），幾何（解析幾何，一83一　ベクトル），解析（関数の性質，導関数の応用，積分の計算），確率・統計（確　率計算，統計資料の解釈），有限数学（組合せ）　目標別では，計算の領域に属するもの（むずかしかった問題）　内容別では，数の体系（複素数の絶対値・偏角による表現），代数（多項式，整　数の性質）幾何（アフィン・射影幾何，ベクトル，解析幾何，三角法），解析　（初等関数，積分の応用），確率・統計（分布）　目標別には，理解，応用，分析の3領域，とくに理解の領域のものが多い。④　生徒の成績と教師の予想　付帯調査で，各問題に対して，教師が生徒の平均正答率を次の5つに分けて予想した。　（1｝5％以下　　（2｝5％～40％　　（3）40％～60％　　（4〕60～95％　（5）95％以上その結果（生徒の成績が予想を上まわっている問題）　内容別には　集合・関係・関数（集合），数の体系（小数，実数，複素数），代　数（多項式，方程式），確率・統計（確率計算），有限数学（組合せ）　目標別には　理解，応用，分析の3領域，とくに応用の領域に属するものが多　い。（生徒の成績が予想より下まわっている問題）　代数一理解についての1題だけで，他はすべて生徒の成績が予想を上まわって　いた。⑤前回（第1回）との比較（注）・第1回は（35年改訂指導要領で）複素数，ベクトルを履修している。第2回は（45年改訂指導要領で）集合，ベクトル，行列，一次変換，写像を履修している。一84一（前回よりあがった問題）　領域別では，集合・関数・関係（集合，関数），数の体系（複素数），代数（多　項式），幾何（ベクトル，解析幾何），解析（初等関数，関数の性質，導関数，　積分），確率・統計（確率）　とくに，解析の問題が多い。　目標別には　計算，理解，応用の問題が多い。（前回よりさがった問題）　2題のみで，殆んどすべてがあがっている。⑥　まとめ　1）計算力が全般に低下したという仮説があるが，過去の調査と比較すると，　　むしろ「計算」領域が，その他の領域よりよくなっている傾向がある。　2）　「計算」領域に比べて，より高次な思考過程を要する問題の成績が伸びて　　いない。　3）生徒にとってやさしかった問題の中には，基礎的内容が含まれており，前　　回調査以降に導入・強化された現代化の内容（集合，関数，確率，ベクトル　　等）が含まれている。　4　「幾何」の領域が他の領域に比べて成績がよくない。　以上，昭和56年9月に国立教育研究所が発表した中間報告の概要である。　この調査は国際調査であるから，各国のカリキュラムには関係なく問題が出題されている。したがって，当然学習していない内容も含まれている。例えば，むずかしかった問題の「複素数の絶対値・偏角による表現」「アフィン・射影幾何」などは，我が国ではカリキュラムに含まれていない。　このような点を除いて考えても，やはり気になるのは「幾何」や「解析」の正答率が低いことである。これは，図形の知識や考え方の不足として，また，関数とグラフの知識や考え方の定着度が低いこととして，日頃教室で体験しているこ一85一とである。それは，中学での幾何教材が軽減され，高校で解析幾何以外に殆んど扱われていないことに原因があろう。また，グラフについても，いろいろな関数がつぎつぎに広く浅く扱われるため，定着しない点に原因があろう。　それに対して，計算力の高さは評価される。一昔前のような計算問題のための計算力ではなく，基本的な計算の力は現在でも充分であるといってよい。　なお，現在あまり問題になっていない，順列・組合せ，確率・統計など，社会の変化とともにどう変るかに注目しよう。一86一H　全国集計と学習院高等科との比較　今回，学習院高等科では，条件に適している高3の数皿を選択している生徒約40名が参加した。この40名を名簿順に10名ずつ4つのグループに分け，各グループは2種類のセットの問題に答え，合計8セットに答えた。　なお，担当教師としては，千葉，町田両先生が参加した。　以下において次の記号を用いることにする。無簾隣．：：III．：：：’：：1｝としD－（・ii：AL）・1・・口］　問題別正答率比較（注）内容・目標の番号については1の團参照のこと　　セット｛1）　　　　　　　　　　　　　セット（2｝問題 内容・目標 A G D1 5　　皿 69．0 81．8 ＋192 3　　皿 78．1 72．7 一73 4　　1 74．5 81．8 ＋104 5　　皿 81．1 90．9 ＋885 5　　H 84．0 90．9 ＋886 7　　皿 57．2 54．5 一57 5　　1 64．5 54．5 一168 6　　1 93．4 100．0 ＋79 2　　H 16．4 18．2 ＋1110 5　　H 91．7 100．0 ＋911 4　　皿 29．0 18．2 一3712 3　　1 90．6 909 ＋013 2　　1 52．2 273 一4814 3　　皿 78．9 81．8 ＋415 1　　H 60．8 81．8 ＋3516 4　　1V 359 27．3 一2417 4　　∬ 75．8 100．0 ＋32蘭 内容・目標 A G D1 2　　　1 93．4 90．9 一32 3　　H 89．7 909 ＋　13 4　　　1 22．5 β6．4 ＋624 5　　H 56．8 81．8 ＋445 5　　π 75．6 72．7 一46 5　　　1 563 72．7 ＋297 5　　H 42．3 54．5 ＋298 3　　皿 61．7 72．7 ＋189 4　　皿 8L9 ioO．0 ＋2210 5　　n 67．5 81B ＋2111 l　　H 90．6 10α0 ＋1012 6　　　1 81．9 100．0 ＋2213 3　　皿 30．0 36．4 ＋414 3　　　1 96．0 100．0 ＋415 5　　1 74．0 72．7 一216 2　　皿 77．3 100．0 ＋2917 3　　　1 91．7 10α0 ＋9セット（3｝，（4｝，（5），（6），（7），（8）の表をあげることは省略する。これらの表をもとにした，内容別，目標別の集計結果は次のようになる。一87一内容別集計（表一1）　（注）内容の番号については1の四参照のこと。ぜ 一100　　　　　　　－50　　　　　　　　　　0　　　　　　　　　　50　　　　　　　　　100 計1ξとiiii iil・ ・i・iili ｝iii i：72 …3iiii liilli：i2i3 ・｝・ili・i iiii i 163…旨iiii　：｝i：：lii：4 　　1ii撃撃奄Wi4…2i　　：　l　Iiiii…i41管奄Piiii 　：lliSi5i2…1…2　，　　　　：　・iiii1…1ii｝：O奄P29Q95 …iiiii iili2i・ ・…13i・i・i・i、i…，i…i：446 …1i－i：iii iiii ・…・i・…1… ＝ ；… 77 i：i－i　：li…iii…1 ・iilii　　…奄奄堰c …i計ill…ii：1：1i2ili2i6i21　：　、　　　　：i：　　iWi35…17110i6・　：　：　・i：iili3i…2i；i1136（表2）　D煦ﾋ一10以下 ＋10以上 0以上1 0．0％ 43．0％ 100．0％2 18B％ 438％ 62．5％3 0．0％ 48．3％ 86．2％4 20．7％ 44．8％ 58．6％5 68％ 70．5％ 77．3％6 0．0％ 71．4％ 10α0％7 0．0％ 25．0％ 75．0％（参考）上の表の＊，◎の問題について＊　ベクトル空間Rliの部分空間El，　E2　についての問題で，日本のカリキュ　ラムには含まれていない。◎　一次変換と写像の問題である。（まとめ）全国集計と比較してみると，学習院高等科が　特にすぐれていると考えられるもの……解析，確率・統計　すぐれていると考えられるもの…………代数一88一　　やXすぐれていると考えられるもの……集合・関係・関数，有限数学　　優劣が認められないと考えられるもの…数の体系，幾何のようになる。　目標別集計　（表1）　（注）目標の番号については1の囚参照目D@標 一100　　　　　　　－50　　　　　　　　　　0 50　　　　100計1 ……liii 1iii4i6 8i15…・ili ；1i、…1i42∬i1…i…；i　　　　　：iii…1。　　　」7i7・6…3i1 …1；i1； … 37皿 ；霧・… 1…1i1…，…、 gi1・5；・13 111i…1… ：…44IV…：iiii i…1｝…1 4i3ilili2 　　　　　：c　　　：… 13計 ：i1l　　　i@iil21エ12｝6i21　1　　　　　　　　　　　　唱 　　　　　Li　　　　：P13i・2i　　　　「1i（表2）目DW 一10以下 ＋10以上 0以上1 1L9％ 54．8％ 73．8％H 2．7％ 51．3％ 70．3％皿 1L4％ 59．1％ 79．5％IV 7．7％ 53．8％ 84．6％（まとめ）全国集計と比較して，学習院高等科は，いずれも（計算，理解，応用，分析）すぐれていると考えられる。しかし，計算，応用にやX問題があると思われる。一89一囮　セット別平均点・標準偏差の比較　（注）各セットとも17点満点である。セッ　ト（1｝ ②（3） 〔4） （5） （6） 〔7）｛8｝平均 11．3 11．9 10．7 128 12．4 11．9 12．0 11．4全　国 標偏 3．41 3．07 3．38 3．65 3．66 3．44 3．60 3．20平均 11．7 13．6 11．5 14．6 139 14．1 12．2 13．0高等科 標偏 2．00 2．25 2．02 2．01 221 1．92 4．31 2．41（まとめ）　全国集計と比較してみると，学習院高等科は平均においていずれも高く，標準偏差はいずれも小さい。このことは，全国よりもレベルの高い生徒がまとまっていると考えられる。しかし，高等科から参加した生徒数が少なく，各セットについてはわずか10名と，標本が小さすぎることに注意しなければならない。　以上，第2回国際数学調査に参加して，1回目の「中間報告」を参考にして，学習院高等科の成績について考えてみた。なお，すでに57年3月に2回目の「国内報告」が国立教育研究所から発表されている。これについてはここでは特にふれないことにする。以下に参考文献としてあげる。（参考文献）　　「中学・高校生の数学の成績」（中間報告）　　　　　　昭和56年9月　国立教育研究所　　「中学・高校生の数学成績と諸条件」（国内報告）　　　　　　昭和57年3月　国立教育研究所　なお，近い将来，国際的な報告が出されることと思う。一90一

コクサイ スウガク キョウイク チョウサ ニオケル コウトウカ ノ セイセキ

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