Maruyama Shigeru

丸山 茂

Article巻頭言departmental bulletin pape

丸山, 茂

Maruyama, Shigeru

KANAGAWA University Repository

3ロージャーナル創刊の辞丸 山 茂(本法務研究科委員長)法科大学院が創設 され5年を経 ようとするいま,法科大学院を取 り巻 く状況はとても尋常 とは思えない｡われわれの記憶にとどめてお くべ き事実はい くつかある｡当初 7-8割 とされた新司法試験の合格者の割合が年々減少 し,すでに3割を割ろうとしている｡これに対 して,当初の計画である毎年 3千人の新たな法曹増員の目標に対 して,既存法曹の職業利害をむきだLにした強い反対による迷走,それに呼応する自民党の一部の国会議員の動 きがその迷走ぶ りを深化 させているとい う事実｡さらに,予備試験による法科大学院設立の理念を無視 したバイパスによる受験資格の付与が一般化する計画も現実化 しようとしている｡他方で,法科大学院の過剰な定員に対する削減の動き,これに対 して交錯するそれぞれの法科大学院の利害 と受験結果に翻弄される姿｡確かに,法科大学院を修了しても新司法試験に合格 しない人数のほうが多い とい う現実は異常 としかいいようがない｡この混迷を希望に換える道はないのか｡この事態をもたらしているのは,理念が現実に投げ出されたときに必然的に生まれる抵抗であり,改革の時代に可視化 された日常の利害である｡現実主義のなかで忘れ去 られるのは歴史をみすえた高遠な理念なのであろうか｡司法制度改革審議会は,司法部門が ｢公共性の空間｣を支える柱 となることにあると述べている｡この ｢公共性の空間｣は,司法が社会に資するとい う当た り前のことを指 しているのではなく,公共空間の新たな創造に司法が寄与 し,司法は公共空間によって支えられることを意味する｡司法支援センターは,相談の窓口となり,さまざまな分野の相談専門家のネットワークの核 となり,またそのネットワークに支えられて存在 して人々の支援を行 う｡裁判員制度も,人々の価値観に裁判官の専門的判断が解放 され,相互性のもとに社会の価値判断を形成 してい くシステムである｡司法は社会の中にあり社会が具体的に司法を支える,この相互性の理念は司法制度改革の底流にある基本理念 とみなければならない｡法科大学院についていえば,司法制度改革は,司法を支える重要な柱は人的資源であると考え,これまでの法曹養成のあり方に対する強い反省に立って,プロセスとしての法曹養成教育を目指 し,深い洞察力 と思考力,コミュニケーション能力,さらには問題解決能力を身につけた法曹を養成する目的のもとに法科大学院を創設 した｡その制度設計は,教育が単に大学 とい う閉ざされた世界で行われるのではなく社会に開かれた点に新たな地平がある｡社会 との相互性の中で教育を行 うという理念は,実務家教員の教育参加だけでなく,社会問題を人々 とともに考え解決を模索 し,学生達の資質を磨 くアリーナとなっている点に特色がある｡その意味で, リーガガルクリニックは,法科大学院にとって最 も重要な社会 との結節点 といわねばならない｡いいたいことは,要するに法科大学院の存在価値を決めるものは,この ｢公共性の空間｣のなかで,社会 との相互性の営みを通 して,法曹 としてあるべ き資質を備えた人材を送 り出しているかどうかにあるとい うことである｡ロージャーナル創刊の辞い うまで もな く,｢神奈川 ロージャーナル｣ もこのような理念のなかで実践 される営みにはかならない｡学生 と教員が対等の立場で編集に当た り,執筆者は教員に限られず,学生,卒業生,社会の様々な人々に開かれたものとして運営 される｡つまり,社会 との相互作用 をとお して,社会から学び,社会に発信 し,司法制度改革のめざす ｢公共性の空間｣を創造するもの として,われわれは｢神奈川 ロージャーナル｣を創刊 したのである｡

ロージャーナル創刊の辞

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