Hecker Rolf

ロルフ ヘッカー

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ロルフ, ヘッカー

Rolf, Hecker

Shokei Gakuin University

（18）『服部英太郎及び服部文男文庫』設置記念シンポジウムのためのご挨拶敬愛する学長殿　服部英太郎及び服部文男文庫設置記念シンポジウムにあたり、貴殿に私の祝辞をお伝えできるのは、私にとって大いなる喜びであります。これから申し上げる言葉は、二人の重要な日本の学者に敬意を表するものであります。貴校の大学図書館は、19 世紀及び 20 世紀の人文社会科学［精神諸科学］文献の価値ある財産を保持している事を誇ることができるのであります。　私文庫というものは、その所有者について大変多くの事を語ってくれます。それらには、その個人の精神的発展、職業的発展、そして部分的にはまたその［物質的］経済的発展さえもが反映されています。とりわけ科学者たちの私文庫は、注目に値します。なぜなら、それらは科学者たちの創造的な実験室について大変多くの事を語るからです。私文庫を非公開のままで後代のために保存することは、うまくいかないことが多いものです。にもかかわらず、ある一定の状態を保持することに成功するならば、そのこと自体が、文化的歴史的な一大事件［Ereignis］であると言って差し支えありません。　今回の場合には、次に挙げる理由が、服部英太郎及び服部文男両氏の私文庫を受け入れるに足る所以を物語っています。１．学術的文庫であること。２．中国語、ドイツ語、英語、フランス語、日本語、ポーランド語、ロシア語文献からなる国際的文庫であること。３．哲学、経済、社会科学、労働運動史という体系的主題をもった文庫であること。４．19 世紀、20 世紀に由来する初版本を含む、古書蒐集家にとって意味ある希少本を含んでいること。社団法人ベルリン MEGA 刊行促進協会2012 年 9 月 23 日、ベルリン981-1295 日本宮城県名取市ゆりが丘 4-10-1尚絅学院大学　学長殿（19）５．これらのものが、西欧とロシアの重要な意義を持つ学術的著作家たちを一堂に相見えさせていること。　まず、お二人の学者の年譜を思い起こさせていただきたく存じます。服部英太郎氏は、1899年に生まれ、1965 年にこの世を去られましたが、1923 年の東北帝国大学法文学部創設以来、同学部の助教授及び教授であり、とりわけ社会政策と社会運動（労働運動）に関して教鞭をとっておられました。服部氏は、1905 年に生まれ、1986 年にこの世を去られた実弟である服部英次郎氏の協力を得て、マルクスの博士論文を 1928 年に翻訳され、それは改造社版『マルクス・エンゲルス全集』第一巻として出版されました。服部英太郎氏は妻を伴って、1930 年から 32年にかけてドイツに留学されました。服部氏はそこでカール・コルシュ教授に出会い、ドイツ労働運動内部の多様な政治的潮流を熟知するに至りました。服部英太郎氏は、1942 年には大学を去り、治安維持法違反の廉で逮捕され、1945 年まで特別高等警察の監視下にありました。1948 年には東北大学に復職し、経済学部長職等を歴任され、1963 年からは、福島大学の学長職を務められました。　前述の改造社版［マルクス・エンゲルス全集］は、第二次世界大戦前においては、最も完全な日本語訳マルクス・エンゲルス全集でした。モスクワ・マルクス・エンゲルス研究所所長ダヴィト・ボリソヴィチ・リャザーノフ（1870 年生、1938 年没）は、大阪にいた大原社会問題研究所の高野岩三郎（1871 年生、1949 年没）に宛てた（1929. ３ . ８の）書簡の中で、この翻訳には不満が残っていたことを、幾つかの遠回しの表現から推論したと述べています。そして、服部文男氏も、1994 年 12 月２日に仙台でなされた私との会話の中で、当時を回想して以下の様にそのことについて認めています。「翻訳作業は大変困難なもので、時には若い研究者たちの手を煩わせることもあった。私の父によるマルクスの博士論文の翻訳も、まだ勉学の途上にあった弟の助けを得て遂行されたもので、『かなり酷いもの』であったと思う。戦後に著名な哲学者である東京大学の井出峻（たかし）教授がこの翻訳を批判しているが、新しい翻訳が岩崎允胤（ちかつぐ）氏によって 1975 年に出版されることになったのは、そういったわけだったのだ」。　服部英太郎氏のご子息である服部文男氏は、1923 年に生まれ、2008 年に世を去られました。彼は 1945 年までは、当時の政治的状況下で、決して平坦な人生を送った訳ではありませんでした。大学教育を受け、学問的な職業的キャリアの可能性を得ることができるようになったのは、戦後 1946 年になってからのことでした。最終的には、1957 年に非常勤講師から始め、東北大学経済学部の正教授を 1987 年まで務められました。社会的理念の歴史に関する彼の取り組み（Beschäftigung）は、サン・シモンなどのユートピア的社会主義者たち［の思想］から始め、ドイツ及びロシアの社会民主主義者に至る、数多くの新しい研究成果をもたらしました。とりわけ注目すべきなのは、彼によって主宰された、「カール・マルクスの資本論の原稿」に関する大学院ゼミ、「ドイツ・イデオロギーとマルクスとフリードリヒ・エンゲルスの初期著作」に関する大学院ゼミ、「レーニンの著作『国家と革命』」に関する大学院ゼミです。同様に傑出しているのは、服部文男氏がマルクスの幾つかの著作を初めて翻訳、もしくは、新たに翻訳し直して、日本語で出版したということです。文男氏は、これらの研究とゼミとの関連で、父の文庫をさらに補完し、重点的に専門化させることができたのです。（20）　はじめにご紹介させていただきましたように、服部氏の私文庫は、人文社会科学［精神諸科学］に関する文献の膨大な集積であります。大村教授と尚絅学院大学の協力者たちによってまとめられた目録から分かるように、ドイツ語 172 冊・フランス語 32 冊・英語 104 冊をはじめとする 1917 年までの西欧文献 312 冊、ドイツ語 1125 冊・フランス語 99 冊・英語 378 冊をはじめとする 1933 年までの 1602 冊、そしてドイツ語 555 冊・フランス語 152 冊・英語 399 冊・イタリア語 4 冊からなる、戦後 1945 年から 1990 年までの 1110 冊を含むものであり、更に 978 冊のロシア語文献がこのコレクションに含まれています。　19 世紀の文献に属するものでは、とりわけ、フランスの初期社会主義者やサン・シモン、ドイツの理論家フェルディナンド・ラッサールとオイゲン・デューリング［の著作など］があります。カール・ロトベルトスの著作のコレクションも傑出（hervorzuheben）しています。服部氏がこれらの著作に特に関心があったことは確かであるように思えます。なぜなら、［当時］ロトベルトスの社会政策的視点が広く流布していて度々議論されていたのですが、フリードリヒ・エンゲルスが彼らに対して激しく反対し、マルクスがそれを擁護していたからです（MEGA 第二版　Ⅱ /13 巻　562-569 頁を参照）。　1933 年に至る時代に由来するものとしては、アウグスト・ベーベル、カール・カウツキー、エドゥアルト・ヴェルンシュタイン、ルドルフ・ヒルファーディング、フランツ・メーリング、カール・レンナー、フリードリヒ・アドラー、カール・グリューンベルク、オットー・バウアーのような、ドイツとオーストリアの社会民主主義者たちの著作がこのコレクションに含まれています。更にローザ・ルクセンブルクの労作も数え上げる事ができます。このポーランド出身の SPD 内左翼の言論指導者は、KPD 創立メンバーの一人であり、ドイツの戦争政策に反対したその勇気ある振る舞いの故に、カール・リープクネヒトと共に 1919 年に殺害されました。この時代に由来する大変多くの諸文献は、比類無きものであり、古書店を廻っても、決して入手することができません。社会民主主義に関する文献と並んで、ヨセフ・ディーツゲンやヘーゲル等の哲学や哲学史、あるいはまた、ミハイル・トゥガン＝バラノフスキー、ワーナー・ソンバート等の政治的経済学に関する文献もそれにあたります。更には、カール・マルクスの遺稿や、ベーベル、ベルンシュタイン、そしてダヴィト・リャザーノフの遺稿から出版された初版本やコレクションも、重要です。　1933 年以前のコレクションの中には、同様に、英国の歴史家ジョージ・ダグラス・ハワード・コールとジェームス・ラムゼイ・マドナルド、アメリカの社会主義者ソーステン・ヴェブレンの著作も含まれています。更に翻訳の中には、レーニン、トロツキ、ボグダノフ、ラデク、ブハーリン、ヴァルガ等の重要なロシアの作家のものもあります。全体としてみて、あの時代に由来するこれらのコレクションを上回るものは、他にありません。このコレクションは、たとえば、一橋大学のカール・メンガーのものや、東北大学の櫛田民蔵のものとくらべても、より広範囲にわたり、より多様なものです。　戦後の文献もまた、世界に名を知られている科学者たちの著作が代表的なものとして挙げられます。［同様に］ジョーン・ロビンソン、ロナルド・ミーク、モーリス・ドッブ、ヨーゼフ・（21）シュンペーター、マルクス研究者のゲオルグ・ルカーチ［= ルカーチ・ジェルジ］、ユルゲン・クチンスキー、オーギュスト・コルニュの著作や、フランスの歴史家ジョジュ・ルフェーブルやフランスの初期社会主義者シャルル・フーリエなどの著作も含まれています。このコレクションは、政治的方向にも哲学的方向にも偏った一方的なものではなく、西欧のあの時代の学問的議論を横断した概観を提供しているという点で、傑出しています。とりわけそれは、1990 年にいたる［東西］両ドイツの文献に関してもあてはまります。　目録の中で挙げられているロシア語の 978 の文献、とりわけ、戦後期のものは、古典文学、ロシア史、哲学、ならびに基本辞典類が代表的なものです。［そこでは］党の指導者であったプレハノフ、レーニン、そしてスターリンの著作と並んで、ここでは 1950 年代と 1960 年代のソヴィエト時代のマルクス主義的な哲学と経済の文献が際立っています。これらのコレクションは、ソヴィエト社会主義連邦共和国における哲学的思想、またスターリニズムとの対決における哲学的思想の発展に関する研究基盤として利用されうるものです。　服部教授は、長年にわたって、東ドイツのマルクス・エンゲルスの研究者たちとのコンタクトを大切にしておられました。とりわけ、私どもの協会の会員であるハインリヒ・ゲムコウ教授と服部氏は、長い間、活発な文通をする関係にありました。私自身は、1994 年に服部教授とお知り合いになる機会がありました。服部氏は、日本におけるマルクス・エンゲルスの研究史、とりわけ、共産党宣言の翻訳の歴史について、数多くの事を教えて下さった私の教師でした。　服部氏自身はその晩年に、この綱領文の改訂版作成のために積極的に関与し、心血を注ぎました。私はよく服部氏の80歳の誕生日を記念するコロキウムのことを思い出します。私たちは、素晴らしい［学術的］雰囲気の中で、一緒に時を過ごすことがゆるされたのですが、このコロキウムでの諸成果は、服部氏によって共同編集された『文献集』（“Archivs”）の最終分冊である第 176 号として出版されました。　最後に私はもう一度、このコレクションが、貴殿の大学図書館に終の住処を見いだしたことに対して、私の喜びを言い表したく存じます。このコレクションが、哲学史、政治的経済学史、マルクス主義的思想史に関する、またスターリニズムや他のドグマ的な思想的方向性との対決に関する、学部生の研究作業や大学院生の学位論文作成作業に活用されますよう、願ってやみません。親愛なる挨拶をもって教授・博士社団法人ベルリン・マルクス・エンゲルス全集刊行促進協会　理事長ロルフ・ヘッカー（翻訳：今井誠二・人間心理学科准教授）

『服部英太郎及び服部文男文庫』設置記念シンポジウムのためのご挨拶

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