Fumio Akiyoshi

秋吉 史夫

Kwansei Gakuin University Repository

コロナ禍における日本の金融（Reference Review66-2 号の研究動向・全分野から, レファレンス・レビュー研究動向編（2020年7月～2021年5月））著者 秋吉 史夫雑誌名 産研論集号 49ページ 99-100発行年 2022-03-20URL http://hdl.handle.net/10236/00030200－ 99 －レファレンス・レビュー研究動向編る。そこでは、日本の持続可能性のために、「個人にしても、企業や行政等々にしても、従来の延長線上ではない、新たな発想で今後の展望を描いていくことが重要」として、「都市集中」か「地方分散」かという分岐ないし対立軸が、もっとも本質的な分岐点ないし選択肢であるという展望を示している。広井教授は後者に期待を寄せ、人口減少社会とは、いわば「地域への着陸」の時代としている。　人口減少時代がもたらす懸念事項として、一般の人にも共有されているのは公的年金に持続可能性についてである。公的年金については定期的に財政再計算・財政検証が行われているが、『社会保障研究』（2020年 4巻 4号）の特集において、石井太慶應義塾大学教授は「将来人口推計と財政検証」という論考を掲載している。そこでは、公的年金の財政検証に将来人口推計がどのように取り込まれてきたのかなどについて検証し、「財政検証が基礎としている公的将来人口推計は人口投影という考え方に基づいている」として、将来人口という不確実性を財政検証に取り込む際の考え方を整理し、財政検証の意味を正しく理解するフレームを示している。　同じ特集における、武藤憲真厚生労働省政策統括官付参事官による「年金財政再計算・財政検証の歴史」は、年金再計算の手法の展開について展望を示している。そこでは、もっとも新しい手法である「平成 16年改正による有限均衡方式」までの変遷を示している。論考の締めくくりで、将来は不確実であってそのなかでどのようなロジックで年金再計算が行われているかを示し、それを踏まえて「世の中にある年金に関する記述の中には、もう少し歴史を踏まえてあれば「こんな記述にはならないのではないか？」と思われるものが散見される。この辺りのこころが分かると、徐々に修正はされていくだろう」と述べられている。　最後に、税務行政にかかる論考を取り上げる。『租税研究』（2020年 3月号）は、森下幹夫国税不服審判所部長審判官による講演録を「国税不服審判所の現状と展望―国税不服審判所は設立 50周年を迎えます―」という表題で掲載している。そこでは、国税における税務行政において重要な役割をはたしていながら、それほど広く知られることのない国税不服審判所について、設立までの沿革を述べたのち、国税不服審判所の特色として、「争点主義的運営」「公正な審理」などを通じて税務行政の適切な運営がなされるように配慮していると説明している。さらに、審査請求手続きの概要を紹介したのちに、審査請求の現状を示し、近年改正された不服審判制度と国税不服審判所の取り組みについて述べ、最近の判決事例について紹介して、今後の展望を行っている。全体として、国税不服審判所がそのミッションである公正な審理がどのように担保されているかを、当事者の立場で解説した資料的価値の高い内容である。巻末の資料も興味深い。【Reference Review 66-2 号の研究動向・全分野から】コロナ禍における日本の金融経済学部教授　秋吉　史夫　新型コロナウイルス感染の拡大は、国際的な人的往来の途絶、サプライチェーンの混乱、ロックダウンによる消費の落ち込みをもたらし、日本経済に深刻な影響を与えている。本稿では、コロナ禍が日本企業・金融機関に与える影響について論じている論文・記事を紹介する。　野﨑浩成「コロナ禍は金融システム不安を発現させるか」（『金融財政事情』71巻 21号）は、コロナ禍によって日本の金融システムが不安定になる可能性について検証している。同論文では、コロナ禍に伴う与信コストの上昇によりいくつかの金融機関が経営危機に陥る可能性はあるものの、産研論集（関西学院大学）49号　2022.3－ 100 －90年代後半のように金融システム全体が危機に陥る可能性は現状では小さいと論じている。その理由として、2008年のリーマンショック以降、バーゼルⅢなどの銀行規制が強化された結果、日本の銀行の危機に対するストレス耐性が高まっていること（自己資本の充実、資金繰りの安定）を挙げている。ただし、今後コロナ禍によって銀行の大口借入先の破綻などが発生することがあれば、金融システムが不安定になる可能性を指摘している。同論文の分析は、政府・日本銀行の企業への金融支援が、中小企業だけでなく大企業にも十分目配りする必要があることを示唆するものといえよう。　下田知行「政府・日銀一体となった持久戦覚悟の企業金融支援策」（『金融財政事情』71巻22号）は、日米の企業金融支援策を比較分析している。米国の中小企業向け融資プログラムである Paycheck Protection Program（PPP）は、雇用の維持などを条件として賃金支払いなどに充当した融資額の返済を免除するという特色を持つ。また融資の申請の際に売上減少の証明書などは不要であり、使い勝手のよい制度となっている。ただし融資額は 8週間分の事業資金のみをカバーする金額であるなど、短期間での経済回復を前提とした制度設計になっている。このため経済回復の遅れによってプログラムの延長を余儀なくされた場合、財政負担が膨らむ可能性がある。一方、日本の中小企業向け融資プログラムは、米国のような返済免除の仕組みはなく、申請が認められる要件も厳しい。しかし、融資額や条件の面で米国よりも手厚い支援となっている。同論文では、以上のような日米の企業金融支援策の特徴を、「給付が手厚い短期決戦の米国、便利な融資で事業継続を持久戦で支える日本」と評している。　池尾和人「コロナ危機は供給サイドショック、需要刺激策は当面不要」（『金融財政事情』71巻18号）は、コロナ禍における経済政策の在り方について論じている。同論文では、現在の日本経済の落ち込みは、通常の不況のような経済の需要不足によるものではなく、コロナ感染の拡大によって企業の生産活動が混乱し、経済の供給サイドに大きな負のショックが生じているためだと論じている。このような状況で通常の不況時のような景気刺激策をとると、需要の拡大に経済の生産能力が対応できずインフレーションが生じる可能性があるとしている。したがって、現在の適切な経済政策は、景気刺激策ではなく、コロナ禍が終息するまで経済の生産能力を温存するための生活支援策（売上が大きく減少した中小企業や失業した労働者への現金給付）であると主張している。もし適切な生活支援策が実施されずに経済の生産能力が大きく棄損してしまうと、コロナ禍終息後も生産の落ち込みが長期化する危険性も指摘している。生活支援策の担い手は財政政策であり、金融政策は現状維持が適切であると論じている。　コロナ禍の厳しい経済状況にも関わらず、政府・日本銀行の手厚い金融支援により、懸念された企業倒産の激増などは今のところ見られない。また金融システムの安定性も維持されている。しかし新型コロナウイルスの予防法・治療法が確立するまでは、厳しい経済状況が続くと考えられる。政府・日本銀行は、これまでの政策対応で得られた知見を活かし、長期化するコロナ禍への対応策を考える必要があろう。【Reference Review 66-2 号の研究動向・全分野から】国立銀行の研究商学部教授　木山　実　粕谷誠『戦前日本のユニバーサルバンキング－財閥系銀行と金融市場－』（名古屋大学出版会、2020年 11月）や白鳥圭志『横浜正金銀行の研究－外国為替銀行の経営組織構築－』（吉川弘文館、

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