角礫岩コンドライトに含まれるアルカリに富む岩片の同位体年代学研究

Abstract

炭素質コンドライト、普通コンドライト、および大規模分化を経験した分化天体を起源とするエコンドライトの揮発性元素および中程度揮発性元素存在度は、太陽系の化学組成を保持しているCI コンドライトの元素存在度に比べ、低いことが知られている。このような惑星物質の揮発性元素、および中程度揮発性元素の損失は、原始太陽系星雲中での蒸発–凝縮過程で起きたと考えられている。蒸発–凝縮過程によって揮発性に応じた元素分別が起きたならば、難揮発性元素の凝縮の後に揮発性の高い元素に富んだ凝縮物が生成されるはずである。しかしながら、揮発性の高い元素に富んだ物質の報告例は極めて少なく、また、これらの元素がどのような過程で母天体から失われたのか長年に渡り議論されてきた。角礫岩コンドライトであるBhola (LL3–6), Krähenberg (LL5), Acfer 111 (H3–6), Siena(LL5), Yamato (Y)-74442 (LL4)から、著しくアルカリ元素に富む岩片が報告されている。アルカリ元素は中程度揮発性元素で親石元素に分類されるが、イオン半径が大きく結晶分化作用において液相に濃集する不適合元素である。これらの岩片のアルカリ元素存在度はナトリウムに乏しく、原子番号の大きなアルカリ元素ほど高い。Bhola, Krähenberg に含まれる岩片のアルカリ元素分別は気相を介した元素の交換反応によって起きたものと解釈されていたが、元素分別過程、および岩片の形成についての理解は不充分であった。本論では、Bhola, Krähenberg, Y-74442 に含まれるアルカリに富む岩片の岩石鉱物学研究から岩片の組織観察と主要元素化学組成分析をおこない、Bhola, Krähenberg, Y-74442 に含まれる岩片の化学的特徴の比較、および形成環境の解明を試みた。また、岩片の形成年代の決定、および起源物質の化学的特徴を解明することを目的としてY-74442, Bhola に含まれる岩片について同位体年代学研究をおこなった。Bhola, Krähenberg, Y-74442 に含まれるアルカリ元素に富む岩片の岩石鉱物学研究から、これらの岩片の組織は類似していることがわかった。また、岩片の主要元素化学組成は隕石間で良く一致し、カリウムに富んでいること、およびナトリウムの損失を除いてそれぞれのホストの化学組成と一致した。このことから、Bhola, Krähenberg, Y-74442 に含まれるアルカリ元素に富む岩片の起源物質は、同一もしくは同様の過程により形成されたことが示唆された。Y-74442 に含まれるアルカリ元素に富む岩片のRb–Sr 同位体分析から、岩片のルビジウム濃度はCI コンドライトの濃度と比較して~70 倍の濃集していた。Y-74442 の岩片9 試料から得られたRb–Sr アイソクロン年代は4429 ± 54 Ma、初生Sr 同位体比は87Sr/86Sr =0.7144 ± 0.0094 であった。岩片試料それぞれののRb/Sr 比は均質ではなく、変動が認められた(Rb/Sr: 2.28–15.1)。また、K–Ca 同位体分析からは、40K を壊変起源とする40Ca の同位体過剰が確認できた。そこで、K–Ca 同位体系を岩片の年代決定の同位体系として適用した。K–Ca 同位体系から得られたK–Ca アイソクロン年代は4513 ± 230 Ma となり、Rb–Sr同位体系から得られた年代と誤差の範囲内で一致した。Rb–Sr、およびK–Ca 同位体系より得られたアイソクロン年代は、アルカリに富む岩片が結晶化した年代を示していると解釈された。また、初生Ca 同位体比は40Ca/44Ca = 47.1587 ± 0.0032 であった。Rb–Sr 同位体系から得られた若い形成年代と高い初生Sr 同位体比は、岩片のアルカリ元素分別過程が、太陽系初期に起きたことを強く示唆していた。また、アルカリに富む岩片のRb/Sr の変動は、4429 Ma の岩片形成時に元素分別があったことを示唆していた。すなわち、アルカリ元素に富む岩片は、太陽系初期(~4568 Ma)と、母天体上での最後の溶融–固化過程時(~4429 Ma)に元素分別を経験したことが示唆された。4568 Ma から4429 Ma にかけてのSr 同位体比の進化からみて、Y-74442 のアルカリ元素に富む岩片の起源物質のRb/Sr 比は、(マグマの結晶分化作用による元素分別過程の痕跡を残す)Kodaikanal IIE 鉄隕石中のシリケイト包有物や、月試料中の花崗岩片と比較して2 倍以上高い組成をもっていたことがわかった。このことから、Y-74442 の岩片の元素分別は結晶分化作用により生じたとは考えられない。そこで、これまで提唱されていたモデルを含めて検討した結果、太陽系初期に元素分別したアルカリに富む凝縮物(成分A)と一般的にコンドライトを構成する苦鉄質成分に富んだ物質(成分B)とが4429 Ma に混合し、Y-74442 に含まれるアルカリ元素に富む岩片が形成されたと仮定した。その結果、アルカリ元素に富む岩片のストロンチウム、およびカルシウム同位体の進化から、成分A のRb/Sr、およびK/Ca 比はRb/Sr= 20–30000, K/Ca~5–180 であり、混合比A:B = 1:99–10:90 の混合によって岩片が形成されたことが示唆された。さらに、母天体上での混合(溶融–固化)過程の際に、気相に存在したRb の岩片への付加があったと考えられる。アルカリに富む岩片の起源物質と考えられるアルカリに富む凝縮物(成分A)は、原始太陽系星雲中での難揮発性元素の凝縮過程の後に起こり得る、中程度揮発性元素の凝縮物であると考えられる。原始太陽系星雲中でアルカリ元素に富む凝縮物(成分A)が4568 Ma に形成された後、約1 億年間(4568 Ma から4429 Ma の間)他の惑星物質との反応から逃れ、4429 Ma に成分Bと衝撃溶融作用によって母天体上で混合したと結論した。母天体上での混合過程によって、アルカリに富む岩片が形成され、直後に気相に存在したRb の付加を受けたと考えられる。その後、岩片は母天体での角礫岩化作用によって粉砕され、Y-74442 に取り込まれた。アルカリに富む岩片の元素分別が、原始太陽系星雲で起きたならば、(50%)凝縮温度を1000−800 K とする、親石元素であるアルカリ元素の選択的な凝縮があったことが示唆された。このことから、原始太陽系星雲中において、凝縮温度また、元素の特性に依存した凝縮があった可能性が示された

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