HITOSHI MUKAI

SHOHEI NOMURA

向井 人史

野村 渉平

野村, 渉平

ノムラ, ショウヘイ

NOMURA, SHOHEI

向井, 人史

ムカイ, ヒトシ

MUKAI, HITOSHI

Tokyo University of Science Repository for Academic Resources / 東京理科大学学術リポジトリ

4 理大 科学フォーラム　2016（8）現在の気温は，気温の観測が精度よく行われるようになった1880年から約１℃上昇しています。これは大気中の温室効果ガス（主に二酸化炭素（CO2））の濃度上昇が主因だと考えられています。この濃度上昇は，1958年からハワイ島にあるマウナロア観測所と南極において開始されたCO2濃度観測により明らかとなりました。その後，このCO2濃度観測は世界中で展開されました。この観測は，主に山岳・離島・岬で行われています。これは観測所近くの人為的および植物の影響を極力回避するためです。そのうち山岳での観測は，その地点周辺の大気が地表近くの観測点より広域の平均的濃度である利点があります。しかし観測機材の運搬や電源の安定確保が困難であるため，多くの観測所が離島や岬に設置され運用されています。国立環境研究所は，沖縄県波は照てる間ま島じまの東海岸と北海道根室にある落おち石いし岬みさきに観測所を設け，CO2濃度を含めた多種多様な大気中の成分を測定しています。そして2009年から上記２ヵ所に加えて，富士山頂でCO2濃度の観測を始めました。富士山頂でのCO2濃度の観測は，過去に短期間であるものの東北大学と気象研究所が異なる時期にそれぞれ行いました。その結果，富士山頂の大気は地上の人為的および植生の影響を受けていない大気であることが明らかとなりました。これは富士山が独立峰で他の山からの谷風を受けない，標高2,500m以上に植生がない，頂上は常に強い水平方向の風が吹いているためです。しかし観測に使用していた観測所への電力の供給が夏期以外絶たれたことから，CO2濃度の観測が中断されました。ただ地上でありながら地上の人為的な影響を受けない大気を捉えられる地点は，日本で富士山頂しか見当たりません。また世界においてCO2濃度の観測を行っている山岳観測点（例えばスイスのユングフラウヨッホやハワイのマウナロア）は，山体の形状が平たい，あるいは山が連なるため，観測された大気のうち，人為的および植生の影響を受けていない大気を選定しながら解析しています。以上のように富士山頂の大気は，世界的に見てもCO2濃度の観測にとって理想的な条件が整っています。そこで筆者らは夏期しか電源が供給されないという，長期観測を継続するのに困難な富士山頂観測所でも運転が可能なCO2濃度観測システムを開発しました。その開発したCO2濃度観測システム（写真１）は，真冬－20℃近くまで低下する室内に置いても稼働するように，CO2濃度測定部を断熱容器に入れ，機内の熱を効率良く留めることに努めると同時に，徹底的に省電力化しました。電気が供給されない夏期以外の期間については，並列につないだ100個の12Vバッテリーに充電された電気をCO2濃度観測システムに供給し，稼働させました。またこのバッテリーの充電と給電はスイッチひとつで簡単にできるシステムにしました。これによ特集　山岳域における大気観測富士山頂でのCO2の測定国立環境研究所 地球環境研究センター 炭素循環研究室 特別研究員　野の村むら　渉しょう平へい国立環境研究所 地球環境研究センター センター長　向むか井い　人ひと史し5理大 科学フォーラム　2016（8）り長期間安定した観測が可能となりました。そのシステムにより測られた富士山頂のCO2濃度と，北半球の平均的なCO2濃度を示すハワイ島のマウナロア観測所で測られた値と比較すると，似たような値で推移していました（図１）。このことから富士山頂のCO2濃度は，この地域の平均的なCO2濃度を示していると考えられます。さらにΔCO2（富士山頂のCO2濃度からマウナロアのCO2濃度を引いた値）を見ると，夏はマイナスを示し，秋から翌春はプラスを示しました（図２）。これはアジア域で相対的に夏期においてCO2の吸収が強く，冬期においてCO2の放出が強かったことが推察されます。また夏期と冬期に見られる最大値と最小値は年々増大する傾向にありました。これはアジア域でのCO2の吸収源と放出源が強くなっていることが示唆されます。このように，富士山頂で長期間CO2濃度を観測することにより，アジア域のCO2の吸収特性や放出特性が明らかとなりました。これからもアジア域のCO2の吸収と放出の変化をとらえるため，富士山頂でのCO2濃度観測を継続していく所存です。写真１　富士山頂に設置されたCO2濃度観測システム充電器 CO2計 電源盤 充電・給電切替器充電コントローラーシリカゲルCO2標準ガス夏期越冬観測切替器バッテリー図１　富士山頂とマウナロアのCO2濃度の比較410405400395390385380375CO2（ppm）2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015富士山頂マウナロアTime（year）図２　ΔCO2（富士山頂CO2濃度－マウナロアCO2濃度）151050－5－10－15ΔCO2（ppm）2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015Time（year）

富士山頂でのCO₂の測定 (特集 山岳域における大気観測)

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富士山頂でのCO₂の測定 (特集山岳域における大気観測)

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