Chizuru Kiyohara

Haruka SUGIYAMA

Kei-ichi IMAMOTO

今本 啓一

杉山 晴香

清原 千鶴

杉山, 晴香

スギヤマ, ハルカ

SUGIYAMA, Haruka

今本, 啓一

イマモト, ケイイチ

IMAMOTO, Kei-ichi

清原, 千鶴

キヨハラ, チヅル

Kiyohara, Chizuru

Tokyo University of Science Repository for Academic Resources / 東京理科大学学術リポジトリ

18 理大 科学フォーラム　2019（4）はじめに版築とは，中国の伝統的な工法で，土壁や土壇の築造法の一種です。板で囲み枠を造り，土や砂利と一緒に稲藁や石灰を加えたのち，突き棒で上から押して締固める工程をくり返して作製します。そのため，土の層が見えることが版築工法の特徴のひとつと言えます。従来の版築では，強度を向上させるために凝固剤として稲藁や石灰を使用していましたが，現代では，セメントやセメントに代わる結合材を用いて版築壁などを作製することが増えています（図１）。また，版築工法は，飛鳥時代に仏教建築とともに日本に伝わり，墳墓や寺院の基礎部分に使われていました。日本国内における版築工法の例としては，奈良県・法隆寺の築地塀や京都府・龍安寺の油土塀などが挙げられます。また，現代建築の例として，千葉県市原市に建てられた「版築のいえ」（写真１）が挙げられます。この建築では，内外壁に版築工法が用いられています。このように，土を主原料とし，締固めにより築造する版築は，環境への負荷が小さく，歴史的構造物のみならず現代建築の建築材料としても再認識されつつあるのです。そこで，本研究では版築工法を用いたブロック体と鉄骨部材との合成構造の開発を検討しています。本稿では，① 版築ブロックに関する基礎的研究，② 合成構造のモックアップ試験，③ 合成構造第一弾となる大分県国東市での版築ブロック作製，について紹介します。版築ブロックに関する基礎的研究本研究で目指す，地産地消型の版築ブロックと鉄骨部材の合成構造では，版築ブロックが鉛直力とせん断力を負担し，鉄骨部材が水平力を負担するものと考えています。そして，この合成構造の剛性や耐力を評価するためには実際に作製した版築ブロックの圧縮強度やヤング係数（変形のしやすさを表す指標）を把握することが重要です。しかし，版築ブロックの強度は使用する地域の土の状況に左右されるため，作製現場で圧縮強度やヤング係数を簡便に推定することが必要となりま板で囲み枠を作る突き棒を用いて締固める 囲み枠内に土を入れる土土藁砂利石灰従来版築結合材 現代版築図１　版築工法の仕組み写真１　版築のいえ　上：南面，下：北面設計：薩田英男／薩田建築スタジオ特集 自然素材をまとった建物づくり東京理科大学 工学研究科 建築学専攻　杉すぎ山やま　晴はる香か東京理科大学 工学部 建築学科 教授　今いま本もと　啓けい一いち東京理科大学 工学部 建築学科 助教　清きよ原はら　千ち鶴づる版築と鉄骨による合成構造の開発19理大 科学フォーラム　2019（4）す。そこで，版築ブロックの力学特性に及ぼす調合の検討を行い，また，非破壊的手法を用いた版築ブロックの圧縮強度およびヤング係数の推定を試みました。本実験では，結合材に環境配慮型の土壌硬化剤を，土には園芸用土として用いられる荒木田土（田んぼや河川敷などの下層で見られる粘土質の土のこと）に加え，コンクリートの細骨材である陸砂を使用しています（写真２）。また，結合材の強度発現性を把握するために，水結合材比を35，50，75，100，125％と変化させ，封ふう緘かん養よう生じょう（供試体表面からの水分の出入りがない状態に保って行う養生のこと）と気中養生の２水準の養生方法で円柱試験体を作製し，JIS規格に準じた圧縮強度試験を行いました。その結果，水結合材比が高くなるにつれて圧縮強度が低下することが確認でき，養生方法では気中養生よりも封緘養生を行うと結合材の強度発現性が期待できることが判明しました（図２）。そのため，版築ブロックを作製する際は，打設直後から封緘養生としています。また，作製時の締固め回数についても検討し，現在は，４層に分けて締固めを行い１層あたりの回数を16回に統一しました（JIS規格に準じた４×４×16cmの３連式鋼製型枠と突き棒を使用）。版築ブロックの力学特性に関する実験では，土の粒度や調合の組み合わせが異なる版築試験体を作製し，圧縮強度試験や超音波試験を実施しています。圧縮強度試験時に，僅かな水分量の差から急激な強度低下が確認できた版築試験体があり，練混ぜ時に加える水分量の微調整が重要になると考えました。そのため，使用する土の含水比を正確に把握することが必要となるので，土の含水比の判定方法として，高周波水分計による静電容量の適用について検討を行いました。含水比と静電容量の関係の一例を図３に示します。若干のばらつきはありますが，含水比が高くなるにつれて静電容量の値も高くなる傾向を示し，両者に高い相関性を確認しました。よって，静電容量の測定により簡便に使用する土の含水比の推定が可能だと言えます。現時点では，使用する土に対して個々に含水比の推定式を作成する必要があるため，土の種類によらず使用可能な含水比の推定式作成を検討しています。図４に圧縮強度試験と超音波試験の結果を示します。コンクリートと同様に，圧縮強度が高くなるとヤング係数が高くなり，また，超音波伝播速度が速くなると圧縮強度が高くなる傾向が見られ，共に，高い相関性を確認しました。図中にはコンクリートの関係式を結合材 荒木田土 陸砂材齢１日（封緘）材齢７日（封緘）材齢28日（封緘）材齢７日（気中）材齢15日（気中）材齢28日（気中）封緘養生403530252015105035 50 75 100 125W/B（％）圧縮強度（N/mm2 ）気中養生写真２　使用材料および作製した版築ブロック 図２　結合材ペースト圧縮強度試験結果高周波水分計含水比（％）3025201510500 500 1000 1500静電容量（F）荒木田土y＝0.022×－2.1R2＝0.90図３　静電容量と含水比の関係20 理大 科学フォーラム　2019（4）実線で示し，版築ブロックの関係式を破線で示しています。以上を踏まえ，超音波試験により非破壊的に版築ブロックの圧縮強度およびヤング係数の推定が可能であることが示唆されました。モックアップ試験版築ブロックとH形鋼を組み合わせた合成梁に対して３点曲げ試験を行いました。モックアップ試験（実物に似せて作製した試験体を用いた試験のこと）では，15×15×40cmの版築ブロックを作製し，鋼板→版築ブロック→H形鋼の順に積層しています。また，１回目の試験では，鋼板およびH形鋼と版築ブロックの間に目地材（高炉モルタル）を充塡し，２回目の試験では，目地材なしで載荷試験を行いました。本試験では，ヤング係数の値が10kN/m2となる版築ブロックが求められたため，事前に強度試験を行い，その結果を基に表１に示す１回目の調合を選定しました。しかし，版築ブロックを作製するため自作のランマー（落下時の衝撃力で締固めを行う道具のこと）を用いて締固めを行いましたが，１回目の調合では，施工性が悪く十分な締固めができませんでした。そのため，写真３のように空隙が多い版築ブロックとなっています。そこで，２回目は水分量を増やし施工しやすい調合（表１）としました。図５にモックアップ試験の結果を示します。１回目は版築ブロック上面の水平が保たれず接合部に隙間が生じたため版築ブロックへの荷重の伝達が不十分であったと考えられました。２回目は版築ブロックの中央付近にひび割れが生じましたが，ブロック間の目地が外れていたため水平方向の荷重の伝達が行われなかったと考えられました。また，載荷荷重とひずみの関係から目地材の有無による違いは確認できませんでした。モックアップ試験後，版築ブロックの挙動を再確認するために，模擬体を作製し追加実験を行いました。追加実験では，A：鋼板でブロックを挟んだ状態，B：Aの鋼板最上面超音波試験機ヤング係数（kN/mm2 ） 353025201510500 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.510 20 30 40 50 60圧縮強度（N/mm2）実測値近似式JASS5コンクリート超音波伝播速度（km/s）120100806040200圧縮強度（N/mm2 ）y＝0.0245e2.5325x    R2＝0.932版築y＝0.0805e1.4041x    R2＝0.804R2＝0.81１回目２回目 Ａ Ｂ図４　圧縮強度試験および超音波試験結果写真３　作製した版築ブロック（側面），セットアップ状況，追加実験（A，B）表１　調合割合W/B質量比荒木田土 陸砂 B W１回目 0.71 0.30 0.21 0.35 0.15２回目 0.81 0.31 0.25 0.31 0.13※W/B：水結合材比，B：結合材，W：上水道水21理大 科学フォーラム　2019（4）に突き棒を載せた状態（モックアップ試験の載荷状態を模擬）とし，載荷試験を行っています。本実験ではA，Bともに載荷荷重の増大に伴い，ひずみも増大する傾向が見られ，版築ブロックへの荷重の伝達を確認できました。大分県国東市における実施工大分県国東市に建てられた茶室建屋の階段（入口およびにじりぐち，写真５）を版築ブロックと鉄板の合成構造で作製しました。実施工では，現地で採取した土を使用し，版築ブロックを作製しています。そして，土の物性を確認するために，事前に「JIS A 1202 土粒子の密度試験」と「JIS A 1204 粒度試験」を行いました。図６に実験結果を示します。粒径加積曲線から，粘土質な荒木田土に対し大分の土は粗砂や礫の割合が多く，土粒子密度は低いことが分かります。文献を用いて大分県国東市の地質を調べたところ，両ふた子ご山の噴火により形成された凝灰角礫岩を含む火山砕さい屑せつ物ぶつの地質だと分かりました。ここでは，土の風合いを重視し，２N/mm2程度となる調合（表２）で版築ブロックを作製しました。また，採取した土は水分量が多く大きな塊ばかりで練混ぜが困難となるため，可能な限り土を乾燥させ，粉砕とふるい掛けをくり返し行った土を使用しました（写真４）。土の割合が多いので，１層ずつしっかりと締固める必要がありますが，衝撃を与え過ぎると締固める前の状態に戻るため，全体重を掛けながらランマーを押し付けて締固めました。約６ヵ月間茶室建屋内で封緘養生とした後，脱型を行ったところ，締固め状況により部分的に崩れるものもありましたが，土の層が分かる版築ブロックが完成しました（写真５）。モックアップ試験（１回目目地あり） モックアップ試験（２回目目地なし）ひずみ１ひずみ２ひずみ平均ひずみ１ひずみ２ひずみ平均250200150100500250200150100500荷重（kN）荷重（kN）－500 －500－50 －500 500 1000 1500 2000 0 500 1000 1500 2000ひずみ（×10－6） ひずみ（×10－6）図５　モックアップ試験結果 図６　粒径加積曲線と土粒子密度W/B質量比採取した土 B W0.75 １ 0.20 0.15※高周波水分計を用いて大分の土の含水比推定表２　調合割合通過質量百分率（％）10090807060504030201000.01 0.1 1 10粘土 細砂粒経（mm）シルト中砂粗砂礫大分の土荒木田土土粒子密度（g/cm3）大分の土 2.423荒木田土 2.538水 大分の土（粒径細・粗） セメント土採取 ふるい掛け 締固め土乾燥 練混ぜ写真４　使用材料および作業内容にじりぐち茶室入口写真５　茶室建屋およびにじりぐちの階段

版築と鉄骨による合成構造の開発 (特集 自然素材をまとった建物づくり)

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