環境外部性、課税政策、および経済成長(平澤誠提出博士(経済学)学位請求論文審査要旨)

Abstract

経済活動の進展に伴い、環境問題は深刻さを増す一方である。経済学的には、環境問題は外部性の問題である。企業の生産活動や家計の消費活動が環境に影響を及ぼし、その環境の変化が不特定多数の企業や家計の生産性や効用に影響を与える。ここに、政府による政策的介入一例えば、排出の規制、環境保全のための直接的支出や補助金一が必要とされる根拠がある。本論文は、環境と経済成長との相互作用、および、それらに対する政府の環境保全活動の効果を分析することを目的としている。とりわけ、環境保全活動の財源調達に着目し、異なる課税手段の間の効果の比較に力点がおかれている。本論文は全3章および補章からなる。第1章では、環境と環境外部性に関する一般的な議論が展開された後、既存研究のサーベイが行われている。そこでは、経済成長理論に基づく1990年代以降の研究を、無限時間視野モデルを用いたものと世代重複モデルを用いたものに分類し、分類ごとに主として設定の違いを比較しながら網羅的に紹介している。第2章では、自国の環境が自国の汚染物質の排出のみならず、外国の排出にも影響を受けるという越境汚染を想定し、排出削減費用が消費税によって賄われる場合と所得税によって賄われる場合について、その長期的な環境や資本ストックの水準などへの影響を比較している。そして、消費税率の変化は環境の長期的水準に影響を与えないのに対して、所得税率の上昇は環境の長期的水準に負の効果を持つことを明らかにしている。さらに、この結果に基づき、消費税による調達の場合よりも長期的な環境の水準が高くなるような所得税率の上限を導出している。第3章では、人的資本蓄積を伴う内生的経済成長モデルの下で、環境保全投資に対する補助金を労働所得税で賄う場合と消費税で賄う場合に関して、長期的な環境水準および経済成長率(=人的資本の成長率)に対する効果を比較している。そして、いずれの場合においても長期的な経済成長率は高まる一方で、長期的な環境水準に対しては、消費税による調達が正の効果をもつのに対し、労働所得税による調達は負の効果をもつことが示されている。補章では、動学体系を数値解析するための手法が紹介され、それを環境と経済成長の問題を取り扱った既存研究や本論文の第3章のモデルに適用した結果が示されている

    Similar works