GOTO  Takuya

SAGARA  Akio

YANAGI  Nagato

National Institute for Fusion Science (NIFS-Repository)

小特集：先進燃料核融合研究の現状と展開　７．おわりに著者 GOTO  Takuya, YANAGI  Nagato, SAGARA  Akio雑誌名 プラズマ・核融合学会誌巻 98号 2ページ 96-97発行年 2022-02NAIS 13340URL http://hdl.handle.net/10655/00013131Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja本小特集では，「先進燃料核融合」というキーワードのもと，様々な観点からの国内外の最新の研究動向を紹介した．ここではまとめとして，本小特集全体を通して見えてきた先進燃料核融合の特徴と，その研究の意義についてまとめたい．先進燃料を用いた核融合炉の特徴として一般にイメージされているのは，以下の４項目ではないかと思われる．１）トリチウムを主燃料として用いないため，初期装荷トリチウムの確保，トリチウム増殖が不要であり，トリチウム増殖のための6Li 同位体濃縮，Beなどの中性子増倍材の取り扱いも不要２）中性子発生量が桁違いに小さく，炉内機器の照射損傷や放射化の影響も小さい３）反応断面積が小さく，核融合燃焼条件の実現のためには物理・工学設計条件の大幅な改善が必要４）発生した核融合エネルギーの担い手が荷電粒子中心となるため，現状のDT燃料核融合炉とは違ったエネルギー取り出し手法の開発が必要これらはもちろん間違っておらず，本小特集の各章でもこれらの特徴に関する言及がある．一方で，トリチウム割合を増大させることによる自己点火条件の緩和や希少燃料であるトリチウムと3He の循環燃料サイクルの構想（２章），RFP炉におけるDT燃焼からの移行によるD3He自己点火条件の達成（３章），高速点火レーザー炉におけるDT点火剤による点火条件の緩和（４章）など，先進燃料とDT燃料の組み合わせがもたらす効果は大きく，現実的な炉設計を行うにあたっては，先進燃料核融合であっても１），２）で示したトリチウムおよび中性子に関係する諸課題への取り組みはなお重要であることがわかる．また３）についても核弾性散乱効果によるバルクイオン加熱の大きさの違い（２章，３章）や輻射損失の違い（３章，４章），磁場閉じ込め装置での燃料希釈の影響の違い（３章）などから，DD，D3He，p11B 各反応を用いた炉心プラズマ設計が単純に反応断面積の差だけでは決まらないことが指摘されているほか，磁場閉じ込め方式ではシンクロトロン輻射増大の影響で高磁場では必要なイオン加熱割合が増大すること（３章）や，レーザー方式では適正核融合出力の維持の観点でレーザーエネルギーの増大よりも燃料爆縮のさらなる高密度化が求められること（４章）などから，単に磁場強度やレーザー強度の増大といった工学設計パラメータの向上だけでは必ずしも先進燃料核融合炉実現の解とはならない事実も指摘されている．一方，特に反応断面積が小さく物理的困難が大きいp11B反応については，レーザー方式を中心に非熱的核融合反応を用いた点火・燃焼実現の可能性を模索する研究も行われており，レーザー加速イオンビーム等の理論・実験研究の進展にも寄与していることに言及しておきたい．４）については，DT燃料核融合炉と違い中性子によるブランケットの体積発熱を利用した熱の取り出しができないことに加え，同程度の核融合出力の場合，DT燃料核融合炉と比較してプラズマ対向機器（第一壁とトーラス型磁場閉じ込めの方式のダイバータ）の表面熱負荷が大きくなる．前者の熱取り出しについては，過去にARIES-III の炉設計において制動輻射を利用した放射ボイラー方式の遮蔽体の設計成立性が示されているが［１］，最新の知見を生かした設計の最適化が望まれる．また，先進燃料核融合の特徴を生かし，そもそも熱を経由しない直接エネルギー変換による高効率発電の実現が大きく期待される．その点において，国内において直接エネルギー変換を前提とした具体的な装置設計（５章）とそれに対応する直接エネルギー変換の実験研究（６章）が３０年近く前から行われていることは非常に大きな意味を持っている．後者の表面熱負荷の増大については，液体金属も含めた材料選択や冷却手法の最適化による対処が必要と考えられ，こちらも最新の知見を生かした解析の進展が望まれる．ここまで，本小特集で紹介された内容を一般的な先進燃料核融合のイメージとの対比も含めて概観してきたが，ここからはDT燃料核融合も含めた研究としての位置付けについて述べたい．３章，４章でも触れられている通り，先進燃料核融合炉の設計においては，DT燃料核融合炉設計において既存装置の実験結果などから半ば「常識」のように設定しているパラメータ制約を外さなければ炉心プラズ小特集 先進燃料核融合研究の現状と展開７．おわりに7. Summary後藤拓也，柳 長門，相良明男GOTO Takuya, YANAGI Nagato and SAGARA Akio核融合科学研究所（原稿受付：２０２１年１０月２３日）National Institute for Fusion Science, Toki, GIFU 509-5292, Japancorresponding author’s e-mail: goto.takuya@nifs.ac.jpJ. Plasma Fusion Res. Vol.98, No.2 (2022)９６‐９７2022 The Japan Society of PlasmaScience and Nuclear Fusion Research９６マとして成立する解が見えてこない．逆に言えば，先進燃料核融合炉の検討は，これらの「常識」を打ち破る機会を与えてくれるものだと言うことができる．常識を打ち破った先にどういう世界が見えて，またどのような課題が浮かび上がってくるのかを知ることは，DT燃料核融合炉の設計を考える上でも重要と言える．また，先進燃料核融合炉において炉心プラズマや周辺工学機器に求められる条件（磁場方式でのディスラプション，燃料供給，不純物排気，コイル保護，および，レーザー方式での高密度爆縮）を見ると，より難しいパラメータが求められるという面はあるものの，課題そのものにはDT燃料核融合炉と本質的な差はないことがわかる．先進燃料核融合の研究は核融合炉としての本質的な課題を直視している側面が大きく，それがDT燃料核融合炉とのパラメータの違いにより際立っているとも言える．このためこれらの課題をクリアするための研究はそのままDT燃料核融合炉の魅力の向上にも直結することになり，特に商用炉以降のDT燃料核融合炉の設計に大きく資するものと期待される．例えば，先進燃料核融合炉においては高温度のイオンの閉じ込めが必要であるが，DT燃料核融合炉においてもトリチウムの高エネルギー成分を生成することができれば，核融合反応率を向上させることによりDT燃料に占めるトリチウムの割合を減らすことができる可能性が指摘されている．これは核融合炉システム全体でのトリチウム保持量の低減につながり，それだけでも大きなメリットが期待できる［２］．なお，本小特集を通じてもうひとつ明らかになったのは基礎的なものも含む実験研究の重要性である．現状先進燃料核融合炉の設計はシミュレーションに負うところが大きい．しかし各章においても指摘されている通り，設計の確実性の向上のためには，その背景にある物理の実験的検証が不可欠である．ここまでに述べた通り，先進燃料核融合炉に必要な研究はDT燃料核融合炉にも資するものであり，既存の実験装置の活用も期待される．この小特集をひとつの入り口として，先進燃料核融合研究に取り組む研究者，特に若手研究者の数が少しでも増えれば幸いである．１章でも紹介された通り，本小特集は核融合科学研究所の一般共同研究として２０年近く継続されてきた先進燃料核融合に関する研究会（令和３年度は「先進燃料核融合研究の現状と今後の検討課題」として実施）における議論の一部をまとめたものである．これまでの共同研究および本小特集の執筆に関わってくださった関係各位への深い感謝を持って結びとしたい．参 考 文 献［１］I.N. Sviatoslavsky et al., Proc. The 14th IEEE/NPSS Sympo-sium Fusion Engineering, 455 (1992).［２］N. Yanagi et al., Plasma Fusion Res. 6, 2405046 (2011).Special Topic Article 7. Summary T. Goto et al.９７

小特集：先進燃料核融合研究の現状と展開　７．おわりに

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