単一磁束量子の2進パルス列を用いたD/A変換器の研究

Abstract

単一磁束量子(Single Flux Quantum)を用いた超伝導回路であるRSFQ(Rapid-SFQ)回路は、100GHzを超える帯域およびCMOS の1/1000以下の消費電力であることから、次世代の基盤技術として研究されている。SFQ回路の動作原理となるJosephson効果では、SFQがジョセフソン接合を通過する際に、その通過周波数に比例する高精度電圧が出力されることが示されている。この電圧は量子力学で保証される高精度電圧標準そのため、直流の一次電圧標準として用いられている。一方、交流の一次標準の作成にはいまだに至っておらず、研究が行われている。高精度交流電圧出力の方式として、RSFQ回路上でSFQパルス列の周波数可変回路を作製することによって、任意電圧の出力を行う周波数変調型RSFQ Digital-to-Analog Converter(DAC)などが研究されている。その中でも本研究ではSum of selected bit sequence(Σ-SBS)型のRSFQ-DACに着目した。Σ-SBS型RSFQ-DACは、SFQパルス列を2のべき乗のパルス列に分割し、指定されたパルス列のみを合成することで、2進数で表されたデータに対応する出力SFQパルス列を生成する。先行研究では6bit Σ-SBS RSFQ-DAC が設計および試作され、1.7μVまでの出力電圧で正常動作が確認された。しかし、計算上の動作限界では23μV程度が期待されていたため、想定よりも出力が低いことが報告された。そこで本研究では、先行研究で示されたΣ-SBSの最大動作速度を向上させるため、改良及び回路機構の変更を行った。主要な回路調整として、SFQパルス列の合成に対して適切な遅延を介することで、SFQパルス列同士の合成時に衝突を起こす頻度を減少させる機構を提案した。また、入力データの最上位ビット(Most Significant Bit:MSB)を分離することで動作速度の向上及び正負両極動作を行う機構も提案した。設計されたΣ-SBS RSFQ-DACでは最大出力電圧は244μVとなり、数値計算によって得られた最大出力電圧の259.8μVに対して94%程の動作が確認された。この結果は先行研究の1.7μVの144倍となった。また、MSB分離型4bitΣ-SBSは差動アンプを介して正負両極動作の測定を行い、-260μVから230μまでの両極動作が確認された。本研究では8bitなどの高段での設計も同様に行ったが、正常動作が得られなかった。今後の目標として、回路を構成するセルライブラリなどの再設計を行うことで動作マージンを広げていく必要があると考えた。電気通信大学202

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