thesis

アルキル基置換ビスピラゾリルピリジン誘導体を配位子に用いた鉄(Ⅱ)スピンクロスオーバー錯体の系統的研究

Abstract

【背景】スピンクロスオーバー (SCO) 錯体は記憶材料やスイッチング材料などへの応用が期待されている。そのためには、SCO温度 (T1/2) を制御することが重要な研究課題の一つである。2,6-ビス(1-ピラゾリル)ピリジンは、[FeL2]2+ 型錯塩となったときにSCOを示しやすい配位子として知られている。本研究では、(L)のピラゾール環3,5-位に電子供与基のアルキル基(R = Me, Et, Pr, Bu)を導入し、カウンターアニオン(X)としてClO4やBF4を用いて、T1/2を比較検討した。【結果】錯体 [Fe(LR)2](X)2 (図1a)を合成した1)。固体状態の直流磁化率測定(図1b)によると、 Rの導入により、すべての錯体で低スピン状態が安定化した。特にMe基で顕著であった。しかし、立体反発が大きくなり、 Fe-N間距離が長くなると考えられるEt~Bu基では、Me基の場合に比べて逆に低スピン状態を不安定化した。これらは溶液状態の測定でも同様の傾向を示した。またX線単結晶構造解析により、[Fe(LR)2](ClO4)2はアルキル基が導入されると大きく歪みが解消され、理想的な正八面体に近く低スピン状態が安定化することが確認された(図1c)2)。 【考察】本系においては、置換基を導入した際、N原子の電子密度を高める電子効果・結晶に内部圧力を与える立体効果・正八面体からの歪みを解消する効果がみられた。電子効果および歪みを解消する効果で低スピン状態の安定化が進み、T1/2は上昇した。一方で、立体効果によっては低スピン状態を不安定化し、T1/2は下降した。すなわち、アルキル基の電子効果および歪みを解消する効果のT1/2シフトは、立体効果のT1/2シフトと相反する結果をもたらしているように見える。このような調査は、可溶化置換基のような化学修飾の影響の予測に役立つ。電気通信大学201

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