パルス励起によるCoherent Population Trapping原子発振器の特性改善に関する研究

Abstract

Coherent Population Trapping(以下 CPT)共鳴を利用した原子発振器は,小型かつ省電力でありながら原子の遷移周波数を基準とするため高い周波数安定度を有することが特徴である.近年では,小型情報端末,センサーネットワーク,測位衛星,車載向けなど体積と消費電力が制限される機器への搭載に向けてCPT原子発振器の小型化,省電力化,高安定化の研究,開発が進められている.一般に,原子発振器には高い周波数安定度が要求され,安定度を高める方法として Double-Λ法 [6] やPush-Pull光ポンピング法 [7] など,種々提案されている [8].しかし,これまでの提案法は複雑な光学系と高い消費電力を要するため,小型原子発振器への適用は困難であった.そこで本研究は小型原子発振器に適用できる小型で低電力動作可能な改善法として,パルス励起に着目した.一般的に周波数安定度はアラン標準偏差で表される [9;10;11].原子発振器の場合には,安定度は平均化時間により短期と長期の2つに分類される [12].短期安定度は共鳴のS/N比とQ値の積で理論的性能が決まる [13].S/N比改善のためには高い光強度で励起する必要があるが,高い光強度はパワーブロードニングによるQ値低下を招くため,S/N比とQ値を同時に改善するのは難しい [14].長期安定度は,共鳴の測定条件が時間的に変化し,周波数が変動することで劣化する.周波数変動の支配的な要因はライトシフトであり,光学素子類の経年劣化により光強度変化が生じた際に周波数が変動する [15;16;17] したがって,周波数安定度を改善するためには,S/N比とQ値の向上とライトシフトの低減が求められる.近年,パルス励起による特性改善が注目されている [6;18;19;20;21].パルス励起は,ラムゼイ干渉を利用する方法で,パワーブロードニング抑制とライトシフト低減が可能となり,短期,長期ともに高い安定度が得られる [18].しかし,パルス励起で使用される音響光学変調器は体積と消費電力が大きく,小型原子発振器への適用は困難である.また,ライトシフトは長期安定度劣化の主要因であるが,その低減効果は実験による報告のみで,理論的解明は行われていなかった.それゆえ,最適な実験条件は明らかでなく,更なる長期安定度改善のため,ライトシフトの理論的な解明が望まれていた.そこで本研究は,小型原子発振器に適用できる小型で低電力動作可能な改善法として,パルス励起に関する研究を行った.パルス励起が小型かつ省電力動作可能なこと,提案する解析法によりライトシフトの振る舞いを定量的に解析可能なことを示した.本論文では,まず,パルス励起によるCPT共鳴の解析および実験からパワーブロードニング抑制効果とライトシフト低減効果を明らかにし,パルス励起の有効性を確認する.次に,小型で低消費電力な改善方法として透過型液晶を用いたパルス励起を提案し,共鳴特性が改善されることを示す.加えて,発振器の更なる省電力化を目指し,高次高調波による励起を検討し,RF回路の大幅な省電力化を図る.最後に,S/N比改善法として直交偏光子法を提案する.首都大学東

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