科学研究費補助金研究成果報告書研究種目: 基盤研究(C)研究期間: 2001～2002課題番号: 13670042研究代表者: 松浦 博（滋賀医科大学・医学部・教授）研究分担者: 林 維光（滋賀医科大学・医学部・助手）研究分担者: 豊田 太（滋賀医科大学・医学部・助手

TOYODA Futoshi

松浦 博

林 維光

豊田 太

Research Paper科学研究費補助金研究成果報告書研究種目: 基盤研究(C)研究期間: 2001～2002課題番号: 13670042研究代表者: 松浦 博（滋賀医科大学・医学部・教授）研究分担者: 林 維光（滋賀医科大学・医学部・助手）研究分担者: 豊田 太（滋賀医科大学・医学部・助手）research repor

松浦, 博

林, 維光

豊田, 太

TOYODA, Futoshi

Shiga University of Medical Science Repository BI WAKO / 滋賀医科大学機関リポジトリ

イノシトールリン脂質による心筋遅延整流性K^+チャネルの調節機構の解析著者 松浦 博, 林 維光, 豊田 太発行年 2003-05その他の言語のタイトルRegulation of the cardiac delayed rectifierK^+ channel by membrane phosphoinositidesURL http://hdl.handle.net/10422/6510イノシトールリン脂質による心筋遅延整流』性K+チャネルの調節機構の解析(課題番号:13670042) 平成13年度~平成14年度科学研究費補助金(基盤研究(CX2)研究成果報告書平成 15年 5 月研究代表者松浦 博(滋賀医科大学医学部教授)はしがき近年，細胞膜構成リン脂質の一つであるホスファチジルイノシトール 4，5・二リン酸[phosphatidylinositol 4，5・bisphosphate，Ptdlns(4，5)P2]が2種のセカンドメッセンジャー[イノシトール1，4，5・三リン酸(lP3)，ジアシルグリセロール(DG)]産生の前駆体として働くのみならず，それ自身がrチャネルや Na+-el+交換輸送体などの膜輸送蛋白の機能調節に重要な役割を果たしているという実験結果が明らかにされてきている.また，その調節機構として， PtdIns(4，5)P2のもつ負電荷と膜輸送蛋白を構成する陽性荷電アミノ酸の陽電荷との聞の静電結合 (elec甘'Ostaticbinding)の関与が考えられている.一方，ヒトを含む多くの動物種の心筋細胞に存在する緩徐活性型遅延整流性 K+チャネル (slowlyactiv低ingdelayed悶 tifierK+ channel， IKs)は細胞膜の脱分極により活性化され活動電位の再分極過程を促進する生理的に重要なイオンチャネルである.IKsは βアドレナリン性受容体刺激に伴う cAMP依存性蛋白キナーゼ(pKA)やα1-アドレナリン性受容体刺激によるリン脂質依存性蛋白キナーゼ(PKC)の活性化，さらには細胞内 Ca2+濃度の上昇(C!:10-8 M)によって増大することが知られている.これらの受容体や細胞内イオンを介する IKsの増大反応は活動電位持続時間を短縮する作用をもち，その結果，膜電位依存性 Ca2+チャネルを通る過度な Ca2+の細胞内流入を抑制して心筋保護的にはたらくと考えられる.さらに，心臓のイオンチャネル病として注目を集めている遺伝性 QT延長症候群(LQT)の遺伝子解析により， LQTlは品チャネル蛋白のαサプユニットの発現をコードする KCNQl遺伝子の変異に， LQT5はFサブユニットの発現をコードする KCNEl遺伝子の変異に起因することが明らかにされてきた.すなわち，いずれの遺伝子の変異も IKsチャネルの機能障害(外向きピチャネル電流の減少)を引き起こし，それが活動電位持続時間(心電図上 QT時間に相当)の延長，さらにはtorsadede pointes型心室頻拍の発生，失神発作，急死に結びつくと考えられている.我々はモルモット単離心房筋細胞ならびに心室筋細胞にパッチクランプ法を適用した実験により，細胞外に投与した ATPは 0.1μMの低い濃度においても IKs を増大させることを明らかにしてきた(Matsuura et al. J Physiol， 1996; Matsuura & Ehar， J Physiol1997; Matsubayashi， Matsuura & Ehara， Pjlugers Arch 1999).その増大反応に関わる情報伝達機構の検討を行い， P2Y受容体，百日咳毒素(pertussistoxin， PT刃非感受性 G 蛋白および何らかのリン酸化反応の関与は明らかにしてきたが，最終的な情報伝達分子の特定には至っていなかった (PKA，PKC，細胞内 Ca2+の関与に関してはいずれも否定的な実験結果を得ていた).心筋細胞を含め多くの種類の細胞において， P2Y受容体刺激は Pl文非感受性 G蛋白(Gq)，ホスフォリバーゼ C(PLC)の活性化を介して PtdIns(4，5)P2の加水分解を促進することが知られている.そこで，本研究課題において，P2Y受容体によるおの調節機構に細胞膜 PtdIns(4， 5)P 2 の減少が関わっているという仮説について検討を行った.その結果，細胞膜 PtdIns(4，5)P2 はιチャネル蛋白に対して抑制性作用をおよぽし，P2Y受容体-Gq-PLCの活性化に伴う細胞膜 PtdIns(4，5)P2の減少が細胞外 ATPによる IKsの増大反応に関与しているということが明らかになった.細胞膜PtdIns(4，5)P2レベルは P2Y受容体以外にも細胞膜に多く存在する他の Gq-PLC連関受容体(例えば，α1・アドレナリン性受容体やエンドセリン受容体)，さらには細胞内のボリアミン等の陽性荷電分子によっても制御されていることが知られている.よって，今後とれらの細胞膜 Ptdlns(4，5)P2レベルに影響を与えるシグナル分子による恥の調節，さらにはその情報伝達機構における Ptdlns(4，5)P2の役割について研究を発展させていき，本研究課題によって得られた細胞膜 PtdIns(4，5)P2による IKsの修飾作用の生理的役割さらには病態生理学的意義について解明していきたい.111111111111111111111111 研究組織研究代表者:松浦 博 (滋賀医科大学医学部教授)研究分担者:林 維光 (滋賀医科大学医学部助手)研究分担者:豊田 太 (滋賀医科大学医学部助手)交付決定額(配分額) (金額単位:千円)直接経費 間接経費 合計平成 13年度 1，800 。 1，800 平成 14年度 1，200 。 1，200 総計 3，000 。 3，000 研究発表(1) 学会誌等Matsuura， H.， Ehar. T.， Ding， W.G.， Omatsu・Kanbe，M.， Isono， T. (2002). Rapidlyand slowly activating ∞mpon田tsof delayed rectifier K+町田tin伊 inea-pigsino-atriaI node向田由r回:Ils・ JP伽io1540:815・830. (平成 14年 5月)Sanada， M.， Yasuda， H.，白latSU・Kanbe，M.， Sango， K.， Isono， T.， Matsu四百.H.， Kikkawa， R. (2002). hα国民inin岡田llularcl+血 dcaIcitonine g田巴・relatedp中，tiderelease through metabotropic P2Y rec叩torsin rat dorsal root ganglion oeurons. Neuroscience 111:413・422. (平成 14年 5月)Shimizu， K.， Shintani， Y.， Ding， W.心.， Matsuura， H.， Bamba， T.， (2002). Pot田tiatiooof slow∞mponent of delayed r国ti宣巴:rK+α町田tby cyclic GMP via two distinct mech血 isms:inhibition of phosphodi釘terase3 and activation ofprotein kinase G. Br J Pharmacol137:127・137. (平成 14年 9月)Ding， W.心.， Toyoda， F. and Matsuura， H. (2002). Blocking action of chromanol 293B on the slow ∞mpon四tof delayed rectifier K+ curr四tin guinea-pig sino-atriaI node田Us. Br J Pharma，ω1 137:253・262.(平成 14年 9月)Oma岱u・Kanbe，M.， Isooo， T. and Matsuura， H. (2002). Mu1tiple P2 receptors con甘ibuteto a甘包lsientinc陀asein intracellular Ca2+∞n白ntr抵ionin A TP-stimulated rat brown adipocytes. Exp P伽 iol87:643-652. (平成14年 1月)Hamada， K.， Matsuura， H.， Sanada， M.， Toyoda， F.， Omatsu・Kanbe，M.， Kashiwagi， A. and Y出uda，H. (2003). Properties of the NザIK+pump curr回 tin smaIl neurons企'omadult I誠 dorsalroot ganglia Br J Pharmacol 138:1517・1527. (平成 15年 4月)(2) 口頭発表尾松万里子，松浦博ATP受容体刺激による細胞骨格の再構築平成 13年度生理学研究所研究会II'ATP受容体の生理機能と痔痛のメカニズムJ (平成 13年 8月 22日""'23日)-2-豊田太，丁維光，尾松万里子，松浦博，鷹野誠，堀江稔，膜伸展による心筋緩徐活性化型遅延整流性K+チャネル(ι)の増大機構平成 13年度生理学研究所研究会『イオンチャネルの構造機能連関と制御機能に学ぶ心血管疾患の病態生理学~ (平成 13年 11月27日....28日)丁維光，豊田太，清水健太郎，松浦博イノシトールリン脂質による心筋遅延整流性 K+チャネル(JKs)の制御第 79回日本生理学会大会ポスター発表(平成 14年 3月 28日....30日)演田可奈子，安田斎，真田充，豊田太，尾松万里子，松浦博ラット脊髄後根神経節小径細胞における Na+/K+ポンプ電流の検討第 79回日本生理学会大会ポスター発表(平成 14年 3月28日....30日)尾松万里子，犠野高敬，柴田大，松浦博P2受容体刺激によるアクチン重合と容量性 Ca2+チャネルの制御第 79回日本生理学会大会口演発表(平成 14年 3月 28日....30日)豊田太，丁維光，清水健太郎，尾松万里子，鷹野誠，堀江稔，松浦博パッチ膜電流記録によるιおよびKCNQl/KCNElチャネルの制御機構の解析第 79回日本生理学会大会口演発表(平成 14年 3月28日....30日)清水健太郎，豊田太，丁維光，松浦博プロテインキナーゼG(pKG)による心筋遅延整流性ピチャネル(ι)の増強作用第 79回日本生理学会大会口演発表(平成 14年 3月 28日....30日)尾松万里子，松浦博ATP受容体による脂肪細胞の membraneru田ing平成 14 年度生理学研究所研究会 WATP 受容体の生理機能の解明:特にグリア細胞での機能~ (平成 14年 8月29日....30日)豊田太，丁維光，松浦博KvLQTl/minKチャネルの温度依存性第 19回日本心電学会学術集会口演発表(平成 14年 9月9日....10日)丁維光，豊田太，松浦博PIP2によるモルモット心筋緩徐活性型遅延整流性ピ電流(lKs)の制御第 19回日本心電学会学術集会口演発表(平成 14年 9月9日....10日)松浦博，丁維光細胞膜PIP2による心筋緩徐活性型遅延整流性 K+チャネル(lKs)の制御平成 14年度生理学研究所研究会『イオンチャネルのプロテオミクスと心血管系疾患の病態に関する新たな展開~ (平成 14年 11月25日....26日)-3-井上和子，尾松万里子，藤田典久，松浦博3T3・Ll細胞における細胞外 ATPのアクチンフィラメント再構築に対する多様な影響第 80回日本生理学会大会ポスター発表(平成 15年 3月24日....26日)尾松万里子，井上和子，藤田典久，松浦博脂肪細胞における容量性ci+に及ぼす細胞骨格の影響第 80回日本生理学会大会ポスタ一発表(平成 15年 3月 24日....26日)演田可奈子，松浦博，真田充，豊田太，尾松万里子，柏木厚典，安田斎成熟ラット後根神経節小径神経細胞の Na~広+ポンプ電流解析第 80回日本生理学会大会ポスター発表(平成 15年3月 24日"-'26日)岡田明，上山久雄，豊田太，了維光，松浦博，山出新一ヒト錐体細胞 cGMP依存性チャネルにおけるpサプユニットの機能的意義第 80回日本生理学会大会ポスター発表(平成 15年 3月24日"-'26日)安田洋，丁維光，堀江稔，松浦博細胞外 ATPによるムスカリン性 Kチャネルの調節における細胞膜 PIP2の関与第 80回日本生理学会大会ポスター発表(平成 15年 3月24日....26日)丁維光，豊田太，安田洋，松浦博リゾリン脂質による心筋 I&.の増大第 80回日本生理学会大会ポスター発表(平成 15年 3月 24日....26日)豊田太，丁維光，尾松万里子，鷹野誠，松浦博COS7細胞における Ml受容体刺激による KCNQIIKC悶 1電流の修飾第 80回日本生理学会大会ポスタ一発表(平成 15年 3月24日"-'26日)議野高敬，丁維光，豊田太，尾松万里子，松浦博モルモット洞房結節細胞の HCN4の機能解析第 80回日本生理学会大会ポスター発表(平成 15年 3月 24日"-'26日)Yasuda， Y.， Matsumoto， T.， Ohira， N.， Takashima， H.， Tarutani， Y. and Matsuura， H. Involvement ofmembrane PIP2 in the regulation ofthe muscarinic K+ channel by extracellular ATP 第 67回日本循環器学会学術総会ポスタ一発表(平成 15年 3月 28日....30日)-4-研究成果本研究課題の成果を要約すると以下の通りである.なお，その詳細は添付した論文に記載する.モルモット心臓から酵素処理により得られた単離心房筋細胞に全細胞型パッチクランフ。法(whole-cellpatch-clamp rnode)を適用して，イノシトールリン脂質による緩徐活性型遅延整流性K+チャネル(IKs)の調節機構の解析を行った.細胞潅流液には急速活性型遅延整流性K+チャネル (/KI)の阻害剤である E・40310μM)を加えて実験を行った.ιは保持電位・50mVから種々の膜電位に脱分極パルスを与えて活性化し，活性化の程度は・50mVに再分極したときに発生する末尾電流 (tailcurent)の大きさで評価した.1. 高濃度(注ー 10凶.1)の wo目rnanninはホスファチジルイノシトール4・キナー ゼ(PI-4K)をブロックすることにより細胞膜のホスファチジルイノシトール 4，5・二リン酸 σtdIns(4，5)P2)量を減少させることが知られている.Wo巾nannin(50μM)をパッチ電極を介して細胞内に負荷すると IKsの大きさは約 2倍に増大した.2. PtdIns(4，5)P2 (100μM)を細胞内に負荷するとιの大きさは約 13に減少した.3. 抗PtdIns(4，5)P2抗体 (30nM)を細胞内に負荷すると IKsの大きさは約2倍に増大した.4. 細胞膜Pt仙沼(4，5)P2のもつ負電荷を中和する Al3+(50μM)やneomycin(50μM)を細胞内に投与すると IKsの大きさは約2倍に増大した.これらの実験結果により，モルモット心房筋細胞の IKsは細胞膜 PtclIns(4，5)P2により抑制性の調節を受けており，それには PtdIns(4，5)P2のもつ負電荷が関わっている可能性が示唆された.さらに，乙の細胞膜 PtdIns(4，5)P2による IKsの抑制性調節機構の生理的意義を明らかにする目的で，同様に単離モルモット心房筋細胞に全細胞型パッチクランプ法を適用して以下の実験を行った.5. 細胞外ATP(50μM)による P2Y受容体刺激はIKsに対して増大作用をおよぽすが，パッチ電極を介して細胞内にPtdlns(4，5)P2 (100μM)を負荷した条件下で細胞外ATP(50μM)を作用させるとIKsの増大反応は著明に減少した.6. 細胞内に高濃度(50μM)のwortmanninを投与してIKsを増大させた後に細胞外ATP(50μM)を投与すると IKsの増加率は有意に減少した.これらの実験結果により， P2Y受容体刺激による I胞の増大反応にはP2Y受容体-Gq-ホスホリバーゼC(PLC)の活性化による細胞膜Ptdlns(4，5)P2の消費・減少が第一義的に関わっていると考えられる.7. 細胞内に 3価の陽電荷をもっスペルミジンや4価の陽電荷をもっスペルミンを投与すると，IKsが徐々に増大していった.スペルミジンやスペルミンなどの低分子塩基性物質であるポリアミンは細胞膜 PtdIns(4，5)P2のもつ陰性荷電と電気的に結合する可能性が示唆されている.よって，本実験結果は，細胞内ポリアミンが細胞膜Ptdlns(4，5)P2の陰性荷電を中和することにより，Ptdlns( 4，5)P2 による IKsチャネルの抑制作用がブロックされてI胞が増大した可能性を示唆する.このように，細胞膜PtdIns(4，5)P2による IKsの抑制性調節機構は神経伝達物質やさらには細胞内物質による IKsの調節に密接に関わっている可能性が示唆された.-5-

イノシトールリン脂質による心筋遅延整流性K^+チャネルの調節機構の解析

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Regulation of the cardiac delayed rectifier K^+ channel by membrane phosphoinositides

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