川中 美津子

川嶋 啓子

高田 学

川中, 美津子

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川嶋, 啓子

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SOARA (SOAI Open Access Repository of Archives) / 相愛大学リポジトリ

1．は じ め に平成 18年に人間発達学部子ども発達学科が設置されて以来、保育士養成のための基礎技能の育成として、さらに幼稚園・小学校教諭を目ざす学生への造形教育の基礎として開講されている科目に「図画工作」があります。本授業は演習として開設されているので、50名以下で授業を行う必要性から前期 1クラス、後期 1クラスの 2クラス体制で開講しています。教材や授業の内容については、担当者で毎年振り返り、開設より 12年の間に多少の変化はありますが、その基本となる目標については、「図画工作の嫌いな子どもを作らない」造形教育を担当する者の共通認識としています。2．授業概要と到達目標平成 29年度のシラバスから引用しますと、以下の通りです。授業概要：ものをつくる、という事は、技術だけを伝えるものではありません。感性や創造力を豊かにし、人や物と共存する方法をみつけるための、一つの道筋です。この授業では、保育者・教育者となるための、実践的なプログラムのたて方を学びます。本授業では実際の図画工作の授業のための、子どもたちの年齢や発育に合わせた企画・立案から計画書づくり、そして制作を実際に体験しながら検証することで、授業実施のため実践報告保育者・小学校教員を志す学生への造形教育について──図画工作の授業を事例として──About Modeling education for students who intend to be teachersat nursery school or elementary school──Case study of Drawing and Handicraft Lesson──川 中 美津子・高 田 学＊1川 嶋 啓 子＊2キーワード 造形教育、表現者、空想の世界、体験したこと、グループワーク───────────────*1成安造形大学*2 Gallery Gallery7に必要となってくる画材や素材の研究と学習を行います。到達目標：保育者・教育者自身が楽しむことを知らなければ、子どもたちも本当に楽しむことはできません。子どもと一緒に造形表現を楽しみながらも、多視点からの企画を立て進行することで、保育者・教育者に必要な造形表現の知識・技術・発想力の基礎を身につけることができます。絵がうまく描ける、形をうまく表現できる、ということではなく、表現することが好きで、そして課題に真摯に取り組むことができ、後かたづけがきっちりとできること、子どもたちが創り出す様々な表現に対して決してけなすのではなく、前向きな言葉が掛けられることを目ざしています。3．授業と課題授業は座席指定で、4人ずつの班が組まれます。グループワークの場合はもちろんこの班での作業になりますが、個人作品の場合でも、準備や後片づけは班単位で行われます。各授業では、指導計画書と参考資料が配布されます。参考資料を中心に、造形的知識の解説とその知識に関連するその日の課題説明がされます。そして、指導計画書には、各授業でのねらい、作業の内容、準備物、所要時間、気づいたこと等を記入するようになっています。1回目はほとんど記入されていますが、回を追うごとに、空白の欄が増え、教員の説明や板書を参考に、徐々に自分の言葉で記入するようになっています。各授業の指導計画書は、1回目より散逸しないようにファイリングして、13または 14回目の授業終了時に提出する必要があります。各回の課題としては、1回で完成するものもありますが、今回作った作品を利用して別の作品を制作する場合や、最終課題では 3～4回を使ってのグループ制作などがあり、9個程度の課題があります。以下に課題と作品の紹介をします。3-1 新聞紙であそぼう1回目の授業では、授業の進め方などのガイダンスの後、新聞紙を様々な方向に裂くことを通して、各自が紙の方向性による性質の違いを知る授業が行われます。材料：新聞紙、ティッシュペーパー、和紙、チラシなど方法：新聞紙を 1人 1枚ずつ持ち、紙を様々な方向に手で裂いてみる。グループ内でどう工夫すれば長く破れるのかを考え、他人の考え方、工夫を知る。次に同じく 1人 1枚ずつの新聞紙を使って、どれだけ長く破れるのか工夫して破り、コンクールをする。学生の感想：最近は携帯電話があるので、久々に新聞紙に触れた。紙にも方向があり、方向による強さが違うことを知った。3-2 ハンディーペインティング（グループワーク 1）2・3回目の授業は各班でのグループワークとして進められます。2回目の授業では、泥んこ遊びのように手で直接絵の具の感触を楽しみ、のびのびとした活8 川中美津子・高田 学・川嶋啓子動で子どもの自由な表現を促すこことを目的としています。材料：90 cm×200 cm のジャンボロール画用紙、ポスターカラー、でんぷん糊方法：あらかじめでんぷん糊を加えたポスターカラーを無作為に垂らし、手を使って画用紙に自由に塗り、つめなどで引っかいてみる。次に、できた模様を耐水紙に写し取り乾燥させる。学生の感想：普段色鉛筆やマーカーを使うことがほとんどなので、自分の体を使って色を塗るのが新鮮で楽しかった。上手・下手を考えずに、泥遊びの感覚で楽しい。3回目は前回のグループワークで作ったハンディーペインティングの作品から、偶然にできた“にじみ”や“色むら”に何かの形を見出す見 立 て 遊 び をすることによって、想像力と表現力を豊かにすることを目的としています。天井のシミが誰かの顔に見えた子どもの頃の感覚を呼び起こしてもらえればよいと思います。材料：前回の耐水紙に写し取った作品、水彩絵の具方法：前回の作品の画面上の“にじみ”や“色むら”から何か形を見つけ出し、水彩絵の具で、形をはっきりとさせ、題名を考える。作品を黒板に張り出し、お互いの作品を鑑賞する。学生の感想：描かれたものから形をイメージするのって、楽しい。皆どうして、あの絵から形を想像できるのか不思議。3-3 未知の生物4回目の授業では、形態や材質など身近な素材から様々な表現を発見する力を養うことを目的にしています。材料：クレヨン・パステル・クレパス・コンテなど、色紙、画用紙方法：クレヨン・パステル・クレパス・コンテなどの画材を使って、色紙にフロッタージュした素材を 10枚以上集める。フロッタージュをした色紙を、あえて何も考えずに切り取り、組み合わせて未知の生き物の形を考え、画用紙に貼り付ける。できた生き物に「名前」をつけ、生息地や特徴も書き込み、その作品をお互いに見せ合う（図 1、図 2）。図 1 未知の生物 1 図 2 未知の生物 2保育者・小学校教員を志す学生への造形教育について 9学生の感想：何も考えずに切ることが難しかった。久ぶりにクレパスを使って、なんだか新鮮でした。材質の違いや色の組み合わせを考えて形を作るのは、絵を描くのとは違って楽しかった。3-4 等身大の絵を描こう（グループワーク 2）5回目の授業は、技法遊びの一つである「ステンシル」の方法を学びます。材料：79×200 cm のロール模造紙、スポンジ、布、水彩絵の具、画用紙、カッター方法：班ごとに「テーマ」を決める。ロール模造紙にメンバーの一人の人型を写し取る。画用紙をカッターで切り抜き、テーマに合った版を作る。ロール模造紙上の人型の内・外を、画用紙で作った孔版を使って飾る（図 3）。学生の感想：班メンバーのチームワークが良く、楽しく作業ができた。人の型を取ったりしても、作品ができると思うと、少し楽しくなった。切り取った版の内だけでなく外も版として使えて、驚いた。3-5 日曜日にしたこと6・7回目の授業は、先週の土・日曜日にした楽しかったことの場面を、凸版を作り、画用紙と木版用の和紙に刷り上げます。直近の土・日曜日でなくてもよいのですが、自分が実際に体験したことをテーマにします。6回目の授業では、画用紙を重ねて凸版を作ります（図 4）。材料：画用紙、のり方法：日曜日にしていたことを思い出し、テーマをきめる。浮かんだ様子を画用紙でパーツを切り取り、張り合わせて凸版を作る。学生の感想：凸凹の状況や左右の違いに注意が必要で、難しい。日曜日に何をしていたか思い出図 4 日曜にしたこと（凸版作り）図 3 孔版を使ったグループ作品10 川中美津子・高田 学・川嶋啓子すのに苦労した。文字やマークを切り取るのが難しかった。7回目の授業では、凸版形成の版を理解し、刷りを通して道具の使い方、かたづけ方を学びます（図 5、図 6）。材料：版画用紙、画用紙、ローラー、ばれん、版画用インク方法：前回貼ったパーツがはがれていないか確認し、不十分なところは補強する。版画用紙と画用紙に 1人 1枚ずつ刷り、用紙による写り方の戸外を知る。学生の感想：インクを均等に塗るのが難しかった。版の細かい部分を写しだすのが難しい。3-6 空想の建物8回目の授業では、自由に形を作り出すことのできる粘土を使って、想像力を豊かにさせることを目的としています。粘土の中でも土粘土を使用して、空想の建物を作ります。材料：土粘土方法：空想の建物をイメージして、形を決める。芯材を使用せずに立体にする場合、高さのあるものはつくりにくく、あまり薄いものは乾燥のためにひび割れる危図 5 日曜にしたこと 1図 6 日曜にしたこと 2（わくわくけん玉）図 7 空想の建物 1（魔女の家）図 8 空想の建物 2保育者・小学校教員を志す学生への造形教育について 11険が有るので注意が必要（図 7、図8）。学生の感想：バランスを取るのが難しい。子どもの頃の土遊びを思い出して、楽しかった。自分は建物と言われると、家やビルのイメージしか思い付かなかったが、面白い建物を考え付く人はすごい。3-7 昨夜の食事9・10回の授業は、昨夜食べた食事を、紙粘土で作ります。自分の生活体験を表現に結びつけることで、そのときの感動を他の人に伝え、共感できるようになることを目的にしています。9回目の授業では、粘土の自由な造形性を通して、イメージを形にします。昨夜の食べ物で作れない場合は、一昨日でももう少し前でもよいのですが、実際に自分が食べた物を作ることを条件にしています。材料：紙粘土方法：何を食べたか思い出して、紙粘土で形を作る。学生の感想：実際に食べたものでも、作ろうと思うと形にするのが難しく、よく見ていないことに気が付いた。ご飯の一粒一粒まで作るのって大変。10回目の授業では、色の混色による表現の多様性を知り、絵の具の使い方への理解を深める。そして、五感の記憶や実際の体験に合致した色を再現することで、色彩感覚を養うことを目的としています。材料：前回に作った紙粘土、水彩絵の具方法：前回に作った紙粘土に水彩絵の具で着色して完成させる（図 9、図 10）。学生の感想：土粘土と違い、着色ができて、楽しい。色を混ぜて、再現するのが難しかった。実物みたいな形や色で、とてもおいしそう。3-8 平面から立体へ11回目の授業では、立体を形作るバランス感覚を養うことを目的としています。材料：白ボール紙方法：平面である 1枚の厚紙を、ボンドやセロハンテープなど接着材を使わず、切図 9 昨夜の食事（天ぷら）（ニスを塗って光沢を出しています） 図 10 昨夜の食事（海鮮丼）12 川中美津子・高田 学・川嶋啓子り込みを入れて高い塔に組み立てる（図 11）。学生の感想：高くするのが難しい。平成 29年度には、従来の内容とは変えて、厚紙や装飾用オーナメント、ビーズ、折り紙などを組み合わせて、バランスを取りながら立体を構成しました（図 12、図 13）。3-9 屋台作り（グループワーク 3）12～15回の授業では、最終課題として班ごとに、今までに学んだ様々な表現方法や素材を使って、縁日の屋台をグループで制作します。共同して活動することの大切さを知ることを目的としています。材料：大学からは畳大の板段ボール紙を配布。それ以外の必要物は自分たちで持ち寄る（教室にある素材は使用可能）。方法：板段ボール紙の半分で自立する屋台の看板を作る。残りの半分と持ち寄った段ボール箱などで店や商品を作る。どんなお店を作り、どのように遊ぶのかを考えながら、完成させる。15回目の授業では、それぞれの班の屋台を回り、実際に遊んでみて、別の班の完成度などを確認する。学生の感想：自分たちの班が 1番。単に面白いだけでなく、細部にまでこだわっている班はすごい。図 11 高い塔図 12 モビール図 13 モビール保育者・小学校教員を志す学生への造形教育について 13班のメンバーと仕事をうまく分担でき、とても楽しく作業ができました。4．まとめと課題早い時期に組み込まれたグループワークは、新しいグループにとっては、親しくなる契機となり、中盤、終盤のグループワークでは、共に完成させていく楽しさを感じもらえればよいと考えています。また、自分の体験した物・ことを思い起こして制作する課題と、空想の世界を膨らませて制作する課題とを設定しています。実体験を思い起こすにも、詳細な観察眼や心を揺り動かされる感受性が豊かでなければ、何も思い出せないのかも知れませんし、空想の世界を膨らませることもできないのかも知れません。ハンディーペインティングやフィンガーペインティングは、素手で絵の具に触れることから、絵の具の感触を味わうことができ、自由な造形表現を楽しむことができます。それらは、幼児期の手形や足形を用いたペイントにもつながり、色の配色や形への着目、余白となる空間もまた表現の一部とみるなどの感性の豊かさにつながります。造形表現の基礎的な知識・技術を学ぶことを通して、幼児の表現を支えるための感性を豊かにするためには、保育者や教員自身も感性豊かな表現者あることが望まれます。幼児の素朴な表現を見出し、受け止め、共感することができるように成るためにも、「考えすぎない表現」のできる保育者・教育者を育てる方法を模索していく必要があります。参考文献黒川健一編著：『保育内容 造形表現の探求』相川書房 2014鰺坂二夫（監修）林 林男（編）：『表現 幼児教育 理論編』保育出版社 2006鰺坂二夫（監修）永井 肇（編）：『表現 幼児教育 実習編』保育出版社 2004野村智子 中谷孝子（編著）：『幼児の造形』保育出版社 2005槇 英子：『保育をひらく造形表現』萌文書林201114 川中美津子・高田 学・川嶋啓子

保育者・小学校教員を志す学生への造形教育について : 図画工作の授業を事例として

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About modeling education for students who intend to be teachers : Case study of drawing and handicraft lesson

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