京都大学0048新制・課程博士博士(教育学)甲第21985号教博第238号新制||教||185(附属図書館)京都大学大学院教育学研究科教育科学専攻(主査)教授 南部 広孝, 教授 杉本 均, 准教授 服部 憲児学位規則第4条第1項該当Doctor of Philosophy (Education)Kyoto UniversityDGA

廖, 于晴

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Title台湾における高等教育多様化の論理( Abstract_要旨 )Author(s)廖, 于晴CitationKyoto University (京都大学)Issue Date2019-07-23URL https://doi.org/10.14989/doctor.k21985Right学位規則第9条第2項により要約公開; 許諾条件により要約は2020-05-01に公開Type Thesis or DissertationTextversionnoneKyoto University― 1 ― （  続紙  １）  京都大学  博士（教育学）  氏名   廖 于晴  論文題目  台湾における高等教育多様化の論理  （論文内容の要旨）    本論文は、新たに導入された教育プログラムがどのように高等教育システムに取り込まれているかについて、従来のプログラムと比較して教育の多様化という視点から検討することにより、1990 年代以降の台湾における高等教育の提供に対する論理を明らかにすることを目的としている。   第 1 章では、1990 年前後の時期に台湾が政治的、経済的及び社会的にいかなる変容を示したのかについて検討した後、高等教育政策の変容及びそれに伴う規模の変化と、教育の質に関する変革について分析した。その結果、まず 1980 年代後半以降民主化、自由化の進展によって、異なる文化や価値観を有する人びとが平等で共存的な社会を構築することがある程度社会の共通認識になったことが確認された。そして、こうした社会変容の結果として、高等教育政策では規制緩和が進められ、規模拡大が図られるとともに市場メカニズムが導入されるようになり、あわせて教育提供の目的が、従来のような政府管轄のもとでの国家発展、経済発展への寄与だけでなく、個人のニーズや社会の多様なニーズへの対応も含まれるようになってきたことが示された。   第 2 章では、1990 年前後の空中大学における学位授与の論争に焦点をあてて、主に「大学法」の改正と関連法規の制定をめぐる議事録を手がかりに、1980 年代の空中大学が「大学法」を法的根拠としたにもかかわらず学位授与権が与えられなかった要因と、1993 年になって学位授与権が認められた際の議論の分析を通して、大学教育に対する考え方の変化について考察した。そして、この時期に大学教育の目的が従来の高度な人材を養成することから、より多くの人に教育を受けさせ、多様な人材を養成することへと転換され、大学教育とみなす範囲が拡大されるとともに、大学教育と非大学教育との境界が曖昧になったことが明らかとなった。   第 3 章では、高等職業教育体系の導入背景、職業系大学の創設状況及びそれが高等教育システムに与えた影響を整理したうえで、1990 年代末から 2015 年の「技術及び職業教育法」制定に至る時期に主たる焦点をあて、関連する法律（案）や政策文書などを手がかりに、高等職業教育に対する考え方や高等職業教育体系の役割及び位置づけを検討した。その結果、台湾の高等職業教育体系は 1990 年代以降、より高度な技術人材の育成とともに個人の教育ニーズへの対応をめざして整備されたが、2010 年前後には、産業発展への対応が依然として求められる一方、個人の教育ニーズへの対応がよりいっそう強調されるようになったことが明らかになった。そして、高等職業教育体系の役割と位置づけは、経済発展や高等教育の量的拡大への寄与に加えて、経済発展と個人の教育ニーズとの調整と、個人レベルでの職能開発の促進を含むものとして考えられるようになったことがわかった。   第 4 章では、社会人向けのプログラム、とりわけ修士課程段階の社会人向けプログラムである在職プログラムを取り上げ、その導入の経緯、制度的な枠組みと特徴及び― 2 ― 導入前後で個々の大学においてなされた対応を分析し、在職プログラムの導入によって大学院教育にどのような変容を生じたのかを解明した。その結果、在職プログラムの導入と展開は、大学院教育における学生の構成を多様にするとともに、入学基準や授業形式などに関して新たな制度の導入をもたらしたことが確認された。また、在職プログラムは全体として、応用的な領域での大学院教育のより弾力的な提供を促進していること、各大学は自らの条件にしたがい、類型によって異なる方針で在職プログラムと一般的な修士プログラムを拡大させてきたことが明らかになった。   第 5 章では、海外で展開する学位プログラムのうち、特に海外在住台湾人を主たる対象とする海外学位プログラムに注目した。その制度的な枠組み及び設置状況を把握したうえで、代表的な大学を事例として選び、それらの大学が海外学位プログラムを導入する論理を考察した。その結果として、事例とした大学では、外部環境の変化を認識しながらその存続を図るために海外学位プログラムが設置されたこと、その際、海外在住台湾人ビジネスマンの需要に適応しようとする大学の戦略として、課程内容の変革、教育組織や募集対象の再構築を行い、教育の提供を具体的で限定的なターゲットや特定の集団に絞り、よりニッチ的で個別的な対応をする方向へと変化させたことが明らかとなった。同時に、拠点の形成やネットワークの構築を共通の基盤としつつ、大学の戦略によって実施には違いがみられることも確認された。  以上の分析から、1990 年代以降台湾の高等教育が多様化してきた背景には、社会の民主化や自由化が進展する中で、進学者の「差異」に積極的に配慮して教育の内容や形式を弾力的にし、ニッチで個別なニーズへの対応を図ると同時に、その結果提供される多様な教育の制度上の「同等性」を追求するという論理が伏在しており、それによって、一定の多様性を認めつつ同時に平等性の確保を図るような高等教育システムの形成がめざされてきたと結論づけた。        ― 3 ― （続紙  ２）                            （論文審査の結果の要旨）    台湾では、1980 年代後半以降民主化や自由化が進んで社会のあり方が変容し、それに伴って高等教育についても従来の政策や制度からの転換が生じた。その転換においては、量的拡大や規制緩和といったマクロな変化とともに、学士課程段階の職業教育を提供する大学の創設や、社会人を主たる対象とした大学院教育プログラムである在職プログラム、海外で展開される学位プログラムなど様々な教育プログラムの導入が進められ、教育提供の形式の多様化が生じている。本論文はこのような動向に着目し、新たに導入された教育プログラムがどのように高等教育システムに取り込まれているかについて、教育の多様化という視点から検討することにより、1990 年代以降の台湾における高等教育の提供に対する論理を明らかにしようとしたものである。  本論文は、以下の 3 点において顕著な独創性と高い学術的意義が認められる。   第 1 に、台湾において 1990 年代以降に導入された様々な教育プログラムを、教育段階（縦の多様化）と教育の種類（横の多様化）という 2 つの視点からなる多様化の枠組みで統合的にとらえる分析視点を設定した点がある。これによって、従来個別に取り上げられてきた改革の動向を大きな潮流の中でとらえ直し、そこに一貫した論理の存在を追求することが可能になった。この枠組みに基づく分析の結果として見出された、進学者の「差異」に積極的に配慮して教育の内容や形式の弾力化を図ると同時に、その結果提供される多様な教育の制度上の「同等性」を追求するという論理があるという結論は十分に説得力を持つものとなっている。   第 2 に、台湾では従来、高等教育が国や経済の発展に寄与することが強く意識されていたが、その考え方が 1990 年代以降も依然として高等教育のあり方に大きな影響を与えていることを明確に指摘した点がある。1990 年代以降高等教育の提供にあたって社会の多様なニーズが配慮されるようになったが、その中でも職業教育や在職者を対象とした教育といった、この考え方と直接関連づけられるプログラムが大きく展開されており、新たに強調されるようになった社会や個人の教育ニーズへの対応においてもこの国や経済の発展への寄与という考え方が包含されていることを明らかにしている。この点が明確になることで、台湾における高等教育の提供における論理の全体的な像を提示することにつながっている。   第 3 に、各教育プログラムの導入と展開を分析するにあたって、先行研究が主として用いてきた政策文書や法律を対象とした文献研究に加えて、法案の審議過程における議事録の分析や、大学データベースを利用した統計的分析、プログラム関係者を対象とした聞き取り調査など多様な研究手法を用いている点がある。例えば、空中大学の学位授与権を分析した第 2 章では、立法院の議事録を用いて意見の対立を描くことによってその底流に大学教育観の違いがあることを明示するのに成功している。また、在職プログラムの展開状況が大学類型によって異なることを論じた第 4 章では、大学を単位とするデータを使って修士プログラムと在職プログラムの学生数の変化やプログラムの専門領域別分布を実証的に検討することで具体的な議論を展開している。  一方、本論文の課題として次のような点が指摘される。まず、提供する教育の多様化を促す要因、例えば政府の果たす役割や、学内の対応、教職員の意識といった点に― 4 ― ついての検討が十分とは言えない。また、他国との比較の視点が必ずしも明確でなく、台湾高等教育の特質を明らかにする点で物足りない。しかしこれらは、本論文の学術的価値を損なうものではなく、むしろ本論文の知見を到達点として今後の発展が期待される点である。  よって、本論文は博士（教育学）の学位論文として価値あるものと認める。また、令和元年 5 月 9 日、論文内容とそれに関連した事項について試問を行った結果、合格と認めた。  なお、本論文は、京都大学学位規程第 14 条第 2 項に該当するものと判断し、公表に際しては、当該論文の全文に代えてその内容を要約したものとすることを認める（期間未定）。     要旨公表可能日：     年   月   日以降   

台湾における高等教育多様化の論理

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