13301甲第4931号博士（工学）金沢大学博士論文本文Ful

Yamamoto Shunya

山本 隼也

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二成分系および三成分系混合リン脂質ベシクルを用いたゲニステインの可溶化と抗酸化能力の検討

山本, 隼也

Yamamoto, Shunya

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13301甲第4931号博士（工学）金沢大学博士論文要旨Abstrac

  学位論文要旨  二成分系および三成分系混合リン脂質ベシクルを 用いたゲニステインの可溶化と抗酸化能力の検討  A Study of Solubilization and Antioxidant Activity of Genistein in Binary and Ternary Mixed Phospholipid Vesicles            金沢大学大学院 自然科学研究科 物質化学専攻  山本 隼也     Abstract Genistein is a kind of isoflavone contained in soy. Genistein shows many beneficial effects, such as antioxidant effect, but it is insoluble in water. In this study, genistein was solubilized in the phospholipid vesicle, and the maximum solubilization amount of genistein was investigated by X-ray scattering measurement. In addition, the antioxidant capacity of the solubilized genistein was evaluated by the ABTS assay. Two phospholipids, DPPC and DOPC, with different phase states at room temperature were used for preparing vesicles. At first, genistein was solubilized in the phospholipid vesicles consisting of DPPC-cholesterol or DOPC-cholesterol binary systems. In both phospholipid vesicles the solubilization amount of genistein decreases with increasing cholesterol concentration. This result suggests that the solubilization sites of genistein and cholesterol in the phospholipid bilayer are probably overlapped with each other. Moreover, the lamellar interval was largely affected by cholesterol in compared to the little impact of genistein because the later can indirectly affect the acyl chains. Genistein solubilized in DOPC showed the same degree of antioxidant capacity as that of vesicle-free genistein system. On the other hand, genistein solubilized in DPPC had lower antioxidant activity than the former systems. The distinction of antioxidant activity at different systems probably related to the difference of accessibility of ABTS radical cation to solubilized genistein through vesicles with different fluidity. Finally, genistein was solubilized in the DPPC-DOPC-cholesterol ternary vesicle. The solubilization amount of genistein decreased with increasing cholesterol concentration even in these ternary vesicles. Moreover, it also decreased with increasing mole fraction of DPPC in the vesicles.  Antioxidant activity of genistein was enhanced by mixing of two kinds of phospholipid, DPPC and DOPC. The mixed vesicles system with mixed ratio of DPPC : DOPC = 2 : 8 was found to be the best solubilizer for genistein as an antioxidant among the investigated systems.1  1. 緒言 ゲニステインは大豆に含まれるイソフラボンの一種であり、抗酸化能力や抗がん作用、エストロゲン作用などヒトにとって有用な作用を示す。しかしながら、ゲニステインは水に難溶であるため、水中で使用する際には可溶化処理を施す必要がある。 本研究ではリン脂質ベシクルにゲニステインを可溶化した。リン脂質はリン酸エステルを有する脂質であり、疎水鎖同士を向かい合わせて並び脂質二重層を形成する。水中ではこの二重層が閉じて球状になってベシクルを形成する。ベシクルは内水相に親水性物質を、二重層内に疎水性物質を可溶化できる。リン脂質二重層は構成するリン脂質の種類や温度、コレステロールの添加によって、その膜特性が変化する。二重層の相状態は主に炭化水素鎖の秩序が高く膜流動性が乏しいゲル相と、炭化水素鎖が無秩序で膜流動性の高い液晶相に分けられ、ゲル－液晶相転移が起こる温度を主相転移温度という。本研究で使用したDPPCの主相転移温度は約 41℃、DOPCの主相転移温度は-22℃であるから、室温下ではそれぞれゲル相、液晶相の二重層を形成する。また、コレステロールはゲル相においては炭化水素鎖の秩序性を低下させ、膜流動性を増加させ、液晶相においてはその反対の作用を示す。 本研究ではまずDPPCあるいはDOPCにコレステロールを添加したベシクルにゲニステインを可溶化させ、その可溶化量とベシクルのラメラ間隔、抗酸化能力について検討した。その後、DPPC-DOPC-コレステロールの 3 成分から成るベシクルにゲニステインを可溶化させ、同様にその可溶化量とラメラ間隔、抗酸化能力について検討した。   2. リン脂質－コレステロール二成分ベシクルへのゲニステインの可溶化 最初に 0%、10％、30％のコレステロールを含む DPPC あるいは DOPC ベシクルにゲニステインを可溶化し、相状態とコレステロールが与える影響について検討した。 ゲニステインの可溶化量はMLVのWAXS測定によって、ゲニステインの結晶由来のピークの有無から検討した。Fig.1 に示したように、ゲニステインの濃度が可溶化限界を超えると、𝑞 = 1.1 Å−1付近にゲニステインの結晶由来のピークが現れる。可溶化量を測定した結果、DPPC-Chol 二成分系ベシクルへのゲニステインの可溶化量は総脂質量の 20％未満であったのに対し、DOPC-Chol二成分系ベシクルでは総脂質量の30～50%とより多くのゲニステインを可溶化することができた。これは DPPC ベシクルの方がより密にパッキングしているため、パッキングの緩い DOPC ベシクルに比べて疎水性コアに可溶化しにくいためであると考えられる。また、どちらのリン脂質ベシクルにおいても、コレステロールの割合が増加すると、ゲニステインの可溶化量は減少する。これはコレステロールとゲニステインの可溶化部位が重なっているためであると考えられ、添加されたコレステロールによってゲニステインの可溶化部位が占有され、排除されていると思われる。 2  0204060801001200 0.5 1 1.5 2 2.5Intensity /a.u.q /Å-100.10.20.30.5XG=Fig. 1 DPPC-Chol 0% MLVのWAXSプロファイル。XGは総脂質濃度に対するゲニステイン濃度の比を示す。              リン脂質ベシクルのMLVのラメラ間隔はSAXS測定によって測定した。DOPC-Chol二成分系ベシクルでは、コレステロールの増加とともにラメラ間隔は単調に増加した。これはコレステロールがDOPCの炭化水素鎖の秩序性を高め、トランス配座が増加したことで二分子膜の厚さが増加したためと考えられる。一方で、DPPC-Chol 二成分系ベシクルではコレステロールによる影響はその割合によって変化した。DPPC-Chol 10% MLVではラメラ間隔の著しい増加と、相の分離がみられる。これは膜平面に対して傾斜していたDPPCの炭化水素鎖の傾斜－非傾斜転移が起きるためである。30％が添加されると秩序液体相を形成し、ラメラ間隔は 0％と 10％の中間になる。ゲニステインの影響は Fig.2に示したDPPC-Chol 10% MLVでのみ確認され、ゲニステインの添加によって相の分離が解消されたのち、徐々にラメラ間隔を増大させた。             010203040500 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35Intensity /a.u.q /Å-100.10.30.5XG=Fig. 2 DPPC-Chol 10% MLVの SAXSプロファイル。XGは総脂質濃度に対するゲニステイン濃度の比を示す。 3  可溶化されたゲニステインの抗酸化能力は、波長 734 nm に極大吸収をもつ ABTS ラジカルカチオンの吸光度の減少から阻害度を求め、IC 50を算出し、さらに標準抗酸化物質であるトロロックスに対する抗酸化能力の比（TEAC）で評価した。この測定では単層の SUVを使用した。各系において、ゲニステイン濃度に対して阻害度をプロットしたものを Fig.3 に示した。基準となるベシクルに可溶化されていないゲニステイン単分散系の IC 50 と TEACは、それぞれ 2.27、4.32であった。また、DPPC-Chol 30% SUVでは可溶化限界により 50％に達しなかったため、外挿によって IC 50を求めた。DOPC系における IC 50は 2.07～2.22であり、ゲニステインの単分散系よりも抗酸化能力が高かった。一方で、DPPC 系における IC 50は 3.34～2.71 とゲニステインの単分散系よりも抗酸化能力は低くなった。これはバルク中の ABTS ラジカルカチオンと可溶化したゲニステインの衝突頻度が関係していると思われることから、膜の流動性が大きいほど抗酸化能力が大きくなると考えられる。     0204060801000 2 4 6 8 10 12Chol 0%Chol 10%Chol 30%% inhibition[Genistein] /MIC 500204060801000 2 4 6 8 10 12Chol 0%Chol 10%Chol 30%% inhibition[Genistein] /MIC 50(a) (b) Fig. 3 DPPC-Chol二成分 SUV系 (a)、および DOPC-Chol二成分 SUV系(b) の阻害度プロット 4  3. 三成分系リン脂質ベシクルへのゲニステインの可溶化と抗酸化能力         二成分系ベシクルで得られた結果を基に DPPC-DOPC-Chol 三成分系リン脂質ベシクルへの可溶化と各種測定を行った。DPPC を 20%に固定した系、DPPC と DOPC の組成比が等しい系、DOPCを 10％に固定した系のそれぞれについてコレステロールを 0%、10％、30％添加した系を用いた。各系におけるベシクルの相状態は Scheme 1に示した相図のとおりである。 ゲニステインの可溶化量に関して、二成分系ベシクルで得られた結果と同様に、コレステロールが増加するとゲニステインの可溶化量が減少した。DPPC の割合に着目してみると、DPPC が 20％の系とDOPCが 10％の系ではゲニステインの可溶化量に 20％の差がみられた。これは密にパッキングする DPPC の増加に伴ってベシクルの疎水性コア領域へのゲニステインの可溶化が制限されたことで可溶化量が減少したと考えられる。2 章の結果も踏まえると、Scheme 1 に示した相図において、右上のものほどゲニステインの可溶化量が少ないという結果になった。 ラメラ間隔に変化は二成分系と同様の変化を示すものもあったが、異なる変化を示すものもあった。DPPC が 20％の系では DOPC-Chol 二成分系ベシクルで見られたように、コレステロールの増加に伴って、トランス配座の増加によると思われるラメラ間隔の増加が確認された。一方で、DOPC10%の系ではコレステロール無添加の系でリップル相と思われる相が現れたのち、コレステロールの増加に伴って、秩序液体相が形成され、ラメラ間隔は減少した。DPPC と DOPCの組成比が等しい系では、コレステロールが 10%に増えるとラメラ間隔が増加したが、30％に増えると相分離が起きた。ゲニステインの影響が見られた系は Fig.4に示した通り、J. H. Davisらが報告した相図において相境界に近い組成であった。したがって、ゲニステインが単なる可溶化物としてでなく、ベシクルの構成要素として寄与している可能性がある。    Scheme 1 DPPC-DOPC-Chol三成分系の相図。実線は J. H. Davis らにより報告された境界であり (J. H. Davis et al., Biophysical Journal, 2009)、破線は K. Suga らにより報告された境界である (K. Suga and H. Umakoshi, Langmuir, 2013)。選択した系を赤丸で示した。 5               三成分系における抗酸化能力は Table 1に示したように、コレステロール無添加の系では総じてDOPC-Chol二成分系を上回った。コレステロールを添加するとDOPC 10％の系とDPPC 20％の系では抗酸化能力が単調に減少し、減少幅は DOPC 10%の系で大きかった。DOPC 10%の系では無秩序液体相の減少と秩序液体相の増加により、流動性が減少するためであると思われる。DPPCと DOPC の組成比が等しい系では、0～10％で抗酸化能力大きく減少するが、10～30%では抗酸化能力が向上する。この系では不均一相から均一相、さらに不均一相への転移が起きることから、相境界の存在が抗酸化能力を高めていると考えられる。一方で、DPPC 20%の系は DOPC-Chol 二成分系よりも抗酸化能力が高くなったため、単純に異種のリン脂質が隣接していることがゲニステインの抗酸化能力を高める要因である可能性があると考えられる。  Table 1 各ベシクル系におけるゲニステインの TEAC。Xは脂質三成分系のモル分率を示す。 𝑿𝑪𝒉𝒐𝒍 𝑿𝑫𝑷𝑷𝑪 = 𝟎 𝑿𝑫𝑷𝑷𝑪 = 𝟎. 𝟐 𝑿𝑫𝑷𝑷𝑪 = 𝑿𝑫𝑶𝑷𝑪 𝑿𝑫𝑶𝑷𝑪 = 𝟎. 𝟏 𝑿𝑫𝑶𝑷𝑪 = 𝟎 0 0.1 0.3 4.73 4.62 4.41 5.38 5.08 4.90 5.03 4.39 4.60 5.30 4.60 4.07 2.93 3.27 (3.62)    Fig. 4 DPPC と DOPCの組成比が等しい系 (a) と DOPC 10%の系 (b) におけるMLV ラメラ間隔に対するゲニステイン濃度比 XGの影響 64656667686970-0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6Chol 0%Chol 10%Chol 30%XGLamellar Interval /Å60646872768084-0.1 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6Chol 0%Chol 10%Chol 30%XGLamellar Interval /Å(a) (b) 6  APPENDIX DPPC : 1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphocholine DOPC : 1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine Chol : cholesterol （コレステロール） MLV : multi-lamellar vesicle （マルチラメラベシクル） SUV : small-unilamellar vesicle （スモールユニラメラベシクル） ABTS : 2,2’-azinobis(3- ethylbenzothiazoline-6-sulfonic acid) SAXS : small-angle X-ray scattering （小角 X線散乱） WAXS : wide-angle X-ray scattering （広角 X線散乱） 

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