シュウハスウ アッシュク ヘンカンガタ ホチョウキ ノ コウカ ニツイテ

Abstract

近年の補聴技術の進歩により、補聴器適用対象となる患者の範囲も広がってきたが、 高音急墜型、皿型、低温障害方の感音性難聴者など、いまだに補聴器適合(フィッティン グ)が困難な症例も多い。そのうちでも、低温部にのみ残聴のある感音性難聴者に対する 補聴器のフィッティングは極めて困難で、従来型補聴器では語音明瞭度の改善が得られな い。語音弁別のための手がかりは、広い周波数帯域に分布しているとされ、この手がかり がキュー(cue)と呼ばれている。低音部のみに残聴のある患者では、高音域の聴力レベ ルがオージオメータの最大出力でも検査音を聴取できない状態(スケールアウト)である 場合が多く、補聴器を用いて高音域を増幅しても高音域に含まれるキューの情報がまった く入らないことが多い。したがって、語音明瞭度の改善が得られないと考えられている。 近年、コンピュータ技術を用いて、伸長増幅や圧縮増幅を行う補聴器が次々と開発され ている。そのひとつに、周波数圧縮変換型補聴器(AVR社製FT-40 MK-2、トランソニッ ク)がある。これは、低周波帯域のスペクトルは圧縮せず、高周波帯域のスペクトルを大 きく圧縮し、低音部はそのままの周波数で、高音部を低音部の残聴域にシフトする、いわ ゆる非線形スペクトル圧縮の原理を応用した補聴器である。この補聴器は、従来型補聴器 では、フィッテイングがきわめて困難であった、低音部のみに残聴のある感音性難聴者を対象 として開発されたものである。先天性感音難聴児に装用させると、聴覚の認識、言語獲得 の観点から従来の補聴器と人工内耳の中間に位置づけられるという報告や、後天性難聴者 において無声子音の語音明瞭度の改善が認められたという報告はあるが、実際には、難聴 者に対するトランソニック補聴効果の評価は一定していない。そこで、本研究では、トラ ンソニックの効果を検討するため、低音部のみに残聴のある感音性難聴者3例に対しトラ ンソニック補聴器を装用させ、語音の種類別の明瞭度の検討を行った。低音部のみに残聴 のある感音性難聴者の頻度は非常に低く、著者らの施設では過去3年間に3例の症例が検討 できたのみである。ゆえに、低音部のみに残聴のある感音性難聴者を数多くそろえてト ランソニックの効果を検討することは不可能に近い。そこで、正常者21例において、低 音部のみに残聴のある感音性難聴を低減濾波器を用いてシミュレートし、トランソニック の使用が、どの程度語音明瞭度の改善に対して効果があるのかについても検討した。 その結果、患者および難聴シミュレート例ともに、トランソニック使用直後では語音明瞭度 の改善は得られなかったが、トランソニック装用下での訓練により一部で著名な改善を 認めた。患者においては、無声子音(なかでも特に/S/)や有声閉鎖音(/z/など)、 鼻音(/n/など)の明瞭度が改善された。難聴をシミュレートした例でも母音、/s/、/k/、/t/、 /n/で語音明瞭度が改善しており、これらを含む57S語表中の全ての単音節での検討におい ても語音明瞭度が改善した。これらの訓練によって得られる語音明瞭度の改善は、トラン ソニックにより高音部に存在するキューが低音部に圧縮変換され、新たなキューとして認知 できるようになったためと考えられる。正常者でシミュレートした難聴は、実際の感音 性難聴を完全に実現できるわけではないが、同程度の難聴を多数作成することが可能であ り、補聴器の効果を検討するためには、有用な研究手段となると考えられた

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