ジョウガク ダイイチ ショウキュウシ ノ ウンドウ ノ 6 ジユウド ソクテイ ト カイセキ

Abstract

顎口腔系の喪失した形態および機能を回復することは歯学における重要な課題の一つであり,有歯顎 者に与えるべき咬合面は顎運動と調和した形態であるとともに,円滑に機能を営むものでなければなら ない.顎口腔機能に調和した思想的な咬合面形態を設計するためには,従来行われている顎運動解析と ともに,個々の歯の運動についても6自由度で解析する必要がある.本研究では上顎第一小臼歯の歯の 運動測定,解析を行うとともに,顎運動との関係についても検討を加えることを目的とした 測定には6個の一次コイルと3個の二次コイルからなる磁気空間を応用した高分解能6自由度運動測 定器を製作して用いた.二次コイルは歯の運動,顎運動を検出するため合計4組使用した.顎口腔系に 異常を認めない成人男性3名の上顎右側第一小臼歯を被験歯,上顎左側第一小臼歯を参照歯として,咬 合力計を介在させたときの咬みしめと咬頭嵌合位における強度咬みしめについて測定を行った. 歯の運動測定用二次コイルは顎運動測定用二次コイル同様に原点が可及的に一致するような構成とし, 大きさは9.5mmの立方体,重量はリード線,コネクタを含めて2.3gであった.測定器の精度は平行移 動量分解能1.3μm,回転運動量分解能0.00017°であった. 被験歯頬側咬頭に咬合力負荷を加えたとき,被験歯の6自由度運動量は1例について示すと,x:84 μm,y:-71μm,Z:99μm,θx:-0.582°,θy:-0.341°,θz:0.038°であり,歯は近心頬側 歯根方向に148μm移動していた.このときの咬合力は19.3kgf(189.3 N),測定開始時の開口量は 18.8mmであった.咬合力負荷時に下顎切歯点部は前方へ20μm,右側へ322μm,下方へ118μm運 動していた他の2名の被験者についてもほぼ同様の結果が得られた.力を受けたときの歯の動きやす さを示す一つの代表値として「最大咬合力発現時の移動量(D)/最大咬合力(F)」を3名の被験者につい て計算すると,頬側咬頭咬合力負荷時には9.6~16.4μm/kgfであった.被験歯舌側咬頭に咬合力を負 荷したときD/Fは口蓋側歯根方向に3.0~8.5μm/kgf,被験歯咬合面中央部に咬合力を負荷したときD/F は近心歯根方向に3.8~11.5μm/kgfであった.被験歯の前方歯である上顎右側犬歯の尖頭に咬合力を 負荷したとき被験歯の見かけのD/Fは5.6~22.4μm/kgfで,歯は近心歯根方向に移動していた. 頬側咬頭咬合力負荷時に比べて舌側咬頭や咬合面中央部で咬合したときにはD/Fが小さく,その3方 向成分も小さかった.単位咬合力あたりの移動量が小さい方が咬合力負担能力が大きいと考えられるこ と,運動方向については咬合時に歯列を離解する方向へ歯が移動することは食片圧入等の問題を起こす 可能性があることから,咬合嵌合位において上顎第一小臼歯では,舌側咬合および咬合面中央部には少 なくとも咬合接触を与える必要があると考えられる.各咬頭咬合力負荷時の解析点を含む周囲の点につ いて運動を表示すると,運動の収束する点すなわち回転中心が歯の近傍にある場合とない場合があった. 咬頭嵌合位において強度咬みしめを行ったときの上顎左右第一小臼歯に装着した二次コイルのコイル間 距離は咬みしめにより約100μm短縮しており,歯列は左右的距離が減少する傾向にあった.本研究に より歯の運動と下顎運動の同時測定が可能となったことで、研究の最終目標である顎運動に調和した咬 合面形態の設計に大いに役立つものと期待できる

    Similar works