Ogawa Keiko

小川 恵子

Kanazawa University Repository for Academic Resources

 金沢大学十全医学会雑誌　第126巻　第 3 号　113（2017） 113『学会開催報告』第45回日本伝統鍼灸学会The 45th Japan Traditional Acupuncture and Moxibustion Society Annual Meeting 2017金沢大学附属病院漢方医学科小　　川　　恵　　子　平成29年10月14日（土）～ 15日（日）に，石川県立音楽堂にて，第45回日本伝統鍼灸学会を開催しました．　大会テーマは，「日本伝統鍼灸の確立に向けて　～伝統から未来へ～」です．　日本伝統鍼灸には多くの特質がありますが，現代医学の中で患者さんから最も求められている特質は技術を持った鍼灸師の存在自体にあります．　最近，鍼灸師の総数に比して活躍の場が少ないという意見を良く聞きます．しかし，実際の臨床現場では，鍼灸師が必要とされる場面に多く遭遇します．このギャップはなぜ生じるのでしょう？　第一に，鍼灸師側の問題として，基本的な臨床技術を取得した人材が多くはないことが挙げられます．ここで言う技術とは，エビデンスのある経穴を間違いなく穿刺できる技術ではありません．四診によって患者さんの病態を把握し，その患者さんに最適な施術を行えることです．第二に，医療現場の問題として，医師や看護師などの医療スタッフが，鍼灸の有用性を認識していない，と言う点が挙げられます．現代の医療現場では，主治医である医師のみが患者さんのすべてを引き受けることはできないし，引き受けるべきでないという反省から，チーム医療という考え方が主流になっています．ここで，鍼灸師は，患者さんとゆっくりと接しながら治療できる貴重な存在です．しかし，鍼灸の有効性や，四診による診断，患者さんと接すること自体の治療効果まで認識されていなければ，鍼灸師が医療現場で働くことは困難かもしれません．　第三は，日本伝統医学のギャップの問題です．湯液の知識を持った鍼灸師は少ないのと同様に，鍼灸の知識を持った医師が少ないことで，相互の理解が阻まれています．日本伝統鍼灸を含む，日本伝統医学である「漢方」の可能性は大きいと思います．特に，予防医学の観点からみてみると，現代人は精神/身体感覚が欠如していることが多く，その場合には相当具合が悪くなってからしか病院にかからない傾向が生じます．しかし，漢方は病気を発症した患者さんのみでなく，現代人によく見られる未病の段階の患者さんも治すことができます．つまり，心身のバランスの乱れから病が生じる以前の段階で，それを気づかない，もしくは気づかないふりをして無理をする患者さんに，そのアンバランスに早期に対応することによって病を予防できるのです．そして漢方治療を通して，患者さんに身体と心のバランス感覚を教えることができます．鍼灸，湯液そして推拿を併用することによって「漢方」の利点を最大限に活用できるのです．　以上のような観点から，様々な講演やシンポジウムを企画しました．基調講演として，「伝統医学の重要性」という演題名で，厚生労働省医師臨床研修推進室医師臨床研修専門官　櫻本恭司先生にご講演頂きました．ICD11の採択をふまえた鍼灸のエビデンス確立についての将来展望をお話し頂きました．日本伝統鍼灸学会会長　形井秀一先生には，「養生について考える」と言う，日本の伝統的な養生を現代に取り入れる技についてお話し頂きました．　さらに，昨年のWFAS東京・つくば大会の成果を継続する形で，海外の医療関係者や治療者が参加できるようにしました．数人の海外の先生方をはじめ，日本伝統鍼灸の神髄と言える各流派の先生に実技をお願いし，双方を学べる機会を設けることにしました．　特に，ドイツのミュンヘン工科大学准教授　循環器内科専門医　モーリッツ・ヘンペン先生には，「Cardiology and Traditional Chinese Medicine: treatment options with acupuncture and Chinese herbal medicine（循環器と中国伝統医学：鍼と漢方による治療法）」と言うタイトルでご講演頂き，世界規模での鍼灸の交流が可能な時代になったことを感じました．　シンポジウムでは，「伝統医学の正しさの基礎　～概念を共有するために～」と言うテーマで，困難だと言われている伝統医学の用語制定の前段階として，伝統医学的概念をどのように定義するかについて議論が戦わされました．　さらに，「日本伝統鍼灸における腰痛治療の標準化を目指して」と言うテーマのシンポジウムでは，いま世界で最も注目を集める鍼灸適用疾患の腰痛に対するアプローチを比較すし，より良い治療に向けての学問的交流となりました．　さらに，安井医院院長　安井廣迪先生と日本医学柔整鍼灸専門学校　天野陽介先生の対談，「臨床から見た鍼灸医学史」では，ともすれば敬遠されがちな医学史を楽しく拝聴することができました．　このように，本学術大会では，日本伝統鍼灸の全体像を議論しあい学びあうことを通じて，世界の医療の中での日本伝統鍼灸のあるべき姿を見出すことができました．今後につながることを願ってやみません．最後に，実行委員長の津田昌樹先生をはじめ，学会準備や当日の運営にご尽力くださいました先生方，スタッフの皆様に厚く御礼申し上げます．

The 45th Japan Traditional Acupuncture and Moxibustion Society Annual Meeting 2017

https://kanazawa-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=44074&item_no=1&attribute_id=26&file_no=1

The 45th Japan Traditional Acupuncture and Moxibustion Society Annual Meeting 2017

Abstract

Similar works

Full text

Available Versions

Kanazawa University Repository for Academic Resources