Guan Kaiyun

Li Jingxiu

Ma Hong

Shen Yunguang

Shiuchi Toshiaki

志内 利明

李 景秀

沈 雲光

管 開雲

馬 宏

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中国雲南省大理市漾?に生育するシャガとイチハツの生育環境の相違著者 志内 利明, 李 景秀, 沈 雲光, 馬 宏, 管 開雲著者別表示 Shiuchi Toshiaki, Li Jingxiu, Shen Yunguang,Ma Hong, Guan Kaiyun雑誌名 植物地理・分類研究巻 54号 2ページ 151-153発行年 2006-10-31URL http://hdl.handle.net/2297/00050279志内利明1・李 景秀2・沈 雲光2・馬 宏2・管 開雲2：中国雲南省大理市漾濞に生育するシャガとイチハツの生育環境の相違Toshiaki Shiuchi1, Jingxiu Li2, Yunguang Shen2, Hong Ma2 and Kaiyun Guan2 : A difference of spatialniche on Iris japonica and I. tectorum distributed in Yangbi, Dali City, Yunnan, China日本に自生するシャガ Iris japonica Thumb. と栽培されるイチハツ I. tectorum Maxim. は古くから中国との関係が指摘されている植物である。すなわち，日本に生育するシャガは三倍体であるため種子をほとんど生産せずに根茎で栄養的に増殖することや人の生活圏に近いところに分布するため古い時代に中国から日本に渡ってきた植物であると考えられ，また観賞用としてよく栽培されるイチハツも中国原産の植物とされている（佐竹 1982；堀田他 1989）。ところが，シャガは本州，四国，九州の西日本ではスギ林や広葉樹林の林床に広く野生するため（佐竹 1989），中国から渡来した種であるかどうか判然としない。いずれにしても，日本ではイチハツは花壇などで栽培されるだけであるためシャガとイチハツが野外で同所的に生育することはない。中国雲南省の大理市漾濞でシャガとイチハツが同所的に生育しているのを確認した。中国雲南省大理市漾濞でのシャガとイチハツの生育状況の概略を調査したので報告する。調査地は食用のクルミの仲間 Juglans sigillata Dodeの栽培が盛んな雲南省北西部に位置する大理市漾濞（標高 1,860 m）である。Juglans sigillata は種子に含まれる油分の割合が高く，雲南省では別名漾濞核桃，茶核桃などと呼ばれている（匡・路 1979）。漾濞の集落近くに幅 5 mほどの急な川が流れており，川に沿うように急な斜面などに樹高 15 mを超える Juglans sigillata が多数栽培され，秋にはこの実を収穫している。シャガやイチハツは時折混在しながら Juglans sigillata 樹林下などに多数の集団を形成していた。漾濞ではJuglans sigillata からたくさんの収量を得られるように木の周りは定期的に下刈りされているが，シャガやイチハツは美しい花を咲かせるため残されてきた。そのため，両種とも Juglans sigillata の近くに多く生育している。しかし，最近ではより多くの収量を得るという目的で，シャガやイチハツも刈られたり，時には根こそぎ引き抜かれたり，除草剤で駆除されることも珍しくなくなってきている。シャガとイチハツの生育地の相違同所的に見られたシャガとイチハツの生育環境の違いを調べるため，最大傾斜 20度ほどの Juglans sigillataの樹冠下で 2 m×14 mの方形区を設けた。シャガ，イチハツともに根茎の広がりを地図上にマッピングした（Fig. 1）。調査日は 2006年 9月 5日で両種ともに開花はすでに終わっていたため葉の形状と色によりシャガとイチハツを区別した。また，2 m×14 mの方形区を 2×2 m2ごとに No.1-No.7に分け土壌 pH，土壌硬度を測定した（Table 1）。土壌 pHは堀場製作所製の twin pH B 212を用い，土壌硬度は大起理化工業株式会社製のプッシュコーン DIK-5533で No.1-No.7のそれぞれで 5ヶ所測定し，平均値を求めた。No.1-No.3までの Juglans sigillata の根元に近いところにシャガが多く分布し，離れた No.7ではイチハツが優占した（Fig. 1）。土壌 pHは No.1-No.7で 7.0～7.6の値を示し，それぞれで大きな違いはなく，土壌硬度は小石が多くあった No.3だけが大きい値を示した（Table 1）。現地での観察からシャガが多く生育する No.1-No.3の Juglans sigillata の樹冠に覆われた場所はリター層が発達し，地面の傾斜が大きいため土壌から水がしみ出すような場所もあり土壌の湿度が高く，樹冠に被隠されているため日射量も少ない（Fig. 2）。一方で，イチハツの多い No.5と No.7はリター層がほとんど無く，少し乾燥気味で Juglans sigillata の樹冠からやや離れるため日射量が多い。No.5と No.6は草丈 1 mほどの株立ちになった北米原産の帰化植物 Ageratinaadenophora（Sprengel）R. King & H. Robinsonがたくさん生え，No.4は川へ降りるための人の通路があるため，シャガやイチハツの生育場所が限られていた。調査地点以外でも水力発電所の駐車場として砂利の敷かれた端の比較的乾燥し，明るい場所にはイチハツだけが生育していた。イチハツも Juglans sigillata などの樹林下でシャガよりも優占して生育する場所も見らNo. 1 No. 2 No. 3 No. 4 No. 5 No. 6 No. 7Soil pH 7.3 7.0 7.5 7.4 7.2 7.6 7.6Soil hardness（MPa） 6.2 6.4 8.5 5.6 5.9 6.0 6.7Table 1. Soil pH and hardness in each blockSoil hardness indicates the mean value of five point in each block examined.December 2006 J. Phytogeogr. Taxon. Vol. 54. No. 2－ 151 －れたが，シャガは明るく乾燥気味の場所にはほとんど見られなかった。日本においてもシャガは落葉樹林やスギ林の林床などのやや日射が弱く湿った場所に多く分布する。一方，イチハツは日本の藁葺の屋根に栽培されていたためにつけられた種小名tectorum（屋根の）とあるように，明るく乾いた環境でも生育することができる。このように両種の生育環境への要求の違いが，同所的に分布しながらもそれぞれの微妙な生育場所の違いを生んだのであろう。両種ともに調査した 2006年 9月 5日の時点で花茎は 1本もなく果実は見られなかった。近くの集落に住む人に聞いたところ，花はよく咲くが種子はほとんど見たことがないそうで，日本と同じく両種ともに根茎による栄養的な繁殖様式と考えられる。Chimphamba（1973）の報告によるとイチハツとシャガとの交配からは種子が得られていないことから，今回調査した場所でも両種の雑種は形成されていないと推測される。この調査地付近で種子が実らないことは雑種形成による不稔化とは無関係であろう。また，シャガは熱風邪，喉の痛みなどに（ 1985, 1991），イチハツは根茎を解毒，消化不良，水腫，打身などの薬用として利用されることがある（堀田他 1989）。しかし，調査地の近隣に住む人々は両種とも薬用として利用することはなく，花が美しいため切り花などの観賞用としているそうだ。漾濞内での両種の生育地の拡大には栄養的な増殖の他に観賞目的での人為的な移植も関係しているものと推測される。漾濞で確認したシャガは，種子をつけないことや集落の近くに生育するなど日本と似たような生育状況である。地元の人に伺ったが，この地のシャガやイチハツが自生であるのか，過去に人為的に持ち込まれたかについては分からなかった。本研究の一部は財団法人国際花と緑の博覧会記念協会の助成事業により実施した。Fig. 2. Topographical map of the study site.Fig. 1. Spacial distribution of Iris japonica andI. tectorum in Yangbi, Dali City, Yunnan,China.植物地理・分類研究 第 54巻第 2号 2006年 12月－ 152 －引用文献Chimphamba, B. B. 1973. Cytogenetic Studies in the Genus Iris : Subsection Evansia, Benth. Cytologia38 : 501―514.匡 可任・路 安民．1979．胡桃科．中国科学院中国植物志編輯委員会（編），中国植物志．第 21巻 pp. 31―32．科学出版社，北京．堀田 満・緒方 健・新田あや・星川清親・柳 宗民・山崎耕宇（編）．1989．世界有用植物事典．pp. 1499．平凡社，東京．佐竹義輔．1982．アヤメ科．佐竹義輔ほか（編）．日本の野生植物草本 I. pp. 60―62．平凡社，東京．毓棠．1985．鳶尾科．中国科学院中国植物志編輯委員会（編），中国植物志．第 16巻第 1分冊．pp. 133―197．科学出版社，北京．毓棠．1991．鳶尾科．中国科学院昆明植物研究所（編），雲南植物志第五巻．pp. 719―755．科学出版社，北京．（1〒939―2713 富山県富山市婦中町上轡田 42 富山県中央植物園；2〒650204 中国雲南省昆明市黒龍潭中国科学院昆明植物研究所昆明植物園 1Botanic Gardens of Toyama, Kamikutsuwada 42, Fuchu-machi,Toyama 939―2713, Japan ; 2Kunming Botanical Garden, Kunming Institute of Botany, Chinese Acad-emy of Sciences, Heilongtan, Kunming, Yunnan 650204, China）December 2006 J. Phytogeogr. Taxon. Vol. 54. No. 2－ 153 －

中国雲南省大理市漾濞に生育するシャガとイチハツの生育環境の相違

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