13301甲第4072号博士（薬学）金沢大学博士論文要旨Abstrac

Sawamoto Kazuki

澤本 一樹

Kanazawa University Repository for Academic Resources

学位論文題名    肥満病態時における免疫抑制剤 シクロスポリン Aおよびタクロリムスの 体内動態変動に関する研究  Influence of obesity on pharmacokinetics of  cyclosporine A and tacrolimus               金沢大学大学院自然科学研究科（博士後期課程） 生命科学専攻 分子作用学講座  澤本 一樹     I found that the dose-normalized steady-state trough concentration ratio of orally administered cyclosporine A and tacrolimus in blood is increased in obese patients with a body mass index over 25 compared with other patients. In order to investigate the mechanisms involved in this increase, we examined the influence of obesity on tacrolimus pharmacokinetics in lean and obese Zucker rats, focusing on changes in drug-metabolizing enzyme cytochrome P-450 3a2 (Cyp3a2) and drug transporter P-glycoprotein (P-gp). Zucker rats fed a normal diet were given tacrolimus intravenously at a dose of 1.0 mg/kg or orally at a dose of 3.2 mg/kg. The blood concentrations of tacrolimus in obese rats were significantly higher than those in lean rats after administration via both routes. Total clearance and steady-state volume of distribution of tacrolimus were significantly decreased, and the bioavailability was increased in obese rats, compared with lean rats. Protein expression of Cyp3a2 in the liver was significantly decreased in obese rats, compared with lean rats, while P-gp in the small intestine was also significantly decreased in obese rats. These results suggest that the high blood concentration of tacrolimus in obese patients is a consequence of increased bioavailability and decreased metabolism of this drug.    【背景・目的】 今日、世界各国における肥満者人口は増加し社会的問題となっている。このような状況の中、臨床の現場においては肥満患者に薬剤を投与する際に医師および薬剤師が投与量設定に難渋する機会が増えてきていることも報告されている。これまでに、肥満者における cytochrome P-450（CYP）活性が変動することが示唆されている。非肥満者と比較して肥満者では、CYP2E1活性が上昇するとされているが、CYP3A4、CYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6等の分子種における変動については統一的な見解は得られていない。分布過程については、肥満者では体重あたりの脂肪重量が増えることから脂溶性薬物の体重あたりの分布容積は増加し、一方で水溶性薬物の体重あたりの分布容積は低下すると一般には考えられている。しかしながら、脂溶性が高くても肥満状態で分布容積が低下する薬剤もあり、必ずしも分配係数だけでは分布容積の変動を予測できない。また、小腸および皮膚からの吸収過程については、肥満状態での CYP およびトランスポーターの発現変動が影響を与えるかという点については今のところ明確にされていない。よって、肥満状態における各薬剤の体内動態変動要因を明らかにすることは、処方設計および治療コントロールを行う際に重要な情報となる。免疫抑制剤は、移植医療時の拒絶反応の出現を抑えるために必要不可欠な薬剤であり、また治療域が狭いために厳密な血中濃度コントロールが必要となる。しかしながら、肥満状態における免疫抑制剤の体内動態変動については現在のところ明確にされていない。そこで本研究では、CYP3A4および P-glycoprotein の基質となり Therapeutic Drug Monitoring対象薬物でもある cyclosporine A および tacrolimus に焦点を当て、肥満時における血中濃度変化を明らかにすることを目的とし、ヒト血中濃度解析とラット in vivoおよび in vitro実験により検討を行った。 【方法】 ヒトを対象としたレトロスぺクティブ調査研究を行い、cyclosporine A およびtacrolimus の定常状態での血中濃度および投与量を指標として、体格の違いによる影響を評価した。体格の指標として body mass index（BMI）値を用いて、BMI 18.5以下を痩せ型群、BMI 18.5-25を標準群、BMI 25 以上を過体重および肥満群の 3群に分類した。Cyclosporine Aおよび tacrolimus トラフ血中濃度を投与量で補正した C/D比の 3群間における変動と C/D比と BMI値との相関性について検討を行った。 次に、遺伝的肥満モデルラットである Zucker（fa/fa）ラットとその対象群として Zucker（+/+）ラットに tacrolimus を静脈内投与（1 mg/kg）および経口投与（3.2 mg/kg）した。得られた tacrolimus血中濃度推移からモーメント解析法を用いて薬物速度論的に解析することにより、肥満時における薬物動態変動を評価した。また、tacrolimus を基質とするCyp3a2およびP-glycoproteinの肝臓および小腸における遺伝子発現レベルおよびタンパク発現レベルを real-time PCR法および western blotting法を用いて評価した。 【結果・考察】  Cyclosporine A を投与された患者においては、肥満患者群では非肥満患者群と比べてC/D比の上昇は認められず、また BMI値と C/D比に相関性は認められなかった（Figure 1）。また、tacrolimus を投与された患者においては、肥満患者群では非肥満患者群と比べて C/D比の上昇が認められ、BMI値と C/D比に正の相関がみられた（Figure 1）。そこで次に、肥満状態における tacrolimus体内動態変動要因を明らかにするため、肥満モデル動物を用いて検討することとした。Zucker ラットに tacrolimus を静脈内投与した場合、肥満群では対照群に比べ血中濃度は高く推移した。動態パラメーターを算出したところ、体重あたりの全身クリアランスおよび分布容積は対照群と比較して肥満群で低下した（Table 1）。その要因の一つとして、肥満群で血清中のコレステロール値およびトリグリセライド値が上昇していることから、tacrolimus と血清中リポプロテインによるタンパク結合率の上昇にともなう遊離形分率の低下が考えられた。経口投与した場合においても、肥満群では血中濃度は高く推移し、バイオアベイラビリティーの上昇を認めた。肥満群では肝臓 Cyp3a2 のタンパク発現レベルは低下し、小腸上部および中部の P-glycoprotein タンパク発現レベルは低下していた（Figure 2, 3）。これらの結果から、肥満病態時においては CYP3A4 や P-glycoproteinの発現変動により、tacrolimusの血中濃度が変化することが示唆された。                         Figure 1. Comparison of C/D ratio of cyclosporine A (A) and tacrolimus (B) among patients having various BMIs.  *Significantly differences from low BMI patients at p < 0.05.          Lean (+/+)   Obese (fa/fa) i.v. AUC0→∞ (ng h/mL) 888  ± 50    1381  ± 90*  CLtot (mL/min/kg) 19.1  ± 1.1   12.3  ± 0.8*  MRT (h) 5.49  ± 0.21   5.77  ± 0.28   Vdss (L/kg) 6.29  ± 0.44   4.26  ± 0.33*   t1/2 (h)   4.35  ± 0.43    5.39  ± 0.24  p.o. AUC0→∞ (ng h/mL) 257  ± 108    800  ± 119*  CLtot/F (mL/min/kg) 323.9  ± 82.7   72.2  ± 7.8*  Tmax (h) 1.4  ± 0.5   0.5  ± 0.1   Cmax (ng/mL) 64.5  ± 35.3   141.3  ± 43.5    Bioavailability (%) 8.30  ± 3.49    18.60  ± 2.53*          Table 1. Pharmacokinetic parameters of tacrolimus after intravenous and oral administration to lean (+/+) and obese (fa/fa) Zucker rats.  Data are means ± S.E. (n =5-6). *Significantly different from the lean (+/+) group at p < 0.05; Student’s unpaired t-test.  Figure 3. Western blot analysis of protein expression of P-glycoprotein and Cyp3a2 in the liver of lean (+/+) (open column) and obese (fa/fa) (closed column) Zucker rats. Data are means ± S.E. (n =6). *Significantly different from the lean (+/+) group at p < 0.05; Student’s unpaired t-test.         【結論】  本研究の結果、肥満病態時には免疫抑制剤 tacrolimus のバイオアベイラビリティーが上昇し、全身クリアランスが低下することが明らかとなった。またその要因の一つとして、肝臓および小腸の薬物代謝酵素およびトランスポーターの発現レベル変動が寄与する可能性が示唆された。今日、医療の個別化の重要性に対する認識が高まりつつあるが、医療者が薬物療法における適切な投与量設定を行うことは、疾患に対する治療効果の向上および副作用回避に大変重要であり、患者の QOLに大きく貢献することができると考えられる。よって、肥満病態時の薬物動態変動要因を認識することは、移植医療時における免疫抑制剤の初期投与量設定やその後の血中濃度管理などにおいて重要であり、本研究の成果は、意義深いものと考える。 Figure 4. Western blot analysis of protein expression of P-glycoprotein and Cyp3a2 in the upper, middle and lower sites of the small intestine of lean (+/+) (open column) and obese (fa/fa) (closed column) Zucker rats. Data are means ± S.E. (n =5). *Significantly different from the lean (+/+) group at p < 0.05; Student’s unpaired t-test.  

肥満病態時における免疫抑制剤シクロスポリンAおよびタクロリムスの体内動態変動に関する研究

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肥満病態時における免疫抑制剤シクロスポリンAおよびタクロリムスの体内動態変動に関する研究

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