13301甲第4265号博士（学術）金沢大学博士論文本文Ful

Uchida Yu

内田 雄

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片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量

13301甲第4265号博士（学術）金沢大学博士論文要旨Abstrac

     学 位 論 文 要 旨    学位論文題名  片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量 Body sway and leg muscle activity during one-leg stance             金沢大学大学院自然科学研究科 生命科学 専攻   動態生理学 講座  学生番号 1223032001 氏 名  内田 雄   Abstract  We aimed to examine the effects of subjects’ characteristics and methods of hand support on body sway and leg muscle activity during one-leg stance (OLS). Young and elderly subjects who could maintain OLS for 1 min unaided and those who needed assistance performed OLS with various methods of hand support. Body sway and muscle activity were measured in each OLS condition. The findings of this study were the following: (1) Body sway and leg muscle activity during OLS decreased when using upper limb support, and this decrease was remarkable when using lateral hand support. (2) Body sway and leg muscle activity during OLS with hand support were likely unaffected by the fitness level the elderly. (3) Body sway and leg muscle activity during OLS for 1 min did not increase with time in any condition. In conclusion, differences in hand support methods affects body sway and leg muscle activity during OLS. In addition, physical fitness level shows little effect on body sway and leg muscle activity during OLS when using hand support.    1. 序論  バランス能力の低下は転倒やロコモティブシンドロームを引き起こす原因の一つとされており、バランス能力向上を目指した様々なトレーニングが実施されている。片脚立位トレーニングはバランストレーニングの中でも極めて実用的であり、広く利用されている。片脚立位トレーニングは、片脚立位時の姿勢の不安定性（重心動揺量の大きさ）や下肢にかかる負担（下肢筋活動量の程度）により、トレーニング実施者のバランス能力の向上や、下肢筋力の低下を抑制し、転倒の予防に貢献すると考えられる。それらが大きくなるほど、効果的なトレーニングとなり得る一方で、不安定な姿勢は転倒の危険性も高まる。片脚立位時の重心動揺量や下肢筋活動量はトレーニング実施者の体力水準や手の補助方法によって大きく異なると仮定され、これらの違いにより生じる重心動揺量や下肢筋活動量の変化を明らかにすることは片脚立位トレーニングの処方において重要な知見をもたらすと考えられる。本研究は１分間の片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動に着目し、対象者の体力水準や、手の補助方法の違いが、前述の両者に及ぼす影響を、時間経過を踏まえて検討することを目的とした。   2. 検討課題  本研究では以下の 5 つの検討課題を設定し、手の補助や対象者の特性が片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動に及ぼす影響を検討した。  検討課題 1 若年者における 1 分間の片脚および両脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量の検討  検討課題 1では、若年者を対象に、片脚立位時と両脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量および、その時間変化を検討する。    検討課題 2 若年者における手の補助方法の違いが片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量に及ぼす影響の検討  手の補助方向および強さは、片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動に影響を及ぼすと考えられる。検討課題 2 では、被験者の負担を考慮し、若年者を対象として、片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量に及ぼす手の補助方向および強さの影響を検討する。  検討課題 3 片脚立位非成就高齢者における 1 分間の手の前方および側方補助を伴う片脚立位および両脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量の検討  片脚立位トレーニング時に手の補助を必要とする高齢者（1 分間片脚立位を手の補助なしでは保持できない高齢者：以下、片脚立位非成就高齢者）がいる。片脚立位非成就高齢者が、片脚立位トレーニングを実施する場合、どのような手の補助方法が適切か検討されていない。検討課題 3 では、片脚立位非成就高齢者を対象に、手の前方および側方補助を伴う片脚立位時と両脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量を検討する。     検討課題 4 片脚立位成就高齢者における手の補助の有無が 1 分間の片脚立位中の下肢筋活動量および重心動揺量に及ぼす影響の検討  片脚立位トレーニング時に手の補助がなくとも実施可能な高齢者（片脚立位成就高齢者）がいる。片脚立位成就高齢者の場合でも、手の補助は姿勢の不安定性および下肢筋活動の低下をもたらすと考えられる。検討課題 4 では、片脚立位成就高齢者を対象に手の前方補助の使用の有無が片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量に及ぼす影響を、時間変化を踏まえ検討する。  検討課題 5 片脚立位成就高齢者および片脚立位非成就高齢者における 1 分間の手の前方補助を伴う片脚立位中の重心動揺量および下肢筋活動量の検討  前方補助を伴う片脚立位中の重心動揺量および下肢筋活動量が片脚立位成就高齢者と片脚立位非成就高齢者の間で差がなければ、両者が手の補助を伴う片脚立位で得られる効果は変わらないと考えられる。検討課題 5 では、片脚立位成就高齢者および片脚立位非成就高齢者を対象として、前方補助を伴う片脚立位時の下肢筋活動量および重心動揺量の違いを検討する。  3. 研究方法 3-1. 被験者  検討課題 1 では、青年男子 15 名（年齢：20.2±1.3 歳、身長：171.1cm±7.3cm、体重:63.4±4.5kg）、検討課題 2 では、青年男子 15 名（年齢 22.4±1.3 歳：身長 172.3±7.2cm：体重：65.4±6.1kg）、検討課題3では、片脚立位非成就高齢者11名（平均年齢79.6±5.3歳、身長154.2±9.9cm、体重53.9±9.3kg）、検討課題 4 では、片脚立位成就高齢者 13 名（平均年齢 73.1±4.2 歳、身長 157.4±9.7cm、体重 55.6±9.0kg）、そして検討課題 5 では前述の片脚立位非成就高齢者 11 名および片脚立位成就高齢者 13 名が各課題に参加した。  3-2. 重心動揺測定装置  重心動揺計（グラビコーダ G5500、アニマ株式会社）により、全てのテスト条件で重心動揺が測定された。この機器は３つの垂直荷重センサーを内蔵し、パーソナル・コンピューター（PC）および A/D変換器によって、垂直荷重の作用中心点をCenter of pressure (COP)としてPCに取り込む事ができる。本研究では、全てのテスト条件で 20Hz のサンプリング周波数を用いて COP の軌跡を記録した。本研究は、手の補助方向および強さが片脚立位時の重心動揺量に及ぼす影響を検討するために、検討課題 2において通常片脚立位時の重心動揺量に対する比である重心動揺量比を算出した。また、検討課題 1 および検討課題 3～5 では片脚立位中の重心動揺量の時間変化を検討するために、総軌跡長、X 軸方項軌跡長、Y軸方向軌跡長を 20秒ごとに算出した。  3-3. 表面筋電図  多チャンネルテレメータシステム（日本光電）により全テスト条件で表面筋電図を計測した。表面筋電図はサンプリング周波数 1000Hz で 30-500Hz の帯域通過フィルタを用いて測定した。静止立位中は足関節戦略（足関節による立位姿勢の制御）による貢献度が高く、足関節の底屈や背屈に関与する筋群が活発に活動する（Hoark et al., 1989）。よって、被験筋として足関節周囲筋を選択した。本研究では、検討課題 1 および検討課題 3~5 において、足関節背屈筋として前脛骨筋を、底屈筋群としてヒラメ筋および腓腹筋を選択し、表面筋電図を貼付した。検討課題 2 では、検討課題１で腓腹筋とヒラメ筋の活動が類似していたこと、また、被験者が若年者であることに加え、測定時間も短く、片脚立位中の姿勢が安定していたことから、被験筋からヒラメ筋を除き、腓腹筋および前脛骨筋に表面筋電図電極を貼付した。テスト中の筋放電量が測定された。測定された筋放電量は 0.1 秒ごとに 1 秒区間の root mean square（RMS）に変換された。本研究は、手の補助方向および強さが片脚立位時の下肢筋活動量に及ぼす影響を検討するために、検討課題 2 において通常片脚立位時の筋活動量に対する比である筋活動量比を算出した。また、検討課題 1 および検討課題 3～5 では片脚立位中の筋活動の時間変化を検討するために、平均および最大％RMS を 20秒ごとに算出した。  3-4. 片脚立位測定  3-4-1. 両脚立位（Two-leg stance: TLS）  被験者は重心動揺計上で、両手を体側に垂らし、視線を前方に向け、直立姿勢をとった。被験者は合図とともにできるだけ動かないように指示され、65 秒間両足立位姿勢を継続した。開始の合図から 5秒間のデータを除外した 60秒間の COP軌跡および筋放電量が計測された。測定は片脚立位の測定に合わせ 1試行のみとした。  3-4-2. 通常片脚立位 (Normal one-leg stance: N-OLS)  被験者は重心動揺計の上で、両手を体側に垂らし、視線を前方に向け、直立姿勢をとった。被験者は合図の後、利き脚で片脚立位姿勢をとった。片脚立位姿勢は、阪本ら（2010a） の研究を参考に、非利き脚の膝を後方に 90 度に曲げ、両手を体側に垂らした姿勢とした。テスト時間は検討課題 2 では 35秒間、その他の検討課題では 65 秒間であった。片脚立位姿勢をとった後の数秒は動揺が安定しないため（Jonsson et al., 2004）、開始の合図から 5秒間のデータを除外した 30秒間もしくは 60秒間の COP軌跡および筋放電量が計測された。若年者を対象とした検討課題 1 および 2 では 3試行実施したが、検討課題 3～5 では高齢者である被験者の負担を考慮し 1 試行のみ実施した。挙上脚が地面、もしくは軸足についた場合、あるいは支持脚が移動した場合を失敗とした。  3-4-3. 手の補助を伴う片脚立位  被験者は両脚立位時と同じ姿勢で重心動揺計上に待機した。検者の指示により、支持脚側の手を前方もしくは側方に設置された台の上に置いた（図 4－2 および 3）。台の高さは被験者の腰の高さに合わせて調節した。開始の合図とともに被験者は、手を台に置いた状態で、挙上脚の膝を 90 度に後方に屈曲し、支持脚で片脚立ちをした。検討課題 2 では手の補助の強さと方向の影響を検討するために、前方Light touch 条件、前方 Force touch 条件、側方 Light touch 条件、側方 Force touch 条件 の 4 条件を用いた。また、検討課題 3～5 では、手の補助の方向のみを規定した前方補助を伴う片脚立位および側方補助を伴う片脚立位を実施した。各テスト条件の詳細は検討課題ごとに示す。テスト時間は、重心動揺量および下肢筋活動量の時間変化を検討しない検討課題 2 では 35 秒間に設定し、その他の検討課題では 65秒間に設定した。合図から 5秒後に、検討課題 1、および 3～5 では 1 分間の、検討課題 2 では 30秒間の COP軌跡および筋放電量の計測を開始した。各テストは若年者を対象とした検討課題１、および 2 では 3試行ずつ、高齢者を対象とした検討課題 3～5 では疲労の影響を考慮し、1試行ずつ実施した。 図 前方補助および側方補助を伴う片脚立位 4. 研究結果の概要 本研究における各検討課題の結果 検討課題 1  両脚立位時は片脚立位時と比較して下肢筋活動量および重心動揺が少な経過に伴う筋活動量の変動はベルは最大等尺性運動時と比較して、前脛骨筋でた。20秒間の重心動揺の総軌跡長はY軸方向成分が 以上から肢筋活動量および重心動揺量が認められる。 検討課題 2 側方補助を伴う片脚立位において、強いタッチ時は、軽いタッチ時よりも全ての重心動揺（前後方向、左右方向、および全体の動揺）および前脛骨筋や腓腹筋の筋活動を軽減することが明らかとなった。また、前方補助時は補助の強さの違いにより重心動揺は変化しないが、腓腹筋の活動は大きくないタッチ時は、補助を伴う片脚立位時の補助方向が異なっても、全ての方向の重心動揺に差がなく、強いタッチ時は、前方補助よりも側方補助の方が全以上から、位となるため、片脚立位トレーニング    若年者における45cm程度であった。、たとえ若年者のように片脚立位を容易に実施できる者であっても、片脚立位時に一定の下 若年者における手の補助方法の違いが片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量にす影響の検討側方へ強くタッチした場合、重心動揺およ1分間の片脚および両脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量の検討小さかった  の概要は以下が、時間経過に伴い左右方向の重心動揺が安定した70~80cm  の場合、 の通りである10％程度、腓腹筋およびヒラメ筋で程度であり、そのうちての方向の重心動揺および下肢筋活動量が少なかったび下肢筋活動が顕著に減少し最も安定した片脚立効果の点から。 側方補助はかったX軸方向成分が適さない可能性がある。。両姿勢とも、時間の25％程度であっ45~50cm 。筋活動レ程度、及ぼった。軽 。検討課題 3 片脚立位非成就高齢者における 1 分間の手の前方および側方補助を伴う片脚立位および両脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動量の検討  手の補助位置に関係なく、補助を伴う片脚立位時は、両脚立位時より腓腹筋およびヒラメ筋の筋活動が大きかった。しかし、前脛骨筋の筋活動は、側方補助時が前方補助時より小さく、時間の経過と共に軽減する傾向があった。また、前方補助を伴う片脚立位時は両脚立位時より前後、左右方向など全体的に重心動揺は大きいが、側方補助を伴う片脚立位時は前後方向の動揺のみ大きかった。前方補助時と側方補助時の前後方向の動揺に差はないが、左右方向の動揺は前方補助時が側方補助時より大きく、時間経過により減少した。側方補助時および両脚立位時は時間経過に伴う重心動揺の変動はみられなかった。  以上から、側方補助を伴う片脚立位は、前方補助を伴う片脚立位時よりも重心動揺量および下肢筋活動量が小さく、また左右方向の動揺が両脚立位時と同程度であることから、片脚立位トレーニングの効果を得られない可能性がある。  検討課題 4 片脚立位成就高齢者における手の補助の有無が 1 分間の片脚立位中の下肢筋活動量および重心動揺量に及ぼす影響の検討  片脚立位成就高齢者において、手の前方補助を伴うことで通常片脚立位中の重心動揺量および下肢筋活動量は軽減された。手の補助の有無に関わらず、1 分間の片脚立位中、筋活動量は時間とともに増加する傾向はなく、通常片脚立位中においてのみ重心動揺量は減少する傾向にあった。  以上から、手の補助を利用することで、片脚立位トレーニング時の重心動揺量および下肢筋活動量は減少し、トレーニング効果も軽減すると考えられる。  検討課題 5 片脚立位成就高齢者および片脚立位非成就高齢者における 1 分間の手の前方補助を伴う片脚立位中の重心動揺量および下肢筋活動量の検討  手の前方補助を伴う片脚立位中において、下腿背部の筋（腓腹筋およびヒラメ筋）の筋活動量や重心動揺量は、片脚立位成就高齢者と片脚立位非成就高齢者の間で差がなかった。しかし、前脛骨筋の筋活動量は後者が大きく、後者は姿勢の安定を得るために足関節底屈筋群と背屈筋群を同時収縮させていると考えられた。また、片脚立位非成就高齢者は時間と共に重心動揺が安定するが、片脚立位成就高齢者は重心動揺の時間経過に伴う変化はなかった。  以上から、体力水準の違いが、手の補助を伴う片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動に及ぼす影響は小さいと考えられる。  5. 総括 本博士論文では、１分間の片脚立位時の重心動揺量および下肢筋活動に着目し、対象者の体力水準や、手の補助の方法の違いが、前述の両者に及ぼす影響を、時間経過を踏まえて検討した。結論は以下のごとくである。  結論 1  片脚立位時の姿勢の不安定性および下肢筋活動は、手の補助によって減少する。また、側方への補助を選択した場合、その減少は顕著である。補助を必要とする高齢者（片脚立位非成就高齢者）が、側方補助を利用した場合、左右方向の動揺や前脛骨筋の活動は、両脚立位時とほとんど変わらない水準まで低下する。 結論 2 補助を伴う片脚立位中の姿勢の不安定性や下肢筋活動は、高齢者の体力水準によって影響されにくい。また、片脚立位の実施が容易に可能な者でも、片脚立位時には一定以上（両脚立位時の水準以上）の重心動揺量および下肢筋活動量が認められる。  結論 3  若年者や日常生活に自立している高齢者の場合、手の補助の有無に関わらず、1分間の片脚立位中、重心動揺量および下肢筋活動量に変動はみられない。  結論 4 結論 1～3より、片脚立位トレーニングを実施する際には、手の補助方向に注意する必要があり、トレーニング効果を期待する場合、出来るだけ側方への補助は利用しない方が良い。また、手の補助なしでも片脚立位を実施できる者は、手の補助を利用しない方がトレーニング効果を期待できる。但し、手の補助を利用しても一定量の姿勢の不安定性および下肢筋活動が認められている。  

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