Kagawa Hiroyuki

Okamoto Akio

Yoneyama Takeshi

香川 博之

米山 猛

Kanazawa University Repository for Academic Resources

スキーヤーの関節動作と作用力の測定著者 Kagawa Hiroyuki, Yoneyama Takeshi, OkamotoAkio雑誌名 スポーツ工学シンポジウム講演論文集巻 96号 20ページ 140-144発行年 1996-10-01URL http://hdl.handle.net/2297/2263スキーヤーの関節動作と作用力の測定 Measurement of the skier’s joint angles and the acting forces in skiing   ○正 香 川 博 之（金沢大）  正 米 山  猛   岡 本 明 男  Hiroyuki KAGAWA,  Takeshi YONEYAMA,  Akio OKAMOTO Kanazawa University,  2-40-20 Kodatsuno, Kanazawa, Ishikawa  In order to investigate the relationships between the joint angles of a skier and the acting forces on the ski plates from the snow surface in a turn, a new compact measuring system has been developed. It consists of a goniometer on hip and knee joint, a load cell placed between a ski plate and a boot, and a note type personal computer as a data recorder. Using it in actual skiing turn, useful data were obtained. In this paper, the forces on the ski plates corresponding to skier’s motion in a parallel turn were shown. Furthermore, the coefficients of friction and a centripetal force acting in a turn were considered.  Key Words: Ski, Measurement, Force, Moment, Joint angle, Turn ,Sports science.    １．緒  言 スキーターンのメカニズムに関する研究報告が多くなされているが，それらの多くが単純なモデルを仮定してシミュレーションを行ったり（１）～（４），あるいはスキーヤーのある特定の動作を再現できるロボットによる滑走実験を行ったり（５）～（７）している．これらのモデルの妥当性などについて検討する場合には，実際にスキーヤーが滑走しているときの姿勢とスキー板に作用する力やモーメントの関係を明らかにする必要がある．スキー板に作用する力を測定する試み（８）～（１４）はあるが，その多くは足裏の部分的な圧力であったり，６つある作用力のうちのある特定の成分の測定に限定されている．そこで，本研究ではスキーヤーに簡単に取り付けることができる股関節・ひざ関節の角度測定装置，およびスキーブーツとスキー板の間に取り付けて６軸力を測定できる作用力センサーの開発を行った．さらに，この測定装置を使って実際にスキーヤーがターンを行い，そのときの姿勢と作用力の関係について測定を試みた．  ２．測定装置 製作した計測システムは図１に示すように．関節角測定装置，作用力センサ，データ記録装置から構成される．スキーターン動作の対称性や装置の単純化などを考慮して右足についてのみ測定を行えるように設計した． 関節角測定装置は，スキーヤーの腰，股下，ひざ上，足首（スキー靴）の４ヶ所で固定し，股関節の開閉，前屈，ねじれとひざ関節の屈曲，ねじれの計５つの角度を測定できる．股関節の開閉角，前屈角とひざ関節の屈曲角についてはポテンショメータにより直接測定し，股関節およびひざ関節のねじれ角については足回りに固定した半円状のレールに取り付けたラック－ピニオン系を介してポテンショメータにより測定する．なお，材質はアルミニウム合金で重量は 2.4kg である． 作用力センサーはスキー板とスキー靴（ビンディング）の間に取り付け，スキー板にかかる前後，左右，上下の 3方向の力とその３方向の軸回りの３つのモーメントを測定できる．その形状は図２に示す通りであり，平行平板構造の表面に貼り付けたひずみゲージにより各作用力を独立に測定する．なお，材質はジュラルミンで重量はスキー板とあわせて 4.0kg である． データ記録装置は，安定化電源，増幅器，Ａ／Ｄコンバータ，ノート型パーソナルコンピュータによりなり，スキ Fig.1 Schematic view of measuring system Fig.2 Load cellーヤーがナップザックに入れて簡単に持ち運べるように小さくまとめた．重量は 3.5kg である．  ３．実験方法 実験を行うにあたり，スキーヤーの位置を示すため図３のように，測定開始地点を原点とし，斜面上にそれぞれフォールライン方向にＳ軸，これに垂直な方向にＴ軸を定義した．スキー板に作用する力およびモーメントについては，図４に示すように雪面ではなくスキー板にそった方向を基準にして定義した．したがって，スキー板の傾きにともない各成分の方向が変化することに注意されたい．スキーヤーの姿勢を表す各関節角については，図５のように定義した． 実験は，斜度が約 15°で長さが 150m 程度確保できる滑らかな斜面にて実施した．種々のターンを行い，本研究で製作した測定装置を使ってサンプリングタイム 5ms でデータを記録した．また，スキーヤーの位置および滑走速度を記録するために斜面下方よりビデオ撮影を行った．なお，スキーヤーには著者の一人でＳＡＪの指導員（石川県スキー連盟所属）をしている者（身長 172cm 体重 78.0kg）を選んだ．   ４．実験結果 紙面の都合上，ここではパラレルターンの結果についてのみ述べる．コース上に目印を置けなかったため，スキーヤーにはフォールラインに沿ってできだけ左右同じイメージでパラレルターンをするように指示した．  ４．１ スキーヤーの滑走軌跡と速度  ビデオ映像で右足の軌跡をトレースし，斜面上（ＳＴ座標上）での軌跡を求めたところ図６が得られた．本実験では，スキーヤーはまず直滑降でフォールラインに沿って滑り出した後，左ターンから入り，順に右，左，右，左，右ターンを行い，最後に左ターンの途中で止まっている．各ターンはほぼ左右対称で，振れ幅は約 7m であった．軌跡に沿った速さＶと時間15ﾟOSTFig.3 Coordinates on the snow surface FyMyMzFzFxMxOn Right SkiFig.4 Definition of forces and moments βαγθφFig.5 Definition of joint angles of skier Fig.6 Orbit of skier in a parallel turn ｔとの関係を求めると図７のようになり，ターン中の平均速さは 10m/s 程度であったことがわかる．速さとターン軌跡上の位置との関係を明確にするため，図８に時間ｔと左右方向の位置Ｔの関係を示す．Ｔの極大値および極小値の位置が図６の軌跡における各ターンの頂点に対応している．また，図中の縦方向の点線は左右ターンの切替え時点を示している．図７と図８を比較することにより，速さは各ターンの頂点の近傍で極大値をとることがわかる．  ４．２ スキーヤーの関節の動作  滑走時の各関節の角度を示すと図９のようになる．図中の縦方向の点線は図８と同様に左右ターンの切替え時点を示している．腰の前屈角αおよびひざの屈曲角γに着目すると，ターンの切替え時点でどちらも極小値をとりごく短時間に体が伸びあがっていることを確認できる．ターン中には各ターン軌跡の頂点近傍で極大値をとり最も体を曲げているが，その変化はターン切替え時点ほど大きくない．右ターンの値は左ターンの値よりも全体的に大きくなる．これは，右ターン時には右足が内足になるため雪面にスキー板が引っかからないように腰とひざを曲げ，逆に左ターンでは右足が外足になりターンの求心力を得るために雪面を踏ん張っていることを示しているものと考えられる．股関節の開閉角βに着目すると，αやγほど大きな角度変化が見られず，本実験を行ったスキーヤーはパラレルターンでは股関節の大きな開閉運動を行っていないことがわかる．ビデオ画面をしらべたところ，股関節だけではなく腰骨のあたりから股関節の開閉に相当する運動が起こっていた．なお，図では時間とともにβは負の方向にシフトしていくが，これは測定装置の腰骨に対する固定に問題があったため起こり，定性的評価にはそれほど大きな問題はないと考えられるが，定量的評価や測定精度向上のために今後改良していく予定である．股関節のねじれ角θおよびひざ関節のねじれ角φは装置自体に問題があり，足に固定したレールが滑らかに回転しなかったため，今回の実験ではうまく測定できなかった．そ Fig.7 Velocity of skier   Fig.8 Position of skier for time Fig.9 Joint angles of a skier のため，参考値として示す．ビデオ画面を見る限りでは，φは各ターン軌跡の頂点近傍で最もねじられ，θはターンの切替え時点近傍で最もねじられているようである．θとβはほぼ同じ周期で変化していた．これらは図からもうかがえる．  ４．３ スキー板にかかる作用力  滑走時に作用する力およびモーメントを示すと図１０のようになる．なお，本研究では雪面からスキーヤーに働く作用力について考えていることと，各作用力成分は板面を基準にした座標系で考えていることに注意されたい． 雪面からスキー板に対して垂直上向きに作用する力Ｆｚに着目すると，直滑降時には全重量の半分に相当する 400N程度の力が作用していることがわかる．これはスキーヤーが左右のスキー板に均等に乗って滑っていることを示している．左ターンでは，右足がターンの外足になり求心力を得るために雪面に力を強く踏みつけるため，ターンの進行にともなって次第に反力が大きくなっていく．ターン軌跡の頂点近傍で最大になり，全重量よりも大きい 1000N 程度の値になる．右ターンでは，右足がターンの内足になり，外足にそえて滑っているためほとんど力がかからない．また，ターンの切替え時には直滑降時とほぼ同じ 400N 程度の力が作用している． スキー板の長手方向に後ろ向きに作用する力Ｆｘに着目すると，直滑降および右ターン時にはほとんど力を受けず，左ターン時の大きなＦｚが作用しているときだけに作用することがわかる．この力はスキー板の長手方向の摩擦抵抗により生じているものと考えられ，他の力成分の大きさに比べて小さい． スキー板に対して右横方向に作用する力Ｆｙに着目すると，ターン切替え時および直滑降時にはほとんど力が作用せず，左ターンでは右外向きに，右ターンでは左内向きに力が作用することがわかる．左ターンではスキーヤーが内エッジに乗っているか，あるいは除雪された雪の流れがスキー板を外向きに力を及ぼしているものと考えられる．右ターンでは，同様の原因で内向きに力が作用しているか，あるいはスキー板自体の重さがかかっているものと思われる．力の大きさは左ターンのときの方が大きい．なお，スキー板がエッジ角により傾いているので，Ｆｙそのものが求心力になるわけではない． スキー板を内エッジ側に倒そうとするモーメントＭｘに着目すると，左ターンのときだけ内エッジ側を起こそうとする方向に作用することがわかる．これはスキーヤーが左ターン時に右足側スキー板の内エッジを押し付ける動作の反作用により生じているが，スキーの板幅が小さいため生じるモーメントの大きさは小さい． スキー板の先端を持ち上げようとする方向に作用するモーメントＭｙに着目すると，その変化はＦｚと同様の傾向を示し，スキー板の先端を持ち上げる方向に作用していることがわかる．これは，スキーヤーが大きな力をスキー板の前方に加えた反作用により生じたものと考えられる．また，板の長さの影響もあり，他のモーメントに比べ非常に大きな値を示す． スキー板の先端を反時計回りに回転させる方向に作用するモーメントＭｚに着目すると，左ターンのときだけ先端をターンの内向きにする方向に作用していることがわかる．この大きさは非常に小さくスキーヤーが強引にスキー板を回転させようとモーメントを加えていないことを示している． ５．考  察  Fig.10 Forces and Moments まず，スキーターンのシミュレーションなどで必要になる摩擦係数について検討する．各ターンの円弧の周方向と半径方向の成分についてしらべる必要があるが，現段階ではスキー板のエッジ角および方位角が不明であるため，ここではスキー板に垂直に作用する力Ｆｚに対するスキー板の長手方向の力Ｆｘおよびそれに垂直な横方向の力Ｆｙの割合を見かけ上の摩擦係数μｘおよびμｙとして求めた．その結果を図１１に示す．図中の数カ所で表示範囲を越えたデータが見うけられるが，Ｆｚがほぼ０になるため生じた．左ターン時を平均的に見れば，μｘは 0.1 程度になり，μｙは0.4 程度でほぼ一定になることがわかった．実際にはターン動作によりスキー板が雪面に対して傾いていることから，実質的な半径方向の摩擦係数はこの値よりも小さくなることが予想される．なお，雪質など違いによりほかの研究とは直接比較できないが，便宜的に求めたμｙについては松原ら（15）のシミュレーションで仮定した値（0.3 あるいは 0.4）にほぼ等しことがわかった． 次に，ターン軌跡の半径ρと求心力ｆｎについて検討する．図１２に示すようにターンの軌跡を半径ρの円弧とみなし，迎え角なし（スキー板の長軸と滑走方向が一致した状態）で円周に沿って速さＶで質量ｍのスキーヤーが滑っていると仮定すると，スキーヤーに作用する求心力ｆｎは次式のように表すことができる．     f mVn  21 　　　　　　　　　( )  スキー板底面と雪面のなす角（エッジ角）ψとし，スキー板に作用している力ＦｚとＦｙと求心力ｆｎの関係を求めると図より次式のようになる．     f F Fn z y  cos sin ( )  　　　　 2  本実験では，ターンの軌跡（図６）より平均半径ρは 16.5mであることがわかり，実験データを参考に速さＶを 10m/s，Ｆｚを 1000N，Ｆｙを 400N，スキーヤーの質量ｍを 90kgとすると，(1)(2)式よりエッジ角ψは約 38°で求心力ｆｎは約 540N となった．この値は導出段階で大きな仮定をしているため目安にしかならないが，ビデオ画面で確認したところエッジを計算値程度傾けているように見える．ターンの大きさなどが違うため直接比較はできないが，パラレルターンを高速度カメラを使って詳細にしらべた池上ら(16)の実験結果によると最大で 22°程度であり，ここで示した計算値は第一近似としてはよい結果になっていると思われる．なお，詳細な検討は今後さらに行っていく予定である．  ６．結  言 本研究では，スキーターンのメカニズムの解明を目的として，スキーヤーに簡単に取り付けることができる関節角測定装置と作用力センサーの開発を行った．装置を実際に装着して種々のターンを行った．また，そのようすをビデオ撮影し，スキーヤーの軌跡および速度を求めた．本報では一例としてパラレルターンの結果について報告した．装置の問題点なども多く見つかったが，本研究によって，スキーヤーの姿勢とスキー板に作用する力の関係を明らかにする手がかりができたと考えられる．今後さらに，この装置を改良し，より精度の高いデータを収集して，ターンのメカニズムについて考察していく予定である． なお，本研究を進めるにあたり，金沢大学学生の大竹庸人君，越後隆治君，勝見誠二君，小松広和君，宮川崇君の協力を得た．  文  献 (1)長谷川・清水，機講論，No.95-45，(1995)，57． (2)平野・多田，機講論，No.940-59，(1994)，42． (3)松原・ほか 3 名，機講論，No.920-55，(1992)，32． (4)坂田・古居，機講論，No.930-69，(1993)，52． (5)清水，スキーの科学，光文社，(1987)． (6)高橋・米山，機講論，No.940-59，(1994)，36． (7)尾原，機講論，No.95-45，(1995)，62． (8)西脇・ほか 2 名，日本のスキー科学，(1971)，8． (9)森田，機講論，No.910-67，(1991)，143． (10)小林・宮下，J.J.Sports.Sci.，3-2，(1984)，121． (11)三浦・ほか３名，Nagoya J.Health Physical Fitness Sports，3(1980)，71． (12)佐々木・ほか６名，Hokkaido J.Phys.Educ.，20(1985)，7． (13)Wunderly,G.S. et al，J.Biomechanics，21-4，(1988)，299． (14)寺島・ほか 3 名，機講論，No.920-55，(1992)，29． (15)松原・ほか３名，機講論，No.920-55，(1992)，32． (16)池上・ほか５名，機講論，No.920-55，(1992)，44． Fig.12 Centripetal force Fig.11 Coefficient of friction  ψ   ｆnｆb ＦzＦyＦρｆn Ｖ

スキーヤーの関節動作と作用力の測定

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