research

大気質改善に対する海洋への可溶性鉄供給量変化の将来予測

Abstract

緒言 エアロゾルにより供給される可溶性鉄は遠洋の植物プランクトンの成長にとって必要な栄養素となる。生物・地球化学過程として海洋の鉄循環を含む従来の数値モデルでは、土壌起源のエアロゾル粒子中に一定の割合で可溶性鉄が存在すると仮定されている。しかし、エアロゾル粒子中の可溶性鉄濃度の見積もりに関わる不確かさは数値モデルによる大気中二酸化炭素濃度予測に多大な不確実性を与える。そこで、生態系と気候との複雑な相互作用を考慮にいれた形で地球温暖化予測するためには、鉄イオンや錯体などの溶存態供給量を推定できる数値モデルが必要となる。本研究では、全球エアロゾル化学輸送モデルを用いて、将来予想される大気質改善に対する海洋への可溶性鉄供給量変化の将来予測に与える影響を評価する。 手法 我々のエアロゾル化学輸送モデルは、鉱物エアロゾル中の比較的不溶な鉄が酸性物質と化学反応し、溶解する過程を動的に表現している。植生と化石燃料の燃焼起源の鉄はエアロゾルの溶液中で、一定の鉄溶解度に仮定されて、直ちに溶解する。将来予測実験では、大気汚染物質の排出量データとしてIPCC第5次報告書で用いられたシナリオのうちRCP4.5を使用した。 数値実験結果と考察 従来、エアロゾル粒子中に含まれる主要な可溶性鉄は土壌粒子中に存在する酸化鉄(ヘマタイト)の酸による溶解によって生成されるとして仮定されていた。しかし、大部分のダスト粒子は大気中で塩基性を保つ上に、ヘマタイトの酸による溶解速度は極めて遅いため、ヘマタイトの酸による溶解のみを考慮に入れた可溶性鉄の割合の計算結果は観測結果を過小評価する。本研究では、土壌粒子中に反応性の高い化学形態にある鉄が含有することを考慮にいれた。その場合、観測結果との整合性が顕著に改善されることを明らかにした。本研究の結果は、植物プランクトンにとって利用されやすい性質となる鉄の存在量を予測するためには、反応性の高い化学形態にある鉄含有量を正確に算出する必要があることを示唆する。さらに、大気汚染物質の排出量削減に対して、数値モデルによる将来予測の計算結果は可溶性鉄供給量が将来減少することを示唆した。大気質改善に対する海洋への可溶性鉄供給量変化の予測を向上させるためには、比較的清浄な環境での鉄溶解度をより良く理解する必要がある。しかし、南大洋上でエアロゾル粒子中の可溶性鉄濃度の観測例が極めて少ないため、比較的清浄な環境における数値モデルの結果を評価することは困難である。今後、モデルの高度化を図るためには、比較的清浄な地域でのエアロゾル中可溶性鉄を対象として、現場観測と室内実験、さらには数値モデルの結果を統合的に検討することが重要である。日本気象学会2013年度春季大会(2013年5月15日~18日, 国立オリンピック記念青少年総合センター) / 発表番号: B16

    Similar works