京都大学0048新制・課程博士博士(農学)甲第20439号農博第2224号新制||農||1049(附属図書館)学位論文||H29||N5060(農学部図書室)京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻(主査)教授 植田 充美, 教授 間藤 徹, 教授 喜多 恵子学位規則第4条第1項該当Doctor of Agricultural ScienceKyoto UniversityDFA

Satomura, Atsushi

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TitleStudies on the adaptational strategies to the heat stress inSaccharomyces cerevisiae and the reconstruction ofthermotolerance( Abstract_要旨 )Author(s)Satomura, AtsushiCitationKyoto University (京都大学)Issue Date2017-03-23URL https://doi.org/10.14989/doctor.k20439Right学位規則第9条第2項により要約公開; 許諾条件により要約は2018-03-22に公開Type Thesis or DissertationTextversionnoneKyoto University - 1 -   （ 続紙 １ ）                             京都大学 博士（  農 学  ） 氏名  里村 淳 論文題目 Studies on the adaptational strategies to the heat stress in Saccharomyces  cerevisiae and the reconstruction of thermotolerance （酵母 Saccharomyces cerevisiae の熱適応戦略の解明と熱耐性の再構築） （論文内容の要旨） 微生物を用いた発酵生産は一連の多段階反応を常温常圧で行うことができることや、有害な副産物が少ないことから、環境に優しい手法として注目を集めている。しかし、酵母 Saccharomyces cerevisiae による発酵生産は、発酵熱による発酵阻害と系の冷却の必要性から、製造コストが高い。そこで、酵母を熱耐性化することで、発酵阻害を低減でき、低コストな物質生産が達成できると期待される。しかし、酵母を効果的に熱耐性化する遺伝子変異や、変異の効率的なゲノム導入法は確立されていない。本研究では、酵母熱耐性に寄与する変異の同定と新しいゲノム編集法の開発を行った。 1. 熱耐性株の適応育種  熱耐性に寄与する変異の同定を目的として、至適生育温度が30°CのS. cerevisiae 株 MT8-1を32°C、72時間繰り返し継代培養した。親株30°C時よりもより良く生育した時点で34°Cに移して培養した。同様の操作を親株30°Cよりも良く生育するまで繰り返し培養して、適応した時点でさらに2°C培養温度を上昇させた。同様に繰り返して最終的に38°Cに適応した株 YK60-1 を取得した。また、その過程で各温度に適応した育種途中株を保存した。YK60-1 株は MT8-1 が生育できない40°Cでも良好に生育した。次に、YK60-1 株の熱適応メカニズムを同定するためにトランスクリプトーム解析を行った。YK60-1 株は熱ショックタンパク質などストレス応答性タンパク質を常時30°Cで発現誘導していた。さらに、YK60-1 株は二糖類の一種であるトレハロースを30°Cで多く蓄積していた。トレハロースは生体内でタンパク質の変性を緩和する作用があり、酵母は熱ストレス下でトレハロースを蓄積する。また YK60-1 株のこの形質は、非熱ストレス下で長期培養しても失われなかった。これらより YK60-1株は遺伝子変異により、熱ストレス応答が恒常的に働いていることが明らかになった。 2. 熱ストレス適応戦略の分子解析  YK60-1株において熱耐性に寄与する変異を同定するために、育種の過程で得られた32°Cから38°Cに適応した育種途中株のゲノム解析を行った。育種途中株のゲノム解析で同定された変異をもとに、進化系統樹を構築したところ、独立した異なる系統で共通にみられる変異CDC25 W1416C を発見した。この遺伝子にコードされるCdc25pは1416番目の Trp が Cys に置換されている。この変異を有する集団は38°Cで優占的に生育していた。また他の途中株には、CDC25 の異なる部位に変異を有するものも存在した。これらより、CDC25 W1416C を含むCDC25 遺伝子上の変異の熱耐性への寄与が予想された。同定した4種類のCDC25 遺伝子変異をそれぞれ親株MT8-1に再 - 2 - 導入したところ、これら4種類の再構築株はいずれも熱耐性を示した。 Cdc25p はグアニンヌクレオチド交換因子として、細胞内のサイクリックAMP（cAMP）濃度を間接的に調節する。酵母ではcAMPの濃度が低いときに、シグナル伝達系下流のストレス応答性転写因子が活性化されて、ストレス耐性が誘導される。CDC25 変異再構築株の細胞内 cAMP 濃度を測定したところ、すべての株でMT8-1よりもcAMP濃度が低下していた。さらにトランスクリプトーム解析によると、CDC25 変異再構築株で常時発現誘導されている遺伝子のほとんどがcAMP 経路下流の転写因子に制御されていた。これより、変異型 Cdc25p は細胞内 cAMP 濃度低下を誘導して下流の種々の転写因子を活性化することで、ストレス耐性を誘導していることが明らかになった。CDC25 変異再構築株では、シグナル伝達系上流から包括的に様々なストレス応答性転写因子を活性化することで、熱応答性遺伝子を協調的に制御して熱耐性を誘導していることが判明した。  最後に、CDC25 変異再構築株の熱ストレス下における発酵生産能を評価した。グルコースを炭素源としたとき、CDC25変異再構築株は熱ストレス下（39°C）において親株MT8-1の2倍以上のエタノールを生産した。 3. 新規ゲノム編集法の開発による変異株の構築  CDC25 変異は効果的に熱耐性を誘導できるが、一般的な手法による変異導入は約2週間の手間がかかり、効率も50%以下と非常に低い。より短期間に熱耐性株を構築するためには、熱耐性に関わる変異の同定だけでなく、効率的な変異導入法の開発が求められる。近年開発された CRISPR/Cas9 システムは変異導入効率は高いが、編集可能塩基は CRISPR/Cas9 が認識できる範囲に限られている。短期間であらゆるゲノム領域を編集できる技術を創出するために、編集可能塩基に制限がない「CRISPR Nickase」システムを新しく開発した。本システムは従来の二本鎖ゲノムDNAを切断する CRISPR/Cas9 と異なり、一本鎖ゲノムDNAを切断する Cas9 Nickase を用いている。この手法は一本鎖切断領域から 50bp 離れた領域でも正確に編集できた。これは、編集可能塩基に制限がある CRISPR/Cas9 よりも、理論上約30%広いゲノム領域を編集できることを示している。さらに、この 「CRISPR Nickase」システムは従来法よりも配列特異性が広く、認識配列と相同な配列がゲノム中に存在していても正確 に 標 的 配 列 の み を 編 集 す る こ と が で き た 。 し か し 、 新 規 開 発 し た「CRISPR/Nickase」システムはベクター構築が煩雑であり、変異導入に1週間以上要した。そこで、煩雑なベクター構築作業を省くため、酵母  Gap Repair Cloning（GRC）を採用した。相同領域をそれぞれ両端に有するDNA断片を酵母に導入すると、酵母内でGRCによりプラスミドが構築される。GRC を用いてベクター構築段階を省略することで、これまで低効率で時間がかかる変異体構築を迅速かつ簡便にすることに成功し、熱耐性 CDC25 変異株を約5日間で構築できることが判明した。  注)論文内容の要旨と論文審査の結果の要旨は１頁を３８字×３６行で作成し、合わせ て、３,０００字を標準とすること。 論文内容の要旨を英語で記入する場合は、４００～１,１００wordsで作成し 審査結果の要旨は日本語５００～２,０００字程度で作成すること。  - 3 -  （続紙 ２）                            （論文審査の結果の要旨）  酵母では、個々の熱応答性因子は熱耐性に決定的な働きをしておらず、それぞれを過剰発現しても熱耐性は効果的に誘導されることはない。また、熱耐性を誘導する経路は同時に細胞分裂を阻害するため、熱応答性転写因子の過度な活性化は良好な生育を妨げる。本研究では、これまで制御の難しかった熱耐性を効率よく誘導する CDC25 変異を発見するとともに、簡便で迅速な変異導入方法を開発した。成果として評価すべき点は以下の通りである。 1. 熱耐性と生育の二点の選択圧をかけて酵母を育種することで、良好な生育と熱耐性を併せ持つ株YK60-1 の育種に成功した。また、トランスクリプトーム解析とメタボローム解析により、YK60-1 株での熱応答性遺伝子の恒常的な発現や、トレハロースの高度な蓄積を明らかにした。 2. 育種の過程で保存した育種途中株の全ゲノム解析を行うことで、80個以上ある候補変異から、熱耐性に関わる CDC25 変異を同定することに成功した。これらを育種親株に再導入すると、熱耐性が再現できた。これは酵母の熱耐性を誘導する遺伝子変異としては、初めての知見であった。さらに、これら熱耐性再構築株は高温でのエタノール生産能が向上しており、低コストな物質生産に寄与することがわかった。 3. 従来のゲノム変異導入法よりも、変異を高効率に短期間でゲノムに導入する新規手法「CRISPR Nickase」システムを開発した。この手法は近年開発された CRISPR/Cas9 よりも編集可能領域が広く、標的特異性も高いため、あらゆるゲノム領域に自由自在に変異を導入することが可能になる。「CRISPR Nickase」システムを用いて構築した CDC25 変異再構築株は、従来法で構築された株と同様の表現型を示したことから、本手法の実用性が示された。   以上のように本論文では、熱耐性に寄与するCDC25 遺伝子変異を同定するとともに、その新規ゲノム導入法を開発することに成功した。本発見によって、熱耐性酵母構築による低コストな発酵生産に大きく貢献することが期待できる。さらに、新規ゲノム編集技術である「CRISPR Nickase」システムは、モデル生物である酵母の変異導入を飛躍的にハイスループット化するものである。これらの成果は、生体高分子化学、微生物学、生物工学、細胞生化学に寄与するところが大きい。 よって、本論文は博士（農学）の学位論文として価値あるものと認める。   なお、平成２９年２月９日、論文並びにそれに関連した分野にわたり試問した結果、博士（農学）の学位を授与される学力が十分あるものと認めた。  また、本論文は、京都大学学位規程第１４条第２項に該当するものと判断し、公表に際しては、当該論文の全文に代えてその内容を要約したものとすることを認める。  注）論文内容の要旨、審査の結果の要旨及び学位論文は、本学学術情報リポジトリに掲載し、公表とする。 ただし、特許申請、雑誌掲載等の関係により、要旨を学位授与後即日公表することに支障がある場合は、以下に公表可能とする日付を記入すること。  要旨公開可能日：  年  月  日以降（学位授与日から３ヶ月以内）  

酵母Saccharomyces cerevisiaeの熱適応戦略の解明と熱耐性の再構築

https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/225664/1/ynogk02224.pdf

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