Somatic mutations of synaptic cadherin (CNR family) transcripts in the nervous system

Abstract

 中枢神経系と免疫系はともに、未知の環境に対して柔軟に対応できるという点で類似している。しかし、それを担う遺伝子の数には限りがある。これらを可能にする免疫系の分子メカニズムとしては、免疫グロブリンやT細胞受容体をコードする遺伝子の体細胞における再構成や免疫グロブリンにおける体細胞突然変異が知られている。また、抗原に対してより親和性の高い細胞が選択されることが知られている。一方、中枢神経系の機能には、複雑なネットワークつくる多様な神経細胞と可塑的な変化が重要な役割を担うと考えられるが、中枢神経系の多様性をもたらす分子メカニズムは明かとはいえない。 近年、チロシンリン酸化酵素であるFynと結合する分子として同定された多様化したCNRファミリーはシナプスに局在するカドヘリン様の接着分子ある。CNRファミリーは遺伝子構造の解析から可変領域と定常領域とからなり、免疫グロブリンやT細胞受容体の遺伝子構造と似ていることが明らかとなった。彼は、シナプスに発現するCNRファミリー遺伝子の発現メカニズムに免疫系類似の体細胞における変化があるか否かについて中枢神経系の発生にしたがい検討した。はじめにCNRファミリー遺伝子の発現メカニズムを解析する目的でC57BL/6(B6)とDBA/2(D2)の系統の異なるマウスの雑種1代目(F1)の大脳皮質を用いてCNRの転写産物の解析をおこなった。B6とD2とでは、CNR3の遺伝子の可変領域に1つ、定常領域に3つの異なる塩基配列がある。F1マウスの細胞は、B6由来の染色体とD2由来の染色体をそれぞれ1対ずつ持つことになるので通常ならばCNR3の転写産物は可変領域、定常領域ともにB6由来あるいはD2由来のCis型となる。しかし、生後60日目のF1マウスのCNR3転写産物をシークエンス解析した結果、約10%が可変領域がB6由来で定常領域がD2由来あるいはその逆のTrans型として発現していることを明かにした。また、Trans型の転写産物は、胎生15日目(E15)、生後1日目(P1)、生後60日目(P60)と発生が進むにつれて増加することがわかった。 同時に、彼はCNR3転写産物をシークエンス解析することで体細胞突然変異の有無についての検討をおこなった。P60の大脳皮質から抽出したCNR3転写産物には一塩基あたり2.6×10-3という高頻度の塩基置換が検出され、同じくP60の大脳皮質から抽出したE-カドヘリンの転写産物1.3×10-3との比較においても統計学的にも有意に高かった。P60において検出した高頻度の塩基置換が体細胞突然変異であるならば、脳の発生に伴い変異の頻度が変化することが予想された。E15、P1を解析したところ、1.7×10-3、2.4×10-3と発生に伴って増加することが明らかとなった。突然変異は、AからG、TからCへの塩基置換が多く、塩基置換の傾向はランダムではなかった。特に、CNR3の3’末端側の非翻訳領域にあるCU繰り返し配列はgerm lineのDNA配列では6回であるのに対し、P60のCNR3転写産物では約70%が7回のCU繰り返しに変わるという高頻度の変化を認めた。また、Cis型とTrans型の転写産物における突然変異率の比較ではTrans型の方がCis型にくらべて有意に突然変異率が高いことがわかった。これらの結果から、CNR遺伝子の転写産物に体細胞突然変異が起きていることが強く示され、突然変異の起こるメカニズムとTrans型のできるメカニズムに関連があることが示唆された。 興味深いことに、アミノ酸置換を伴う変異率は細胞外領域のEC1ドメインでのみ高頻度で起きているということである。EC1ドメインは、クラシカルなカドヘリンではホモフィリックな細胞接着に重要であることが示されており、CNRでは大脳皮質の層構造形成に重要なReelinと結合することから機能的にも重要な役割を果たしていると考えられている。よって、EC1ドメインのアミノ酸置換はCNRの機能に影響を与えるものと考えられる。一方、その他のドメインではアミノ酸置換を伴う変異率は発生が進むにつれて減少する。このことから、EC1ドメインでアミノ酸置換をおこしたもののうち、他のドメインではアミノ酸置換の少ないCNRが脳の発生に伴って選択されている可能性が示唆された。 本研究は、シナプスで発現するCNR遺伝子の転写産物に体細胞突然変異が起きてることをはじめて示し、何らかの選択機構が働いている可能性を示唆した。CNR遺伝子の転写産物の体細胞突然変異はCNRがシナプスに局在することから神経ネットワークの可塑的な変化を担う分子メカニズムとして興味深い

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