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三原子系化学反応の量子動力学
Authors
Hideyuki KAMISAKA
カミサカ ヒデユキ
神坂 英幸
Publication date
30 September 2002
Publisher
Abstract
気相中における原子・二原子分子衝突が引き起こす化学反応の量子ダイナミクス計算を行う新しい手法を開発した。この手法では、原子核の運動の記述に超球楕円座標をとDelves座標を組み合わせており、時間に依存しないSchrodinger方程式を緊密結合法の枠組みで計算する。超球楕円座標は、二種類の二原子分子の組み合わせのみ現れる反応や、三原子系の質量がHeavy-Light-Heavyの組み合わせ(以下HLH系)である場合、従来型の楕円形でない超球座標よりも飛躍的に高い計算効率をもつ利点がある。更にこの手法では、系全体が角運動量を持つ場合(J>0: Jは系全体の角運動量)も一切の近似を用いることなしに計算する。系全体が回転すると遠心力ポテンシャルに加えコリオリカが発生するが、他の多くの研究では後者を正しく取り込んでいない。本手法によって、HLH系の与えられたポテンシャル面上において、始状態・終状態のすべての量子状態を区別した散乱行列を効率よく計算することが可能となった。現在までのところ、現実系への応用はまだJ=0に限られているが、J>0の取り扱いについても計算機への実装を既に終了している。 この手法を用いてDH2+系化学反応(J=0)の計算を行った。この系では結合組み替え以外に、電子移動反応も起こるため、複数の電子状態面を考慮した計算が必要となる。半経験的ポテンシャル面であるDIM法(diatomic in molecule法)に補正項を加えて三つの透熱ポテンシャル面とし、これら結合した面上での動力学計算を行うことで電子的非断熱遷移を取り込んだ。その結果、電子的励起状態が反応前後に現れないエネルギー領域では、電子的基底状態面が深いポテンシャル溝をもつことから、反応は殆どチャンネル数に基づく統計理論で説明可能であるが、電子的励起状態面が関与すると、そのような簡単な統計理論では説明できないことが明らかになった。そして後者の場合、様々な反応に見られる特徴は、(1)電子的基底状態面がもつ深い井戸を通過した場合の統計性発生(2)電子的励起状態面にある高い反応障壁(3)非反応領域に局在する交差シームおよびそれを通過するときの振動準位、の3つの要素によって統一的に理解できることを明らかにした。結果には振動励起が電子的非断熱遷移を伴う反応の一部を抑制するなど、直感に反する傾向を示すものもあるが、これも先述の反応機構に明確に議論できた。これらDH2+系の結果は、新しい非断熱遷移理論であるZhu-Nakamura理論を用いた準古典軌跡計算の有効性の検証に利用され、それが従来のLandau-Zener理論を用いた計算よりも這かに定量的な結果を与える事が示された(準古典軌跡計算は、共著論文)。 次にO(1D)+HCl系化学反応(J=0)の計算を行った。この系は成層圏中のオゾン層破壊をもたらす塩化炭化水素の化学反応の雛形として、理論的・実験的に注目を集めている。従来の動力学計算は、全て電子的基底状態面にのみ着目しており、その結果と実験によって得られた値には食い違いがあった。そこで電子的励起状態面の寄与を見積もるため、電子状態計算によって一重項状態のA′面を二つとA″面を一つ計算した(電子状態計算は、共著論文)。得られたポテンシャル面上での動力学計算を行うことにより、三つのポテンシャル面のいずれもが反応の記述に不可欠であることを見いだした。現在までのところ、これらのポテンシャル面間の非断熱遷移は取り込まれていない。しかし得られた生成物分岐比は、従来の計算結果よりも這かに実験値に近く、電子的励起状態面からの寄与にほぼ疑いがなくなった。また従来の計算では再現できなかった生成直後のOH分子の振動分布についても、励起状態面が選択的に高振動のOHをもたらすことを見いだし、解決への糸口をつけた
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Graduate University for Advanced Studies [SOKENDAI] Institutional Repository
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Last time updated on 10/02/2018