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ホヤ胚初期発生過程における細胞分化メカニズムの解析

Abstract

本研究では、細胞分化メカニズムを(1)卵内における決定因子の局在化と予定割球への分配、(2)組織予定割球における決定因子の核への移行、(3)分化のための遺伝子カスケードの進行、の3つの局面に区別して解析することで、統括的に細胞分化メカニズムを理解することを目指した。同時に、カタユウレイボヤとユウレイボヤの各組織分化マーカーを多数調製し、その分化メカニズムの研究基盤を整えることを目指した。 第3章前半では、遺伝子カスケードに注目し、モノクローナル抗体法を用いて細胞の違いを生み出す分子の検索を行った。その結果、一部の脊索細胞を特異的に認識するモノクローナル抗体CiNot-1を調製でき、形態的には均一な脊索細胞において発現している分子種に差異があることを示した。そして、CiNot-1を脊索における細胞系譜の分子マーカーとして確立した。 第3章後半では、決定因子の核への移行に注目し、卵割期の核タンパク質を認識するモノクローナル抗体を調製し、その中から分化の引き金を引く転写調節因子を見つけだそうとした。そのために免疫寛容法などを利用したが、期待されたほどの効果が得られず、転写調節因子は見つからなかった。そのかわり、卵割期の核を認識する5種類の抗体が得られた。そのエピトープは核と細胞質の両方に存在し、発生過程において独特の挙動を示す。この挙動は、特定の時期に核へ移行する転写調節因子の特性を知る上で興味深い。また、Nup-4エピトープをコードするcDNAを単離したところ、ポリユビキチン遺伝子であった。 第4章では、カスケードの終盤で働く組織特異的遺伝子に注目した。尾芽胚期で発現する遺伝子を高頻度に持つライブラリーを作製し、そこから組織特異的に発現し、分化マーカーとして有用な遺伝子を一度に多数単離した。それらのうち、表皮細胞特異的に発現する2クローンと筋肉細胞特異的に発現する2クローンについて詳細に解析を行った。そのなかでCsEpi-2は、ホヤzygotic遺伝子の中で最も早い8細胞期から発現が見られ、表皮細胞の分化が8細胞期ですでに始まっていることを明らかにした。CsMA-1はユウレイボヤではじめて単離された筋肉アクチンであった。また、CsEpi-2以外は、カタユウレイボヤ胚でもマーカーとして利用できることがわかった。 第5章では、卵細胞質再配置により決定因子が正確に局在することに注目し、筋肉細胞分化に関わることの知られているマイオプラズミンC1とp58の局在するメカニズムを細胞骨格繊維との関係を中心に解析した。その結果、局在に関与すると思われる新たな微小管の特異構造を発見した。また、2つの分子の局在はほぼ完全に一致し、その移動には細胞骨格繊維が関与していた。さらにin vitroでこの2つの分子が互いに結合できることも明らかにした。これらの結果は、決定因子の局在化と分配メカニズムを理解するうえで、重要な知見となった。以上の結果をもとに、決定因子が複合体として機能するという仮説をたて、ホヤ細胞分化メカニズムの全体像を考察し論議した。甲南大学平成10年度(1998年度

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