Jun-ichi Kitagawa

北川 淳一

Wireless Baseband Transmission (WBT) という新しい無線伝送方式を提案し，実験によってその基礎的特性を調べている．一般に伝送システムは，送りたい情報をそのまま何らかの物理的信号に対応付けて送信するベースバンド伝送方式と，搬送波と呼ばれる信号を送りたい情報によって変調して送信する搬送伝送方式の2 つに分けることができる．これまで無線伝送の分野においては搬送伝送方式のみが用いられてきた．それに対し，有線伝送においてはベースバンド伝送，搬送伝送共に利用されている．本研究は無線でもベースバンド伝送が可能かどうかを検討したものであるということができる．実験をおこなった結果，適切なアンテナ（本研究ではディスコーンアンテナ）と伝送路符号化（本研究ではManchester 符号化）を用いればベースバンド伝送を無線でおこなうことも可能であることが明らかになった．本論文は1 章から8 章までの構成である．1 章ではこれまでの無線伝送について歴史を踏まえて記述している．2 章ではWBT の概念についてWBT と比較的似ているシステムであるImpulse Radio との比較も含めて述べている．3 章ではBER（bit error rate）を計算するための実信号解析法について述べている．実信号解析法は，WBT では一般の無線伝送で用いられている等価低域系による複素領域での表現はできずに，全て実信号として取り扱う必要があることを述べたものであり，従来の無線伝送の解析と異なる点である．4 章ではWBT の時間領域における伝送実験と周波数領域での測定（100MHz）と3 章の手法を組み合わせた解析，5 章では周波数領域における測定（1 GHz）と3 章の手法を組み合わせた解析について述べている．実験は全て本学の電波暗室内でおこない，自由空間と人工的に作り出したマルチパス環境下について伝送特性の評価をおこなっている．その評価の指標としてBERを用いている．また，チャネルの周波数特性やインパルス応答についても示している．さらに，時間領域と周波数領域での測定が一致することも示している．5 章では3 章と4 章の結果を利用し周波数領域でのみ測定をおこなっている．一般に時間領域測定に比べ周波数領域測定は高い周波数まで対応可能であり，これは小型アンテナの使用ができることを意味する．測定の容易さと効率を考えると周波数領域でのみ測定しても時間領域測定と同じ結果が得られることは有益な結果であるといえる．6 章では4 章と5 章で得られた結果を基にして，送受信に無指向性アンテナを用いた場合におけるWBTの簡単な伝送モデルである-6 dB/octave モデルを示している．このモデルを使用して仮想的なアンテナ帯域幅の下限周波数，上限周波数，比帯域を変化させてBER 特性を求めている．この結果は実際のWBT 無線システムを実現するにあたり必要となる情報伝送レートとアンテナ帯域幅との関係について有意な情報を与える．また，チャネルの等化についてもふれ，さらに各種直流平衡符号に対するBER 特性の比較もおこなっている．7 章ではWBT の応用について述べている．具体的にはWBT 無線機の構成，近傍界通信への適用，さらにMIMO(multiple input multiple output) やSDR(software defined radio) といった近年無線通信の世界で話題になっているシステムについてWBT の関わりを述べている．8 章では結論を述べている．すなわち，WBT という新たな伝送方式を提案し，有線のみならず無線でもベースバンド伝送は可能であることを実験によって明らかにしたことを記述している．電気通信大学200

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無線ベースバンド伝送：新しい無線伝送方式の提案と実験

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