南谷 幸雄

渡辺 弘之

石塚 小太郎

Miyagi University of Education Repository

宮城教育大学機関リポジトリ宮城教育大学構内の大型陸生ミミズ相著者 南谷 幸雄, 渡辺 弘之, 石塚 小太郎雑誌名 宮城教育大学環境教育研究紀要巻 10ページ 53-56発行年 2007URL http://id.nii.ac.jp/1138/00001007/宮城教育大学環境教育研究紀要　第 10 巻（2007）─ 53 ─はじめにこれまで宮城県における貧毛類の分類学的研究は、Hatai（1930）、Hatai and Ohfuchi（1937）、Ohfuchi（1935；1937a、b；1938a、b）、 大 石（1932；1934）によって行われてきた。また、内田・伊原（2003）は金華山の大型土壌動物相の研究の中で、ミミズ相に関して報告している。しかし宮城県のミミズ相を論じるためには、これまでの報告では未調査の空白域が多いとして、上平（2003）は宮城県全域で広範囲に採集を行い、東北地方の他県と比較して宮城県のミミズ相を論じた。この調査は宮城県全域を網羅したミミズ相の報告として大きな意義を持つものの、かつて宮城県内で記録されたフトミミズ科 11 種のうち 6 種を採集することが出来なかったために、宮城県内のミミズ相の全貌を明らかにするためには更なる調査が必要であると考えられる。2007 年 8 月 9～11 日に宮城教育大学で京都大学生態学研究センター共同利用事業、野外実習「野外生態系における陸生大型ミミズ類の調査法、標本作製法および分類同定法の習得」（ミミズ研究談話会主催、宮城教育大学共催）が開催された際に、ミミズの野外採集実習として大学構内で多数のミミズが採集された。これまでに仙台市・青葉山に位置する宮城教育大学構内のミミズ相に関する報告は行われておらず、著者らは、上平（2003）の調査を補完することを目的に、上記実習で採集された標本を用いて、宮城教育大学大学構内のミミズ相を調査したのでここに報告する。調査地と調査方法2007 年 8 月 10 日に宮城教育大学構内の外国人宿舎からの尾根沿いから 8 号館の北西斜面にいたるルートを歩き、森林内や落ち葉のたまった側溝等でミミズの採集を行った（特に 8 号館の北西斜面を集中的に探索した）。高木層にコナラが優占した落葉広葉樹林である。ミミズ採集はミミズ公開実習参加者約 20 名で行い、1 時間程度で終了した。手又は移植ゴテ・熊手等を用いてミミズを採集した。また、地中性のミミズを採集するため、スコップを用いて広さ 50×50 cm、深さ 30 cm 程度 1 か所を掘りとり、ミミズを採集した。採集したミミズは低濃度アルコール麻酔の後 10％ホ宮城教育大学構内の大型陸生ミミズ相要旨： 宮城教育大学構内にてミミズ相の調査を行った。その結果フトミミズ科 11 種（うち 2種は未記載種の可能性がある）、ツリミミズ科 1 種の計 12 種が採集された。このうち、アオキミミズ Pheretima aokii Ishizuka, 1999 は東北地方初記録であり、宮城県内の陸生大型ミミズの既知種はこれを含めて 28 種となった。キーワード： ミミズ相、フトミミズ科、ツリミミズ科、アオキミミズ、宮城教育大学南谷幸雄＊・渡辺弘之＊＊・石塚小太郎＊＊＊・島野智之＊＊＊＊・伊藤雅道＊＊＊＊＊・武内伸夫＊＊＊＊＊＊On the Earthworm Fauna of Miyagi University of Education, Miyagi Pref., Northeastern Japan.Yukio MINAMIYA, Hiroyuki WATANABE, Kotaro ISHIZUKA, Satoshi SHIMANO, Masamichi T. ITO and Nobuo TAKEUCHI＊愛媛大学大学院連合農学研究科，＊＊京都大学名誉教授，＊＊＊成蹊高等学校，＊＊＊＊宮城教育大学環境教育実践研究センター，＊＊＊＊＊横浜国立大学大学院環境情報研究院，＊＊＊＊＊＊宮城教育大学名誉教授宮城教育大学構内の大型陸生ミミズ相─ 54 ─ルマリンで固定し、5％ホルマリンで保存した。種名の同定に際しては双眼実体顕微鏡を用いて、外部形態および解剖による内部形態の観察をあわせて行なった。採集したフトミミズ科の種名表記は Ishizuka（1999）、石塚（2001）に、ツリミミズ科のそれは中村（1972a）に従った。本報におけるフトミミズ科の属名表記 Pheretima は Ishizuka （1999）における Pheretima （s. lat.）を略したものである。結果と考察今回の調査では合計 67 個体を採集し、それらの標本の同定の結果、フトミミズ科 11 種、ツリミミズ科1 種の計 12 種を記録した（表 1）。またフトミミズ科の 2 種、Pheretima sp. 1 および Pheretima sp. 2 は既知種として同定することができなかったもので、これらの標本は未記載種である可能性が高い。また、本調査地で最も優占していたのはフトスジミミズ Pheretima vittata （Goto and Hatai, 1899）であった。本種の本調査地における雄性孔保有率については別稿に譲りたい（Minamiya et al., 投稿準備中）。Ishizuka（1999）のフトミミズ科の生活型と腸盲嚢の形態についての指摘に基づき、生活型の指標として採集されたミミズの腸盲嚢の形態を表 1 に示した。その結果、腸盲嚢を持たないツリミミズ科のサクラミミズ Allolobophora japoni-ca （Michaelsen, 1891）を除く、フトミミズ科 11 種のうち腸盲嚢が指状型の種が 6 種、突起状型の種が 3種、鋸歯状型の種が 1 種、多型状型の種が 1 種であった。指状型の腸盲嚢を持つ種は表層に生息する表層種、突起状の腸盲嚢を持つ種は地表から 30 cm 以内の地中に生息する浅層種、鋸歯状型の腸盲嚢を持つ種は地表から 30 cm 以上の地中に生息する深層種にそれぞれ対応する。ここでは浅層種と深層種をあわせて地中種とした。本調査では表層種 6 種、サクラミミズを含む地中種 6 種が採集された。本調査の際のミミズの採集は、手や移植ゴテ等により主に落葉層から行ったため、本調査地に生息する表層種は、ほぼ採集できたと考えられる。これに対して、サクラミミズを除く地中種は、1 種当たり 1～2 個体しか採集できていないため、地中種の把握は不十分であると考えられる。今後、地中種を目的としたより詳細な採集を行うことができれば、本調査地のミミズ相の全貌が把握できるものと思われる。これまでに宮城県内で記録された陸生大型ミミズを表 2 に示す。本調査で採集できたミミズは、アオキミミズ P. aokii を除くと全て宮城県で既に報告されている種であった。このアオキミミズは本調査において 8個体を採集することができたものの、採集記録は宮城県を含む東北地方においてまだ報告はされていないため、本調査での採集例が東北地方初記録である。表 2の記録にアオキミミズが追加され、宮城県内の陸生大型ミミズの既知種は 28 種となる。宮城県仙台市周辺でかつて記録されたミミズ相と本調査地のミミズ相を比較するためには、ユノシマミミズ P. yunoshimensis Hatai, 1930 といった特異的な分布を示す種を除く必要がある。このため、表 2 に宮城教育大学から半径約20 km 以内で採集記録のある種を＊で示した。その結果、本調査地で採集できなかった表層種はフツウミミズ P. communissima （Goto and Hatai, 1899）、モリミミズ P. servina Hatai and Ohfuchi, 1937 の 2 種であることが明らかとなった。上平（2003）によれば、フツウミミズは宮城県内で出現率が高い種のうちの一つとして報告しているので、今後詳細な調査を行うことによって、本調査地からもこれらの種が採集される可能性がある。これらと同様に、著者のうち武内は採集した経験のある（未発表）クソミミズ P. hupeiensis （Mi-chaelsen, 1895）　等を含む地中種に関しても 4 種が本調査で採集することができなかったものの、前述のようにこれら地中種を目的としたより詳細な調査を行えば、発見できる可能性がある。謝辞本調査は京都大学生態学研究センターの援助により共同利用事業野外実習「野外生態系における陸生大型ミミズ類の調査法、標本作製法および分類同定法の習得」の一環としておこなわれたものである。ミミズ標本は、同実習の際に、参加者に採集して頂いた。また、本論文を作成するにあたり、高知大学農学部講師福田達哉先生にご校閲頂いた。ここに記して感謝申し上げる。宮城教育大学環境教育研究紀要　第 10 巻（2007）─ 55 ─引用文献Hatai, S., 1929. On the variability of some external characters in Pheretima vittata, Goto et Hatai. Anno-tationes Zoologicae Japonenses, 12 （1）: 271─283.畑井新喜司，1922 Perichaeta megascolidioides Goto & Hatai の記載に対する Professer Wilhelm Michaels-en の質疑に答え合わせて同種に就き体長と関節数及び剛毛数の関係を記述す．動物学雑誌，34：333─343．Hatai, S., 1930. Note on Pheretima agrestis （Goto and Hatai）, together with the description of four new species of the genus Pheretima. The Science re-ports of the Tohoku Imperial University, Fourth series, （Biology）, 5 （4）：651─667.Hatai, S. and Ohfuchi, S., 1937. On one new species of earthworm belonging to the genus Pheretima from North─eastern Honshu, Japan. Saito Ho─on Kai Museum Research Bulletin, 12：1─11.Ishizuka, K., 1999. A review of the genus Pheretima s.lat. （Megascolecidae） from Japan. Edaphologia, （62）：55─80.石塚小太郎，2001． 日 本 産 フ ト ミ ミ ズ 属（Genus Pheretima s. lat.）の分類学的研究．成蹊大学一般研究報告，33（3）：1─125．上平幸好，2003b. 東北地方における陸棲貧毛類の調査報告Ⅴ．─宮城県で採集された種類と分布─．函館大学論究，34：81─91．Nakamura, Y., 1968. Studies on the ecology of terres-trial oligochaeta: Seasonal variation in the popula-tion density earthworms in alluvial soil grassland in Sapporo, Hokkaido I. Applied Entomology and Zoology, 3 （2）：89─95.中村好男，1972a．ツリミミズ科の卵包，幼体ならびに成体の形態（Lumbricidae：Oligochaeta）．草地試験場研究報告，1：6─16．中村好男，1972b．北海道産ツリミミズ類の生態に関する研究．I．生態的分布．日本応用動物昆虫学会誌，16（1）：18─23．Ohfuchi, S., 1935. On some new species of earth-worms from north─eastern Hondo, Japan. The Sci-ence reports of the Tohoku Imperial University, Fourth series, （Biology）, 10 （2）：409─415.大淵真龍，1936．ミミズ Pheretima marenzelleri Cog-netti の体節上に現るる Genital Papillae の数及び位置の変異．動物学雑誌，48（4）：230．Ohfuchi, S., 1937a. Descriptions of three new species of the genus Pheretima from North─eastern Hon-shu, Japan., Saito Ho─on Kai Museum Research Bulletin, 12：13─29.Ohfuchi, S., 1937b. On the species prossessing four pairs of spermathcae in the genus Pheretima to-gether with the variability of some external and internal characters. Saito Ho─on Kai Museum Re-search Bulletin, 12：31─136.Ohfuchi, S., 1938a. On the variability of the opening and the structure of the spermatheca and the male organ in Pheretima irregularis. Saito Ho─on Kai Museum Research Bulletin, 15：1─31.Ohfuchi, S., 1938b. New species of earthworms from North─eastern Honshu Japan. Saito Ho─on Kai Museum Research Bulletin, 15：33─52.Ohfuchi, S., 1939. Further studies of the variability in the position and number of male and spermathecal pores in the case of Pheretima irregularis based upon local analyses. The Science reports of the Tohoku Imperial University, Fourth series, （Biolo-gy）, 14：81─117.大石實，1930．日本産ミミズ Pheretima communissima（Goto et Hatai）の生殖法について．動物学雑誌，44（503）：327─328．大石實，1932．本邦産数珠胃ミミズ科（Moniligastri-dae）の新種並びにその一新器官に就いて．動物学雑誌，44（519／520）：17─18．大石實，1934．Allolobophora japonica Michaelsen（サクラミミズ）の 3 forma に就て．動物学雑誌，46（3）：133─134．Tsukamoto, J., 1985. Soil macro─animals on a slope in a deciduous broad─leaved forest.Ⅱ .earthworms of Lumbricidae and Megascolecidae. Japanese Journal of Ecology, 35：37─48.宮城教育大学構内の大型陸生ミミズ相─ 56 ─内田智子・伊原真樹，2003．金華山の大型土壌動物相．宮城教育大学環境教育研究紀要，6：31─37．表 1．宮城教育大構内のミミズ相種名 個体数 腸盲嚢の形態Megascoleciae　フトミミズ科　　 Pheretima agrestis （Goto and Hatai, 1899）ハタケミミズ　＊ P. aokii （Ishizuka, 1999）アオキミミズ　　 P. divergens （Michaelsen, 1892）セグロミミズ　　 P. heteropoda （Goto and Hatai, 1898）ヘンイセイミミズ　　 P. hilgendorfi （Michaelsen, 1892）ヒトツモンミミズ　　 P. irregularis （Goto and Hatai, 1899）フキソクミミズ　　 P. megascolidioides （Goto and Hatai, 1899）ノラクラミミズ　　 P. micronaria （Goto and Hatai, 1898）ヒナフトミミズ　　 P. vittata （Goto and Hatai, 1898）フトスジミミズ　　 P. sp. 1　　 P. sp. 2Lumbricidae　ツリミミズ科　　 Allolobophora japonica Michaelsen, 1891　サクラミミズ6811741128325指状型指状型鋸歯状型突起状型指状型指状型多型状型突起状型指状型指状型突起状型─合計 67＊東北地方初記録種表 2．かつて宮城県で記録された陸生大型ミミズ種名 生活型Megascolecidae　フトミミズ科　　 Pheretima acincta （Goto and Hatai, 1899）メガネミミズ　＊ P. agrestis （Goto and Hatai, 1899）ハタケミミズ　　 P. carnosa （Goto and Hatai, 1899）ヨコハラトガリミミズ　＊ P. communissima （Goto and Hatai, 1899）フツウミミズ　　 P. divergens （Michaelsen, 1892）セグロミミズ　＊ P. grossa （Goto and Hatai, 1898）オオフトミミズ　＊ P. heteropoda （Goto and Hatai, 1898）ヘンイセイミミズ　＊ P. hilgendorfi （Michaelsen, 1892）ヒトツモンミミズ　　 P. hupeiensis （Michaelsen, 1895）クソミミズ　＊ P. irregularis （Goto and Hatai, 1899）フキソクミミズ　＊ P. maculosa Hatai, 1930 マダラミミズ　＊ P. marenzelleri Cognetti, 1906　ニセセグロミミズ　＊ P. megascolidioides （Goto and Hatai, 1899）ノラクラミミズ　　 P. micronaria （Goto and Hatai, 1898）ヒナフトミミズ　＊ P. phaselus Hatai, 1930　イロジロミミズ　＊ P. servina Hatai and Ohfuchi, 1937　モリミミズ　　 P. tajiroensis Ohfuchi, 1938　タジロミミズ　＊ P. vittata （Goto and Hatai, 1898）フトスジミミズ　　 P. yunoshimensis Hatai, 1930　ユノシマミミズLumbricidae　ツリミミズ科　　 Aporrectodea caliginosa （Savigny, 1826）クロイロツリミミズ　＊ Allolobophora japonica Michaelsen, 1891　サクラミミズ　＊ Eisenia foetida （Savigny, 1826）シマミミズ　　 Dendrobeana octedora （Savigny, 1826）ムラサキツリミミズMoniligastridae　ジュズイミミズ科　　 Drawida japonica （Michaelsen, 1892）ヤマトジュズイミミズ　　 D. moriokaensis Ohfuchi, 1938　モリオカジュズイミミズ　　 D. ofunatoensis Ohfuchi, 1938　オオフナトジュズイミミズ　 　D. tairaensis Ohfuchi, 1938　タイラジュズイミミズ地中種表層種地中種表層種地中種地中種地中種表層種地中種表層種地中種地中種地中種地中種地中種表層種地中種表層種表層種地中種地中種─表層種────＊は宮城教育大学から 20 km 以内で記録がある種を示す※フトミミズ科の生活型は Ishizuka（1999）に基づき腸盲嚢の形態から推測した。ツリミミズ科の生活型は Nakamura（1968）、中村（1972b）、Tsukamoto（1985）による。

宮城教育大学構内の大型陸生ミミズ相

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